論文集抄録
〈Vol.54 No.8(2018年8月)〉

タイトル一覧
[特集 コンピューテーショナル・インテリジェンスの新たな潮流]
[論 文]

[論 文]

[開発・技術ノート]


[論 文]

■ リカレント構造適応型Deep Belief Networkによる時系列データの学習

広島市立大学・鎌田 真,県立広島大学・市村 匠

Deep Belief Network(DBN)は,事前学習した複数のRestricted BoltzmannMachine(RBM)を階層的に積み重ねて学習を行うことで,入力データの特徴を高い精度で表現できる深層学習法である.RBMやDBNは,ニューロン数,層数等のネットワーク構造に関するパラメタを学習前に与えなければならないため,最適な構造を試行錯誤的に求める必要があった.これに対しわれわれは,入力データに応じてネットワーク構造を学習中に自動で構築する構造適応型学習法を提案し,画像ベンチマークデータセットにおいて従来の手法に比べて高い分類精度を示した.本論文では,提案手法を画像分類だけでなく,近年のIoT機器により収集される時系列データの予測に対応するため,Long Short-Term Memory(LSTM)として知られるリカレントニューラルネットワークの考えを取り入れたリカレント構造適応型RBMおよびリカレント構造適応型DBNを提案する.提案手法の時系列ベンチマークテストに対する予測精度について,10-foldクロスバリデーションテストを行った結果を報告する.


 

■ 木構造類似度を用いる多峰性遺伝的プログラミング

立命館大学・吉田 修武,原田 智広,ターウォンマット ラック

本稿では,大域最適解を含む複数の局所最適解を同時に獲得する多峰性遺伝的プログラミングを提案する.多峰性最適化問題は,大域最適解だけでなく,複数の局所最適解を1回の最適化プロセスで獲得することを目的とする.一般的に,多峰性最適化問題は実数値最適化を対象としており,遺伝的プログラミング(GP)が対象とするプログラムのような解構造の問題は扱われていない.そこで本稿では,大域最適解と局所最適解を持つ多峰性プログラム最適化問題を設計し,大域最適解を含む複数の局所最適解を獲得する多峰性GP(Multimodal genetic programming:MMGP)を提案する.具体的には,提案手法は,GPの個体を表現する木構造の類似度に基づいて母集団を複数のクラスタにクラスタリングする.そして,各クラスタを個別に最適化することにより,構造の異なる局所最適解を獲得する.提案手法の有効性を検証するため,設計した多峰性プログラム最適化問題を用いて,提案手法とクラスタリングを用いないSimple GP,免疫アルゴリズムを用いたIAGPを比較する実験を行う.実験結果から,提案手法は大域最適解と局所最適解を同時に獲得できることが明らかとなった.


 

■ 視線方向を考慮した球面画像上でのオプティカルフローによる車両の旋回表現

富山県立大学・増田 寛之,永井 祐輔,本吉 達郎,
澤井 圭,小柳 健一,玉本 拓巳,大島 徹

本稿では,車両旋回中の視線方向を考慮した視覚モデルについて検討を行っている.本研究では,旋回アシストシステムを実現するための自動走行制御の開発を目指して,人の視知覚に関する知見に基づき視線方向とその時に得られるオプティカルフローに着目をした.本稿では,全天球カメラを用いて視線方向とその時得られるオプティカルフローを考慮した視覚モデルを提案する.天球画像上のオプティカルフローは人の網膜に投影される光の流れを表現可能であり,人の視覚感覚を再現可能であると考えている.球面画像上での視線方向とオプティカルフローの関係を検証するために,運転者がカーブの先を見た時のオプティカルフローの見え方についてシミュレーションを行った.さらに,実車でもシミュレーションと同様の結果が得られる事を確認するために,試作超小型電気自動車"TORiCLE"を使用して,人による運転と自動運転による走行を通して実験を行った.実験結果より,オプティカルフローによる車両旋回時の表現と車両制御への応用可能性について議論を行った.


 

■ 乳がん病変検出のための深層学習を用いた計算機支援画像診断システム

東北大学・鈴木 真太郎,仙台高等専門学校・張 暁勇,東北大学・本間 経康,
市地 慶,高根 侑美,柳垣 聡,川住 祐介,石橋 忠司,吉澤 誠

近年,乳がん罹患者の増加に対する対策として,その早期発見を目的とした乳房X 線撮影(マンモグラフィ)による検診が普及しつつある.これに伴い,医師の負担軽減と診断精度の向上を目的とし,自動検出した病変候補を医師に提示するコンピュータ支援診断(computer-aided diagnosis: CAD)システムの開発が行われている.従来,病変の検出は手作業で設計された特徴に基づいて行われてきた.しかし,実際の腫瘤の形状や特徴は多種多様であり,正常例と腫瘤を適切に識別できる特徴量の設計は極めて難しい.本研究では,特徴を学習的に自動獲得する深層学習を用いた病変検出システムを提案する.提案システムは,(1)単純な特徴に基づいて大まかな病変候補を抽出する病変候補抽出,および(2)Deep Convolutional Neural Networkを用いて病変候補から真の病変を抽出する病変識別,の2段階からなる.病変候補を(1)である程度絞ることで,効率的かつ効果的な訓練データを(2)に提示することを可能とした.これにより,極めて困難な病変特徴の手動設計を行うことなく,限られた数の医用画像から病変特徴を効率的に獲得し,病変検出性能の大幅な向上を実現した.


 

■ セパラトリクスを実現する遺伝子ネットワークの設計問題の解の存在性と解法

 京都工芸繊維大学・森 禎弘,黒江 康明

所望の機能をもつ遺伝子ネットワーク(GRN)を設計,実現する研究が盛んに行われている.筆者らは,これまでに発現パターンに着目し,その時間変化を表す発現パターン遷移列を所望の動作としたときの設計法を提案している.より多くの発現パターンからなる遷移列を複数同時にもたせるなど複雑な問題に対しては,より複雑で大規模なGRNを対象とする必要があり,設計が困難となるという問題が生じる.このとき,セパラトリクスを実現できれば,この問題が解決できると期待できる.そこで,本論文ではセパラトリクスを実現することで所望の発現パターン遷移列をもたせるGRNの設計問題を対象とし,その基本的な問題である解の存在性を理論的に証明することを目的とする.セパラトリクストとは,GRNの状態空間を分割する次のような超平面のことである.すなわち,GRNの状態空間内の同じ発現パターンが生じる領域を分割する超平面で,解軌道がその領域内で超平面のどちら側を通るかによって発現パターンの遷移先が異なる.本論文では発現パターンが切り替わるときの状態とセパラトリクスの位置関係を考えることで解を求める方法を導出することにより,本設計問題の解の存在性を証明している.したがって証明が設計法にもなっている.


[論 文]

ハイブリッド手法による筋電義手の手指制御

東京電機大学・廣木 梨紗子,岩瀬 将美,井上 淳

本研究では,筋電義手における5指の屈曲-伸展動作の角度推定を目的とする.ハイブリッド手法を用いて各指の関節角度を推定する.また、本手法の有効性を検証する.ハイブリッド手法とは,サポートベクターマシーン(SVM)で指動作を識別し,NARXモデルで関節角度を推定する手法のことである.本稿では,筋電信号を用いて筋電義手が動作する環境を構築した.また,SVMを用いて5指の動作パターンを識別し,ハイブリッドモデルを用いて動作1の指関節角度を高い精度で推定した.これらの推定結果を基にハンドロイドの拇指を動作させた結果,ハンドロイドの拇指が操作者に追従したことを確認した.従って,ハイブリッド手法は指関節角度制御に有効的であると言える.今後の展望として,指動作識別率を向上させ,残り2動作の関節角度を推定する.


[開発・技術ノート]

■ 睡眠覚醒改善のための可搬型光治療器の開発と性能評価

室蘭工業大学・湯浅 友典,北海道科学大学・三浦 淳,
電制・須貝 保徳,伊藤 洋輔,室蘭工業大学・佐々木 春喜,相津 相佳永

光療法は,薬物療法に比べて重篤な副作用が無く,睡眠や睡眠覚醒の改善に役立ちます.しかし,現在市販されている光療法用の装置は大型で,利用時の行動が制限されるなどの問題がある.そこで私たちは,携帯型の光療法装置を開発しました.そして私たちは,この装置の性能を評価するため,眼球内に照射された照度を計測するためのヘッドモデルの製作と,睡眠品質の評価や精神診断テストを行うためのiPad用のソフトの開発を行った.本研究の結果は,携帯用光療法装置の開発と評価において,技術ノートととして有用であると考えられる.