論文集抄録
〈Vol.50 No.7(2014年7月)〉

タイトル一覧
[論 文]

[ショート・ペーパー]


[論 文]

■ 衝突姿勢拘束をもつリミットサイクル型動歩行の安定性解析

北陸先端科学技術大学院大学・浅野 文彦

数値積分することなく衝突 姿勢拘束をもつリミットサイクル型動歩行に固有の安定性を理解することは,脚移動ロボット研究における基本的目標の一つである.これまでに,二つの主要な 動的歩容の安定性判別方法が提案されてきた.一つは運動の線形化を利用して状態誤差遷移関数を導出する方法,もう一つは力学的エネルギー平衡から運動エネ ルギーの収束を説明する方法である.しかしながら,両者においては数値積分が必要であった.本論文では,これら二つの手法を統合することによって,数値積 分に依存しない安定性解析が可能となることを明らかにする.まず,1自由度の準受動歩行モデルの状態誤差遷移関数を解析的かつ未知変数を含まないものとし て導出し,数値シミュレーションを通してその精度を評価する.次に2自由度の劣駆動歩行モデルを考え,その平地歩容の安定性が同様の方法によって解析できることを示す.



■ データセンタ省電力化のための空調制御とサーバ負荷配置の最適化

NTT環境エネルギー研究所・中村 雅之,橋本 英明、中村 亮太,浦田 穣司

本論文はデータセンタ省電力化のための空調制御とサーバの準最適負荷配置について述べる.データセンタの省電力化問題に最適化手法を用いるアプローチは,サーバの温度条件を制約式,空調消費電力を評価関数としてその最小値を与える制御変数を求める最小化問題に帰着させたシンプルな方法である.しかし,問題によっては空調の制御間隔以内に最適化計算が完了しない場合もある.特に,混合整数計画法などによりサーバの負荷配置を決定する際,サーバの数が多いと,制御間隔より最適化計算の時間が長くなり,制御不可になってしまうという問題がある.空調制御システムにおいては制御間隔内に制御指令を決定することが必須であり,最適制御指令を計算することが難しければベストエフォートで制御指令を生成する必要がある.このように,通常の最適化手法を用いて最適負荷配置を求めようとすると長時間の計算を要するため,負荷配置と空調消費電力に関する近似式を導出して準最適負荷配置を求め,次いで数理計画法により最適空調設定を計算する方法を提案する.準最適負荷配置を求めるプロセスは数理計画を利用しないため短時間で完了する.続く最適空調設定を求める問題は小規模な数理計画であるため,制御間隔内での計算完了が可能である.



■ 局所回帰モデリングによるプロセス制御のモデル誤差学習

新日鐵住金・角谷 泰則,中川 繁政,橘 久好,児嶋 次郎,中野 孝一,磯部 現,矢澤 武男

本論文では,鉄鋼プロセス制御におけるモデル予測精度向上を目的に,操業データベースを活用してモデルの予測誤差を推定する新たな方法を検討した.提案法は,Model-On-Demand手法や,Just-In-Timeモデリングといった局所回帰モデリング手法を用いて物理モデルの予測誤差を補償するものである.本手法では,操業データベースから複数のデータセットを抽出し,それぞれのデータセットに基づく局所モデルを複数導出しておき,アンサンブル学習の考え方を応用して,複数の局所モデルの推定値を加重平均することで,物理モデルのモデル予測誤差の推定値を得るという特徴がある.本提案法の効果を検証するため,厚鋼板の水冷工程における温度予測モデルを対象に,数値実験および実機適用試験を行い,精度向上効果を確認した.



■ 定速移動体の軌道計画における終端時間と角度が指定可能な最適フィードバック誘導則

横浜国立大学・有田 俊作,上野 誠也

本稿では,定速移動体の制御努力量(横加速度入力の二乗和)を最小にする最適制御問題を扱う.問題は無次元化によって簡略化され2点境界値問題として定式化される.最適入力は,未知の定数を含む状態量の関数として表される.そしてその未知の定数は簡略化された2点境界値問題をシューティング法によって解くことにより与えられる.シューティング法を解くための初期推定解を与える方法もあわせて示される.シューティング法における収束の可否と,解に至るまでの反復回数を確認することにより,初期推定解を与える提案手法の妥当性が示される.



■ 非接触作用力を発生する小型超音波集束装置の開発

名古屋工業大学・星 貴之

対象物体に非接触で力を作用させる技術は,幅広い分野においての活用が期待される.例えば衛生管理が必要な分野では,非接触で物体を操作することができれば汚染の機会を減らすことができる.ロボットアームなどの移動を伴わないため,生産ラインにおいて高速かつ安全な操作を行うことができる.またエンタテインメントやアート作品においては,非接触であること自体が人々の興味を強く惹く要素となる.これまでに実用化されている非接触作用力としては,磁力とエアジェットが挙げられる.また,まだ広く普及していない原理として音響放射圧も利用可能である.これは音波が物体を押すという非線形現象であり,対象物体の材質を選ばず作用する.著者の所属する研究グループは,超音波の音響放射圧を利用した触覚ディスプレイの開発を行ってきた.超音波振動子アレイの位相制御により超音波を集束させ,離れた位置から手指に触覚刺激を提示する.時間・空間解像度が高いという特長があり,触覚のみならず他分野への応用も広がりつつある.しかしその可能性を探索するには回路と配線が煩雑であるという技術的課題がある.この課題を解決するため,筆者はユニット化した超音波集束装置を開発した.本論文は,この小型超音波集束装置の詳細について報告する.


[ショート・ペーパー]

■ 進化計算を用いた機械システムのロバスト振動制御

旭川工業高等専門学校・阿部 晶,久保田 響

本研究では,パラメータ変動を伴う機械システムの残留振動を抑制するフィードフォワード制御法を提案する.提案手法において,PTP制御のための軌道は正弦波関数とサイクロイド関数の結合により生成される.生成された軌道は正弦波関数の係数に依存する.残留振動を抑制するために,パラメータ変動を考慮してParticle Swarm Optimization を用いてその係数をチューニングする.先端に振子が取り付けられた回転アームのPTP制御を扱い,提案手法の有効性をシミュレーションおよび実験から示す.



■ 離散時間非線形無限評価区間最適制御問題の代数関数解

京都大学・河野 佑,大塚 敏之

本研究では,無限評価区間の離散時間非線形最適制御問題について考える.評価関数のステージコストとシステムのベクトル場が状態に関して有理式かつ入力に関して多項式で記述される場合に,解の代数的な構造を解析する.具体的には,代数方程式を解くだけで最適状態フィードバック則が求まる問題のクラスを明らかにする.このようなフィードバック則は適当な多項式環のイデアルを見つけることで構築できる.