2024年度計測自動制御学会 学術奨励賞の贈呈
2024年度計測自動制御学会 学術奨励賞贈呈のため,三平満司氏を委員長とする学会賞委員会において慎重に選考の結果,学術奨励賞研究奨励賞8件,学術奨励賞 技術奨励賞7件が理事会にて決定された.3月18日,早稲田大学西早稲田キャンパス(第15回定時社員総会開催時)にて贈呈式を行い,受賞者に賞状および副賞が贈呈された.
受賞者略歴および受賞論文概要
(学術奨励賞・研究奨励賞)8名
○ センサフュージョンを用いた骨ノミ切り抜き動作計測と動作モデルの構築
(第41回センシングフォーラム 計測部門大会で発表)
山梨大学・笠井 翔太 君
かさい しょうた
笠井 翔太 君(学生会員)
2000年生.2021年長野工業高等専門学
校機械工学科卒.2023年山梨大学工学部 機械工学科卒.2025年同大学大学院医工農学総合教育部修士課程工学専攻機械工学コース修了.同年,同専攻後期博士課程に進学.骨ノミ切削術トレーニングシミュレータの研究開発に従事.
整形外科や口腔外科では,骨ノミを用いた手術が行われるが,誤った力の加え方により,血管や神経を損傷するリスクがある.そこで,安全かつ効果的な訓練のため,手術シミュレータが開発されている.本論文では,臨場感を高める反力提示モデルの実現を目的とし,センサフュージョンを用いた骨ノミ切り抜き動作計測システムを開発した.さらに,計測データを基に力学モデルを構築し,支持点変位を有するバネ・マス・ダンパモデルによって,切削対象の塑性変形を表現した.加えて,提案モデルの有効性を実験データとの比較により検証した.
○ 不確かさを有する未知線形システムのデータ駆動型量子化制御
(第11回制御部門マルチシンポジウムで発表)
東京科学大学・髙木 伊織 君
たかき いおり
髙木 伊織 君(学生会員)
2000年新潟県生.2023年信州大学工学部電子情報システム工学科卒,2025年東京科学大学情報理工学院情報工学系修士課程修了.同年東京大学大学院情報理工学系研究科システム情報学専攻博士後期課程に進学し,現在に至る.データ駆動型制御,ネットワーク化制御に関する研究に従事.
本研究では,不確かさを有する未知離散時間線形システムに対する量子化安定化手法を提案した.先行研究では,直接データ駆動制御手法を用いた未知線形システムに対する最も粗い対数型量子化器設計が与えられている.しかし,現実の線形システムでは,環境の変化や経年変化によるシステムパラメータの摂動により,閉ループ系が不安定になる可能性がある.そこで本研究では,先行研究で示されている不確かさを有する線形システムのための対数量子化器設計を直接データ駆動型手法に拡張し,取得されたシステムデータには反映されていない可能性のある不確かさを考慮したロバストな量子化器設計法を与えた.数値シミュレーションにより,システムの不確かさ,データに含まれるノイズの大きさと制御入力の粗さ間に存在するトレードオフの関係を明らかにした.
○ マルチロボット協調運搬のための大域情報共有機能を備えた
階層型分散方策の強化学習
(第11回制御部門マルチシンポジウムで発表)
奈良先端科学技術大学院大学・内藤 優星 君
ないとうゆうせい
内藤 優星 君(正会員)
1999年愛知県生.2022年豊田工業高等専門学校専攻科電子機械工学専攻修了.2024年奈良先端科学技術大学院大学情報科学領域博士前期課程修了.同年,トヨタ自動車株式会社に入社し,現在に至る.
マルチロボット協調搬送は,単独のロボットでは扱えない物体の搬送実現や効率向上に寄与することが期待されている.しかし,環境内で物体やロボットの数が変化し,物体の重量が未知である場合に適応可能な制御方策の設計は容易ではない.本研究では,複数の異なる重量を持つ未知の物体を複数のロボットが協調して運搬するための強化学習手法を開発した.提案手法では,運搬タスクを「荷物の選択」と「荷物の運搬」の2つに分割し,探索空間を縮小する.また,分散型の制御方策を採用しつつ,大域的な情報共有を導入することで,局所観測の制約下でも協調性を確保できるモデルを構築する.提案手法は,分散型タスク割当層,大域情報共有可能な動的タスク優先度生成層,分散型ロボット制御層の3層から構成され,集中学習・分散実行構造のマルチエージェント強化学習により最適化される.シミュレーションにより,提案手法の有効性を検証した.
○ 竜脚類の骨格から着想を得た多関節型アーム機構
(第24回システムインテグレーション部門講演会で発表)
東北大学・栢分 崚汰郎 君
かやわけ りょうたろう
栢分 崚汰郎 君(学生会員)
2001年滋賀県生.2024年東北大学工学部機械知能・航空工学科卒業.同年,東北大学大学院情報科学研究科応用情報科学専攻博士前期課程に進学し,現在に至る.移動機構や重力補償機構の研究に従事.
重力補償機構は重力の影響下で稼働する機械のエネルギー消費量の低減,安定性の増加を目的として広く用いられている.しかし,これまでに提案されている重力補償機構の多くは,多様なコンフィギュレーションや荷重変動に対応可能である一方で,構造が複雑化する傾向にあり,設計時に大きな制約が生じやすいことが課題であった.そこで本研究では,実用的な性能と簡素で設計しやすい構造を兼ね備える重力補償機能付き多関節アーム機構を提案する.提案機構の構造は,歴史上最大級の陸上動物である竜脚類の骨格から着想を得ており,首を模した多関節アームと,尾を模した重力補償用の多関節カウンターウェイト,そしてそれらをつなぐ腱を模したワイヤを用いて構成される.本稿では動作原理や基本構造を基にした実機の具現化や,シミュレーションを用いた重力補償機能の評価を行い,提案機構が90%近い重力補償能力を有することを確認した.
○ 人の関節潤滑機能を模した人体模倣ロボットの液体滲出軟骨機構の構成法
(第24回システムインテグレーション部門講演会で発表)
東京大学・三木 章寛 君
みきあきひろ
三木 章寛 君(学生会員)
2021年東京大学工学部機械情報工学科卒業.2023 年東京大学大学院学際情報学府学際情報学専攻修士課程修了.2023年東京大学大学院情報理工学系研究科知能機械情報学専攻博士課程,現在に至る.生体模倣ロボティクスやロボットシステムの研究開発に従事.
人間の関節は,骨,軟骨,靭帯,滑液,および関節包から成る開放型の関節であり,柔軟性や耐衝撃性など,さまざまな利点を有する.しかし,この構造をロボットに複製する場合,ベアリングが存在しないため,摩擦の問題が避けられない.そこで,本研究では,人間の軟骨の液体滲出機能を模倣することに焦点を当てる.ゴムベースの3Dプリント技術と吸水性素材を組み合わせ,生物模倣ロボット用に汎用性が高く,設計が容易な軟骨シートを作成する.作製した平面状の軟骨シートについて,液体滲出機能と摩擦係数の両方を評価する.さらに,曲面形状の軟骨を作成し,骨,靭帯,滑液,関節包と組み合わせた開放型生体模倣球関節を実際に作製することで,可動域や柔軟性を確認し,提案した軟骨シートがそのような関節の構築に有用であることを実証する.
○ マルチカメラを用いた紙の形状推定システムの開発
(第24回システムインテグレーション部門講演会で発表)
千葉大学・高橋 聖奈 君
たかはし せな
高橋 聖奈 君(学生会員)
2000年生.2025年千葉大学大学院融合理工学府基幹工学専攻博士前期課程修了.現在に至る.視覚センサを用いた折り紙の形状トラッキングシステムの開発に従事.
本研究グループは,柔軟な物体を扱うロボットの一例として折り紙ロボットの研究に取り組んでおり,複雑な紙折り動作の実現を目指して紙のリアルタイム形状推定システムの開発を進めている.本システムは,紙点群と物理モデルを組み合わせることで紙の形状をトラッキングするが,オクルージョンにより点群の大部分が欠損すると推定が不安定になる点や,物理モデルに折り目をリアルタイムで付与することが困難である点が課題であった.そこで,点群欠損の対策として,計4台のカメラによるマルチカメラシステムで多角度から紙点群を取得し,物理モデルについてはあらかじめ折り目を発生させる手法を採用した.その結果,従来手法と比較して,点群が取得可能な紙領域が拡大し,物理モデルが実際に折り畳まれた紙の形状をより正確に再現できるようになった.実験では,安定した点群の取得と高精度な物理モデルによるトラッキングにより,紙の正方基本形の形状推定に成功した.
○ GNSS に依存しない天測航法への適用に向けた天空の偏光分布に基づく太陽位置推定
(第24回システムインテグレーション部門講演会で発表)
川崎重工業(株)・磯村 直道 君
いそむらなおみち
磯村 直道 君(正会員)
1992年生.2017年千葉大学大学院工学研究科人工システム科学専攻博士前期課程修了.同年,川崎重工業株式会社入社,現在に至る.主として,航空機の飛行制御や航法に関する研究に従事.2018年度日本機械学会賞(論文)受賞.日本機械学会員.
航空機,船舶等で広く使用されるGNSS(全球測位衛星システム)に対して電波妨害・障害が起きた際の安全性向上のため,非GNSS航法によるバックアップが期待されている.一方,地球大気中でのレイリー散乱により,天空には太陽位置に依存した偏光分布が形成されており,砂漠アリや渡り鳥は,太陽が雲に遮られても天空の偏光から自身の方位を把握することが知られている.本研究では,GNSSを使用しない昼間の天測航法への適用を見据え,偏光カメラで撮影された全天空偏光画像とモデルから生成される模擬画像の画像照合による太陽位置(方位角及び仰角)推定アルゴリズムを設計した.大気分子のみが考慮されたレイリーの1次散乱モデルを用いる従来手法に対し,本研究では大気エアロゾルによる多重散乱が考慮されたモデルを導入した.日の出から日の入までの実画像を使用して提案手法の推定精度を検証し,従来手法と比べて太陽位置の推定精度が向上することを明らかにした.
○ 自動アセンブリに向けたマニピュレータ経路とレイアウトの同時最適化
(第24回システムインテグレーション部門講演会で発表)
東京理科大学・村上 雷伊斗 君
(学術奨励賞・技術奨励賞)7名
○ 可聴音ベースの反響定位に基づく3次元空間認識の5チャネルマイクロホンアレイによる向上
(第24回システムインテグレーション部門講演会で発表)
東京科学大学・小林 宙輝 君
こばやし ひろき
小林 宙輝 君(正会員)
1999年神奈川県生.2024 年東京工業大学大学院(現東京科学大学)工学院システム制御系システム制御コース修士課程修了.同年,本田技研工業株式会社入社,現在に至る.深層学習を用いたロボット聴覚における環境認識に関する研究に従事.
近年,ロボティクスの分野では環境認識技術として音波を用いたエコロケーションに関する研究がなされている.中でも可聴音は超音波と比べ音の減衰が遅く,曝露等の健康被害への危険も少ないことから可聴音ベースでエコロケーションを行う可能性が示唆されている.従来手法であるMixed ELSR は,送受信音を用いて周辺環境の3次元視覚シーンを再構成できる.しかし,Mixed ELSRは1対のマイクロホンで構成されるため,入力信号は同期して収録されず,また,マイクロホンの間隔や配置の検討が不十分であることから,必ずしも手法の性能を十分に引き出しているとは言えない.そこで本研究ではマイクロホンの数・間隔・配置に着目し,5ch マイクロホンアレイを導入することを提案する.同期収録を導入し,従来手法で未考慮だった仰角方向の特徴量を考慮することで性能改善を図る.本稿では,定性評価と定量評価の両側面から提案手法の有効性を確認した.
○ 掘削模擬ロボットのベイズ最適化における粒子形状の影響調査
(第11回制御部門マルチシンポジウムで発表)
大阪大学/コマツ(株)・小山 幹 君
こやま もとき
小山 幹 君(学生会員)
1995年静岡県生.2019年大阪大学大学院基礎工学研究科機能創成専攻博士前期課程修了.同年,株式会社小松製作所に入社.2022年大阪大学大学院工学研究科機械工学専攻博士後期課程に入学し,現在に至る.建設機械の自動化及び制御パラメータの最適化の研究に従事.
ホイールローダが掘削する地山の土質や形状は逐次変化するため,自動掘削を行う際には制御パラメータを逐次適合させる必要がある.そこで,ベイズ最適化を用いた複数回の試行に基づく実験計画法において,制御パラメータを逐次探索,修正する手法を提案する.本論文では,掘削を模擬したロボットマニピュレータを用いて,被掘削物の粒子形状が最適解に与える影響について調査した.球形/角状の2 種類の粒子においてパラメータ探索は数十回程度で収束し,報酬(掘削土量)とコスト(仕事量)のパレート曲線を推定可能であることを示した.また,球形粒子の場合はバケット操作優先の比較的滑らかな掘削に収束するのに対して,角状粒子の場合はバケットへの十分な土砂充填のためにバケットをしゃくる操作に収束することが明らかとなった.これは熟練オペレータの土質に応じた実際の操作変更と同傾向であり,最適化を通じて熟練オペレータの経験知を自動で獲得できたと考える.
○ 粒子フィルタと制御バリア関数を組み合わせたオンライン動作計画と移動ロボットへの適用
(第11回制御部門マルチシンポジウムで発表)
三菱電機(株)・渡辺 隆之助 君
わたなべ りゅうのすけ
渡辺 隆之助 君(準会員)
1994年生.2022年東京工業大学(現・東京科学大学,改称)工学院システム制御系博士課程修了.同年,三菱電機株式会社に入社し現在に至る.確率システム,非線形制御などの研究および理論の応用先として不確かな環境下における自律移動システムの先行開発に従事.
本研究では,移動ロボットのオンライン動作計画として,特に人や様々な移動体が存在する不確かな環境を想定した一手法を提案した.我々のグループでは粒子フィルタに基づいた動作計画手法を移動ロボットに適用する先行開発を進めていたが,障害物が多く不確かな環境下においては経路探索のための粒子が消滅し適切な動作を得るのが難しいという課題があった.そこで,粒子の消滅を抑制するための入力補正として,制御バリア関数のアイデアを採用した.制御バリア関数によって障害物に衝突しない移動可能な領域を重点的に探索することができ,粒子の密度を保つことで適切な動作計画を得ることができる.本論文内では,差動二輪型の移動ロボットを対象として手法の有効性をシミュレーションおよび実機による検証で確認している.
○ 精子評価分布推定のための動画認識モデルの構築と損失関数EMDによる学習
(第23回コンピューテーショナル・インテリジェンス研究会で発表)
横浜国立大学・中川 勇人 君
なかがわ はやと
中川 勇人 君(正会員)
1998年愛知県生.2022年横浜国立大学理工学部数物・電子情報系学科卒.同年同大学大学院理工学府数物・電子情報系理工学専攻入学.機械学習による動画像認識,医療応用の研究に従事し,2024年修了.同年中部電力パワーグリッド株式会社に入社し,現在に至る.
男性不妊治療法の一つである顕微授精において,精子の選別は受精の成功率に大きな影響を与えるため,迅速かつ正確に行う必要がある.この作業には熟練した専門知識が必要であり,需要増加に対する専門家の負担軽減が課題となっている.精子の評価を一部自動化する手法がいくつか提案されているが,精子の運動性と形態の両方を考慮できるシステムや,顕微授精に対する精子の適合性を直接評価できるシステムは存在しない.本研究では複数の専門家が評価した精子動画データセットを作成し,これを用いてend-to-end の精子評価分布推定モデルを構築した.また,高精度なモデルを開発するため,適切な特徴抽出器と損失関数の探索を行った.特徴抽出器としてTimeSformerが最高精度を示し,画像認識モデルよりも高い精度を示したことから,動画による分析の必要性が示唆された.損失関数はEMDLoss が適切であることを確認し,特にスコアが低いセグメントにおいて精度を保つ効果が確認された.
○ 森林作業道における走行時の滑落防止のための複数LiDAR
を用いた走路検出
(第24回システムインテグレーション部門講演会で発表)
千葉工業大学・岩澤 尚樹 君
いわさわ なおき
岩澤 尚樹 君(学生会員)
2001年千葉県生.2024年千葉工業大学先進工学部未来ロボティクス学科卒,同年同大学院先進工学研究科未来ロボティクス専攻に進学し,現在に至る.3次元点群や画像を用いた森林作業道での自動化に関する研究に従事.
林業の分野においてICT 技術を活用した現場の効率化が求められており,特に森林作業道における木材運搬の安全性の向上が期待されている.一般に,森林作業道の多くは断崖絶壁であり道幅は必要最低限と狭いため,木材運搬車の運転時に滑落事故が発生している.本研究では,走行時に車載センサから安全な走路を検出する手法を提案し,実環境において熟練の森林従事者の判断基準に基づきその性能を評価した.具体的には,木材運搬車に複数のLiDAR を搭載し,車両下部から前方の広範囲の3次元点群から走路を判定する車載システムを構築した.提案システムでは,取得した3次元点群に対し段階的な領域分割と局所的な平面推定を繰り返すことで,凹凸や縦段勾配のある森林作業道でも頑健に走路検出が可能である.実際に供用中の森林作業道において提案システムの評価を実施し,崖への滑落を避けるとともに壁面への衝突も避けることが可能な安全な走路が,十分な余裕をもって検出可能であることを検証した.
○ Wheel Tack:車いすスポーツの直進性と旋回性をセンシングする単眼ビジョンシステム
(第24回システムインテグレーション部門講演会で発表)
国立スポーツ科学センター・相原 伸平 君
あいはら しんぺい
相原 伸平 君(正会員)
1989年生.2014年早稲田大学大学院先進理工学研究科修了.(株)日立製作所中央研究所を経て,2016 年より(独)日本スポーツ振興センター ハイパフォーマンススポーツセンター 国立スポーツ科学センター スポーツ科学研究部門研究員,2024 年より同センタースポーツ情報処理技術研究室 室長となり,現在に至る.専門はスポーツ情報学.競技スポーツを対象に,映像解析,機械学習等を用いたIT システムの研究・開発に従事.
近年,スポーツ分野において選手の位置測定にAI を活用したトラッキングシステムが導入されているが,車いすスポーツへの適用事例は依然として限られており,簡易かつ低コストで車いすの運動データを取得する手法は確立されていない.本研究では,単眼カメラ映像にディープラーニング技術を適用し,映像から車いすの姿勢を推定することにより,選手の位置および向きを導出するトラッキングシステム「Wheel Tack」を開発した.光学式モーションキャプチャシステムを用いて得られた真値との比較により,位置に関しては二乗平均平方根誤差(RMSE)が0.14~0.18 m,向きに関しては平均誤差が4.95~6.77°という高精度を実現した.本システムにより,スポーツ現場において車いすの運動データを容易に取得でき,選手の移動パフォーマンスを定量的に評価することが可能となる.車いすスポーツにおける戦術分析およびトレーニング支援の高度化が期待され,競技力向上に寄与することが見込まれる.
○ クジラ用ローバーにおける吸着力向上のためのバルブ機構改良
(第24回システムインテグレーション部門講演会で発表)
山形大学・阿部 広太 君
あべ こうた
阿部 広太 君(正会員)
1999年宮城県生.2024年山形大学大学院理工学研究科機械システム工学専攻博士前期課程修了,現在コクヨ株式会社勤務.収納庫生産設備の保守と生産性の改善に従事.
生物の体に小型の記録計を直接取り付け,その生態や周囲環境を探る手法をバイオロギングと呼ぶ.バイオロギングによって,これまでマッコウクジラの潜水深度や遊泳速度の解明が行われてきた.胃の内容物より,彼らがダイオウイカ等の中深層性頭足類を捕食していることは明らかであるが,実際の様子が撮影されたことはなく,いかにして捕食しているかは不明である.そこで,我々はクジラ用ローバーの開発を行ってきた.クジラ用ローバーはクジラ背面に吸着後,体表を吸着移動することで頭部へ接近し撮影を行う装置である.本稿ではクジラ用ローバーの吸着力を向上させることを目的とし,吸盤の着脱の切り替えを担うバルブ機構の改良を行った.具体的には,機械的精度を出しにくいゴム製のバルブヘッドをステンレス化し,代わりにO リングを用いることでバルブを実現した.また実地試験を行い,改良機がクジラ体表上で過去最大の深度まで到達できたことを示した.