論文集抄録
〈Vol.59 No.3(2023年3月)〉

タイトル一覧
[第9回制御部門マルチシンポジウム論文特集号]

[論 文]


[論 文]

■ サンプル値系の外部非負性と Lq/Lハンケルノルム解析

京都大学・志賀 亮介, 萩原 朋道, 九州大学・蛯原 義雄

本論文は非負システムの理論のサンプル値系への拡張について論じる.
線形時不変系の非負性を考える際には,初期時刻をどこにとるかは任意であるが,連続時間の観点から周期時変であるサンプル値系においては,非負性の適切な定義を導入する上で,どの時刻を初期時刻ととるべきかを考える必要が生じる.本論文ではまずサンプリング時刻を初期時刻ととらえたサンプル値系の非負性について考察し,続いてサンプル点間の任意の時刻を初期時刻をとらえたサンプル値の非負性について考察する.さらにこれらの議論を統合し,初期時刻のとらえ方によらないサンプル値系の非負性の概念に対する必要十分条件を与える.またこの概念を活用したサンプル値系の解析として,Lq/Lハンケルノルム解析について論じる.具体的には,非負のサンプル値系に対しては,q=∞ の場合の(準)ハンケルノルムが一般のサンプル値系の場合と比べて簡潔に表現されることに加えて,一般のサンプル値系では解析の難しい q=1,2 の場合の(準)ハンケルノルムについても簡潔な表現が得られることを論じる.さらに,これらのノルムに関する性質を明らかにし,得られた理論的成果を数値例により検証する.


 

■ 人間とビークル群の協調制御系における制御性能を考慮したデータ駆動型グラフ構造探索

信州大学・中山 龍雅, 種村 昌也, 千田 有一,
京都大学・東 俊一, 東京工業大学・畑中 健志

現在,人間の柔軟な意思決定をロボット群の協調制御系に組み込む研究が盛んにおこなわれている.しかし,人間とロボット群の協調制御系における制御性能は人間の性質に依存し,人間の正確なモデル化は一般に困難な場合が多いため,人間にとって制御しやすいロボット群のグラフ構造の設計が困難とされている.そこで本論文では,人間とビークル群の協調制御において,人間が未知な線形システムと仮定したとき,制御性能を向上させるビークル群の情報伝達のグラフ構造を探索するデータ駆動型手法を提案する.具体的にはグラフ構造を設計パラメータとし,FRITの考えを応用することでビークル群の平均位置出力を理想伝達関数の出力に近づける方法を提案する.これにより,人間にとって制御しやすいビークル群の構造を探索できる.提案手法の有効性は数値シミュレーションにより検証する.


 

■ Mild HEVにおけるトルク及び触媒暖機制御によるNOxの排出低減と燃費最適化

慶應義塾大学・梅澤 結花, 瀬戸 洋紀,
いすゞ中央研究所・今村 稔朗, 慶應義塾大学・滑川 徹

本論文では階層型モデル予測制御を用い,Mild HEV (Hybrid Electric Vehicle) の燃費最適化及びNOx排出量低減を検討する.提案手法では,温度制御及び動力制御を扱い,両者はバッテリを介した問題である.両問題は時間スケールが異なるため,階層的なモデル予測制御を提案する.High-level controllerは温度制御を扱い,排気ガス後処理システムにおける触媒温度及びNOx浄化率を考慮し,バッテリから排気ガス後処理システムへの最適加熱量を計算する.Low-level controllerは動力制御を扱い,燃料消費量,バッテリ状態量,NOx排出量を考慮し,ドライバ要求トルクを満たすようなエンジンとモータの最適トルク配分を計算する.最後に,数値シミュレーションの結果から本研究の有効性を示す.


 

■データ駆動による安定余裕の下界推定情報に基づく安定化制御器設計

信州大学・五十嶋 洸人, 種村 昌也, 千田 有一

本論文は,制御対象が未知という状況でデータ駆動型手法により推定された安定余裕の下界情報を用いた安定化制御器設計手法を提案する.安定化制御器を設計するために,安定化制御器のクラスを与える定理を導出する.この定理により,制御対象の数式モデルを用いずに閉ループ系を安定化させる制御器を設計することができる.数値例では,安定余裕の下界を推定し,下界情報のみを用いて安定化制御器を設計できることを示す.


 

■ 入力外乱を考慮した最適化に基づくドローンネットワークの分散群れ制御

 明治大学・伊吹 竜也, 加藤 圭祐

本論文は,Reynoldsが提唱した群れ運動を構成する3法則に基づき,ドローンネットワークに対する分散型群れ制御則を提案する.特に,本研究ではドローンの位置制御に入力外乱が含まれる場合を考慮し,入力外乱下でも分離法則を表す衝突回避を達成する制御バリア関数と最適化に基づく制御手法を提案する.これにより,先行研究の実験検証で経験則的に定めていたドローンの衝突距離に対するマージンを考慮する必要がなくなり,実機の大きさをそのまま用いて制御バリア関数を設計することが可能となる.さらに,ドローンのダイナミクスを考慮した運動学モデルを扱うことで,3次元空間上の数値シミュレーションだけではなく実機実験により提案手法の有用性を示す.


 

■ 連続凸化を用いたモデル予測による着陸機の誘導制御

東京大学・大木 春仁, 横浜国立大学・樋口 丈浩, 上野 誠也

地球の起源を探るという目的から,月探査が注目されている.より多様なミッションを実現するためには、天体の目標位置に対する高精度な着陸が求められる.また、宇宙探査ミッションでは燃料消費を最小するというシビアな要求が存在する.これらの要求を満たすには,逐次的に着陸軌道と各スラスタ噴射量を最適化する誘導制御則の開発が重要である.
本研究では,月着陸機の垂直着陸フェーズにおける誘導制御則として,モデル予測制御(MPC:Model Predictive Control)を適用する.またMPCの計算負荷を軽減するために,最適化アルゴリズムとして連続凸化(SCvx:Successive Convexification)を応用した.実際の着陸シナリオに基づくケーススタディを行い,高い着陸精度・軌道追従性を示した.また,モンテカルロ解析を通して,本提案誘導制御則の高いロバスト性を示した.


 

■ グレイスコットモデルに対する推定と制御

セントラルソフト・石井 つぼみ, 山形大学・村松 鋭一

反応と拡散が同時進行する系として知られるグレイスコットモデルに着目し,それによって形成される2次元平面上のパターンをフィードバック制御によって制御する問題を考察する.そのモデルは平面上の拡散を表す項と非線形な反応項をもつ偏微分方程式である.モデルに存在する2つの変数のうち,1つはセンサによって測定可能,もう1つは測定不可能という問題設定のもと,制御に必要となるオブザーバの設計法を提案する.これに用いるオブザーバゲインの設定に関して,値を正とすべきか負とすべきかを考え,理論的考察から正であることが必要であることを定理として示す.また,オブザーバの推定値を用いたフィードバック制御によってパターンを変化させる制御の例を示し,状態推定のもとでの制御が可能であることを数値的に確認する.


 

■ 入力制約下で最適サーボ系を実現するデータ駆動型フィードフォワード入力設計

北九州市立大学・藤本 悠介, 小薗 貴寛

本論文では,入力制約の下で出力を目標値へ素早く収束させるためのフィードフォワード入力の設計について議論する.特に本論文では,対象システムのモデルを必要としないデータ駆動型の設計を考える.この目的のため,本論文では二自由度制御系のために開発されたデータ駆動予測手法を利用する.このデータ駆動予測を活用することにより,フィードフォワード入力設計の問題はフィードフォワード制御器のインパルス応答を最適化変数とする二次計画問題へ帰着されることを示す.また,観測出力がノイズの影響を受けている場合に,過適合を避けるために正則化を利用する方法を提案する.提案法の有効性を明らかにするために,数値例とモータを用いた実機実験での例を示す.


 

■ 二足歩行ロボットにおける上体の壁面接触とZMP制約を考慮したモンテカルロモデル予測制御を用いた重心軌道生成

筑波大学・安藤 日出海, 仲谷 真太郎, 伊達 央

二足歩行ロボットは人間に近い身体構造を持つため, 人間向けに設定された環境や作業に対して親和性が高く, 特に危険性の高い災害現場での活用が期待される. 中でも屋内災害現場での歩行タスクの遂行過程では, 身体と外界の接触が避けられない狭所での運用が必要であり, 身体と外界の接触を事前に考慮しない従来のオンライン重心軌道生成では対応できない場合がある, 本論文では、サンプルベースのモデル予測制御(MPC)手法であるモンテカルロモデル予測制御(MCMPC)を用いて, 従来手法を壁面との接触を考慮した制御へと拡張する. 想定環境を単純化したシミュレーションでの歩行タスクにおいて, 提案手法が良好な性能を示すことを確認した.さらに、設定した条件下では提案手法が実時間で実行可能であることを確認した.


 

■ 需要状況を考慮した最適駐車場割当決定

慶應義塾大学・藤巻 裕斗, 滑川 徹

本論文では,長期的に最適な駐車場割当を決定する新しいスマートパーキングシステムを提案する.本システムでは,ドライバーに早期駐車申請を促すことで駐車開始時刻よりも早い段階で需要状況を把握し,現在時刻のみの最適化ではなく,長期的な最適化を行う.我々は,時間軸に着目した3つの最適化手法を提案する.1つ目は時間軸制約を無視したもの,2つ目は時間軸制約を持つがドライバーの動機に欠けるもの,3つ目はそれらの問題を解決する提案手法である.最後に,数値シミュレーションにより,提案手法の有効性を確認する


 

■ Youla パラメータを持つ制御器に対するVirtual Internal Model Tuning

電気通信大学・池崎 太一, 金子 修

本論文では,一般化内部モデル制御(GIMC)に内包されるYoulaパラメータをデータ駆動制御の一手法であるVirtual Internal Model Tuning (VIMT)により調整する手法を提案する.GIMC は制御対象の安定化補償器をもとに構築される制御系である.ノミナルモデルが制御対象との間にギャップを有する場合には制御系が所望の動特性にはならないため,データ駆動制御によりGIMCのもつYoulaパラメータを調整することを考える.最後に数値例をもちいて本提案手法の有用性を検証する


 

■ 2者間自動交渉における「頑固な交渉戦略」の最適性

東京大学・仲野 太喜, 津村 幸治

本論文では新しい2者間自動交渉のモデリングのもとでの最適オファー列の基本的特性について考察を行う.本論文では,交渉空間および2プレーヤの効用関数は連続である場合を考え,2プレーヤの効用関数が線形であるようなシンプルな状況を考える.このとき,交渉の序盤で利己的な提案を行い,交渉の終盤に向かうにつれて相手に妥協した提案を行う「頑固な交渉戦略」が最適性の観点から妥当であることを示す.さらに,交渉戦略の「頑固さ」の定量化を行い,「頑固さ」と効用関数のパラメータの関係について議論を行う.