2023年度計測自動制御学会 学会賞贈呈のため,山下善之氏を委員長とする学会賞選考委員会において慎重に選考の結果,下記論文賞8件,技術賞1件,著述賞2件,新製品開発賞3件,教育貢献賞2件,国際標準化賞1件が理事会にて決定された.9月8日,三重大学三翠ホール(SICE 2023会場)にて贈呈式を行い,受賞者に賞状および副賞が贈呈された.

[論文賞] 8件
(論文賞・蓮沼賞)
○Evaluation of Small-Capacity Force Transducers Using A Developed 2 N Dead-Weight Type Force Standard Machine
(SICE JCMSI Vol.14, No.1で発表)
NMIJ, AIST・Junfang ZHU 君,Toshiyuki HAYASHI 君,Koji OGUSHI 君

(論文賞・武田賞)
○狭義上三角常微分方程式系と放物型偏微分方程式のカスケード系に対するフォワーディング設計
(SICE 論文集 Vol.57, No.2で発表)
名古屋大学・椿野 大輔 君

(論文賞)
○Kullback?Leibler Control for Discrete-Time Nonlinear Systems on Continuous Spaces
(SICE JCMSI Vol.15, No.2で発表)
Kyoto Univ.・Kaito ITO 君,Kenji KASHIMA 君

(論文賞)
○入力時間補正を用いたオンオフ駆動型履帯車両のサーボ制御
(SICE論文集Vol.57, No.6で発表)
信州大学・三橋 朋也 君,千田 有一 君,種村 昌也 君

(論文賞)
○同調バイアスを有する集団避難行動のモデル化と受動性に基づくナッジ設計
(SICE論文集Vol.58, No.3で発表)
東京工業大学・山下 駿野 君,入舟 広大 君,畑中 健志 君
早稲田大学・和佐 泰明 君,富山大学・平田 研二 君,早稲田大学・内田 健康 君

(論文賞)
○Locally Deforming Continuation Method Based on a Shooting Method for a Class of Optimal Control Problems
(SICE JCMSI Vol.14, No.2で発表)
JAXA・Kiyoshi HAMADA 君,Kyoto Univ.・Ichiro MARUTA 君,Kenji FUJIMOTO 君,Kajima Tech. Research Inst.・Kenniti HAMAMOTO 君

(論文賞・友田賞)
○混合余事象分布を内包した確率ニューラルネットに基づく5指駆動型ロボットハンドのEMG制御
(SICE論文集Vol.57, No.12で発表)
横浜国立大学・小宮山 翼 君,迎田 隆幸 君,島 圭介 君

(論文賞)
○Vehicle Localization by Dynamic Programming from Altitude and Yaw Rate Time Series Acquired by MEMS Sensor
(SICE JCMSI Vol.14, No.1で発表)
Tokyo Information Design Proffessional Univ.・Takayoshi YOKOTA 君

[技術賞] 1件
(技術賞)
○COAXIAL DISPLACEMENT SENSOR USING A LATERAL SHEAR INTERFEROMETER WITH A PHASE GRATING
(IMEKO WC 2021,他で発表)
アズビル株式会社・藤井 絵理 君,古谷 雅 殿,藤原 久利 君

[著述賞] 2件
(著述賞)
○LiDARを用いた高度自己位置推定システム
―移動ロボットのための自己位置推定の高性能化とその実装例―(2022年・コロナ社)
赤井 直紀 君(著)

(著述賞)
○電力系統のシステム制御工学(計測・制御セレクションシリーズ4)」(2022年・コロナ社)
計測自動制御学会(編)
石崎 孝幸 君(編著),川口 貴弘 君,河辺 賢一 君(著)

[新製品開発賞] 3件
(新製品開発賞)
○スマートHARTモデム 形AZ-1SHM
アズビル株式会社 殿

(新製品開発賞)
○赤外線アレイセンサシステム
アズビル株式会社 殿
(新製品開発賞)
○バーナコントローラ 形AUR255/455
アズビル株式会社 殿

[教育貢献賞] 2件
(教育貢献賞)
○SICEセミナーにおける教育貢献
宇都宮大学・平田光 男 君

(教育貢献賞)
○制御工学教育のための動画ポータルサイト「制御工学チャンネル」の運営およびSNSを活用したコミュニティ形成と活性化
熊本大学・岡島 寛 君

[国際標準化賞] 1件
(国際標準化賞 奨励賞)
東京大学・篠田 裕之 君
対象国際標準規格名:
・IEC TC100 TA18
・IEC TR 63344 ED1:2021
   MULTIMEDIASYSTEMS-HAPTICS-CONCEPTUAL MODEL OF STANDADISATION

受賞者略歴および受賞論文概要

(論文賞・蓮沼賞)
しゅ しゅんほう
朱 俊方 君(正会員)
2017年首都大学東京大学院理工学研究科機械工学専攻博士後期課程修了(2020年より,東京都立大学に名称変更).同年国立研究開発法人産業技術総合研究所計量標準総合センター研究員.2022年より同主任研究員となり,現在に至る.博士(工学).力の国家計量標準の開発,高度化,維持,並びに小容量力・微小力計測に関する研究開発に従事.日本機械学会,精密工学会の会員.

はやし としゆき
林 敏行 君(正会員)
1999年名古屋大学大学院工学研究科博士後期課程修了.2000年工業技術院計量研究所研究官.2001年組織改編により産業技術総合研究所研究員.2011年より主任研究員となり,現在に至る.力標準の維持,高度化に従事.博士(工学).材料試験技術協会の会員.

おおぐし こうじ
大串 浩司 君(正会員)
1997年,電気通信大学大学院 電気通信学研究科 博士後期課程修了.博士(工学).同年4月より工業技術院 計量研究所において,トルク標準の確立並びに供給技術の開発に関する研究に従事.2001 年4月より産業技術総合研究所 計測標準研究部門 力学計測科 質量力標準研究室.2015年10月より同所 計量標準総合センター 工学計測標準研究部門 力トルク標準研究グループ長.2023年9月より同所 企画本部 大学室長.日本機械学会の会員.国際計測連合IMEKOのTC3 Scientific secretary.

受賞論文「Evaluation of Small-Capacity Force Transducers Using A Developed 2 N Dead-Weight Type Force Standard Machine」
本研究では,軟質材料の力学的特性評価をはじめ,様々な場面で行われている小容量力計測の信頼性を向上させるため,2 N実荷重式力標準機の性能改善を行い,力の国家計量標準の整備に必須となる校正測定能力を検証した.本標準機は,精密に質量調整されたおもりに作用する重力を力計に作用させるものであるが,小容量の力を実現するため,力計と接触する負荷枠の自重を天びんから吊り下げることにより打ち消す機構を設けた.しかし,この機構のため,負荷枠と力計が一旦離れ再度接触する際に位置や姿勢が安定せず,測定値が安定しないという問題があった.そこで,力計の設置位置変更による測定の再現性を改善するため,本力標準機と力計の接触位置を一定とできるよう力計の負荷ロッドを改良し,また力の作用方向が傾斜しないよう本標準機のおもり受け部の重心位置を改良した.小容量力計に対し,本力標準機を用い,国際規格の規定に基づいて校正を実施し,校正測定能力を検証した.また,既存の50 N実荷重式力標準機との比較を実施し,測定の不確かさの範囲内で測定値が一致することの検証により,本力標準機により実現される力の妥当性を確認した.本研究の成果に基づいて,本標準機は我が国における力の国家計量標準である力標準機群の一部となり,産業界で行われる力計測を支える基盤として機能している.

(論文賞・武田賞)

つばきの だいすけ
椿野 大輔 君(正会員)
2011年東京大学大学院情報理工学系研究科博士課程修了.同年北海道大学大学院情報科学研究科助教,2015年名古屋大学大学院工学研究科講師,2022年同准教授となり現在に至る.2013年11月から2014年8月まで University of California, San Diego, Visiting Scholar. 偏微分方程式でモデル化されるシステムの制御,大規模システムに対する階層化分散制御,航空機・宇宙機の非線形運動制御に関する研究に従事.博士(情報理工学).IEEE, システム制御情報学会,日本航空宇宙学会などの正会員.

受賞論文「狭義上三角常微分方程式系と放物型偏微分方程式のカスケード系に対するフォワーディング設計」
本論文では,熱拡散現象に代表される放物型偏微分方程式によりモデル化されるサブシステムと,アクチュエータ動作などを想定した常微分方程式でモデル化されるサブシステムの両方を含むシステムに対して,構成的な制御則設計法を構築することを目的としている.一般に扱いが困難な偏微分方程式でモデル化されるサブシステムの安定化制御則を先に設計しておき,それを拡大することを提案している.常微分方程式の構造に上三角構造を仮定し,上位の状態変数に向かって状態変換を行いながら制御則を拡大してゆくことで,システム全体の漸近安定化制御則を設計する手法を示した.これは,非線形制御においてフォワーディングとして知られている設計法を拡張したものに相当している.そのため,モデルに偏微分方程式が含まれるシステムに対する制御理論において,フォワーディング設計という新たな方向性を示すことができた.

(論文賞)

いとう かいと
伊藤 海斗 君(正会員)
2017年京都大学工学部卒業,2019年同大学院情報学研究科修士課程修了,同年川崎重工業(株)勤務,2022年同研究科博士後期課程修了.同年東京工業大学情報理工学院助教となり,現在に至る.2021年日本学術振興会特別研究員(DC2).確率システムの解析・制御・最適化およびその応用に関する研究に従事.2022年度計測自動制御学会論文賞武田賞を受賞.博士(情報学).

かしま けんじ
加嶋 健司 君(正会員)
2005年京都大学大学院情報学研究科博士課程修了.東京工業大学助教,Stuttgart Universitat滞在,大阪大学准教授を経て,2013年より京都大学大学院情報学研究科准教授となり現在に至る.大規模系・確率系のシステム制御理論・学習理論およびその応用に関する研究に従事.博士(情報学).IEEE CSS Roberto Tempo Best CDC Paper Award (2019)などを受賞.IEEE Control Systems Letters Associate Editor, IEEE CSS Conference Editorial Board Member.IEEE Senior Member.

受賞論文「Kullback?Leibler Control for Discrete-Time Nonlinear Systems on Continuous Spaces」
最適制御を実現するフィードバック制御方策を求める問題は,ベルマン方程式を解いて価値関数を求める問題に帰着する.ベルマン方程式を解くことは一般に困難だが,それを回避できる特別な問題クラスとして,Kullback?Leibler(KL)制御がある.その特徴は,状態遷移分布が制御で変化する度合いをKLダイバージェンスで定量化し,制御コストとする点にある.特に,遷移分布が任意に制御できる仮定のもと,価値関数が効率的に計算できる.しかし連続的な状態空間ではほとんどの場合,この仮定が成り立たない問題があった.そこで本研究では,その仮定を必要としないKL制御の再定式化を与えた.従来の定式化では,制御する場合としない場合の遷移分布を比較するが,再定式化では後者を確率雑音で駆動した場合の遷移分布に置き換える.これにより上述の仮定なしに,従来の定式化と同様に価値関数が経路積分表現でき,効率的にモンテカルロ計算できることを示した.

(論文賞)

みつはし ともや
三橋 朋也 君(正会員)
2019年信州大学工学部機械システム工学科卒業.同年信州大学大学院総合理工学研究科工学専攻機械システム工学分野進学,現在に至る.日本機械学会の学生会員.

ちだ ゆういち
千田 有一 君(正会員,フェロー)
1990年千葉大学大学院博士課程修了(学術博士).同年(株)東芝入社.1994年~1997年東京工業大学情報理工学研究科客員助教授.2002年信州大学工学部,現在同教授.ロバスト制御,離散値制御,適応制御,異常検知と精密機器,車両系,農業用装置等への応用に興味をもつ.システム制御情報学会,日本機械学会,電気学会,IEEEなどの会員.

たねむら まさや
種村 昌也 君(正会員)
2018年信州大学大学院博士課程修了.2016年日本学術振興会特別研究員,2018年名古屋大学大学院工学研究科特任助教,2019年信州大学学術研究院(工学系)助教となり,現在に至る.非最小位相系,外乱推定,データ駆動制御の研究に従事.IEEE,システム制御情報学会,日本機械学会の会員.

受賞論文「入力時間補正を用いたオンオフ駆動型履帯車両のサーボ制御」
本稿ではオンオフ駆動型履帯車両の経路追従制御について考えている.制御方法としては,時間軸状態制御形による線形化と線形制御則の適用および制御入力の適切な量子化を併用した方法を採用した.通常,時間軸状態制御形では変数の 1 つを時間変数として捉え直し,単調増加させることで時間軸として利用する.ところが,離散値入力に限定された系では,操作量が離散値であることに起因して時間軸が揺らいでしまうため,経路追従応答の劣化を招く場合がある.この問題を解決するため,本稿では操作量の入力時間を可変とすることで時間軸の揺らぎの補正を行い,性能劣化の回避に成功した.提案方法の性能は,サーボ系によるオンオフ駆動型履帯車両の直線追従制御シミュレーションと実験によって検証した.

(論文賞)

やました しゅんや
山下 駿野 君(准会員)
2019年東京工業大学工学院システム制御系博士前期課程修了.2021年日本学術振興会特別研究員(DC2).2022年東京工業大学工学院システム制御系博士後期課程修了.同年より日本学術振興会特別研究員(PD)となり, 現在に至る.博士(工学).分散最適化および意思決定プロセス解析の研究に従事.2020年度SICE制御部門研究奨励賞,同年度SICE論文賞・武田賞を受賞.

いりふね こうだい
入舟 広大 君(正会員)
2020年明治大学理工学部機械情報工学科卒業.2022年東京工業大学工学院システム制御コース修士課程修了.同年,トヨタ自動車(株)入社,現在に至る.在学時には,人の意思決定プロセス解析の研究に従事.

はたなか たけし
畑中 健志 君(正会員)
2007年京都大学大学院博士後期課程修了.同年より東京工業大学助教,2015年より同准教授,2018 年より大阪大学工学研究科准教授,2020年より東京工業大学准教授となり現在に至る.Cyber-Physical & Human Systems の研究に従事.Passivity-Based Control and Estimation in Networked Robotics (Springer) などの著者.博士(情報学).2017年度SICE制御部門木村賞,2014年同パイオニア賞,2018年度同部門大会賞,2020年度SICE武田賞・論文賞,2016年同著述賞,2009, 2015, 2021, 2023年度同論文賞などを受賞.IEEE Senior Member.

わさ やすあき
和佐 泰明 君(正会員)
2011年東京工業大学工学部制御システム工学科卒業.2016年同大学大学院理工学研究科機械制御システム専攻博士後期課程修了.2014年日本学術振興会特別研究員DC1.早稲田大学で次席研究員,講師(任期付)を経て,2022年より同大学理工学術院専任講師.Cyber-Physical & Human Systemsに関する理論と応用などの研究に従事.2015年度SICE学会賞(論文賞)2018年度SICE学術奨励賞(研究奨励賞)など受賞.博士(工学).

ひらた けんじ
平田 研二 君(正会員)
1994年九州工業大学工学部卒業.1999年北陸先端科学技術大学院大学情報科学研究科博士後期課程修了(情報システム学専攻).同年大阪大学大学院工学研究科助手.2006年長岡技術科学大学技学研究院准教授.2008~2009年カリフォルニア大学サンタバーバラ校Visiting Research Scholar.2012~2013年同Academic Research Visitor.2018年富山大学学術研究部工学系教授.拘束条件を有するシステムやハイブリッドシステムの解析と制御,情報通信を利用した制御系の設計や応用などの研究に従事.

うちだ けんこう
内田 健康 君(永年会員,フェロー)
1971年早稲田大学理工学部電気工学科卒業.1976年同大学院理工学研究科博士課程修了.1983年より早稲田大学教授(理工学術院電気・情報生命工学科),2020年より名誉教授.制御系の情報構造,ロバスト制御および最適化制御の理論と応用,生物や環境エネルギーシステムの制御,などの研究に従事.電気学会,IEEE の会員.

受賞論文「同調バイアスを有する集団避難行動のモデル化と受動性に基づくナッジ設計」
本論文では,避難開始選択問題における意思決定モデルについて考察する.まず,同調バイアスを有する個人の避難選択モデルを導入し,これを集団による避難選択モデルへ拡張する.つぎに,意思決定の静特性に焦点を当て,避難選択問題における同調バイアスモデルと,従来研究で提唱された一般の集団意思決定における同調バイアスモデルを比較する.この際,両バイアスモデルの共通点と相違点を明らかにする.さらに,同調バイアスが動的な避難選択に及ぼす影響を,システムの受動性の観点から解析する.最後に,避難選択を誘導するナッジメカニズムを受動性に基づき設計する.

(論文賞)

はまだ きよし
濱田 聖司 君(正会員)
2022年京都大学大学院工学研究科航空宇宙工学専攻博士後期課程修了.同年国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構入構,現在に至る.高精度軌道決定と最適化に関する研究に従事.博士(工学).システム制御情報学会,日本航空宇宙学会の会員.

まるた いちろう
丸田 一郎 君(正会員)
2011年3月京都大学大学院情報学研究科システム科学専攻博士後期課程修了.同年4月から12月まで日本学術振興会特別研究員PD(慶應義塾大学訪問研究員).2012年1月から京都大学大学院情報学研究科特定助教,2013年7月同助教,2017年5月から京都大学大学院工学研究科講師,2019年7月から同准教授となり現在に至る.制御理論とシステム同定の研究に従事.博士(情報学).システム制御情報学会,日本航空宇宙学会,IEEEなどの会員.

ふじもと けんじ
藤本 健治 君(正会員)
1996年京都大学大学院工学研究科修士課程応用システム科学専攻修了.1997年同大学院博士後期課程を中途退学.1997年京都大学大学院工学研究科助手.2004年名古屋大学大学院工学研究科助教授などを経て,2012年より京都大学大学院工学研究科教授.1999年オーストラリア国立大学客員研究員.1999-2000年デルフト工科大学客員研究員.2012年グローニンゲン大学客員研究員.2009-2022年理化学研究所客員研究員.非線形制御,確率システムの研究に従事.博士(情報学).IEEE, システム制御情報学会,日本航空宇宙学会,電子情報通信学会の会員.

はまもと けんいち
浜本 研一 君(正会員)
2000年京都大学大学院情報学研究科博士課程修了, 2001年鹿島建設(株)入社.技術研究所において建設施工の自動化に関する研究開発に従事.博士(情報学).

受賞論文「Locally Deforming Continuation Method Based on a Shooting Method for a Class of Optimal Control Problems」
本論文では最適制御問題の数値解法としてシューティング法に基づいた連続変形法を提案している.ここで言うシューティング法は最適制御問題を二点境界値問題に置き換え,ある時刻における随伴状態を探索パラメータとして境界条件を満たす解を見つける方法である.この方法は探索パラメータの数が少ないという利点を持つ一方で,収束条件が厳しく,解に近い初期解を与える必要がある.常に解に近い初期解を与えながら問題を解く方法として,最初に解きやすい評価関数を設定して問題を解き,その解を初期解として評価関数を少し変形した問題を解き,これを繰り返して最終的に元の問題を解く連続変形法が知られている.この方法では評価関数の変形量が小さければ変形前後の解が十分に近くなると期待できるが,既存の連続変形法では評価関数の変形量と変形前後の解の近さとの関係が明らかではなかった.本論文では評価関数を局所的に変形する局所連続変形法を提案し,評価関数の変形量と変形前後の解の近さの関係式を導出した.この関係式は連続変形法を適用する際の変形量の設定指標として用いることができ,提案法と併せて使用することで最適制御問題の効率的な求解が可能となる.

(論文賞)

こみやま つばさ
小宮山 翼 君(正会員)
2021 年横浜国立大学理工学部数物・電子情報系学科卒業,2023年同大学大学院理工学府博士課程前期修了.2023年よりKDDI株式会社に勤務,現在に至る.生体信号に対するパターン識別,ヒューマン・マシンインタフェースの研究に従事.

むかえだ たかゆき
迎田 隆幸 君(正会員)
2018年横浜国立大学大学院工学府博士課程修了.2021年同大学院理工学府博士課程後期修了.2018~2020年度日本学術振興会特別研究員(DC1).2021年度同特別研究員(PD)を経て,2022年より神奈川県立産業技術総合研究所常勤研究員.同年より横浜国立大学大学院環境情報研究院助教を兼務,現在に至る.博士(工学).オープンセット認識,生体信号処理,モーション解析に関する研究に従事.IEEE や日本機械学会の会員.

しま けいすけ
島 圭介 君(正会員)
2007年広島大学大学院工学研究科博士課程前期修了.2009年同博士課程後期修了.200年~2008年日本学術振興会特別研究員(DC1),2009~2012年同特別研究員(PD),同年横浜国立大学大学院工学研究院助教,2013年同准教授を経て,2022年より同大学院環境情報研究院准教授,現在に至る.2017年Italian Institute of Technology の客員研究員を兼務.2019年よりUNTRACKED株式会社CEO 兼務.博士(工学).生体信号解析,パターン識別,ヒューマン・マシンシステムなどの研究に従事.IEEE,日本機械学会などの会員.

受賞論文「混合余事象分布を内包した確率ニューラルネットに基づく5指駆動型ロボットハンドのEMG制御」
皮膚表面から非侵襲に計測できる筋電位(EMG)信号は腕切断者の残存筋からも取得でき,EMG信号に基づく制御が可能な筋電義手が数多く開発されている.従来法では予め設定した動作のみを学習,識別することで義手の制御を実現しているが,学習時に想定しない未知の動作(未学習動作)が入力された場合に誤識別に起因した予期しない動作が生じるという問題が存在する.想定外の挙動は物体の把持が突然解除されるような危険なインシデントを誘発する恐れがあり,本論文では未学習動作に起因する誤動作を防止できる五指駆動型ロボットハンドの新たなEMG制御インタフェースを提案する.提案システムでは動作識別部に未学習動作に対する事後確率を推定可能な確率ニューラルネットを利用し,ロボットハンドにおける学習動作の再現と意図しない動作の発生防止の両方を実現した.五指駆動型のロボットハンド制御ではEMG信号の変化が微小で分類困難な手指動作を高精度に推定する必要があるが,提案法は複雑な手指動作群に対しても従来法より優れた分類性能を記録し,提案法の有効性が示された.

(論文賞)

よこた たかよし
横田 孝義 君(正会員)
1984年3月東京工業大学大学院総合理工学研究科精密機械システム専攻博士後期課程修了.工学博士.同年4月から2009年3月まで(株)日立製作所日立研究所勤務.1988年~1989年米国カーネギーメロン大学客員研究員,2009年4月京都大学大学院工学研究科都市社会工学専攻特定教授,2012年4月から2022年3月まで鳥取大学大学院工学研究科情報エレクトロニクス専攻教授.2023年4月より東京情報デザイン専門職大学教授となり現在に至る.高度交通システム(Intelligent Transport Systems)をターゲットとした位置情報処理,最適化アルゴリズムなどの研究に従事.電子情報通信学会,IEEEの会員.2019年第26回ITS World Congressにて Best Scientific Paper Awardを受賞.

受賞論文「Vehicle Localization by Dynamic Programming from Altitude and Yaw Rate Time Series Acquired by MEMS Sensor」
自動車の位置を特定する方法として現在、地球航法衛星システム, Global Navigation Satellite System(GNSS)の利用が一般的である.しかし、GNSSは高層ビルによる衛星からの電波の受信状況の劣化等により測位精度が低下してしまうという課題がある.そこで本論文ではGNSSの代替手段として車両に搭載したMicro Electro Mechanical Systems(MEMS)センサで計測した道路の標高プロファイルと角速度(ヨーレート)のプロファイルを特徴量として扱う測位方式を提案した.提案方式ではあらかじめ正確な位置とともに収集した走行車両の上記2種のプロファイルを参照データ群として、測位対象の車両がMEMSセンサで現在取得している標高および角速度(ヨーレート)のデータプロファイルを動的計画法により走行速度逐次を推定しながら照合することで現在位置を推定しようとする方法である.実際に筆者は鳥取県内の峠道と平坦な部分を含む県道(吉岡温泉から鹿野温泉の区間)9.8kmで実際の走行実験を行い、おおむね全区間において20m以下の誤差で測位可能であることを示した.

(技術賞)

ふじい えり
藤井 絵理
2018年慶應義塾大学大学院理工学研究科開放環境科学専攻修士課程修了.同年アズビル株式会社入社.入社以来,光応用計測技術を用いたセンサ開発業務に従事.

ふるや まさし
古谷 雅
2000年筑波大学大学院理工学研究科修士課程修了.同年株式会社山武(現アズビル株式会社)入社.入社以来,ファクトリーオートメーション向けの,光応用計測技術を利用したセンサ開発に従事.

ふじわら ひさとし
藤原 久利
1985年北海道大学工学部応用物理学科卒.同年山武ハネウエル株式会社(現アズビル株式会社)入社.入社以来,光を利用したセンサ開発業務に従事.

受賞論文「COAXIAL DISPLACEMENT SENSOR USING A LATERAL SHEAR INTERFEROMETER WITH A PHASE GRATING」
産業用途における光学式非接触距離計測法として一般的な三角測量法では,オクルージョン(死角)による測定不能領域が生じるという課題があり,その課題を解決するための計測手法を開発した.本手法では,同軸光学系であるラテラルシアリング干渉計を距離計測に応用することによるオクルージョンの防止,光線分岐に位相格子を用いることによるシンプルかつ量産に有利な光学系,干渉縞を解析信号で表現し,その瞬時位相を用いることによる距離計測の高分解能化を実現したことが特徴である.

(著述賞)

あかい なおき
赤井 直紀 君(正会員)
2016年宇都宮大学大学院博士後期過程修了,博士(工学)取得.同年名古屋大学未来社会創造機構特任助教,2019年より名古屋大学大学院情報学研究科特任助教,2020年より名古屋大学工学研究科助教,同年,株式会社LOCT代表取締役兼任,現在に至る.ロボットの自律移動に関する研究,特に自己位置推定に関する研究に主に従事.IEEE,日本ロボット学会,日本機械学会.

受賞図書「LiDARを用いた高度自己位置推定システム
―移動ロボットのための自己位置推定の高性能化とその実装例―」
自動運転などの自動走行を実現するにあたり,自己位置推定は基本技術となっている.しかし自動運転のような高い安全性が要求されるケースに対して,自己位置推定は十分な技術となっていないと考えている.本書は,この考えを基とし「自己位置推定の信頼性を向上させること」を目指して著者が行ってきた研究をまとめたものである.特に,自己位置推定の高性能化を実現するにあたり,自己位置推定以外の問題を解く様な定式化を行い,結果として高性能化を実現する例を紹介している.このような自己位置推定以外の問題を同時に解いて性能向上を実現することを「自己位置推定の高度化」と呼んでいる.

(著述賞)

いしざき たかゆき
石崎 孝幸 君(正会員)
2012年東京工業大学大学院情報理工学研究科博士課程修了.2012年11月同研究科助教.2020年4月工学院システム制御系准教授.2011年日本学術振興会特別研究員(DC),2012 年同研究員(PD)兼スウェーデン王立工科大学客員研究員.博士(工学).数理学の立場からスマートグリッドの開発や原子時計ネットワークによる分散時系生成に関する研究に従事.エネルギーインフラ強靭化への貢献により令和3年度科学技術分野の文部科学大臣表彰若手科学者賞を受賞.その他,システム制御分野の主要な国際論文賞であるIEEE Control Systems Magazine Outstanding Paper Award,当該分野を代表する若手研究者を顕彰する計測自動制御学会制御部門パイオニア賞などを受賞.

かわぐち たかひろ
川口 貴弘 君(正会員)
2013年慶應義塾大学大学院理工学研究科前期博士課程修了,同年(株)東芝入社,2015年まで研究開発センターに勤務,2017年慶應義塾大学大学院理工学研究科後期博士課程修了,同年より東京工業大学工学院研究員,2019年より同特任助教,博士(工学),2020年より群馬大学大学院理工学府の助教となり,現在に至る,システム同定,状態推定,分散制 御系設計の研究に従事,システム制御情報学会,電気学会の会員,2019年度計測自動制御学会論文賞を受賞.

かわべ けんいち
河辺 賢一
2007年3月早稲田大学理工学部電気・情報生命工学科卒業.2009年3月東京大学大学院工学系研究科電気工学専攻修士課程修了.2012年3月同電気系工学専攻博士課程修了.2012~2016年富山大学大学院理工学研究部客員助教.2016年東京工業大学工学院電気電子系助教,現在に至る.その間、2016~2017年ドイツアーヘン工科大学客員教員.主として,電力系統の解析・運用・制御に関する研究に従事.博士(工学).電気学会, IEEE, CIGRE会員.

受賞図書「電力系統のシステム制御工学(計測・制御セレクションシリーズ4)」
本書では,システム制御分野の学生や研究者,技術者を主な読者に想定して,システム制御工学を専門とする著者が,システム制御工学のことばで電力システムの構造や数学的な基礎を解説している.また,著者らの研究グループが開発する数値シミュレーションプラットフォームであるGUILDA(Grid & Utility Infrastructure Linkage Dynamics Analyzer)を活用して,電力システムの解析や制御に関する数値シミュレーション環境を読者が独力で構築できるように,MATLABによるオブジェクト指向プログラミングの基礎を解説している.

(新製品開発賞)

受賞製品「スマートHARTモデム 形AZ-1SHM」
アズビル株式会社 殿
PA市場におけるプラントでは,分散制御システムの4-20mAアナログ計装資産を利用して段階的にDX化を進めることが可能なHART(Highway Addressable Remote Transducer)通信が,機器管理などのホストシステム・フィールド機器間の通信プロトコルとして利用されている.スマート HART モデム 形AZ-1SHMは,ホストシステムが動作するPC と HART対応フィールド機器(HARTr機器)をUSBまたはBluetoothrで接続する通信インタフェースであると同時に,付属専用ソフトウェアとの組み合わせで,HART機器の導入やメンテナンス作業などのフィールドワークを効率良く実施するサービスツール機能を提供している.また,専門知識を要するオシロスコープやバスアナライザーなどの解析機器の代わりに,HART通信トラブル解析のためのデータを容易に得ることを可能とした.
(会誌「計測と制御」Vol.61 No.5(2022 年5 月号)掲載)
注)Bluetooth rのワードマークおよびロゴは,Bluetooth SIG,Inc.が所有する登録商標です.
注)HARTrは,FieldComm Groupの登録商標です.

(新製品開発賞)

受賞製品「赤外線アレイセンサシステム」
アズビル株式会社 殿
赤外線アレイセンサシステムは,床・天井・壁の表面温度を赤外線アレイセンサで計測することで,空調対象エリアが目標の室温に到達するために必要な投入熱量を直ちに演算することができる.これにより室内の熱負荷の変化に素早く反応するフィードフォワード制御が実現でき,省エネも達成できる.また,計測した床面の温度分布から人を検知する事が可能である.これによりエリアの人の在/不在による照明制御やエリアの人数に応じた外気取入れ制御などに応用可能である.解像度,レンズ視野角,取付方法が異なる7種類のセンサを使い分けることで,オフィスから展示会場まで様々な建物に適用することができる.
(会誌「計測と制御」Vol.61 No.8(2022 年8 月号)掲載)

(新製品開発賞)

受賞製品「バーナコントローラ 形AUR255/455」
アズビル株式会社 殿
バーナコントローラは工業用の燃焼炉を安全に運転する為の燃焼安全制御機器であり,主に燃焼制御と燃焼監視の機能を担っている.このバーナコントローラ形AUR255/455は,燃焼安全制御に関する機能は従来と同じ機能を有している.一方,バーナコントローラの設計基準は新しい国際安全規格が更新されることにより大きく変化した.これに適合する為,形AUR255/455の設計は,従来のアナログ回路ベースから,二重化CPUによる安全制御のソフトウェア化・デジタル化を行った.そして,このソフトウェア化・デジタル化設計にともない,内部に燃焼炉の予防保全に利用することを想定したバーナヘルスインデックスTM(Burner Health Index)という新しい情報処理されたバーナ健全性指標データ搭載した.このITデータを利用することにより,燃焼炉の「見える化」が促進され,効率的な設備運用が期待できる.
注)バーナヘルスインデックスTMはアズビル株式会社の商標です.
(会誌「計測と制御」Vol.61 No.1(2022 年1 月号)掲載)

(教育貢献賞)

ひらた みつお
平田 光男 君(正会員)
1996年千葉大学大学院自然科学研究科修了.同年千葉大学助手,2004年宇都宮大学助教授,2007年同准教授,2013年同教授,現在に至る.2002~2003年カリフォルニア大学バークレイ校機械工学科客員研究員.ロバスト制御,ナノスケールサーボ制御,およびそれらの産業応用に関する研究・教育に従事.博士(工学).計測自動制御学会論文賞,著述賞,制御部門パイオニア技術賞など受賞.システム制御情報学会,電気学会,IEEE などの会員.

受賞教育活動「SICEセミナーにおける教育貢献」
受賞者は,SICEセミナーの講師として,長年にわたり計測自動制御学会における制御工学の教育活動に貢献してきた.1998年の「実モデルにおけるモーションコントロールの基礎」からはじまり,2001,2006,2007年に「実践的な制御理論」,2008年に「ロバスト制御」,2011,2012年に「ロバスト制御入門」,2013年に「制御系設計の基礎・実践」の講師を務めた.そして,2014年にはじまった「モデルベースト制御系設計~モデリングから制御系設計までを系統的に学ぶ~」においては,制御系設計編「制御系設計~古典・現代からロバスト制御まで~」の講師を担当し,今年で10年目を向かえた.

(教育貢献賞)

おかじま ひろし
岡島 寛 君(正会員)
2004年大阪大学大学院工学研究科電子制御機械工学専攻博士前期課程修了.2007年同博士後期課程修了.熊本大学大学院自然科学研究科助教,2015年同准教授となり現在に至る.モデル誤差抑制補償器による制御システムのロバスト化に関する研究,車両の運動制御,マルチレート系や通信を含む制御系の設計などの研究に従事.博士(工学).IEEE,システム制御情報学会,電気学会の会員.

受賞教育活動「制御工学教育のための動画ポータルサイト「制御工学チャンネル」の運営およびSNSを活用したコミュニティ形成と活性化」
受賞者は,制御工学に関する様々な動画を自身が運営するYouTubeチャンネル「制御工学チャンネル」にて多数公開し,大学教育における初学者向けの動画コンテンツだけでなく,制御工学の専門的な動画など幅広く制御工学の啓蒙に寄与している.YouTubeチャンネルの登録者数は7000名を超えており,20代を中心に利用されている.さらに,制御工学の研究者や教育系YouTuberなどのYouTube動画をまとめた動画ポータルサイトを運営しており,その登録動画数は500を超える.動画ポータルサイト内ではJ-Stageの解説記事へのリンクや制御工学の書籍へのリンクがまとめられ,制御工学を体系的に学ぶ際の導入障壁を下げるという点において意義のある活動をしている.また,コロナ禍において制御工学のオンライン研究会を開催(計8回,真なるダイナミクスの追求による次世代システム制御理論の構築との共催,延べ500名超)し,他にもSNS(Facebook,Twitter,Slack)において独自の制御工学コミュニティを立ち上げて現在も広く利用されている等,制御分野内の研究者や企業技術者の交流の場を提供するという点にも教育的貢献がある.

(国際標準化賞 奨励賞)

しのだ ひろゆき
篠田 裕之 君(正会員,フェロー)
1988年東京大学工学部物理工学科卒.1990年同大学院計数工学修士,同年より同大学助手, 1995年博士(工学).東京農工大学講師,1999年UC Berkeley客員研究員を経て,2001年東京大学助教授,2012年同教授.空中触覚提示を含むハプティクス,二次元通信などの研究と教育に従事. Asia Haptics 2016 General chair, Euro Haptics 2018 Program co-chair, IEEE World Haptics Conference 2019 General co-chair を務める.

対象国際標準規格名:
・IEC TC100 TA18
・IEC TR 63344 ED1:2021
   MULTIMEDIASYSTEMS-HAPTICS-CONCEPTUAL MODEL OF STANDADISATION

IEC TC100 TA18において,触覚伝送技術の標準化にむけた道筋を示す「IEC TR 63344 ED1:2021(ハプティクスマルチメディアシステムのための標準化の概念モデル)」の策定を主導した.ハプティクスの応用技術を包括する初めての国際標準化への道を切り開いた.2022年10月,11月のIECサンフランシスコ会議では,その概念モデルから派生した特定分野向けの標準化が,ISO/IECと共同作業グループであるISO IEC /JTC1/SC29においても開始されていることが報告され,関連する標準化の活動が広がっている.また受賞者は,これらの活動の一環として,計測自動制御学会SI部門触覚部会におけるHaptics標準化検討WG開設を主導した.学術と標準化活動が有機的に連携できる環境を整え,Haptics標準化の今後の発展の基盤を築くとともに,テクニカルレポートの提出に続くTS (技術仕様書) やIS (国際規格) の提案にも貢献している.