論文集抄録
〈Vol.53 No.6(2017年6月)〉

タイトル一覧
[論 文]


[論 文]

■ 状態制約を有する非線形システムに対する状態方程式を保持する変換 -システム蘇生変換-

東京工業大学・木村 駿介,東京理科大学・中村 文一,伊吹 竜也,三平 満司

非線形システム解析の代表的なツールである座標変換は,状態制約を考慮した制御対象から制約のない仮想システムを得るという状態制約問題の解決のために利用されている.しかし,座標変換前後では状態方程式の形が異なるため,基本的には,既存の制御則を仮想システムに適用することができない.
この問題を解決するために,本論文では座標変換の前後で状態方程式の形を保持する「システム蘇生変換」を提案する.システム蘇生変換は,制御対象と制約のない仮想システムを関連付ける座標変換および,仮想システム上において状態方程式の形を保持するための入力変換から構成される.
本論文では,システム蘇生変換の性質を明らかにするとともに,既存の制御則を利用して,状態制約を考慮した制御則の設計法を提案する.さらに,入力アフィン非線形システムに対するシステム蘇生変換の設計定理を与え,システム蘇生変換を利用した制御則設計法を提案する.最後に,応用例として状態制約を持つ2輪車両型移動体の安定化問題を考え,コンピュータシミュレーションにより有効性を確認する.


 

■ 時空間情報に基づいた閉ループ系の直接同定法

北九州市立大学・孫 連明,慶應義塾大学・佐野 昭

外部テスト信号の利用に制限があるとき,閉ループシステムにおけるプロセスが入出力信号間の線形従属性及び入出力と雑音間の強い相関をもつため,従来の閉ループ同定で用いられる予測誤差法(PEM)の収束特性と数値計算の性能が劣化しやすくなり,良好な同定結果が得られない場合が多い.本論文では,出力オーバーサンプリングで観測した入出力データの部分空間特性を明らかにし,それをパラメータ推定の評価関数に導入して時間と空間情報に基づいた新しい閉ループ同定アルゴリズムを提案する.この同定アルゴリズムでは,凸関数で近似した部分空間情報を用いて最適化における収束領域を拡大し,最適アルゴリズムのヘッシアン行列の条件数を改善することにより数値計算の安定性を高め,パラメータの推定分散を低減できる.また,数値例を通して提案手法の有効性を検証し,厳しい同定条件においても同定性能を改善できることを示す.


 

■ 特異環境を考慮したLRFマップマッチングとオドメトリのMHE融合に基づく移動ロボットの自己位置推定

横河ソリューションサービス・栄田 国志,アズビル・木村 一輝,
東京都市大学・野中 謙一郎,関口 和真

本論文ではLRF計測値を用いたマップマッチングとオドメトリをMHEにより融合した自己位置推定手法を提案する.MHEでは評価区間内の複数サンプリングの計測データを用いた最適化計算により移動ロボットの位置姿勢を推定し,評価区間は毎サンプリング移動する.提案手法では評価関数でマップマッチングの推定誤差,オドメトリの推定誤差,初期推定値誤差を評価する.マップマッチングによる推定では,廊下のような1つもしくは1組の平行な壁しかLRFで観測できない特異環境では自己位置を一意に決定できない.提案手法では,マップマッチングのみでは得られない位置の情報をオドメトリにより補間し,特異環境においても自己位置推定を達成する.また一般にマップマッチングではLRF計測データ数が少ない場合に,その観測ノイズの影響を受けやすい.提案手法ではLRF計測データの数に応じてマップマッチングとオドメトリの相対的な重要性が変化し,LRF計測データ数が少ない場合はオドメトリを重視した推定が行われる.数値シミュレーションによって従来手法との比較を行い,提案手法の推定精度を検証する.提案手法の特異環境への頑強性と実現可能性は,数値シミュレーションと実機実験により確認する.


 

■ Rapid Prototyping 制御系開発において自動微分を実現するためのコード書き換え手法-Just In Time 線形近似モデルとディーゼルエンジン吸排気モデルへの適用-

名古屋大学・浅井 徹,トヨタ自動車・仲田 勇人,松永 彰生

非線形システムを制御する際に線形近似は有用である.線形近似システムを得るためには,動作点まわりで状態方程式右辺の偏微分を求める必要があり,偏微分を求めるためには自動微分が有用である.自動微分は偏微分を効率的かつ精密に計算するコードを自動的に生成する.しかしながら,RapidPrototyping 制御系開発において自動微分を利用すると,偏微分計算のコードに対して付加した保護コードをソース改変の度に追加し直すなど,何度も手戻り作業が発生する.すなわち,Rapid Prototyping 制御系開発においては自動微分は必ずしも有用とはならない.そこで本論文では,偏微分の計算を行うようにソースコードを手作業で書き替える(場当たり的でない)系統的な手法を提案する.提案手法は理解が容易で,偏微分の計算コードに対しても可読性を維持することができる.さらに,一旦追加した保護コードを反故にすることなく,その後のコード改変を行うことが可能である.すなわち,本手法は RapidPrototyping の意義を損ねることなく,偏微分計算の追加を可能にするものである.本手法をディーゼルエンジン吸排気系モデルに適用し,本手法が有効であることを示す.