論文集抄録
〈Vol.54 No.1(2018年1月)〉

タイトル一覧
[特集 分野横断化・社会実装を促進するシステムインテグレーション]

[論 文]

[ショート・ペーパー]

[論 文]


[論 文]

■ 粉体の高速搬送のための管式蠕動運動型コンベア-印刷機用トナーの搬送-

中央大学・山田 泰之,吉浜 舜,芦垣 恭太,
リコー・加藤 弘一,中央大学・中村 太郎

様々な形態の粉体が,食品や医薬品,工業製品等々の,最終または中間製品として幅広く扱われており,それらの搬送や混合に,様々な粉体搬送装置が利用されている.特にプリンターに利用される粉体であるトナーの搬送においては,輸送時の粉体と管路の摩擦等で発生する熱による凝集や固着が,印刷不良を発生させるため問題となっている.
そこで,著者らは低せん断力かつ高速なトナー粉体の搬送の実現を目的に,腸管の蠕動運動を,空気圧によるゴム膨張を利用して,模擬した粉体・流体搬送装置である,管式蠕動運動型コンベアを開発した.本論文では,管式蠕動運動型コンベアの波の周波数や長さと,粉体の搬送量の関係を調査することで,粉体の高速搬送を実現するコンベアパラメータを検討した.


 

■ 隠れマルコフモデルに基づく未学習クラス推定法と時系列生体信号の識別

横浜国立大学・迎田 隆幸,横浜国立大学/イタリア工科大・島 圭介

本論文では,パターン識別問題においてあらかじめ想定していない未学習のクラスを表現可能な混合正規分布関数を隠れマルコフモデル(HMM)に導入し,識別対象クラスおよび未学習クラスを時系列データから高精度に推定するパターン識別法を提案する.実験では人工データとEMG信号の識別を実施し,HMMから生成した時系列パターン,および前腕動作を識別可能なことが示された.識別率は人工データ,EMG信号それぞれ100%:99.5%,91.5%:89.6%(学習クラス:未学習クラス)となった.結果より,提案法を用いて時系列データから未学習クラスを高精度に識別可能なことが示された.


 

■ 水中6脚ロボットにおける機体姿勢制御

岩手大学・佐藤 翔太,髙木 基樹,三好 扶

海底の任意の箇所に接地し,安定な作業を提供するための6脚ロボットの開発を目的としている.しかしながら,海底は様々な大きさの岩があるため不整地帯であることが多く,また浅い海域では磯根資源が生息するなど障害物が多く存在するため,歩行移動だけでは作業目的地への到達が困難となることが予想される.本研究で開発する6脚ロボットは,歩行移動用の駆動系のみを用いた泳動作を可能にし,水中3次元移動によって障害物を回避することを提案する.本稿では水中3次元移動のため,機体重心移動によって姿勢制御と推力の出力方向を制御するアルゴリズムを実装した.評価実験の結果,機体重心移動によって姿勢制御と推力の出力方向を合目的に操作可能と
なった.


 

■ レヴィフライトを用いたスワームロボットネットワークによる探索-掃引作業に関する計算機実験を用いた検証-

摂南大学・片田 喜章

本研究では,複数ターゲットを発見するために複数のロボットが環境を探索するスワームロボティクスに関する問題を扱う.あるロボットがターゲットを発見すると,その情報は無線ネットワークによって基地局に送られる.このとき,ターゲットを検出したロボットから基地局までは中継ロボットを介した無線ネットワークによって連結されている必要がある.
これまで,我々の研究グループでは,スワームロボットネットワークによるターゲット探索において,移動戦略としてレヴィフライトが一般的なランダムウォークに対し圧倒的に優位であることを実機実験において確認している.本論文では,掃引作業において,レヴィフライトの数式表現およびパラメータがスワームロボットネットワークの探索性能に与える影響について計算機実験により考察を行った.得られた結果から,レヴィフライトに関して近似を行った数式表現が良い性能を示すことを確認した.


 

■ 逆ベイズ推定を用いた意思決定プロセスのモデル化

 早稲田大学/日立製作所・堀井 洋一,三井住友信託銀行・吉成 愛,
富士通・中本 百合菜,早稲田大学・郡司ペギオ幸夫

人間の意思決定プロセスのベイズ推定によるモデルは,急激に変化する状況には対応できない.そこで,このような状況に対応できる意思決定プロセスを,逆ベイズ推定を用いてモデル化し,心理実験によりその効果を検証した.実験では,被験者は仮想空間上を左または右の選択により,ジグザグにまっすぐ進むようにうながされる.その結果,正しいゴールから離れるような客観的に見ると非合理的な選択や,意思決定のパターンが急激に変化するような選択が多数観測された.我々の逆ベイズ推定を用いた意思決定モデルは,このような状況をよりよく表現できることを示す.また,本手法を株価変動等の経済指標の推移にも適用できることを示し,推定時の各種パラメータが推定結果に与える影響を検証した.


 

ロボットの主観的重量感覚がストレス緩和効果に与える影響

デンソー/名古屋工業大学・林 里奈,名古屋工業大学・加藤 昇平

ストレス問題が深刻化する中,ロボットとのふれあいを通して癒しを与える取り組みが始まっている.セラピー用途で使用されるロボットの多くは,ロボットを持つ,もしくは抱きかかえてふれあうことを想定している.したがって,ロボットの予想重量と実際にロボットを持った時に感じる重量の相対による評価(以降,主観的重量感覚という)がストレス緩和効果に影響を及ぼす可能性は高い.そこで,主観的重量感覚がロボットのストレス緩和効果に与える影響を検証した.同化-対比理論より,ロボットを持った時に感じる重量に対する順応水準はユーザにより異なることを考慮し,実験参加者を同化作用群と対比作用群とに分け,評価実験を実施した.心理評価の結果,同化作用群の方が,対比作用群と比較して,抑鬱,怒り,混乱が有意に緩和することを確認した.生理評価の結果,同化作用群の方が,対比作用群と比較して,α波の含有率が増加傾向にあることを確認した.以上より,ロボットとのふれあいによるストレス緩和効果を高めるためには,予想通りの重量だと感じさせる重量の設定が必要となることを見出した.


 

■ 多指ハンドアームによる動力学を考慮したジャグリングの軌道生成

 千葉大学・岡朋 暉,並木 明夫

人間のような動的高速動作を実現するために,これまで単純なエンドエフェクタを用いたロボットジャグリングが研究されてきた.この研究の目的は,人間のような多指ハンドアームでジャグリングを達成することである.多指ハンドアームを使用する場合,多指ハンドの重量が問題となり,ハンドの重量を補うためにアームの動きを最適化する必要がある.本論文では,平滑化スプラインを用いて運動軌跡を最適化する方法を提案する.平滑化スプラインのパラメータは,遺伝的アルゴリズムを使用してオフラインで最適化する.ハンドアームロボットは,最適化されたパラメータを用いてボールの落下位置に応じてオンラインで最適な投げ動作を行う.提案手法の有効性を実験により示し,ハンドアームは7回連続して投げ動作とキャッチ動作を実現した.また,提案手法は,従来の手法と比較して,関節トルクの大きさを低減し,目標軌道への追従誤差を低減することを示す.


 

■ 衝撃吸収機構を内蔵した偏心揺動型減速機とその機構を用いたヒューマノイドロボット

千葉工業大学・牧角 知祥,川崎 文寛,林原 靖男

本研究室では,従来からRoboCup用のサッカーヒューマノイドロボットの研究・開発を行なってきた.RoboCupの目標である「2050年,人型ロボットでワールドカップ・チャンピオンに勝つ」ためには様々な課題があるが,転倒時などの衝撃力による減速機の故障は,最も深刻な問題の一つである.ヒューマノイドロボット用によく使用されている減速機としては,平行軸歯車減速機,波動歯車減速機,遊星歯車減速機などがある.これらの減速機は一般的に衝撃力に弱く,転倒時には折損や脱調が発生しやすい.これに対して,偏心揺動型減速機は噛み合い率が高いため,衝撃力による破損が生じにくいという特長を持つ.
本研究では,減速機の故障を防ぐために,衝撃力を加えても破損しにくい偏心揺動型減速機に対して,さらに衝撃吸収機構を追加した機構を提案している.本論文では,提案する衝撃吸収機構を内蔵した偏心揺動型減速機と,それを各関節に採用した身長1.5m程度のヒューマノイドロボットを構築して,提案する機構の有効性に関して検証したため,それに関して述べる.


 

■ 能動的振動入力による手形状識別

東海大学・加藤 寛之,竹村 憲太郎

本論文では,直感的なインタフェースフェースの実現に向け,能動的振動入力による手形状識別手法を提案する.本手法は音響センシングの一種であり,手形状識別と同時に触覚フィードバックが可能である.我々は,手形状に依存して伝播する振動に変化が生じることから,パワースペクトルを特徴量として採用し,サポートベクタマシンを用いて手形状識別を行う.また,データ圧縮を用いることで計算コストを削減し,識別精度も向上させた.評価実験では7形状の手形状に対する識別率は約90%であり,触覚フィードバックを行った場合でも識別精度の低下はほとんど見られなかった.


 

■ 空気圧ゴム人工筋を用いた下肢振り上げ支援用パワーアシストウェアの開発

香川大学・八瀬 快人,佐々木 大輔,徳島大学・高岩 昌弘

現在,我が国は世界に類をみない超高齢社会を迎えており,高齢化に伴い発症率が増加する脳血管障害の患者数増加が懸念されている.脳血管障害の後遺症として片麻痺が挙げられ,患者のQOLを著しく低下させる原因となる.後遺症を軽減する方法として回復期の早期リハビリテーションが重要であるが,患者にとって容易ではなく負担も大きい.そこで,本研究では歩行リハビリテーション軽労化に着目した衣服状の動作支援装置の開発を行った.開発した装置はMcKibben型人工筋と体幹,下腿の2つのサポーターで構成されており,軽量かつ柔軟な装置となっている.また簡易的な下肢振り上げにおける制御手法を提案することでシステムの簡便化を行った.開発した装置の支援性能を評価するために,マネキンを用いた動作確認と筋電計を用いた装着実験による支援効果の確認を行った.結果として簡便な制御方法であるものの,想定振り上げ角度以上でマネキンを動作させることができた.装着実験では前半は装着者が装置の歩行リズムに慣れておらず支援効果が確認できなかったが,装置の使用に慣れてきた後半においては支援効果の確認ができた.以上の結果より本装置を使用して歩行動作の軽労化を行えることが確認できた.


 

■ 空気圧駆動ディスクブレーキ機構を用いた肩部姿勢保持用パワーアシストロボットの開発

香川大学・竹村 洸,佐々木 大輔,ナブテスコ・横山 和也,菊谷 功

現在日本では高齢化が進行しており,作業の負担を軽減し労働力の減少を補う支援装置の実現が求められている.このような状況において,本研究では造船業の現場における溶接作業に着目する.溶接作業では作業者は金属製の溶接トーチを把持し,肩を大きく屈曲させた状態を長時間保つといった,身体に負担がかかりやすい環境で作業を行う必要がある.このことから,溶接作業においては肩の屈曲保持を支援し,負担を軽減する支援装置の開発が必要である.本研究では,肩の屈曲保持の支援が可能な装置の実現を目指す.開発する装置は,肩屈曲・伸展軸用の回転関節と多節リンク機構を組み合わせ,簡便な機構ながら肩周辺の複雑な動作を行うことが可能な外骨格を用いる.また,肩の屈曲保持には空気圧ゴム人工筋により駆動するディスクブレーキ機構を用いることで,非制動時における屈曲・伸展方向への動作の抵抗が少なく,装着者が任意の位置で姿勢を保持できるという特徴がある.本稿では,開発した支援装置の構造と動作原理について述べる.次に,構築したディスクブレーキ解析モデルの妥当性と装置のトルク特性について述べる.最後に,積分筋電位を用い装置の支援効果を確認,装置の有用性について述べる.


 

■ ダンパを有するPZT精密位置決め装置の分数次数伝達関数によるモデル化と制御

秋田大学・長縄 明大,島田 卓弥,
秋田県産業技術センター・櫻田 陽,森 英季,荒川 亮,伊藤 亮,
小林無線工業・江藤 真人

近年,積層型圧電素子(PZT)と変位拡大機構を組み合わせた精密位置決め装置が,様々な分野で用いられている.これまで多くの位置決め装置が開発されてきたが,これらの目的は変位振幅を増大させることであった.著者らは,PZTとテコ機構を組み合わせた精密位置決め装置を研究開発してきた.他の装置と比較すると,著者らの装置では,高い共振周波数を有するため,高速な位置決めが可能であるが,ヒンジ構造の弾性変形を利用しているため,共振ピークが非常に高くなった.このため,変位拡大機構に粘弾性材(VEM)と拘束板からなるダンパを貼り付けた.その結果,共振ピークは低くなったが,ゲイン特性が低周波域で数デシベル低減する現象が見られ,先行研究における詳細な解析の結果,オーバーシュートを引き起こす要因となっていた.さらに,高次の位相遅れ要素によってゲインの低減部を含むモデル化を提案したが,整数次数の伝達関数ではゲイン特性の傾きが急峻でモデル化誤差が大きかった.本研究では,分数次数の伝達関数を用いてゲインの低減部のモデル化を行い,これを制御系設計に反映させる方法を提案し,実験結果では過渡特性を改善できることを示す.


 

■ 農作物根域における水分分布の観察手法の開発と分析-湿潤領域の制御による節水栽培の実証的な検証-

東京農工大学・李 奇辰,杉原 敏昭,小平 正和,澁澤 栄

本研究では,農作物生産における新たな節水栽培技術の確立を目指し,栽培作物の根域のみに生育に必要な最小限の水分が存在するような栽培手法を試行し,栽培中の土壌の状態,農作物の生長を継続的に観察することを行った.本論文では,根域のみにて水分を保持するような節水栽培の基本的な考え方や方法論,実際に農作物を栽培した際の土壌内部における水分状態と農作物の生長の度合いの観察手法と,その観察を通じて得られた結果と知見について報告を行う.


 

■ ロボットの横断歩道横断のための深層学習を用いた歩行者用信号機の認識

筑波大学・重松 康祐,小西 裕一,満留 諒介,坪内 孝司

街中での自律移動ロボットの実験走行会として,2007年から毎年つくばチャレンジが開催されている.2016年度のつくばチャレンジでは,新たに公道で車や人の往来がある横断歩道の自律ロボットによる横断の課題が課された.ロボットが横断歩道を横断するためには,人間と同じように歩行者用の信号機を認識し,その横断の可否を判断する必要がある.本論文では,ロボットによる横断歩道横断のための深層学習を用いた歩行者用信号機の認識手法を提案した.本手法は,ロボットが横断歩道前で静止している限りロボットと信号との相対位置が変化しないことに着目し,信号の検出と色判別を組み合わせている.本稿では,計算機にCorei7クラスのCPUを用いているが,GPUを搭載する場合とそうでない場合とそうでない場合について認識時間の比較を行い,GPUを搭載しない計算機においても実時間での処理が可能であることを示した.また,信号機の種類によっては信号機の光源が高速に点滅しているものがあり,信号の認識に悪影響を及ぼすことが分かったが,処理の周期を変更することにより本手法が適用可能であることが確認できた.つくばチャレンジ2016の本走行において本手法を搭載したロボットが信号認識および横断歩道横断を達成した.


 

■ 光干渉法を利用した振動センサの原理検証と応用可能性

東京工業大学・大江 優作,木村 仁,伊能 教夫,白山工業・平山 義治,吉田 稔

本研究では,地震や火山活動といった巨大な対象物の動態のリアルタイム計測システムを実現するため,高精度な振動センサの開発を目指す.提案するセンサは,ばねと振動子から構成される.センサ全体に加速度が与えられると内部の振動子が振動し,その変位を光干渉によって検出する.センサは電力供給無しでの測定を可能とし,海底などの極限環境での長期使用が期待される.また,我々の提案する干渉法では,一部の位相を変調させたパルス光を重ね合わせている.この手法は,従来では不可能であった光の半波長以上の変位を高精度に測定できる.本稿では,センサの原理検証のための加振実験について述べる.実験ではセンサを振動台に固定し,さらに参照データとしてレーザ変位計とサーボ加速度計で振動台の変位と加速度を測定した.レーザ変位計のデータから,提案センサの出力,つまり振動子の相対変位の動的シミュレーションを行った.その結果は実験値とよく一致し,振動子変位がナノメートルオーダーで測定できていることを確認した.またセンサの実用化に向けて,センサ出力からセンサパッケージ加速度の推定を行った.その結果はサーボ加速度計による実験結果とよく一致し,提案センサをリアルタイム加速度センサとして実用化できる可能性が示された.


 

■ 空気圧アクチュエータを用いたエアオペレートバルブの開発

香川大学・井上 豊,佐々木 大輔,徳島大学・高岩 昌弘

ロボットによる減少する労働力の補完,肉体的負担の低減を行うため,近年,介護,物流,農業,建設業界等で既にパワーアシストロボットの開発・利用が始まっている.筆者らもこれまでに空気圧ソフトアクチュエータを使用した衣服上のパワーアシストロボット"パワーアシストウェア"を開発してきた.空気圧ウェアラブルロボットにおける空気圧供給システムには,バルブが必要不可欠である.しかし,市販されているバルブにおいて大流量を通過できるものはサイズ,重量ともに大きく,携帯性に優れるものは有効断面積が小さく通過流量特性に劣っている.そのため,本研究ではパワーアシストウェアに搭載することを目的に,軽量かつ大流量を通過可能なバルブを開発する.本バルブでは,チューブの屈曲に空気圧ソフトアクチュエータを使用することで,アクチュエータと同じ動力源で駆動可能なエアオペレートバルブを実現した.本稿では,空気圧ソフトアクチュエータを用いたエアオペレートバルブの構造について述べたのち,有効断面積によるバルブの評価を行う.また,パワーアシストウェアに搭載することを想定し,本バルブによる圧力制御を行いバルブの有効性を述べる.


[ショートペーパー]

■ 自己完結性を有するコンポーネント駆動型の卓上ロボット環境の構築

甲南大学・梅谷 智弘,清瀬 大貴,榊原 洋之,青木 哲,北村 達也

本稿では,小型マイクロコントローラで制御される自己完結性を有するコンポーネント駆動型の卓上移動ロボットシステムを提案する.
近年,教育現場ではロボットを題材とした課外活動やデモンストレーションが注目されている.
ここで,デモンストレーションの場面では,多くの担当者がロボットシステムを着実に操作できることが求められる.
よって,自律移動ロボットに代表される移動を伴うシステムでRTコンポーネント環境を利用する際には,最小となる構成では,ロボットとそれを制御するコントローラ単体のみでシステムが完結する状態でRTコンポーネント群が動作することになる.
このとき,RTミドルウェアの拡張性の高さと柔軟性を生かすために,RTコンポーネント群だけでなく,RTコンポーネント群の運用を含めたロボットシステムの設計が求められる.本研究で提起する枠組みは,ロボットシステム単体でRTシステムを実行,停止させる枠組みを,入手が容易かつ小型で拡張性の高いシステムで実現する.
プロトタイプの構築と実装例によりシステムの可能性を示す.

 


[論 文]

■ サーボ系の機械振動抑制FIRフィルタの自動調整

エムテック・長野 鉄明

本論文は,産業用機械をサーボアンプで制御する際に発生する高域振動を抑制するための適応フィルタを用いた振動抑制FIRフィルタの自動調整方式に関する.すなわち,速度指令に対し所定応答を示す参照信号にモータ速度の振動成分を加算した信号を適応FIRフィルタの入力とし,その出力が参照信号に近づくようにNLMSアルゴリズムによってフィルタ係数を逐次調整する.次いで,そのフィルタ係数を,速度制御器の後段に置いた振動抑制FIRフィルタに逐次設定することで振動抑制FIRフィルタの自動調整を行うものである.これにより従来筆者らが紹介した自動調整方式の課題が改善できることをシミュレーションおよび実験で確認した.特に実際の産業機械の振動特性を模擬した実験装置を用いて,二つの機械共振を同時に抑制できること,位相余裕の改善による振動低減を含め効果を確認した.また,FIRフィルタの振動抑制作用としてのノッチ特性と位相進み特性についてタップ数,サンプリング時間,有効に作用する周波数範囲の関係を式で示した.以上から,本論文における改善提案は,サーボアンプの調整の容易化と調整時間の短縮に有用と考える.


 

■ パラメータ変動に対してロバストなLQ最適制御の枠組みの提案

京都大学・藤本 健治,大倉 裕

本論文ではパラメータ変動に対してロバストなLQ最適制御の枠組みを提案する.パラメータの微小変動に対する状態変数の変分の挙動を考え,ノミナルな状態変数とその変分の挙動を表す変数を合わせて構成される拡大系を導き,パラメータ変動によって引き起こされるシステムの振る舞いを評価する.安定性や可制御性解析などを行うことで,パラメータ変動による制御性能の劣化を抑制できるかどうかの判断が可能である.数値例によって提案したLQ最適制御の効果と可制御性解析による恩恵を確認する.


 

■ 任意信号に対して速度・加速度を制約する信号制限フィルタの設計

熊本大学・岡島 寛,中林 佑多,松永 信智

目標値追従制御や位置決め制御では,制御対象に対して時変の参照信号を印加する制御構造が広く用いられている.このとき,FA 分野では,ロボットに過度な負荷がかからないよう,印加する入力指令値の速度を制限するために信号の形状を台形波にする場合がある.また,乗り心地向上の目的のために加速度や躍度に制限を加える場合ある.仮に,あらかじめ信号パターンが定められている場合は所望の制限を満たすように信号を事前設計することが可能であるが,人が操作を行う場合や,様々なフィードバック信号に基づいて制御器が制御指令値を決定する場合には,あらかじめ制限を満たすように信号を設計することは不可能である.例えば,自動車のアクセル・ブレーキ操作においては,ドライバーによる操作信号の時間的な推移は事前に知り得ない.そこで本論文では,リアルタイムで信号の速度・加速度を制約するような信号制限フィルタを提案する.提案する信号制限フィルタは,入力信号が制限を満たす場合には,その信号をそのまま出力し,満たさない場合には制限を満たす信号に加工した上で元の印加した入力信号に近い信号を生成する機能を有する.速度・加速度制限フィルタの具体的な実装を行い,数値シミュレーションによってその有効性を検証する.