論文集抄録
〈Vol.55 No.1(2019年1月)〉

タイトル一覧
[特集 第18回システムインテグレーション部門講演会特集号]

[論 文]

[論 文]


[論 文]

■ 短期的なふれあいにおけるロボット介在活動とぬいぐるみ介在活動のストレス緩和効果の比較

名古屋工業大学・林 里奈,加藤 昇平

メンタルヘルス対策の1つとして注目されているものの,その実施に際して課題を多く抱えている動物介在活動の補完活動であるロボット介在活動とぬいぐるみ介在活動のどちらがより有効な活動であるか提示する一環として,比較的短期的なふれあいにおけるストレス緩和効果を比較検証した.その結果,ロボット介在活動のほうが,得られる心理的ストレス緩和効果,特に緊張と抑鬱,混乱の緩和,活気の向上効果が有意に高いことを確認した.一方で,生理的ストレス緩和効果は有意な差は確認できなかった.心理的ストレス緩和効果と生理的ストレス緩和効果の結果が異なる要因として,柔らかさにより生じる相互作用が,反応がない物足りなさというネガティブな感情に起因するストレス緩和効果の低下を抑制した可能性が考えられる.


 

■ 作業空間での大域的指数安定な非線形外乱オブザーバ

豊田工業高等専門学校・上木 諭,岐阜大学・毛利 哲也,川﨑 晴久

本論文は,加速度信号を用いない,作業空間での推定値を出力する非線形外乱オブザーバの理論と本理論を用いた環境に対する位置と力のハイブリッド制御について報告する.現在,実用化されているものは剛性の高い位置制御を用いたものが多い.しかしながら,巧みな動作を実現するマニピュレータは,位置制御のみならず,力制御も必要と考えられる.力覚センサは,他のセンサと比較して壊れやすく,ノイズも多く,高価であるためコストが問題となる.
本研究では,加速度信号を用いない作業空間での推定値を出力する非線形外乱オブザーバの理論について提案する.提案する非線形外乱オブザーバはリアプノフの安定定理を用いて安定性が示される.提案する非線形外乱オブザーバを用いて,3関節3自由度のロボットによる環境に対する位置と力のハイブリッド制御により,提案手法の有効性について検証する.


 

■ 下向きカメラを有する自律走行車のための模様の劣化にロバストな自己位置修正法

岡山大学・永井 伊作,渡辺 桂吾

移動面へ垂直に向けたカメラのみをセンサとして用いて経路記憶および再生走行を行う自律走行車がある.これは,事前の教示走行において路面の画像とその座標を記憶させておき,再生走行では記憶した画像の探索により自己位置推定の誤差を修正しながら,走行車を経路に沿って精度良く制御するものである.本研究では,そうした自律走行車において,位置修正処理を路面模様の劣化や遮蔽に対してよりロバストなものとするために新たにADD相関を提案する.この相関演算は,テンプレート画像内の2つの連続する輝度データの差を求め,それを入力画像における対応する値との絶対差を求めて合計するものである.また,画像の探索は4つのグループに分けて行い,各グループの探索結果を相互チェックすることで,位置修正の品質が保証される.屋内走行実験の結果から,提案手法は比較した他の3つの相関演算よりも模様の遮蔽に対してロバストであることを確認した.また,屋外走行実験から,提案手法は筆者らがこれまでに用いてきたSAD相関より模様の劣化に対するロバスト性が高く,SADに換わる手法と評価できた.さらに,提案手法は,従来手法より処理時間の増加はあるが,走行しながら記憶画像を探索するのに十分間に合うものであった.


 

■ 形状記憶ポリマーを用いた触覚センサのロボットアームへの応用

九州工業大学・長田 拡,高嶋 一登,名城大学・向井 利春

ロボットアームなどに搭載される触覚センサには柔軟性が求められる一方,その柔軟性により空間分解能を低下させない必要があるが,一度作製して取り付けると交換は難しい.そのため,本研究では形状記憶ポリマー(SMP)を感圧素子上部の弾性体カバーに用いた触覚センサを開発した.SMPはガラス転移温度(Tg)を境にTg以下では弾性率が高く,Tg以上では弾性率が低い.そのため,開発したセンサはSMPの温度によって柔軟性や空間分解能の変更が可能となる.本研究では,4×4個の感圧素子を20 mmピッチで配置してシリコンゴムに埋め込んだ力検出シートの上に,電熱線を埋め込んだSMPを含むシートを貼り付けた構造を持つ試作品を作製した.試作品を用いた実験により,温度によって触覚センサの柔軟性や力の分布を変更できることを確認した.また,Tg以上のほうが,センサ上部に搭載した対象物に対する素子出力が大きく,対象物の形状も鮮明に識別できた.さらに,触覚センサをロボットアームに搭載し,加圧中心座標を推定することにより,対象物をセンサの中心位置に移動させ保持する制御を行った.Tg以上ではSMPが変形するため,安定して保持するまでに時間がかかったが,Tg以上,以下共に保持制御ができた.


 

■ モデルレス把持パラメータ決定のための3次元プリミティブ近似手法

 中京大学・鳥居 拓耶,橋本 学

本論文では,物体やロボットハンドに関するCAD等の形状モデルを使用することなく,未知の把持対象物に対するロボット把持パラメータを自動決定することを目的として,対象物を立体プリミティブ形状で近似する手法を提案する.提案手法では,まず3D-DNNを用いて,未知物体を構成する「3D面」の種別を推定し,さらにそれをもとにして3種の立体プリミティブカテゴリ(“直方体”,“円柱”,“球”)を認識する.その後,立体プリミティブごとに設定された把持ルールを対象物に適用し,把持のためのロボットハンドのアプローチ位置,方向,角度を決定する.評価実験の結果,提案手法の立体プリミティブの近似成功率が94.7%であり,従来の3D ShapeNets法(End-To-End型DNN法)より6.7%向上した.また,Gazebo を用いた把持シミュレーション実験により,提案手法の把持成功率が85.6%であり,従来のGPD法(DNN利用)より17.8%向上したことを確認した.


 

3D Faster R-CNNとレーザスキャンとの組み合わせによる特定物体の頑健な距離推定

和歌山大学・八谷 大岳,射手矢 和真,中村 恭之

近年画像からの物体検出とレーザスキャナの距離測定とを組み合わせて物体の距離を推定する方法が多く提案されている.従来の組み合わせ方法では,画像から検出した物体枠の範囲内のスキャン点群から基礎的な統計量を用いて距離を推定する方法が主流となっている.しかし,これらの方法では,対象物体内の隙間や物体手前の遮蔽物の影響によりスキャン点群に外れ値が生じ,距離推定の精度が低下する課題があった.
そこで,本論文では3D Faster R-CNNを用いて画像から物体の距離を粗く推定し,スキャン点群にこの距離に基づく信頼度を設定する事により外れ値の影響を緩和する方法Belief Weighted Max Cluster Average Detection (BWMCAD)を提案する.そして,実データを用いた従来法との比較実験を通して提案法の有効性を示す.


[論 文]

■ Timekeeper制御を用いた接地点追従式6脚移動ロボットの適応歩行

 名古屋大学・村田 勇樹,稲垣 伸吉,鈴木 達也

本稿では6脚ロボットの接地点追従法についての手法を提案する.先行研究では形式検証を用いて各脚の制御モードにおける適切な滞在可能時間を数学的に導出した.そして,この滞在可能時間を歩行に適切な脚の接地可能領域に写像することで,あらゆる環境での歩行を維持しようとした.しかし,この方法では脚を地面に引っ掛け,動作が遅れるような状況で,滞在時間が滞在可能時間の範囲を満たせない場合がある.
そこで,本稿ではそれぞれの制御モードの滞在時間を望みの範囲に収めるTimekeeper制御を提案する.本稿では,まず6脚ロボットの歩行制御法「接地点追従法」について説明する.次にTimekeeper制御を説明し,さらに姿勢制御と接地点の決定方法を説明する.最後に物理シミュレーションによって本手法によりロボットの歩行性能が向上することを確認する.


 

■ 航空機点検のための負圧吸着型進行波壁面移動装置の開発と走行実験

中央大学・萩原 大輝,只見 侃朗,天川 貴文,
東京電機大学/中央大学・山田 泰之,中央大学・中村 太郎

航空機表面点検を代表する人間が行う高所作業は,ロボットによる代行が期待されている.著者らはかたつむりの這行運動を模した進行波型壁面移動装置を開発してきた.この装置は複数の吸着部で構成され,ユニット間の伸縮を伝播させることで進行する.このとき,移動ユニットは壁面を移動し,固定ユニットは壁面に固定され,各部は摩擦力を切り替える.これにより,ロボットは広い接地面積を持ち,高い吸着力と安定した走行が可能である.さらに各ユニットはユニバーサルジョイントで接続されているため,曲面走行も可能である.本論文では負圧吸着型進行波壁面移動装置を開発する.まず,高所作業の一例である航空機表面を調査し,ロボットの走行に非磁性体面の吸着や曲壁面,隙間および段差上の移動が必要なことを示す.また負圧吸着型進行波壁面移動装置を提案し,そのロボット任意の角度の壁面吸着に必要な吸着力を求める.提案したロボットの単体ユニットの特性を評価する.さらに,ロボットの走行方法を複数提案して,それぞれの牽引力と走行速度の関係を示す.そして,航空機表面を模した曲壁面など複数の壁面で走行実験をして,それぞれの面に適した走行方法を示す.


 

■ RISEを用いた外乱の抑制および衝突回避に対応するマルチQuad-rotorシステムのフォーメーション制御

慶應義塾大学・小谷 健人,滑川 徹

近年,Quad-rotorに代表されるドローンに関するニュースが注目を集めており,各国において民生用途に多用途かつ急速に普及が進んでいる.
本論文の目的は,より高度な用途への活用のために複数のマルチQuad-rotorシステムのフォーメーション飛行の実現を目指し,風などの外乱に強く,Quad-rotor同士の衝突を回避するフォーメーションアルゴリズムを考案し,設計時に必要なゲインの安定条件を数学的に導出することである.
本研究は,Quad-rotorを線形化したモデルを用いて,グラフ理論と合意アルゴリズムを用いたマルチエージェントシステムのフォーメーション手法を基本としている.外乱抑制手法として,スライディングモードの一種であるRISE(Robust Integral ofthe Sign of Error)を用いて,非線形かつ時変外乱を推定する手法を提案した.衝突回避手法には,各Quad-rotorに安全領域を設定し,ポテンシャル法を適用した.
これらを組み合わせた制御手法を設計し,収束性の解析として主にリアプノフの安定定理を用いて,外乱推定と衝突回避を同時に達成できる安定条件を導出し,有効性をシミュレーションにより確認した.


 

■ 脳卒中片麻痺患者に対する把握力調整能力評価トレーニングデバイスの有用性検証

名古屋工業大学・森田 良文,安藤 晃平,野村 正和,
偕行会リハビリテーション病院・戸嶋 和也,田丸 司

把握力調整能力(AGF; Adjustability for Grasping Force)とは,手指の筋収縮を適切にコントロールして把握力を調整する能力であり,適切な把握力で物体をつかむ際に不可欠な能力である.手指が不自由な人は把握力を適切に調整することが出来ないので,余分な把握力で物体を把持するか,あるいは把持力の不足により物体を把握することが出来ない.筆者らの先行研究において,AGFのための評価トレーニングデバイスiWakkaを開発した.
本論文では、脳卒片麻痺患者10名にCI+i療法を適用することにより,iWakkaによるトレーニングと評価の両方の有用性を示した.全ての患者のAGFは,CI+i療法のトレーニングの後に改善された.CI+i療法とは,脳卒中片麻痺患者の麻痺側上肢の運動機能に対する治療法であるCI(Constraint Induced Movement)療法に,新たにiWakkaによるトレーニングを追加した療法であり,第4および第5著者によって開発された.