論文集抄録
〈Vol.57 No.7(2021年7月)〉

タイトル一覧

[論 文]

[ショート・ペーパー]


[論 文]

■ FRIT法とフィードバック線形化を用いた制御器チューニング

大阪大学・加藤 匡裕,石川 将人,南 裕樹

本研究では,FRIT法に基づく制御器チューニング手法をあるクラスの非線形系へ拡張する手法について報告する.PID制御器のように調整可能なパラメータを持つ制御器のチューニングは,作業者の経験に依存し,パラメータの更新ごとに実験を繰り返し行う必要があった.これに対し,所望の閉ループ特性に近い応答を得るパラメータを,制御対象のモデルを用いることなく,一組の実験データのみを用いてチューニングすることが可能なFRIT法が提案された.ただし,FRIT法は用いる実験データの動作点における最適なパラメータを算出するため,一般の非線形な制御対象では,動作点から離れると所望の閉ループ特性を得られているとは限らない.本研究ではFRIT法をベースとして,制御対象を厳密に線形化可能な非線形システムに限定することで,広い動作領域で所望の開ループ伝達関数に近い応答を得ることが可能な手法の開発を目的とする.厳密に線形化するためには制御対象のパラメータ(ロボットの場合には,慣性などの動特性を特徴づけるパラメータ)が必要になるが,これらのパラメータと,線形フィードバックのゲインをまとめて制御器パラメータとして捉え,一組の実験データからチューニングすることが可能な手法を提案する.


 

■ FBGセンサシステムによる脈波に基づいた非侵襲血糖値計測の検証

信州大学・長谷田 祐喜, 増子 勝,藤本 圭作,児山 祥平,石澤 広明

日常時の生体情報を把握するためには,計測回数が多いほどより詳細な情報を知ることができる.血糖値測定では,計測回数を増加させるためには被験者の負担を軽減する必要があり非侵襲での計測が求められる.私たちは光ファイバー型のひずみセンサであるFiber Bragg Gratingセンサを使用して橈骨動脈のひずみを計測した.FBGセンサを橈骨動脈上の生体表面に設置するだけでひずみが計測され,被験者に針などが侵襲することは無かった.このひずみ信号は開発された可搬型FBGセンサシステムで連続的に計測された.この研究では男性7名,女性2名の合計9名の被験者で実験された.被験者7名で計測された信号波形をPLS回帰分析によって血糖値算出用検量モデルが構築された.残りの2名の被験者のデータが検量モデルに代入され,予測血糖値が算出された.血糖値予測精度は共に19mg/dlであり,EGAの結果ではすべてAまたはBゾーンにプロットされた.この2名のデータは連続的に計測されたため,血糖値の推移を示すことができた.そのため,血糖値算出用検量
モデルにデータが無い被験者の血糖値の推移を可搬型のFBGセンサシステムで連続的に計測された信号から算出することが示された.


 

H制御を用いた摩擦伝達装置のジャダー抑制

日産自動車・山藤 勝彦,橋本 真,東海大学・山本 建,電気通信大学・澤田 賢治

クラッチなどの摩擦伝達装置で発生する不安定振動として,ジャダーがよく知られている.ジャダーは自動車の乗り心地や静粛性を著しく悪化させるため,ジャダーを抑制するための解析技術・機械要素設計の研究が盛んに行われている.本論文では,平行軸トラクション変速機の変速中に発生するジャダーを制御にて抑制することを目指す.実用面を考慮し,コスト増加を最小限に抑えるためジャダー抑制用アクチュエータは変速用モータを用いる.ジャダー抑制のための制御理論はロバスト制御理論を適用する.平行軸トラクション変速機においてジャダー要因となる摩擦特性はグロススリップ域において高次多項式でしか近似できない強い非線形性を有している.本論文では,この非線形特性を周波数上の不確かさとして表現することで再現性の高い制御系設計法を提案する.提案する制御系設計法の有効性は,非線形シミュレーションと台上実験の両面から検証する.検証結果により,提案した制御系設計法によりジャダーを抑制した変速が可能であることを示す.さらに,開発現場での制御系設計指針として本研究により得られたジャダー抑制制御器の特徴を整理する.


[ショート・ペーパー]

■ LSTMを利用したトレイルラン大会参加者の通過タイム予測

阿南工業高等専門学校・岡本 浩行,イーツリーズ・ジャパン・三好 健文,船田 悟史

トレイルランは地方での過疎化や高齢化が問題となっている地域において「町おこし」のイベントとして注目されている.トレイルランは地域の山岳地域や海岸地域をコースとして利用し,それぞれの地域の特徴を活かしたコースを走るスポーツである.山岳地域や海岸地域ではコースの見通しが良くないポイントがあり,コースを外れる参加者が発生する.さらに参加者が体調不良でイベントを継続できない状態となった場合や事故などが発生した場合に緊急の対応を行う必要があるが,スタッフがいない場所でこのようなアクシデントが発生したときには検出が遅れるといった問題が発生する.そのため,安全にトレイルラン大会を運営するためには,多くのスタッフとコストが必要であり,トレイランの普及に向けた障害となっている.我々は,トレイルラン大会の運営に高いコストを要する問題を解決するために深層学習を用いてトレイルラン大会参加者の通過タイムの予測を行うことでコース外れや緊急の対応が必要な参加者を検出することを考えた.システム開発を行うにあたり,本研究ではトレイルラン大会参加者の関門通過タイム予測について,その方法の検討と正確な予測に必要となるデータ数(受信機数)を明らかにすることを目的として,研究を行った.


 

■ 画像計測高精度化のための超音波定在波による空気揺らぎの抑制-第二報:粒子画像流速測定法による観察-

 ピクシーダストテクノロジーズ・星  貴之,新川・早田  滋

半導体製造プロセスの後工程にはIC/LSIチップを回路基板の電極に接続する作業(ボンディング)があり,その位置決めは主に画像計測によってなされている.ボンディングは通常200~300°のヒーター上でIC/LSIチップ回路基板を加熱しながら実施される.外乱によって空気が揺らぐと,温められた空気が常温の空気と混ざり合い,光路上の屈折率が時間的に変動して画像計測の精度が低下する問題(陽炎)が知られている.筆者らは陽炎に対する新たな解決法として,超音波定在波を利用する方法を提案している.ヒーターの上に置かれたIC/LSIチップを直上からカメラで撮影する計測系において,その光路を挟むように超音波発信機と反射板を設置する.発信機から超音波ビームを照射し,入射波と反射波の重ね合わせによって定在波を生じさせる.この定在波によって超音波ビームを横切る光路上の空気の揺らぎが抑制され,その結果として屈折率が変化しにくくなり,画像計測の精度を向上させることができる.前報では提案手法により陽炎の影響が抑制されて画像計測の精度が向上することを実験的に確認した.本報では,超音波定在波によって空気の揺らぎが抑制される現象について理解を深めることを目的とし,定在波の中の空気の流れを観察した結果を報告する.