論文集抄録
〈Vol.51 No.11(2015年11月)〉

タイトル一覧
[論 文]


[論 文]

■ 離散値入力を伴う空圧式除振台のモデル予測制御

信州大学・丸山 直人,東京海洋大学/科学技術振興機構・小池 雅和,信州大学・千田 有一

本稿は電磁弁を用いた空圧式除振台のアクティブ制御手法に取り組む.電磁弁は瞬時に最大流量を流すことができるため,大変位の振動も素早く抑制することが可能であり,価格が安く圧縮空気の消費量も極めて少ないため低コストで制御系を構築することが可能である.しかし,電磁弁はOn-Off型のアクチュエータであるので制御入力は離散値入力に制約されてしまう.それゆえ,制御系は離散値入力システムを考える必要がある.離散値入力システムに対してはいくつかの制御手法が提案されているが,空圧式除振台のように未知外乱が印加されるシステムでは良好な応答が得られない場合があった.
そこで,本稿では空圧式除振台の制振性能を向上させるため,離散値入力でサンプリング周期の早い制御対象にも適用可能なモデル予測制御手法を提案する.提案する手法は少ない計算コストで良好な制御入力を得ることができる.提案手法の有効性は数値シミュレーションと実機実験によって検証する.


 

■ 車両速度変化に対応するステアリング操作モデルの構築ースケジューリングHループ整形によるアプローチー

早稲田大学・清水 駿,渡辺 亮

本稿では車両速度をスケジューリングパラメータとするステアリング操作モデルをH∞ループ整形により構築する. 一般にドライバの運転操作は車両運動特性の変化に対応すること,および車両運動特性は車両速度に依存することが知られている.そこで車線変更時のドライバのステアリング操作に着目し,車両速度変化に対応できるステアリング操作モデルをスケジューリングH∞ループ整形により構築する.また,構築するステアリング操作モデルはステアリングトルクを制御入力とする.これは最近研究が進められているトルクを出力とするアシストシステムとステアリング操作モデルの関係性を捉えやすくするためである.得られたステアリング操作モデルは速度変化を伴うシングル・ダブルレーンチェンジシミュレーションにおいて良いコース追従を見せることを確認した.


 

■ むだ時間系に対する全状態オブザーバを併用した状態予測サーボ系における制御器とモデルのFRITベースド同時更新

金沢大学・浅野 佑治,金子 修,山本 茂

本論文ではむだ時間をもつ線形時不変システムに対する全状態オブザーバと状態予測サーボ系を併合した制御器のパラメータチューニングの問題を考える.このような制御器は,制御対象のパラメータを用いて設計され,さらに,実際に制御器内のパラメータとしても陽に含まれている.その点に着目し,このような制御器をデータを用いて直接チューニングすることで,望ましい性能をもつ制御器パラメータのみならず,むだ時間を含む制御対象のパラメータを更新する手法を与える.ここでは,その目的のために,一組の実験データを用いて,制御パラメータを与えることのできるFictitious Reference Iterative Tuning (FRIT)を適用する.このチューニング法の適用により,少ない実験データを有効活用することで,むだ時間系に対する状態予測サーボ系の効果的なパラメータチューニング法を与える.さらに,FRITの評価関数を最小化することが,目標応答特性を改善する評価関数を最小化することと同時に,制御対象の動特性を反映するモデルへの更新に関連することを示す.


 

■ システムから不便益を得るユーザ特性に関する実験的考察

フリュー・荒木 卓,京都大学・川上 浩司,平岡 敏洋

システム設計においては「便利」なものの追求が一般的であるが,無批判な便利の追求は「自動化による驚愕 (automation surprise)」などの思いがけない新たな問題を生じさせることもある.これに対し,不便の効用を見直して,不便さから得られる主観的な効用である「不便益」を積極的に活用するシステム設計指針の確立が試みられている.しかし,不便益の感じ方は属人性が高く,客観的な設計指針を策定することは容易ではない.本研究では,不便益の属人性に対するアプローチの第一歩として,特定のシステムから不便益を得るユーザの特性を明らかにする.そのための実験用システムとして便利なシステムと不便なシステムを作成し,被験者実験によって不便なシステムから主観的益を得た参加者の個人特性を分析した.その結果,不便益を得た参加者について,動機づけに関する心理的特性やスキル特性に特徴的な傾向が観測された.これにより,特定の不便さから主観的益を得るユーザの特性に関する一つの仮説が得られた.


 

■ Mathieu方程式系のパラメータ推定と自励振動型計測への応用

 東京大学・松尾 恒,奈良 高明,安藤 繁

Mathieu方程式は特徴的な励振方式と励振条件に対する鋭敏性でよく知られているが,強い非定常性・非線形性によりその計測系への応用はほとんど考えられてこなかった.
本論文では,荷重積分法に従い,時間波形の荷重積分に基づくMathieu方程式系の定式化とパラメータ推定法を確立する.次に,その統計的な性質の考察から高いパラメータ感度を有する計測の条件を導き出し,Mathieu方程式系の相転移点に追従する励振周波数制御により,計測対象のパラメータを常に高感度な状態に維持する自励振動型計測法を提案する.さらに原理検証の実験系として,りん青銅板の張力をピエゾ素子で駆動するフィードバック型自励振動系を製作し,張力と粘性抵抗の変化の追従動作を実験的に確認する.


 

■ 非最小位相系に対するモデル誤差抑制補償器の設計

熊本大学・岡島 寛,一政 豪,松永 信智

制御系設計においては,対象の動特性を常微分方程式のような数理モデルとして表した上で数理モデルに基づいて制御器を設計することが多いが,必ずしも求まったモデルと実対象との応答が一致しているとは限らない.そのため,モデルに対してはうまく制御仕様を満足するような制御器であっても,制御対象に適用すると所望の制御仕様を満足するとは限らない.これに対して,先行研究ではモデルと制御対象とのギャップを小さくすることに特化したモデル誤差抑制補償器を提案している.本手法はモデルとのギャップの抑制に特化した手法である点に従来にない特徴がある.本論文では,非最小位相系に対してモデル誤差抑制補償器を構成する方法について考える.並列フィードフォワード補償器をモデル誤差抑制補償器内に組み込むことで,新たな補償構造を提案する.これによって,特に制御対象にむだ時間や不安定零点が含まれる場合に有用なモデル誤差抑制補償器を構成できる.提案した制御系の有効性は,むだ時間を含む制御系として扱われる熱処理プロセスの数値例を用いることで検証する.