論文集抄録
〈Vol.59 No.1(2023年1月)〉

タイトル一覧
[論 文]

[ショート・ペーパー]


[論 文]

■ 細霧発生のむだ時間を考慮した太陽光型植物工場の水蒸気飽差制御

木更津工業高等専門学校・浅野 洋介, 渡邊 孝一, 伊藤 裕一,
愛知県立大学・伊藤 正英, 木更津工業高等専門学校・栗本 育三郎

細霧発生による水蒸気飽差制御は,太陽光型植物工場において,低コストで高収量・高品質を実現する統合型環境制御システム構築に関わる技術である.著者らはこれまでに,細霧発生システムを用いて可変フィードバックゲイン制御により水蒸気飽差制御を実現してきた.しかしながら,水蒸気飽差制御システムにはむだ時間が存在し,それを原因とした応答の振動が発生してしまっていた.本論文では,むだ時間を補償するハイパスフィルタ挿入型通信外乱オブザーバを適用した水蒸気飽差制御システムを提案する.植物工場の水蒸気飽差制御におけるむだ時間は一定ではなく,制御対象のパラメータも時間帯や季節によって変化する.提案手法では,それらに対するロバスト安定性を検証し,安定となるゲインなどの範囲を明らかにした.夏季高温期の実地実験結果から,提案手法は,従来手法に対して,応答の平均誤差を81%低減,標準偏差を20%低減という振動抑制効果をもつことが示された.


 

■ 周期的線形時変システムのLMIに基づく安定性解析手法

名古屋大学・堺 光徳, 浅井 徹, 有泉 亮, 京都大学・東 俊一

線形時変(Linear Time-Varying; LTV)システムが一様指数安定であるための必要十分条件は,微分リアプノフ不等式(Differential Lyapunov Inequalities; DLI)に基づいて与えられる.あるLTVシステムに対応するDLIに解がある場合,システムの一様指数安定性は保証されるが,DLIの解を見つけるための系統的な手法はほとんど報告されていない.著者らはあるクラスの周期的LTVシステムに対して線形行列不等式(Linear Matrix Inequality; LMI)で表されるDLIの解が存在する十分条件を示し,系統的なDLIの解の探索手法を提案する.加えていくつかの例題により提案手法の有効性を示す.


 

■ 振動の乱雑さに対応する極値探索制御による振動発電システムの効率化

金沢大学・川口 拓海,山本 茂, 上野 敏幸

環境振動を利用する振動発電は,振動下に設置される無線センサなどの永続的な独立電源になりうるものとして注目されている.環境振動の周波数は不確かであるため,振動発電デバイスの共振周波数を環境振動の周波数に自動的に合わせるような調整ができれば,振動発電の効率を上げることができる.そのような自動調整を実現するために,筆者らのグループは,振動発電デバイスの電気回路内に可変コンデンサを接続し,その静電容量を極値探索制御によって自動で調整する方法を提案している.繰り返す減衰振動により発電する場合,その振動の振幅や周波数がランダムに変化しても,その変化が独立同分布とみなせるならば,提案する極値探索制御が有効であることを実験により実証する.


 

非同期端末間でのバーニア効果による高分解能TOF計測

東京工業大学・木崎 航汰, 大山 真司

本論文では,ワイヤレスセンサネットワークにおけるセンサ端末の位置推定を行うため,非同期の端末間における電波の伝播時間を高い分解能で計測する手法を提案する.消費電力を抑えるために各センサ端末には低周波な動作クロックがしばしば用いられるが,その場合には非常に短い伝播時間を十分な分解能で計測することは容易ではない.そこで前報では,ノギスの原理であるバーニア効果を応用することで,低周波な動作クロックを用いる場合でも高い分解能で伝播時間を計測できる手法を提案した.しかし,その手法では送信側と受信側のクロックの立ち上がりが同期していることが前提となっており,それらのクロックを物理的に切り離せない制約が存在していた.前報では信号を往復させてその問題に対処していたが,信号を送り返す際の処理時間による計測精度の悪化や,信号を送り返す際に自己干渉の対策が必要となるなどの課題が残されていた.そこで,非同期の端末間でも同等の分解能で伝播時間計測を実現するための手法の提案を本論文で行う.非同期の端末間で伝播時間を計測した際に含まれる計測誤差を定式化し,双方向の計測結果に計算処理を行うことで誤差を打ち消し,伝播時間を求めていく.また,実験により提案手法の評価を行った結果についても述べる.


 

■ 力覚・聴覚・手先位置の複合情報フィードバックに基づく ドリルを扱うロボットにおける卵殻の切削タスク戦略

東京大学・木村 航平, 中島 慎介, 中尾 達也, 稲葉 雅幸, 岡田 慧

人間にとって熟練を要する微細な作業に対して,サイエンスに重きを置いた実験を遂行できる自律ロボットの研究開発が期待されている.ロボットが自律的な作業タスクを実現するためには,複合的な感覚情報処理および動作へのフィードバック戦略の獲得と生成が不可欠である.本研究では微細な作業タスクとして,ロボットがマイクロドリルを扱うことにより卵殻を切削し卵殻膜の露出を支援する切削タスク戦略に焦点を当てる.ロボットの複合的な感覚情報として,力覚・聴覚・手先位置の状態を監視したフィードバックに基づき,卵殻に対して離散的・連続的に切削を遂行し,かつ卵殻膜を傷つけた場合の失敗検知機能を有するタスク戦略と実現を陽に示す.また,卵殻膜を破らないための切削タスクのやめどきについても考察する.


[ショート・ペーパー]

■ 繊維製セラピーロボットの手入れ方法提案に向けた実態調査

林 里奈

本稿では,継続可能なロボットの手入れ方法の提案に向けて,ロボットユーザの手入れの実態調査を実施した.その結果,メーカによる手入れ方法の提示が重要であることを確認した.