論文集抄録
〈Vol.57 No.1(2021年1月)〉

タイトル一覧

<第20回システムインテグレーション部門講演会特集号>
[論 文]


[論 文]

■ 屋内定位のための環境照明光の特徴分類手法CEPHEID

大阪工業大学・小林 裕之

既設照明光の多くには,その明滅パタンにおいて検出可能な個体差がある.」これは筆者らが過去の研究で明らかにした事実である.本論文はこの事実に基づいた,主として屋内での利用を想定した自己位置推定のための環境照明光の識別手法「CEPHEID(セファイド)」について論じる.本手法は大まかに次のように行われる.まず,照明光の明滅をフォトダイオードなどの光センサで計測する.そのデータを離散フーリエ変換し,1024次元程度に低次元化して特徴ベクトルとする.この特徴ベクトルを深層ニューラルネットワークを用いたモデルで分類する.こうして得られた分類結果を,事前に用意した地図上の位置と対応させることで自己位置推定が可能になる.
この手法を,スマートフォンとサーバからなるシステム(webアプリ)として構築し,実験を行った.実験はビルの1フロアにあるオープンスペースで行い,48個のLED天井照明の設置位置をクラス分類する問題とした.その結果,正解率は97%であった.またエラーについても,その多くが隣接する地点との誤識別であった.さらに3週間ほど時間を空けて同じ学習済みモデルを用いて再実験を行った結果,正解率は97%で,エラーの傾向も類似したものとなった.


 

■ 3軸加速度およびボディ内圧計測によるダメージ計測機能を有したレスキューダミーの開発

岡山県立大学・山内 仁,福田 忠生,小枝 正直,太田 俊介

レスキューロボットコンテスト(レスコン)では,競技評価  のために「ダミヤン」と呼ばれるレスキューダミーが用いら  れている.レスキューチームは,ダミヤンをやさしくかつ迅  速に救助することが求められる.また,提示されている標識を識別することも求められ,これらが評価項目となっている.  そのためダミヤンには,やさしさの評価指標として「首の屈曲」「体への圧力」「姿勢」「衝撃」を数値化するための各種センサが必要である.また,識別すべき標識の提示として,「色の現示」「音の発声」「二次元コードの提示」の各機能  の実装が必要である.これらを実現するため,センシング,  通信,およびシステム全体の制御を行う基幹システムとして,マイクロプロセッサ「BlueNinja」を搭載した新ダミヤンを開発した.また,把持力の計測としてボディにかかる圧力計測のための気密ボディを製作した.このボディは3Dプリンターによりフレキシブルフィラメントを用いて成形され,表面に溶剤でコーティングして気密性を確保している.この新しいダミヤンを採用することで,安定稼働と管理業務の削減を実現した.本論文では,この新ダミヤンのコンセプト,ポリシー,開発の経緯などの詳細について述べる.


 

■ 動作矯正への応用を目的とした空圧駆動式可変摩擦ダンパーの開発

香川大学・神村 知皓,佐々木 大輔,八瀬 快人,門脇 惇

近年,センサのウエアラブル化により,たとえばスポーツ分野などにおいて運動を 阻害することなく容易に生体情報を計測することが可能になった.しかし,これ らの情報を訓練者にフィードバックする方法は,口頭指導や映像呈示など間接的 な方法が一般的である.そこで本研究は,直接身体に装着しセンサから取得した 情報に基づき直接的な動作矯正が可能な装置の開発を目標とした.開発する装置 は,外骨格を使用せず人体に直接装着し,想定する動作と差異が生じた場合にの み装着者が発生した運動エネルギーを装置により散逸することで動作矯正を行う ことを想定している.上記を実現する機械要素としては,粘性摩擦を利用したオ イルダンパーが考えられるが,状態に応じて抵抗力の有無を切り換える機構を持 つオイルダンパーを身体に装着することはスペースおよび重量の面で現実的では ない.そこで,建物や橋梁などで地震により生じる運動エネルギーを摩擦により 散逸し制震する摩擦ダンパーの原理に着目し,空気圧ゴム人工筋により運動に対 する抵抗力を調整可能な可変摩擦ダンパーを開発した.本論文では,まず開発し た可変摩擦ダンパーの構造・動作原理について述べる.その後,抵抗力の応答性 に関する実験の結果について記述する.


 

■ 失敗の深層意味情報に基づくロボットのエラーリカバリー行動計画

三菱電機・松岡  諒,京都大学・椹木 哲夫,三菱電機・前川 清石

産業用ロボットの導入が進む生産現場では,ロボットシステムの安定稼働が求められている.歩留まりの改善に向けた課題として,作業中のチョコ停からの自動リカバリーの実現が挙げられる.正常系の計画からの乖離を引き起こす事象に対処するためには,作業環境で得られる情報に基づき,ロボットがリカバリーに必要な行動を推論,実行する能力が不可欠となる.現状では,ロボットの行動計画における汎用的な修正戦略が未確立であることや,チョコ停の要因を特定しきれない場合の行動にリスクが伴うことから,人が介入しなければ作業を再開できないシステムが大半である.本研究では,ロボットの作業中に検出される失敗の意味情報に基づいてリカバリー行動計画を制御するシステムを提案する.提案システムは,ロボットの行動の状態を記述するConceptual Graphの格フレームと,行動が失敗した要因の実環境での不確実性を評価するベイジアンネットワークを備える.本稿では,ロボットの行動の類型を整理し,それらの格の属性に応じて適用可能な修正戦略を体系化する.意味情報を評価することで修正戦略が選択され,適切なリカバリー行動計画が生成されることを,複数台のロボットアームによる組立作業のシミュレーションを通して検証する.


 

■ 単眼カメラと三次元地図を用いた動的障害物の検出と三次元復元

 名城大学・敷島 惇也,田崎 豪

自動車の自動運転において重要な機能の一つである障害物検出を,三次元地図を用いて行う.地図上にある障害物の検出は容易である.しかし,地図上に存在しない動的障害物は,二次元的な計測しかできない一般的な車載カメラを用いて三次元的に検出することが困難である.この論文では,Semantic SegmentationとDepth Completionを組み合わせたMulti-Taskネットワークを用いて,単眼カメラと三次元地図の入力から高精度かつ高密度な三次元復元を提案する.Multi-Task Learningにより,三次元的な動的障害物の検出精度がSingle-Taskの既存手法と比べて,IoUは1.4 %,L1-relは0.071改善した.


 

レーザ反射強度分布の確率密度関数推定に基づく路面状態の識別法の提案

電気通信大学・木村 優太郎,
小山工業高等専門学校・井上 一道,サムアン ラホック

ロボットを自律的に動作させるに際の課題の1つに,路面状態の識別がある.たとえば,ロボットが公園などの屋外で動作する際には,芝生や水たまりを避け,平坦な舗装された道路の上を走行することが好ましい.本研究ではレーザ測域センサから得られる反射強度を用いてこれを実現する手法を提案する.提案手法では,反射強度の測定対象となる路面を極座標格子状に分割し,各格子内で反射強度の分布をカーネル密度推定を用いて表現する.この分布と予め測定した参照データにおける分布との比較を行うことで,芝生や水たまり,舗装された道路など路面状態の識別が可能であることを示す.また,この手法を用いて実環境で実験を行った結果と既存手法との比較,ならびに今後の課題を報告する.


 

■ 高齢者世帯における除雪作業の負担を軽減する自律除雪ロボットの開発

 函館工業高等専門学校・浜  克己; 中村 尚彦,鈴木 学

日本では,急速な高齢化や過疎化の影響で,自力での除雪作業が困難な高齢者世帯数が増加している.さらに,少子化によりその作業の担い手が不足している.そのため,高齢者自らが除雪作業を余儀なくされ,その作業中に重大な事故も発生している.現在,この問題の解決手段として,雪かき代行サービスの利用やロードヒーティングの施工などがある.しかし,それらは多額の費用が必要なため,決定的な解決方法にはなっていない.本研究の目的は,低コストかつ簡易的な施工で除雪が行える自律ロボットシステムの開発である.試作機による実験と実用化を想定したコスト評価を通じて,本システムの有効性が確認された.