論文集抄録
〈Vol.58 No.9(2022年9月)〉

タイトル一覧
[論 文]


[論 文]

■ Virtual internal model tuningの構造を利用したデータ駆動予測

電気通信大学/いすゞ中央研究所・鈴木 元哉,
電気通信大学・金子 修

従来の制御系設計では,繰り返し実験による試行錯誤にて制御器のパラメータが調整されている.パラメータチューニングのノウハウが暗黙知になっている現場だと,実験検証の工数に多大な労力が必要となる.以上の背景のもと, 所望の制御応答を実現可能なオートチューニング方法であるデータ駆動調整法の研究開発が活発化している.代表的な方法として, Virtual reference feedback tuning (VRFT), Fictious reference iterative tuning(FRIT)が提案されている.FRIT とVRFT は閉ループ実験の入出力データを与えるだけで所望の閉ループ応答を実現できる.モデリングと繰り返し実験の工数を削減できるため,様々なシステムへの応用が期待されている.
データ駆動調整法の分野では,FRIT における擬似参照信号の考えを応用した方法の一つとして,データ駆動予測と呼ばれる方法が提案されている.データ駆動予測では,何らかの方法で調整した制御器の応答を実装前に確認できる. 従来のデータ駆動予測では,擬似参照信号を用いて相補感度関数を推定する.一方,不安定ゼロ点を有する制御器だと擬似参照信号が発散してしまう.したがって,不安定ゼロ点を有する制御器の応答をデータ駆動予測にて予測できない.FRITやVRFTでは,規範モデルの与え方や制御対象の構造次第で更新後の制御器が不安定ゼロ点を持つ可能性がある.擬似参照信号を介さずに制御応答を予測可能な新たなデータ駆動予測が必要である.
本稿では,データ駆動予測の新たなアプローチを提案する.提案手法では,Virtual internal model tuning(VIMT) の構造に基づいて相補感度関数を推定することにより,不安定ゼロ点を有する制御器の制御応答を予測できる.本稿では提案手法の有効性を実験にて検証した.


 

■ 半導体製造プロセスの出力推定値フィードバックによる圧力制御

堀場エステック・瀧尻 興太郎,大阪大学・大須賀 公一, 杉江 俊治

半導体製造プロセスでは原子レベルの成膜プロセスとなっているそのため,プロセスガス切替回数が増加している.現在,スループット向上のために高速なガスの切替と、プロセスチャンバー内のガスの濃度の制御が重要となっている.しかし,プロセス中ではチャンバー内の圧力は真空となり,観測するセンサーの感度が低下し,ノイズが増加する課題がある.よって,フィルターにより信号のノイズを低減することが可能であるが,高速な圧力制御が困難となり,リアルタイムに計測できない課題がある.よって本稿では応答速度とノイズ低減を両立した新たな制御系を提案する.制御対象をモデル化し,圧力の推定値を用いた制御をすることで,ノイズを低減しながら高速応答を実現する.さらにプロセス中は定常オフセット外乱が発生する可能性もあるため,外乱の影響も補償する新たな制御系を提案する.


 

ランダムな通信遅延が生じる環境下での移動体の遠隔制御

三菱電機・亀岡 翔太, 京都大学・細江 陽平

近年,確率的なパラメータを持つ制御対象に対して,確率的な安定性の指標の1つである2次モーメント指数安定を保証できる確率制御の開発が進んでいる.確率制御では,2次モーメント指数安定を特徴づける線形行列不等式を解くことで,制御ゲインの設計が可能である.
本稿では,通信遅延のばらつきを直接考慮し,確率制御を適用することで,ランダムな通信遅延が生じる環境下においても移動体を遠隔制御可能な方法について論じる.また,シミュレーションに加え,ドライビングシミュレータを用いた実験により,その有効性を確認した結果について述べる.


 

■ リザバーコンピューティングを用いたモデル予測制御によるHEVパワートレインのアクティブ制振制御

アイシン福井・小川 英樹,福井大学・高橋 泰岳

モデル予測制御(MPC)は,一般に制御周期内で最適化問題を解いて制御入力を決定する必要がある.そのため,最適化計算が次の制御周期までに完了しない場合,対象とするシステムにMPCを適用することが困難となる.この制限を克服するため,筆者らは既報においてリザバーコンピューティングを用いた外生入力の予測に基づく新しいMPC手法を提案した.提案手法では,制御周期内で最適化計算を完了するのではなく,Echo State Network(ESN)により予測した将来の外生入力を用いて最適制御量をあらかじめ計算して適用する.しかし,既報による方法では,学習パターンの増加に伴いESNの予測精度が悪化することが予想され,制振性能の劣化が懸念される.この弱点を回避するため,本報では自己組織化写像(SOM)を用いたクラスタリング手法による新しいESNを用いたモデル予測制御を提案し,ハイブリッド車用パワートレインのアクティブ振動制御を対象としたシミュレーションにより,提案手法の検証を行う.エンジンの気筒休止を含む数種類の燃焼パターンについて従来手法との比較を行い,懸念された制振性能の劣化に対する提案手法の有効性を確認する.