論文集抄録
〈Vol.57 No.9(2021年9月)〉

タイトル一覧

[論 文]

[ショート・ペーパー]


[論 文]

■ モンテカルロモデル予測制御による壁面との衝突を考慮したクアッドコプタの制御

筑波大学・加藤 幹也,伊達 央,仲谷 真太朗,大矢 晃久

本論文では障害物との衝突に対する脆弱性を低減できる,モンテカルロモデル予測制御(MCMPC)によるクアッドコプタの制御について述べる.MCMPCはモンテカルロ法によって最適制御入力を求めるモデル予測制御の一種である.また,MCMPCは順方向シミュレーションのみを行い,コスト関数の入力に対する勾配を必要としないため,障害物との衝突のような不連続な現象をモデルに含むことができる.本論文では,壁面衝突が避けられない場合において,その衝突による撃力を考慮し,クアッドコプタの位置姿勢誤差を最小化する制御手法を提案する.


 

リアルタイム/非リアルタイム混在制御ネットワークの低遅延性とセキュリティを両立させるフレームフィルタリングデバイス

日立製作所・遠藤 浩通,岩澤 寛,丸山 龍也,松本 典剛,山田 勉

産業制御システムでは今後,System of Systems化に伴い,ネットワーク上で従来の厳しい時間制約を持つ制御データと,AIやIoTなどで利用する大容量のデータが混在して扱われると想定する.Time-Sensitive Networking(TSN)はそのようなニーズに対する一つの解である.一方,System of Systems化により,サイバー攻撃が非常に大きな脅威となる懸念がある.
上記の背景に鑑み,本稿ではTSN向けのセキュリティ技術として,ルールベースのフレームフィルタリング機能を実現する「TSN対応リアルタイムファイアウォール(RT-FW for TSN)」を提案する.RT-FW for TSNでは,TSNが備えるフレーム優先度や優先フレームの割り込み送信という低遅延伝送機能と整合するルール照合・フィルタリング方式を考案した.同方式をFPGAに実装して評価した結果,フレーム優先度や割り込み送信を正しく扱えることと,フレーム長によらず最大2.12μsのほぼ定遅延でフィルタリング可能であることを確認した.


 

■ 組織内のパフォーマンスにおける紐帯の非対称性

筑波大学・稲垣 仁美,倉橋 節也

本研究の目的は,小規模な企業における,情報や知識を用いて付加価値を生み出すナレッジワーカーと呼ばれる社員を対象に,個人のパフォーマンスに影響を与える社内外ネットワークの効果について検証することである.その結果,パフォーマンスを心理的安全性という側面から考えた場合,最も高いパフォーマンスは,紐帯が非対称的であるとき,つまりチーム内や社内など比較的近い関係にあるネットワークにおいては凝集的で密につながりあっており,一方で組織外においては,重複なく効率的につながっているときに達成されやすいことが分かった.一方,知識・情報共有をパフォーマンスとした場合,橋渡し的紐帯が大きく影響を与えていた.パフォーマンスをどのような観点で捉え,社内外ネットワークのどこを見るかによって影響するつながり方が異なっており,現状の課題や目指すべきチームのあり方に応じてつながり方を考慮しパフォーマンス改善を図っていく必要があることを示した.


■ 入力と出力にむだ時間をもつ多入出力系に対するスミス補償器の一構成法とFRIT

電気通信大学・樋口 奎,金子 修

本論文では,入力と出力の両方にむだ時間をもつ多入出力系に対して,所望の応答を実現する制御器の獲得を目的とし,目的を達成するスミス補償器の構造について考える.さらに,実験で得られた一組の入出力データを用いて制御器の更新を行うデータ駆動制御の一手法であるFictitious Reference Iterative Tuning (FRIT) の適用について議論する.入力と出力の両方にむだ時間をもつシステムに対してFRITを適用するために,可調整パラメータをもつ特殊な構造のスミス補償器を導入する.さらに,提案手法で使用される評価関数の意味について考察する.最後に,提案手法の妥当性と有効性を,数値例を用いて示す.


[ショート・ペーパー]

■ Motion-Less VRの研究:上肢2自由度運動を可能とするシステムの開発と基礎評価

 法政大学・望月 典樹,今永 尚志,中村 壮亮

著者らは,リアル身体での運動を必要としない「Motion-Less VR」と呼ばれるVRシステムを提案している.Motion-Less VRは,機械的な固定によりリアル身体の運動を抑制した状態において,ユーザが運動しようとした際の関節トルクを運動意図としてセンサで計測し,これを基に順動力学によるバーチャル身体の運動のシミュレーションを行い,その結果を感覚器に対してフィードバックするというものである.本論文では,肩と肘の2自由度運動を可能とするシステムを開発し,基礎的な実験を行った.実験の結果,システムが一定の操作性を有していることが確認された.