論文集抄録
〈Vol.55 No.11(2019年11月)〉

タイトル一覧
[第24回ロボティクスシンポジア特集号]

[論 文]

[論 文]


[論 文]

■ コンフィギュレーションの時変・時不変性と隣接性を考慮した時系列逆運動学最適化計算によるロボット運動生成

東京大学・室岡 雅樹,垣内 洋平,岡田 慧,稲葉 雅幸

本論文では,時系列逆運動学によって幾何制約を満たすロボットの運動を生成する手法を提案する.本手法では,時系列の関節変位からなる時変コンフィギュレーションと運動中に一定である時不変コンフィギュレーションが結合された軌道コンフィギュレーションを設計対象とする.所望の運動を離散時刻の拘束列として表現し,運動生成問題を拘束誤差を最小化する最適化問題と見なすことで,勾配を利用した逐次二次計画法を適用する.運動中に一定である時不変コンフィギュレーションを導入することで,運動生成の中でロボットの把持位置や立ち位置が自動的に決定される.また,隣接する時間ステップ間の関節変位を最小化する隣接コンフィギュレーション正則化により,転がり接触やなぞり動作など滑らかさの要求される動作が生成可能となる.提案する時系列逆運動学を,二本指ハンド,単腕/双腕マニピュレータ,モバイルマニピュレータ,ヒューマノイドの運動生成に適用し,多様な動作が生成されることを示す.


 

■ ライトタッチ現象の再現を目指した Sensory Reweightingに基づくヒト立位制御モデル

横浜国立大学・坂田 茉実,島 圭介,県立広島大学・島谷 康司

1994年にJekaらによって,人間が壁やカーテンなどに軽い力(1N 以下) で触れることで立位時における姿勢動揺が減少するLight Touch Contact(LTC)現象が報告されている.これまでに歩行時に関する有効性や高齢者に対する有効性など様々な検討がなされているが,LTC現象がヒトの姿勢制御戦略にどのように寄与するかは明らかにされていない.本論文では, LTC現象がヒトの姿勢制御戦略に寄与する原理のひとつである3感覚系の再重み付け(Sensory Reweighting)に及ぼす影響の再現を目指した新しいヒト立位制御モデルを提案する.提案モデルではLTC現象などによって生じる感覚重みの時系列変化を表現可能であり,ヒトの立位時の身体動揺を表現できる.提案モデルを用いたシミュレーションにより,先行研究において提案されている感覚重みが一定値の制御モデルと比較してヒトの重心動揺をより良い精度で再現することが可能であり,Sensory Reweighting を立位姿勢制御に導入できる可能性を示した.


 

■ アクティブコルセットの動的締付力が関節剛性と腰部補助効果に及ぼす影響

北海道大学・吉田 道拓,田中 孝之,金子 勇斗,
苫小牧工業高等専門学校・土谷 圭央

本研究の目的は,アクティブコルセットによる動的腰部締付力による腰部負担の軽減と関節剛性への影響を実験的に検証することである.
アクティブコルセットの締付けは運動中の腰部屈曲を股関節により代替させることで腰部の負担を軽減する.
論文中では,30名の被験者に対して前屈位から立位へと上体を伸展する運動の計測を行い,負担軽減効果が認められた21名の被験者について腰部の関節剛性を同定した.21名の被験者の内,15名の被験者では締付けによる腰部負担の軽減に伴って腰椎関節の関節剛性が股関節の剛性に対してより高い状態に変化する効果が認められた.これら15名の被験者はアクティブコルセットに期待される効果を得ることを確認した.他6名の被験者では,腰部への締付けによる筋骨格への力学的な作用のみならず,体性感覚情報に変化が生じたものと考えられた.今後の方針として,人体筋骨格と感覚機能への作用それぞれについて調べていきたい.


 

■ 柔軟なブラシホイールを用いた車輪型管内移動ロボットの走行特性

中央大学・只見 侃朗,伊藤 文臣,鎌田 将司,河口 貴彦,
東京電機大学・山田 康之,中央大学・中村 太郎

配管設備は水道管やガス管,換気ダクトなど,プラントや工場から一般家庭まであらゆる場面で存在している.事故や故障を防ぐために,これらの配管設備の点検が必要である.しかし,多くの配管は非常に細く,作業員が直接検査することは困難である.本研究では,シンプルでコンパクトな駆動機構を持ち,大きな移動スペースを必要としないブラシホイール型ロボットを提案する.配管内を移動するとき,このブラシホイール型ロボットはブラシホイールの弾性力を利用することで,管内壁を捉える.さらに,ブラシホイールを交換することによって弾性力を調整し,ロボットは垂直管や湾曲管を走行できる. 本稿では,ロボットの構造,駆動機構,動作原理,試作評価,3種類の配管での走行実験について報告する.


 

■ 非固定障害物が存在する斜面におけるクローラ型移動ロボットの走行性能に関する研究-グローサが非固定円柱障害物の乗越え性能に与える影響の評価-

 東北大学・谷島 諒丞,永谷 圭司,平田 泰久

クローラ型移動ロボットが火山環境を走行する際,障害物の乗越えが必要となる.火山環境の障害物は,ロボットの力では動かない段差等の“固定障害物”とロボットの力で動く可能性がある浮き石等の“非固定障害物”に分けられるが,後者の障害物の乗越えは,滑落や転倒が生じる危険性が高い.しかしながら,非固定障害物の乗越えに関する研究は少ない.一方,クローラベルト上に取り付けられたグローサが,固定障害物の乗越えに有効であることはよく知られている.しかし,このグローサが,非固定障害物の乗越え性能向上に対しても有効かは,明らかになっていない.そこで,本研究では,平板状グローサが非固定円柱障害物の乗越え性能に与える影響を評価することを目的とし,グローサの高さとグローサ間の距離を変えて障害物乗越え実験を実施した.その結果,グローサには非固定障害物に対する乗越え性能を向上させる効果があり,グローサの高さが障害物半径より高く,グローサ間の距離が障害物サイズ以上の場合に乗越え性能が高くなることが分かった.また,乗越え性能を予測するための滑落条件を導出し,実験結果と比較したところ,この滑落条件は,グローサの高さが障害物半径以下の場合には妥当であることが分かった.


 

類似タスクにおける経験に基づいた探索アルゴリズム-人工データを用いた探索性能評価-

東京大学・唐澤 宏之,福井 類,割澤 伸一

本研究は,関数近似・最適化といった探索課題に対して転移学習の考え方を導入し,少ない手数で効果的な探索を達成することを目標とする.
目標達成のため,探索課題における効率的な探索手順に関する知識を既知の課題から抽出し,類似の探索課題に用いるという手法であるSPTアルゴリズムを提案した.
実験から,ターゲットタスクが転移元のソースタスクから近いほど探索手順の転移(SPT)の効果が高くなること,及び,ソースドメインとターゲットドメインとの間の差が小さい場合において探索手順の転移(SPT)がベイズ最適化(BOA)を用いた既存手法に比べて高い性能を示すことが明らかになった.
また,SPTアルゴリズムの応用例として,Domain randomizationの考え方を適用し,人間の持つ経験則的な物理モデルのあいまいさを許容する探索手順抽出手法を提案した.


 

■ 深層学習に基づくビジュアルサーボによる物体の位置決め

 東北大学・徳田 冬樹,荒井 翔悟,小菅 一弘

ビジュアルサーボとはカメラから取得した画像によりロボットを制御する方法のことであり,リアルタイムに画像から抽出した特徴をもとにロボットを目標の位置姿勢まで移動させる手法である.既存のビジュアルサーボにおいては基本的に予め画像特徴量を設計する必要があり,設計した画像特徴量により位置決め精度が大きく左右される.本研究においては畳み込みニューラルネットワーク(CNN)により画像特徴量を自動的に抽出し,マニピュレータの関節速度指令値を計算することで位置決めを行うビジュアルサーボに着目する.本稿で提案する手法によりeye-to-handの場合において,マニピュレータの手先に取り付けられた並行グリッパにより把持されたテクスチャレスな物体を高精度に位置決めすることが可能となる.また,提案するCNNの訓練データセットにより目標画像を取得した際と位置決めを行う際で位置決め対象物体の把持位置が異なる場合においても位置決めが可能である.実機実験により位置決め対象物体をトレイに組み付け可能であることを示したほか,既存のIBVSと提案手法において位置決め精度の比較実験を行い,提案手法の有効性を示した.


 

■ 簡易型電動駆動ユニットのためのセンサレス力推定およびスロープにおけるパワーアシスト

前橋工科大学・李 沛譲,朱 赤

近年,日本では少子高齢化が進み,介護負担の増加が問題となっている.本研究では介護負担の軽減を目指して手動車いすに後付けできる安価で使いやすい電動駆動ユニットを開発し,力センサレスで介護者をアシストできる手法を提案した.水平面上の走行実験により介護者の負荷を慣性負荷と摩擦などの定常負荷に分類し,スロープ上の走行はモデルの分析より水平面からスロープに遷移する区間でハンドル速度と車輪速度に速度差があることを明らかにした.このような定常負荷と慣性負荷はアドミッタンス制御でアシストし,さらに遷移区間では速度差を補正するアシスト法を提案した.また,アシストのために従来使用されていた高価な力覚センサの代わりに,モータの外乱オブザーバを用いて力を推定する手法を導入した.そして,実験によりセンサレスで推定した力を評価し,アシスト手法の効果を検証した.結果では推定した力は実測値との相関係数が0.9以上の結果が得られ,提案アシスト手法はスロープでの重力負荷,慣性負荷,定常負荷の軽減効果が確認された.


 

■ 顕微鏡視野における輪郭ボケ幅による奥行距離推定モデルとその安定性評価

宇都宮大学・阿部 有貴,尾崎 功一

光学顕微鏡とマイクロマニピュレータの発展に伴い,マイクロメートルオーダの微小物体に対する作業が様々な分野で重要となっている.しかし,顕微鏡視野での3次元計測が問題となる.そこで我々はこれまで輪郭ボケ幅を用いて高精度な奥行距離推定手法を開発してきた.本手法は,距離計測の際,レンズパラメータを用いず,単一の顕微画像から奥行距離を高精度に推定できる手法である.さらに,本手法は,輪郭ボケ幅と奥行距離を観測値とし,最小2乗法を用いて事前に奥行距離推定式を作成し,単一の顕微画像から奥行距離推定を行うため,一度のレンズやマニピュレータの移動で位置合わせを行うことができる手法である.しかし,奥行距離推定には最小二乗法を用いており,観測値のサンプル数不足の影響で稀に推定式導出に失敗する.そこで,ロバスト推定とマハラノビス距離を用いた輪郭ボケ幅奥行距離推定法を提案する.本稿では育種分野で重要な微小物体である花粉に対して実験を行った.その結果,奥行距離推定モデルの高い精度での導出が安定的に行えることを評価し,本手法の有用性を示した.


 

■ 「触る」機能と「触られ」再現性の両立を目指した人体模倣ハンドの開発

東京農工大学・上野 安澄,三浦 祐太,水内 郁夫

人間同士の身体接触は幸福感を生むという知見があり,人間同士の身体接触をロボットが再現できればロボットによるストレスの効果的な軽減も期待されます.そのような接触を再現するために,「触る」機能と「触られる」時の触感再現性を両立するハンドを本稿で提案します.「触る」機能としては最低限貝殻つなぎができる機構を持ち,「触られる」時に人らしさを表現する特徴的な要素として「柔らかさ」等を挙げ,これらを両立するハンドを設計・試作しました.試作したハンドを実際に駆動して人間と貝殻つなぎができることを確認し,被験者実験によりハンドの触感の人らしさを評価しました.


 

■ 幾何地図上での観測物体の有無を考慮した自己位置推定

名古屋大学・赤井 直紀,モラレス ルイス 洋一,平山 高嗣,村瀬 洋

本研究では,環境変化に対して頑健に自己位置推定が実現できる手法を確立することを目的としている.この目的達成のために,センサにより観測されたた物体が,与えられた幾何地図上に存在するかどうかを考慮しながら自己位置推定を行う手法を提案する.これにより,環境が変化した場合においても,地図に存在する物体から得られた観測のみを用いて,頑健に自己位置を推定できる.この様な機能の実現のために本論文では,自己位置とセンサ観測のクラスを同時推定する問題を定式化するためのグラフィカルモデルを提案する.そしてこのグラフィカルモデルを展開することで,センサ観測のクラスを条件として有する観測モデルである「条件付き観測モデル」が導出されることを示す.本論文では,2次元のLiDARを用いた自己位置推定問題に焦点を当て,Rao-Blackwellized particle filterを用いた提案法の実装例を示している.実験ではシミュレーションを用い,1)条件付き観測モデルを用いて幾何地図上での観測物体の有無を考慮した自己位置推定が実現できること,2)ビームモデルや尤度場モデルなどの従来の観測モデルを用いた場合と比較し,計算・メモリコストの増大を招くことなく,自己位置推定のロバスト性を向上させることができることを示した.


 

■ GNSSドップラを活用した都市部におけるレーンレベル位置推定の実現

名城大学・荒川 拓哉,水谷 俊介,高野瀬 碧輝,滝川 叶夢,目黒 淳一

自動車運転支援システム,および,自動運転車両では,高精度な車両の位置が求められる.そのため,GNSS(GlobalNavigation Satellite System)が活用されることが多い.しかし,都市部などの遮蔽物が多い空間では,マルチパスの影響が大きく,GNSS単独測位では数10~100mの測位誤差が発生することもある.そのため,常に高精度な位置推定をすることは困難な問題がある.そこで,GNSSに慣性センサ(IMU:Inertial Measurement Unit)を組み合わせることで,位置精度を向上させる手法が提案されている.しかし,マルチパスによる誤差は環境に依存するため,モデル化をすることが難しい.そのため,Kalman Filterなどのガウス分布を前提とするフィルタでは,誤差を低減することが困難である.そこで本研究では,GNSSドップラにより推定した車両軌跡の精度が高いことを利用し,低コストセンサを活用しつつ,衛星の環境が劣化する都市部においても,車両運動をロバストに推定し,さらにGNSSの測位結果を選定することで,レーンレベル(一般的な車線幅3mに対して,その半分の1.5mの精度)の位置推定の実現を目指す.


[論 文]

■ Explicit Reference Governor を用いた三次元空間における拘束を考慮した制御

名古屋工業大学・仲野 聡史,The University of Michigan・Tam W.NGUYEN,
Universite libre de Bruxelles・ Emanuele GARONE,東京工業大学・伊吹 竜也,三平 満司

本論文では,Explicit Rerefence Governor (ERG) を用いた 3 次元空間における拘束を考慮した制御を考察する.ERG は,拘束を満たすために不変集合に基づき参照入力を整形する制御機構のことである.本論文では,力・トルク入力の拘束および位置・姿勢の拘束を考慮する.本論文の制御目的は,いかなる時刻においても拘束が満たされることを保証しながら剛体の位置・姿勢を所望の値に制御することである.この制御目的を達成するため,まず拘束を無視したシステムに対する安定化制御則を導入する.その後,安定化されたシステムに対して拘束を扱うために ERG を付加する.本論文で提案する制御構造は,すべて特殊ユークリッド群 SE(3) 上の元をパラメトライズすることなく直接利用している.最後に,提案手法の有効性を示すため数値シミュレーションを行う.


 

■ Time-of-flight測距センサアレイと機械学習を用いた運転手の姿勢識別

慶應義塾大学・山賀 瑛斗,浅野 直生,杉浦 裕太,杉本 麻樹

本研究では測距センサのひとつであるTime of Flight(ToF)センサを車輌の運転席周辺に複数配置することで運転手の姿勢を識別する手法を提案する.姿勢毎に距離の分布が特徴的となる様に複数のToFセンサを配置することで,全体のデータ量が小さく,計算負荷が小さい識別システムを構築する.運転手の運転時の状態をシステムが識別する従来の手法としては,カメラの画像を用いて識別する手法や,深度カメラの深度画像を用いる手法,慣性センサを用いる手法が挙げられる.しかし,それらの手法は計算負荷やユーザの装着負荷が大きく,また,プライバシーに配慮しきれていない場合があることが課題であった.
本研究では,計測対象に合わせて配置を変更することができ,車内に組み込みやすいToFセンサの特徴に着目する.車輌に複数のToFセンサを設置して得られた低次元の距離情報に対して機械学習を用いることで運転手の姿勢を識別するシステムを構築し,その識別精度を検証した.