論文集抄録
〈Vol.54 No.2(2018年2月)〉

タイトル一覧
[特集 諸科学技術と共鳴するシステム制御のイノベーション]

[論 文]

[論 文]


[論 文]

■ 強風下の浮体式洋上風力発電におけるブレード曲げ応力の変動抑制を目的とする非線形モデル予測制御

京都大学・上野 和浩,トヨタ自動車・山田 雅貴,
海上技術安全研究所・羽田 絢,中條 俊樹,京都大学・大塚 敏之

本研究では,強風下で浮体式洋上風力発電を行うためのブレードピッチ角を入力とする非線形モデル予測制御器を設計する.制御器を設計するために,指定した動作点における浮体式洋上風車の時不変線形モデルを作成し,また,変動を抑制する対象であるブレード曲げ応力の非線形モデルも構築する.そして,風速の予見情報が利用可能と仮定して,ブレード曲げ応力を評価した非線形モデル予測制御器を設計する.設計した制御器の性能は,風車用数値解析ソフトウェアFASTを用いて評価する.シミュレーション結果において,提案手法は,制御無しおよび他の制御器と比較して大きなブレード曲げ応力の低減率を示す.


 

■ 価格提示を利用した蓄電拠点の分散制御におけるワインドアップに関する考察

長岡技術科学大学・笠輪 寛明,阿久津 彗,平田 研二

再生可能エネルギー源を利用した発電拠点および蓄電拠点の供給調整, さらには生産拠点の需要調整までを含む分散型のエネルギー需要・供給ネットワークの実現が求められている.分散型のエネルギー需要・供給ネットワークは, 多数の構成要素を有する大規模システムであり, 分散型の運用手法の重要性が高まっていくと考えられる. 大規模なエネルギー需要・供給ネットワークに対する分散型の運用として, 実時間価格提示と分散最適化を利用した方策が検討されている. しかしながら,発電拠点, 蓄電拠点を対象とした供給調整や生産拠点を対象とした需要調整を想定する場合, 価格提示を利用した分散制御系では, 提示される価格に巻き上げ (ワインドアップ現象) が生じる場合がある. 本稿では, 価格提示を利用した分散制御系におけるワインドアップ現象が, 標準的なアクチュエータの性能限界に起因するワインドアップ現象とは異なる構造を持つことを指摘する. つぎに, 価格提示を利用した分散制御系を非ワインドアップ化する実装に関する考察をおこなう. 具体的な実装の手順を提案するとともに, これによりワインドアップ現象に起因する応答の遅れを解消できることを確認する. なお簡単のため, 本稿では蓄電拠点のみに着目した問題を設定し議論をおこなう.


 

■ ディーゼルエンジン吸排気システムへのC/GMRESモデル予測制御の応用

トヨタ自動車・仲田 勇人,
リカルドUKリミテッド・Peter Martin,Anuradha Wijesinghe,
トヨタ自動車・白井 隼人,松永 彰生,冨永 浩之

本論文では,自動車用ディーゼルエンジンの吸排気制御に対するC/GMRES法に基づくモデル予測制御の応用について考察する.まず,制御対象のモデルは,制御対象の非線形性を表現できるよう,物理的第一原理に基づいて導出される.つぎに,制御対象には観測できない状態変数が含まれるので,拡張カルマンフィルタに基づいて,制御対象の状態ベクトルを推定する.その状態推定値を用いて,C/GMRESアルゴリズムに基づくモデル予測制御則を導出し,これを実際のエンジンに適用する.最後に,提案手法の有効性を実車実験によって示す.


 

■ 視覚センサネットワークによる駐車場の死角被覆制御

豊田中央研究所・宮野 竜也,柴田 一騎,神保 智彦

本論文では,駐車場の監視問題を考え,固定カメラでは捉えられない領域を死角と定義し,カメラを搭載した複数移動体が自律的に配置されることで,死角ゼロを実現可能な被覆制御則を提案する.本制御則は,大域的最適性と衝突回避を保証すると共に,移動体間の速度性能差を考慮した上で,過渡的最適性と収束速度の優先順位付けを可能とする.提案手法の有効性は数値シミュレーションにより検証される.


 

■ PWM型入力サンプル値系における多入力厳密線形化法

 宇都宮大学・鈴木 雅康,平田 光男

本論文では,高さは固定で数と幅長が可変である矩形パルス列を入力としてもつPWM型入力系を扱う.そのサンプル点上の振る舞いを支配する離散時間系は非線形であり,その扱いは一般に難しい.ところが,その入力項の取り得るベクトル値の集合が凸であることに基づきパルスの立ち上がり/下りタイミングを適切に操作することで,非線形性を消去し単入力線形系の振る舞いに一致させられることがわかっている.本論文では,その方法を発展させて,離散時間系を多入力線形系に厳密変換できることを示す.


 

高応答な死角捕捉を実現する被覆制御の開発と実機検証

豊田中央研究所・柴田 一騎,宮野 竜也,神保 智彦

車載センサやインフラの情報を共有することで空間情報が合成されるが完全に死角が無くなるわけではない.そのため,移動センサ群による死角リスクの被覆制御が自動車の安全性を向上させるためには必須となる.しかしながら,移動センサ群に速度性能差がある場合,移動性能に優れた機体が他機のボロノイ領域に囲まれてリスクの高い死角に到達できないため最適配置に時間を要する.本論文では,速度性能差を考慮した移動則を被覆制御に組み込んだ手法を提案する.さらに,複数のマルチコプタによる死角捕捉実験により提案手法の有効性を検証する.


 

■ 多変数関数の近似的逆関数に基づく冗長自由度電気自動車のアクチュエータ配分最適化-行列に基づく Lagrange inversion の演算-

 名古屋大学・浅井 徹,山口 雅弘,有泉 亮

冗長自由度を有する超小型モビリティに対する制御系を設計するために,階層的な制御系を構成する枠組が提案されている.その構成では,タイヤ力の配分をオンライン数値最適化に基づいて決定していた.タイヤ力配分の本質は非線形多変数関数の逆関数を構成することにある.そこで本論文では逆関数をべき級数展開に基づいて与える Lagrange inversion の係数を,行列演算によって求める手法を提案する.このような演算は,関数をクロネッカー積のべき級数展開で表現することにより可能となっている.また,得られた逆関数を用いることで,タイヤ力配分の(有限次元近似の意味での)パラメトリゼーションも与える.


 

■ PV発電量予測に基づくマイクログリッドの確率的モデル予測制御

立命館大学・竹田 皓貴,鷹羽 浄嗣

本論文は,大規模太陽光(PV)エネルギー供給を伴うマイクログリッドの電力管理のための確率的モデル予測制御(SMPC)について考察したものである. 近年,電力網の総エネルギー供給量のうちPV発電が増加している. PV発電量は天候に大きく依存して不安定であるため,マイクログリッド管理ではPV発電量予測を陽に考慮する必要がある. 本論文では,SMPCとPV発電量予測を組み合わせたマイクログリッド管理の手法を提案する.なお提案手法では,PV発電量を気象予報データからJust-In-Timeモデリングに基づいて予測する.提案手法の有効性を数値シミュレーションにより検証する.


 

■ 組み込みシステムの無瞬断更新のためのカルマン正準分解に基づくプログラム解析

電気通信大学・岸田 貴光,塚田 健人,澤田 賢治,新 誠一

本論文では,更新対象の機器の更新時間を短縮化し,かつシステム全体の稼働への更新影響を最小化する無瞬断更新のためのプログラム解析手法を提案する.解析対象は,アクチュエータやセンサを有する組み込みシステムの制御プログラムである.提案手法は,プログラムの更新可能な箇所,更新不可能な箇所の自動判別とプログラム更新による影響解析で構成される.本研究の特徴は,プログラムに対してペトリネットに基づく制御フロー解析とカルマン正準分解に基づく構造解析を同時に適用することにある.結果として,2つの解析手法は可制御性と可観測性から求まるという新しい知見が得られる.本論文では,組み込みシステムの一例として自律移動ロボットであるロボットランサーを題材に提案手法の妥当性を検証する.


 

■ 閉ループステップ応答データを用いたFRITにおける最適プレフィルタ設計

首都大学東京・梶原 諒太,増田 士朗,国立東京工業高等専門学校・松井 義弘

本研究では,FRITにおける閉ループステップ応答データを用いた最適プレフィルタの設計法を提案する.提案法では,線形パラメータ表現された制御器に積分器を導入し,閉ループステップ応答データを用いた場合に適した理論解析ができるようにする.つぎに,Campiらの手法と同様にモデルマッチングを達成するパラメータを含めた拡張パラメータ表現を導入したうえで,本来の制御目的をあらわす評価関数とFRITの評価関数をともにテイラー展開によって2次近似し,それらが一致するような最適プレフィルタの条件を導出する.そして,初期入力データをインパルス信号に変換する逆フィルタを求める手法を初期出力データを用いる場合に拡張することによって最適プレフィルタの条件を満足するFRITのプレフィルタを具体的に計算する手法を与える.提案法の有効性を示すため,制御器の構造を限定した場合におけるFRITの最適プレフィルタの設計を行ない,最適プレフィルタを適用することにより閉ループステップ応答の応答特性が改善することを数値例により示す.


 

■ 離散時間最適制御による宇宙機のハロー軌道維持ー楕円制限三体問題の枠組みを使って-

南山大学・坂井 祐介,宇佐美 元啓,大石 泰章

本論文では,宇宙機をパルス入力を使ってハロー軌道へ維持制御する問題を,地球-月系の楕円制限三体問題の枠組みで考察する.まずハロー軌道の周りの宇宙機の動特性を線形化および離散化し,線形の離散時間周期システムを得る.これに対する最適レギュレータの設計は,周期的なリッカチ差分方程式に帰着されるが,これを逆時間で解き,解が周期関数に収束したらそれを用いて制御器を得る.得られる制御器は,入力の重み行列や,1周期あたりのパルス入力の回数,1回のパルス入力の時間幅に依存して変化するが,その性能を燃料消費と関係の深い入力加速度の総和を用いて評価し,燃料消費の少ない制御器を得ることを考える.


 

■ ガウス過程回帰に基づく拡張リスク鋭敏型フィルタ

東京都立産業技術高等専門学校・福永 修一,柴崎 祐一

本研究では,システムが未知で,雑音に外れ値が混入する場合での状態推定問題に対して,ガウス過程回帰を用いた拡張リスク鋭敏型フィルタを提案する.提案手法では,外れ値に対して有効な手法である拡張リスク鋭敏型フィルタにモデルの推定手法であるガウス過程回帰を組み合わせることで,システムが未知であり,外れ値が混入している場合を考慮した状態推定を可能としている.また,拡張リスク鋭敏型フィルタはフィルタのゲインを変えることで推定精度を上げているため,提案手法は雑音に外れ値が混入する場合だけでなく,外れ値が混入しない通常の状態推定においても推定精度を上げることができる.提案手法は従来手法に比べ,雑音に外れ値が混入する場合だけではなく,外れ値が混入しない通常の状態推定においても推定精度が高いことを数値例を用いて示す.


 

■ 油圧ショベルのイベント駆動型トルク制御

広島大学・小岩井 一茂,濵永 慎也,山本 透,
コベルコ建機・南條 孝夫,山﨑 洋一郎

油圧ショベルは生産性と省エネルギー化を両立するために,油圧ポンプのトルクを所望の値に制御する必要がある.本論文では,油圧ショベルのポンプトルクを制御対象として,そのシステム変動が内部状態であるポンプ圧力に依存することに着目し,内部状態の変化をイベントとして捉え,イベントに基づきコントローラの構造を変更するイベント駆動型トルク制御を提案する.さらに,コントローラ構造はPID制御則を基本とした構造とすることで,ポンプ圧に基づいたゲインスケジューリング制御を活用することにより,イベント間でのコントローラ切り替えを可能とする.また,制御ゲインは,一般化最小分散制御則に基づき,一回の試験データから直接的に算出することで,開発段階のチューニング時間の削減を行う.この提案したイベント駆動型トルク制御を実際の油圧ショベルのマイクロコントローラに搭載し,従来手法との比較により提案手法の有効性を示す.


[論 文]

■ Tube-based モデル予測制御による移動ロボットの動的障害物回避

明治大学・市原 裕之,藤田 雅貴

本論文では,車輪に不確かさな滑りを有する移動ロボットの動的障害物回避手法を提案する.提案する手法は動的障害物を回避するために混合整数計画問題を解いて参照軌道をオンラインで生成し,その一方で車輪の滑りを考慮した軌道追従誤差モデルに基づいて tube-based モデル予測制御を実行する.軌道追従誤差モデルには不確かさな滑りのために時変項が現れる.そこで,時変項を外乱とみなし誤差に関する可到達集合を導入することで,誤差モデルに課す制約を予測ステップにしたがって本来の制約よりも厳しく設定する.このようにすることで,たとえ滑りが生じても生成された参照軌道から大きく外れることなく移動ロボットが障害物を回避することが期待できる.数値実験および実機実験において,提案する移動ロボットの動的障害物回避を検証する.


 

■ 高校物理学習支援用RT教材の開発-円運動での学習支援教材の評価-

大阪電気通信大学・小川 勝史,田中 宏明,鄭 聖熹

本研究では,高等学校の物理学習をより効率的に支援するために,物理現象と理論式が体感可能なRT(Robot Technology)教材を提案する.この教材ロボットは学習する物理量を計測するために必要な最少の組み合わせのセンサを搭載した仕様とした.本稿では,円運動について高校生を対象として,4グループに対してRT教材の使用有無による評価授業を実施した.グループAはRT教材使用した,グループBは座学のみ,グループCは従来型の実験演示を実施し,グループDはRT教材で表示機能を用いない,という異なる条件であった.その結果,RT教材を使用したグループAが理解度,学力ともに向上し,統計的に有意性が確認され,円運動に限られることではあるが,学力の向上につながることが検証できた.


 

■ TOF型レーザセンサとパンチルトアクチュエータを用いた実世界クリッカーシステムのポインティング性能向上 - 覗き込みウインドウ内レーザスポットマーカの提案と評価 -

広島市立大学・佐藤 健次郎,日髙 雄太,岩城 敏,池田 徹志

本論文では,乱雑な環境で働く支援ロボットを教示するための直観的なインタフェースを提案する.
そのインタフェースは,パンチルトアクチュエータに搭載されたTOF型レーザセンサをマウスで駆動することで,ロボットに操作させたい実物体を「クリック」しロボットへ様々な命令を生成する.
また,レーザセンサ近傍に設置されたカメラ映像(覗き込みウインドウと呼ぶ)を通して部屋全体を見回すことで部屋全域の実物体にアクセスすることが出来る.
しかし,この従来の実世界クリッカーシステムでは,部屋の明るさ・実物体色・距離等によっては,レーザスポットが見辛くなり「クリック」が困難という実用上の問題点があった.
そこで本論文では、覗き込みウインドウ内のレーザスポット位置を目立たせるようにマーカを重畳表示し視認性を改善することでクリック性能を向上させることを試みる.
具体的には,レーザセンサによる正確な距離計測と,カメラパラメータの実験的同定に基づくレーザスポット位置計測法を提案する.複数被験者によるポインティング性能評価実験を行った結果,提案手法の有効性を確認した.

 


 

■ 集合分割問題解法によるスラブ山分け問題求解技術開発

新日鐵住金・黒川 哲明,早稲田大学・大貝晴俊

製鉄プロセスにおいて, 製鋼工程から圧延工程へ鋼材を搬送する際, 鋼材は一旦スラブヤードと呼ばれる一時保管場所に置かれた後, 次工程である圧延工程の処理時刻に合わせてヤードから搬出される. ヤードとは工程間のバッファ的役割を担う中間置き場である. つまり製鋼と圧延工程との異なる製造順を調整し, 圧延工程への材料供給を滞りなく行う役割がある. また, 加熱炉の燃料原単位削減のため, 高い装入温度を保持することが求められる. そのため保温設備を設置し,その中に鋼材を山積みした状態で保管している. 同設備では, できるだけ設備限界まで高く積み上げることが必要となる.
一方, 鋼材を積上げる際には次工程処理順番に鋼材が上から積まれていること, 積み形状が不安定な逆ピラミッド状には積めないなどの制約がある. 更に, 山積み作業負荷も見逃せない要素である. 従って, ヤード管制では, 前記制約下で出来るだけ少ない作業負荷で,できるだけ高い山積みを行う作業計画を策定することが望まれる.本論文ではこの問題に対し,組み合わせ問題解法である集合分割問題解法の適用を提案し,求解結果を操業指示に反映できることを示した.