論文集抄録
〈Vol.60 No.2(2024年2月)〉

タイトル一覧
[論 文]

[ショート・ペーパー]

[開発・技術ノート]

 


 

[論 文]

■ デジタルエンジニアリングに基づく機構・制御系設計授業の難度設定 3Dプリンタと Rapid Control Prototyping ツールを用いた一筆書きロボットの製作実習

名古屋大学・浅井 徹

近年,制御と機構双方の同時設計に関する教育ニーズが高まっている.制御と機構双方を同時に扱うと,その設計規模は大きくなるため設計の難度は高くなる.そのため,高い教育効果を得るには適切なサポートが必要である.しかしながら,どの程度のサポートが適切なのかは自明ではない.本論文の著者は2019年度から所属機関で開講している授業「設計製図第3」において3DプリンタとRapid Control Prototypingツールを活用したロボットの機構系および制御系の設計を行う授業を実施し,その中で適切なサポートのあり方を模索してきた.本論文では実践した授業の設計内容を示した後に,その結果を考察する.


 

■ 設備自動点検システム構築に向けた異種ロボット群のタスク割り当て効率化

東京工業大学・岡田 優也,横河電機・菅原 弘樹,
征矢 紘明,東京工業大学・畑中 健志

現在,工場における計器等の機器検査は人手で行われており,検査の自動化や作業効率の向上が強く求められている.このような需要に鑑み,本論文では異種ロボット群による最適タスク割当問題について考察する.まず,ロボットによる検査タスクにおいて満足すべき制約条件を列挙し,それらを論理制約として表現する.つぎに,論理制約を適切に定義された2値変数に関する線形不等式に変換し,タスク割当問題を整数計画問題に帰着する.さらに,作業空間を分割し,領域を割り当てる上層の最適化問題と,ターゲットとタスクを割り当てる下層の最適化問題に分割することで,計算負荷を軽減する方法を提案する.また,下層の最適化の実行可能性を保証するために,上層の問題に新たな論理制約を導入する.最後に,実際の作業環境を模擬した数値シミュレーションにより,提案法の有効性と領域分割による計算時間の短縮を確認する.


 

■ スマートフォンによる実世界クリッカー操作方式:粗調整と微調整の2段階操作方式と可操作性に基づく微調整操作感度の最適化

広島市立大学・坂本 慎一郎,野口 恵伍,岩城 敏

著者らがこれまで開発してきた「実世界クリッカー」(RWC:Real World Clicker)のスマートフォンによる操作方法を提案する.
RWCはTOF型レーザーセンサをパンチルトアクチュエータに搭載した3次元座標計測装置であり,操作対象物表面上のレーザスポット位置が,パン角・チルト角とレーザビーム長を基に計測される.これまでRWCはPCマウスで操作されていたが,本論文では日常性に優れたスマートフォンへの置き換えを試みる.具体的には,(1)RWCのパン角・チルト角をスマートフォン筐体の姿勢に連動させる方式,(2)RWCの駆動範囲を考慮した粗調整から微調整への2段階方式,(3)微調整操作時の感度をロボットアームの可操作性に基づいて最適化する方法の3つを提案する.これら3つの手法のポインティング性能を比較する実証実験を行ったところ,最後に提案した可操作性に基づく最適化手法が最も高性能であることが確認できた.


[ショート・ペーパー]

零点と不安定極を持たない2次系に対する外乱オブザーバとモデル誤差抑制補償器の関係について

北九州工業高等専門学校・川田 昌克

モデル化誤差や様々な摩擦などに起因する外乱を推定する機構である「外乱オブザーバ」はすでに広く利用されており,その有用性が認識されている.一方,近年,岡島により提案された「モデル誤差抑制補償器 (MEC)」は,制御出力とノミナルモデルの出力の誤差をハイゲインでフィードバックし,モデル化誤差などに起因する外乱を補償することがきる.外乱オブザーバとMECは,マイナーループにより外乱を除去するという点で同様の機構であるが,両者の関係性についてはこれまで十分に議論されていない.
本稿では,松井らが導出した外乱オブザーバの別表現がMECと同じ形式であることに着目し,ノミナルモデルが 2 次系である場合の両者の対応関係を明らかにする.具体的には,2次のローパスフィルタを与えて外乱オブザーバを設計すると,結果的にMECにおける誤差補償器を「不完全微分による PID 型」として設計していることになる.逆に,ある型の誤差補償器を与えてMECを設計すると,結果的に外乱オブザーバにおける相対次数が2のローパスフィルタを設計していることになる.また,両者の設計例として「鉛直面を回転するアーム系」を取り上げ,実機実験によりその性能を検証する.


[開発・技術ノート]

■ 学生の希望順に基づくコロナ禍での研究室見学先の最適化

摂南大学・片田 喜章,工藤 隆則

2019年~2022年において,我々はいわゆるコロナ禍にあった.大学では大人数での対面授業の実施が制限され,少人数で感染対策が施された場合に限り,対面授業が実施できるなどの対応がとられた.著者らが所属する学科では,学部1年生の研究室見学を対面で実施するにあたり,感染防止策を講じながら学生の希望見学先や人数的・時間的制限などを考慮して各学生の見学順を決める必要があった.そこで, 本問題を混合整数線形計画問題としてモデル化し,学生からアンケートで得られた希望順実データに関して最適化計算を行い,得られた解に基づいて実施した研究室見学について報告する.