論文集抄録
〈Vol.53 No.11(2017年11月)〉

タイトル一覧
[論 文]

[ショート・ペーパー]


[論 文]

■ 収縮率推定によるMcKibben型空気圧ゴム人工筋の位置決め制御実験

電気通信大学・横山 浩一郎・小木曽 公尚

本稿では,McKibben型空気圧ゴム人工筋において距離センサを用いない位置決め制御の構成を目的とする.人工筋に対して収縮率推定機構を含む位置決め制御系を構築し,目標値への追従誤差を評価する.収縮率推定機構を実現するため,uncented Kalman Filter(UKF)を採用し,UKFの数理モデルに先行研究で提案された人工筋の厳密なモデルを適用する.推定機構の機能を検証するために,距離センサを用いた制御系および圧力情報に基づく制御系も構築する.そして,実験結果から,各制御系の追従誤差を定量的に評価し,UKFを用いた位置決め制御が機能する点を確認した.


 

■ ロバストゲインスケジュールオブザーバによるヒステリシス特性をもつ二次電池の充電率推定

慶応義塾大学・八田羽 謙一,井上 正樹,川口 貴弘,
カルソニックカンセイ・長村 謙介,慶応義塾大学・足立 修一

本論文ではヒステリシス特性をもつ電池に対するモデルベースの充電率推定を考える.この推定問題に対する一つの方法として,近似的に得られる線形時不変モデルに対して設計される線形オブザーバを利用したものである.しかし,ヒステリシス特性は非線形な特性であるため,この方法では高精度な推定を得ることはできない.そこで,ヒステリシスがある一つの変数に対してのみ非線形であることに注目することで,電池のモデルを線形パラメータ可変モデルとして記述する.そして,この線形パラメータ可変システムに対して,モデル化誤差の影響を抑制するようなロバストゲインスケジュールオブザーバを設計する.このオブザーバ設計は線形行列不等式制約下での凸最適化問題として定式化される.最後に,提案法の有用性を数値シミュレーションによって確かめる.


 

■ プロジェクタロボットの投影適正領域への経路計画方法

広島市立大学・立本 健司,辻 和也,岩城 敏,池田 徹志

本論文は家庭内のプロジェクタロボットの投影品質を改善する手法を提案する.筆者らは既に,障害物を避けつつ任意の場所と姿勢から,指定された投影場所に指定された大きさで歪み無く投影することが可能なプロジェクタロボットCampro-RISを開発した.しかし,投影距離が遠いほど投影画像が薄く見えにくくなり,また投影角度が急峻なほど投影サイズに制約が生じるという,画像品質上の問題があった.本論文ではこの欠点を解消するために,プロジェクタの性能に合わせて適切な投影距離と角度から投影を行うためのロボット経路計画手法を論ずる.具体的には,Campro-RISの冗長運動自由度を活用し,指定された場所への投影を行いながら,障害物を避けて適切な投影位置へ移動するためのポテンシャル関数決定法を提案する.様々な条件下でのシミュレーション実験を行った後,実機により提案手法の妥当性を確認した.


 

■ 時間オートマトンとモデル検査を用いた6脚移動ロボットの接地可能領域の導出

名古屋大学・村田 勇樹,稲垣 伸吉,鈴木 達也

本稿では形式検証を用いた6脚移動ロボットのパラメータ設計を提案する.6脚ロボットはその構造と接地点追従法による高い不整地突破能力を実現しているが,その歩行性能は各脚の接地可能領域に大きく依存する.そこで本稿では歩行に最適な接地可能領域を導出する.まず,ロボットを時間オートマトンによりモデル化し,歩行が持続するために満たすべき仕様を論理式で記述する.これらを用いて,時間オートマトンに各ノードの滞在時間の上限値と下限値を代入したときに歩行が持続可能かをモデル検査する.これを繰り返し,ロボットが歩行するのに最適な時間パラメータの範囲を求める.このとき,ロボットはこの範囲を満たす限り自由に挙動を変える事が保障される.最後に時間パラメータを時間オートマトンから実機のパラメータに対応させる事で接地可能領域を導出する.この領域の妥当性については物理エンジンによるシミュレータを使って確認する.


 

■ ネットワーク上でのモデルベース制御系の乗法的雑音のもとでの安定性と安定化

 大阪大学・鳥海 渉,藤崎 泰正

本論文では,ネットワーク上での大規模システムに対して有効な制御手法の一つである Model Based Networked Control Systems (MB-NCS) について考察している.MB-NCSとは,制御対象の状態を制御対象のモデルにより予測,補完して制御に用いる制御系である.その制御手法から,制御対象とそのモデルとの誤差の表現様式は,MB-NCS の解析や設計において重要である.そこで本論文では,従来の確定的なモデル誤差表現に加え,乗法的雑音による確率的なモデル誤差表現を導入し,安定性の解析手法や安定化制御則の設計手法を確立している.安定性解析では,リフティングされたシステムにリアプノフ安定論を援用し,制御系が安定であるための必要十分条件を導出している.さらに,その条件式を変換することにより,安定化状態フィードバックゲインが存在するための十分条件を導出している.これら条件式は双方ともLMI形式で与えているため,数値的な求解は容易である.


 

電力系統における過渡応答安定化のための局所制御器の分散設計

東京工業大学・笹原 帆平,石崎 孝幸,定本 和徳,井村 順一

本稿では,大規模電力系統における過渡安定化のための局所制御器の新しい分散設計法を提案する.電力系統中に運用機関が複数存在し,それぞれが一部の発電機を管理しているとした上で,各々の運用機関は担当する箇所のシステムモデルだけを得られる状況を想定する.この制約のもとで,系統の過渡応答安定度を向上させる制御器を各運用機関が独立に設計する,局所制御器の分散設計問題を考える.定式化された問題に対して,階層的空間拡大に基づき,安定性および制御性能を保証する分散設計法を提案する.
また,電力系統の標準モデルである電気学会EAST30機系統モデルに対する数値例により提案手法の有効性を示す.


[ショート・ペーパー]

■ ベータダイバージェンスを用いたARXモデルのロバスト同定

東京都立産業技術高等専門学校・福永 修一

本論文では観測に外れ値が含まれる状況において,ベータダイバージェンスを用いることにより外れ値に対してロバストなARXモデルの同定手法を提案する.真の分布と推定すべきモデルの分布の隔たりをベータダイバージェンスによって測り,このベータダイバージェンスを最小化することにより提案手法は導出される.提案手法における更新則は重みつき最小二乗法における重みが自然に決まる特徴がある.そして数値例を用いて提案手法が従来手法よりも有効であることを示す.


 

■ 観測遅れを伴う放物型分布定数系に対するオブザーバ

神戸大学・佐野 英樹

本稿では, 観測出力に無駄時間を伴う放物型分布定数系に対してオブザーバ設計問題を取り上げる. 観測に遅れがある場合のオブザーバ設計に対する先行研究として, Krstic & Smyshlyaev の結果(2008)があるが, そこでは観測出力に無駄時間を伴う常微分方程式系に対して, 無駄時間要素を輸送方程式を用いて表わし, 元の系を常微分方程式系と輸送方程式がカスケード接続された形で表現した後, バックステッピング法によってオブザーバを構成できることが示されている. 同様に, 観測出力に無駄時間を伴う放物型分布定数系は, 放物型方程式と輸送方程式がカスケード接続された形で表現できる. 本稿では, PDEのバックステッピング法と半群理論を用いることにより, オブザーバが構成できることを示す. ここで, 有限次元系の行列指数関数に対応する解析的半群は, 負の区間では定義されないので, 変数変換によって誤差システムを安定なターゲットシステムに写す際には注意を要する. 特に, ある放物型方程式の初期値問題を逆方向に解くことに起因する, センサの影響関数に課すべき仮定が重要であり, それを明らかにする.