論文集抄録
〈Vol.58 No.4(2022年4月)〉

タイトル一覧
[論 文]

[開発・技術ノート]


[論 文]

■ 階層型モデル予測制御によるmild HEVの燃費最適化

慶應義塾大学・山内 賢,梅澤 結花,
いすゞ中央研究所・瀬戸 洋紀, 今村 稔朗, 慶應義塾大学・滑川 徹

本論文では,階層型モデル予測制御を用いて,mild HEV (Hybrid Electric Vehicle) の燃費最適化問題を検討する.提案するアルゴリズムでは,エコドライブとトルク配分の 2つの問題を扱う.両問題は時間スケールが異なるため,階層的なモデル予測制御を 提案する.はじめに,エコドライブ問題では,車速制御について,燃料消費量と NOx排出量の削減を考慮して,目標速度に追従するために必要なトルクを算出する. 次に,トルク配分問題では,エコドライブ問題で算出した,目標速度に追従するために必要なトルクを満足するように,エンジンとモータのトルク配分を計算する.燃料消費量とNOx排出量に関するエンジンの特性を考え,各動作点において,最適と考え られるエンジントルクを設定することで,燃費の改善とNOx 排出量の削減を図る.最後に,数値シミュレーションの結果から,本研究の有効性を示す.


 

■ 水田用小型ロボットのソフト障害物への衝突検出と座礁予測

福井工業高等専門学校・亀山 建太郎,
オイドフ アンクバヤル, 三田 大智, 川崎 彰大

近年,スマート農業において,小型移動ロボットの利用が模索されている.小型ロボットには環境や作物への侵襲性が低いという利点がある一方で,地形への衝突により座礁しやすいという問題点がある.ロボットと障害物の衝突ついては多くの研究がなされているが,その多くは,ロボット,ワークなどの保護の観点から,障害物を事前検知して衝突を回避するか,衝突を検出して速やかに停止することを主眼においている.一方で,小型ロボットにおける障害物は土や草などの柔らかで変形するものであるので,障害対応の選択肢には,上記に加え,押し切るという方法がある.そのような行動をとるためには,障害物の規模を見極めて,押すか引くかを決定しなければならない.しかし,変形する障害物から受ける力を動作継続の指標とするような研究は多くない.
そこで,本研究は,ロボットの障害物への衝突時刻と大きさを推定し,行動継続による座礁の可能性を判断する方法を提案している.対象とするロボットは,車体前後にバランスフロートを有し,水中を二輪走行する水田用小型ロボットである.本手法では,加速度を未知の衝突を含む微分方程式でモデル化し,衝突項を拡張カルマンフィルターにより推定する.提案手法の有効性は数値例と実験により確認している.


 

■ 面状圧力センサを搭載した装着型ロボットにおける着用者との接触力分布予測制御系の提案

名古屋大学・舟洞 佑記, 道木 慎二, 愛知工業大学・道木 加絵

着用者に直接装着して力を加える装着型ロボットにおいては,着用者の安全を確保することが最も重要である.体幹部等の複雑な構造となる部位を安全にアシストするためには,ロボットが人体に加えている力(接触力)を直接計測・制御できることが望ましいと考え,我々は,ロボット表面に貼付した面状圧力センサによって接触力分布を圧力分布として計測・制御可能な装着型ロボットを研究してきた.これまで,接触力分布を直接フィードバックする制御系を構築し,過度な力を減らすようにロボットを制御する手法を提案,従来のトルクフィードバック制御に対して最大接触力を低減できることを示した.本論文では,先行研究で提案した逆運動学に基づく制御法の問題点を明らかにした上で,接触力分布の制御性能を向上させる接触力分布予測制御法を提案する.現在のロボット姿勢(リンク姿勢)と計測した接触力分布から次ステップの接触力分布を予測,所望の接触力分布との予測誤差を最小化するようにアクチュエータを制御する手法である.先行手法と比較し,同等の最大接触力の範囲で,指令した接触力分布との誤差が低減できることをシミュレーションで示す.


 

モデル規範形適応制御に基づいた多入力冗長系に対する零空間補償制御

兵庫県立大学・川口 夏樹, 佐藤 孝雄, 荒木 望, 黒田 雅治

本論文では,冗長多入力線形時不変系に対する零空間補償制御を提案する.
入力冗長系において,制御入力ベクトルはプラントのパラメータベクトルの零空間成分を含むことがある.この零空間成分はプラントを駆動する制御力の生成に寄与しない.
したがってプラントの零空間成分を含まない制御入力を生成できれば,制御入力のノルムを最小化するという観点で効率的な制御を達成できる.提案法ではモデル規範形適応制御の手法に基づいて,プラントのパラメータが未知の場合でも制御入力中の零空間成分を補償する制御系を設計する.また数値例によりその有効性を示す.


 

■ 太陽光発電量予測に基づく複数BEMSにおける分散型電力取引システム

慶應義塾大学・梅澤 結花, 富士通・大川 佳寛, 慶應義塾大学・滑川 徹

本論文では, 複数台ビルの分散型エネルギトレードシステムに対して, 最適売買量を決定するアルゴリズムを提案する. 各ビルは太陽光発電を行い, バッテリを備える. 分散型エネルギトレードアルゴリズムとしてまず, モデル予測制御及びシナリオに基づくロバスト最適化を行うため,最適化問題を解くことで将来の時刻を考慮し, 太陽光発電の発電量誤差を考慮した, 電力の売買希望量を算出する. そして, これらの値をビル間で通信した後, 売電価格を更新する. 売電希望量と他ビルから寄せられる購入希望量の差分が, ある閾値を下回るまで反復を行い, 最終的な取引量を決める. 提案するアルゴリズムについて, 収束性解析を行い, 価格更新パラメータについての収束の十分条件を示す. 最後に, 総価格コストと計算コストについて, 集中型手法と比較を行い, 有効性をシミュレーションによって示す.


[開発・技術ノート]

■ ピエゾモニタリングセンサの計測用ロボット(SALLY)の開発

秋田県立大学・下井 信浩, 山口大学・中正 和久

圧電素子を用いたセンサ計測は,構造物の長期監視に適しています.本稿では、センサの特性を計測するロボットSALLYを用いてピエゾ接合センサの出力電圧と変位計測の特性について評価した結果を説明しています.