論文集抄録
〈Vol.50 No.11(2014年11月)〉

タイトル一覧
[論 文]


[論 文]

多チャンネル型機能的電気刺激によるヒト肘関節運動の平衡点制御―等尺性環境下における検証―

大阪大学松居 和寛,富士通・菱井 康生,
大阪大学・前垣 和也,山下 雄人,植村 充典,平井 宏明,宮崎 文夫

本論文では,機能的電気的刺激(FES: Functional Electrical Stimulation)において,ヒトの運動制御メカニズムに矛盾しない電気的刺激を加えることによって,より簡便なやり方でFESを活用する方法を提案する.このため,筋骨格系において特徴的な拮抗筋ペアによる関節駆動に着目する.さらに,拮抗駆動系の平衡点と剛性が中枢神経系によって制御されているとする平衡点仮説に基づき,それらの平衡点と剛性を筋電位(EMG)から抽出するために提案された筋対群の筋電位の比(筋拮抗比)と和(筋活性度)に対応した電気的筋拮抗比(EAA比: Electrical Agonist-Antagonist ratio)と電気的筋活性度(EAA活性度: Electrical Agonist-Antagonist activity)を導入する.このEAA比を入力,等尺性環境下での手先力を出力にとりヒトの肘関節の運動を伝達関数としてモデル化すると,ムダ時間系と2次遅れ系のカスケード結合として表現できることを示す.また,このモデルを用いて電気的刺激パターンを生成し肘の拮抗筋ペアを電気刺激することにより,高速高精度かつ滑らかな手先力の制御が可能になること
を示す.


 

■ 不確かなスケジューリングパラメータの使用を前提とした離散時間 Gain-Scheduled 出力フィードバック制御器設計と飛行制御則設計例

宇宙航空研究開発機構・佐藤 昌之

Linear Parameter-Varying システムに対して線形行列不等式を利用したゲインスケジュールド出力フィードバック(Gain-Scheduled Output Feedback; GSOF)制御器設計法が90年代に提案され,それらを基礎とした実システムへの適用研究が盛んに行われている.実システムにおいては,スケジューリングパラメータが正確に提供されるとは限らず,また,不確かさを表すブロックは複数となることが一般的である.さらに,現在では制御対象を動かす計算機としてデジタル計算機が広く用いられていることから,離散時間 GSOF 制御器の設計が望ましい.これらの背景より,本稿では,外乱入力および制御出力が構造化されている一般化プラントに対して,不確かなスケジューリングパラメータの使用を前提とした離散時間フルオーダー GSOF 制御器設計法を提案する.また,提供スケジューリングパラメータ値に含まれる不確かさを考慮することの重要さを示す例として,提供スケジューリングパラメータが正確であるとした設計法と提案設計法を用いて,実験用航空機 MuPAL-α のある速度範囲における横/方向運動に対するモデルマッチング飛行制御則設計結果および飛行試験結果を示す.


 

■ 未知平面上の未知目標状態に対する準大域フィードバック制御系設計

東京理科大学・秋場 英之,中村 文一,中村 奈美

近年,強化学習を利用した制御に関する研究が進められている.これまでに強化学習を利用したフィードフォワード制御法が提案されているが未知目標状態に対するフィードバック制御則設計法については研究がなされていない.そこで本稿では,連続な未知状態空間として未知平面を考え,強化学習を利用した未知目標状態に対する準大域フィードバック制御則設計法を提案する.提案手法では制御対象としてホロノミック移動ロボットを考え,局所制御則と強化学習により空間内を探索・学習し,得た行動価値関数から準大域制御Lyapunov関数およびフィードバック制御則を設計する.提案法の有効性をコンピュータシミュレーションにより確認した.


 

■ 入出力線形化に基づくクアッドロータヘリコプタの適応H追従制御

名古屋工業大学・森 啓多,川重岐阜エンジニアリング・堀田 克也,名古屋工業大学・山田 学

本稿では,物理パラメータが不確かさをもつクアッドロータヘリコプタの位置とヨー角の目標値追従制御問題について考察する.本手法の特徴は,第一に,バックステッピング法を組み合わせた入出力線形化手法を用いて,物理パラメータをオンラインで推定し,同時にクアッドロータヘリコプタの非線形システムの制御問題を,ある簡単な線形時不変システムの制御問題に帰着させている点である.その結果,物理パラメータをオンラインで推定しながら,位置やヨー角を目標値に漸近追従させる適応追従補償器を与えた.第二に,線形化手法を応用し,外乱から位置に関する制御出力までの感度関数のH∞ノルムを,ある与えられた値より小さく保証する適応追従補償器の設計法を与えた.線形化手法により,設計問題をある簡単な線形時不変システムの標準的なH∞制御問題に帰着させているため,提案する設計法は簡単かつ直接的である.第三の特徴は,線形化に用いる変換は,揚力が零でない限り正則であり,特異点を持たない点である.この線形化手法を応用すれば,並進速度をオンラインで推定するオブザーバを用いて,並進速度情報を必要としない適応追従補償器の設計も容易である.最後に数値シミュレーションにより,提案法の有効性を実証する.


 

■ 入力依存ノイズを考慮した応答曲面法に基づく多目的最適化

 京都大学・有泉 亮,カーネギーメロン大学・テッシュ マシュー,チョセット ハウィー,京都大学・松野 文俊

制御問題を含む工学の多くの問題において,複数の評価基準に対する最適化が要求される.しかし,特に実験に基づく多目的最適化は,実験に要する費用や時間のために実験回数が厳しく制約されること,観測値にノイズが存在するために観測値から得られる情報が少なくなってしまうことから,非常に困難な問題である.本論文においては,関数評価に費用や時間がかかり,かつ,測定結果にノイズが存在する場合に有効な多目的最適化法を提案する.特にノイズが入力に依存する場合に対応するため,応答曲面の構成に際し標準的なガウス過程に加えて,入力依存ノイズを仮定したガウス過程回帰を利用する.新たに提案するモデル選択法を利用してより適した回帰法を選択し,適切な応答曲面を構成することで,効率の良い実験計画を行う.数値例および実際のヘビ型ロボットを用いたサイドワインディング推進の最適化により提案手法の有効性を示す.


 

■ Steer-by-Wireとインホイールモータを搭載した車両に対する操舵系と駆動系を相互活用した耐故障ロバスト制御系設計

デンソー・伊藤 章,名古屋大学・早川 義一

安全設計は,自動車において最も重要な技術の一つである.自動車の安全設計では,2箇所以上の同時故障は想定しないものの,全ての部位の単独故障に対する処置が必須であり,故障時においても「走る・曲がる・止まる」の基本機能を維持することが求められる.ゆえに,「曲がる」を担う操舵系と,「走る・止まる」を担う制駆動系に対する安全設計が必須である.中でも,Steer-by-Wire,Drive-by-Wireといった電気信号で意思を伝達し,機械的伝達機構を持たないX-by-Wireシステムでは,安全設計が製品化する上での最重要課題に位置付けられている.従来の操舵,駆動系毎にバックアップ装置を設ける安全設計は,重量増加による車両性能悪化やコスト増加など課題が多い.そこで本稿では,車両視点で潜在する冗長機能に着目し,操舵系の故障は駆動系で,駆動系の故障は操舵系で相互に補償することで,バックアップ装置の追加を回避するアプローチを考える.具体的には,Steer-by-Wireとインホイールモータを搭載し左右後輪の制駆動力が独立制御可能な車両に対し,操舵系故障時は左右輪の駆動力差で操舵機能を確保し,駆動系故障時は正常駆動輪とSteer-by-Wireを活用して退避走行を可能とする耐故障制御系の設計法を提
案する.


 

■ 最小射影法による剛体の姿勢安定化制御

東京理科大学・畑山 誉,中村 文一

本論文では,特殊直交群SO(3)上で定義される剛体の姿勢制御問題を考える. SO(3)のパラメータ化において単位クオタニオンがよく用いられるが,一つの姿勢を表現する二つのクオタニオンから一つのクオタニオンを適切に選ぶ必要がある.
本論文では,最小射影法を用いて,二つの単位クオタニオンから一つを選ぶことなく剛体の姿勢を目標平衡点へ大域的に漸近安定化させる制御則を提案する.さらに提案する制御則を用いることにより制御システムがCarathéodory解をもつことを示す.さらに本論文における制御則とMayhewらによるクオタニオンベースド・ハイブリッドフィードバック法を比較し,両手法の類似性について述べるとともに提案法がSO(3)の要素から単位クオタニオンを得る場合の優位性を明らかにする.