論文集抄録
〈Vol.59 No.12(2023年12月)〉

タイトル一覧
[論 文]


[論 文]

■ 経路選択時の経験情報による影響を考慮した群集挙動モデル

東京都立大学・村沢 直哉,児島 晃

本論文では,ハイブリッドシステム表現に基づく群集挙動のモデル化に関する考察を行い,不確かな経験情報から主観的な経路選択を行う群集挙動モデルをプロスペクト理論に基づいて導いた.そして,経路選択のシミュレーションにより提案モデルの性質を調べ,1) 歩行者の挙動が予測の変化に過敏に反応し,変動が継続する傾向があること,2) 経路ごとの配分人数が経路の容量と歩行者の経験情報を反映させた均衡状態に近づき,プロスペクト均衡点が把握できる可能性があること,を明らかにした.そしてこれらの結果から,歩行者のもつ参照点の移動が効果的な誘導に援用できることなどその展望を示した.


 

■ 周辺環境の3次元点群データ補間のためのU-Net型生成器を持つ 敵対的生成ネットワークと補間結果評価のための指標の提案

和歌山大学・和田 拓真,中村 恭之

本論文では,周囲環境を計測して得られた大規模な3次元点群データを補間するために,U-Net型生成器を持つ敵対的生成ネットワークを提案する.従来からの深層学習に基づいた3次元点群補間法では,大規模な3次元点群データを処理する際には空間的計算量が莫大になり一般的な計算機環境では実行困難になるという問題がある.提案するネットワークには,この問題点を解決する工夫を施してある.また,3次元点群データ補間の性能を評価する基準として,従来からいくつかの距離尺度が用いられていたが,それらは,2つの点群間で,点同士の対応関係を考慮せず,単純に最近傍点との距離を計算するだけであるため,ある入力点に対して生成された点が,入力点の近傍に生成されているかどうかを反映するような類似度を計算できない.そこで,本論文では,Mechanical scanningタイプのLIDARから取得された3次元点群の補間結果の善し悪しを評価するための評価基準を新たに提案し,これを学習時の損失関数と利用する.


 

■ Passivity Shortageに基づく離散時間3次元位置姿勢同期制御

明治大学・伊吹 竜也,東京大学・山内 淳矢,東京工業大学・畑中 健志

本論文では,3次元空間上の複数の剛体から成る剛体ネットワークに対して,相対位置姿勢情報のみ基づく分散型の位置姿勢同期制御則を提案する.特に,本研究では姿勢を表わすSO(3)の構造を保存する指数写像を導入することで,SE(3)構造を保存する離散剛体運動モデルを導出し,そのPassivity Shortageという性質を示す.姿勢同期,位置姿勢同期それぞれに対して,Passivity Shortageに基づく制御則の提案,および収束性解析を行う.この収束性解析の結果から,同期を保証するためのゲイン設計の指針が得られる.さらに,数値シミュレーションにより提案手法と収束性解析の妥当性を示す.


 

■高精度時刻同期と経路冗長化を実時間で両立するEtherCAT通信制御手法の提案と実機評価

日立製作所・丸山 龍也

産業オートメーションの高度化を支える制御ネットワークにおいて,ICTシステムとの連携容易性,通信性能,経済性といった理由から産業用Ethernetの利用が普及している.産業用Ethernetを特徴づける通信指標として,通信遅延,時刻の同期精度,ネットワーク障害時の復旧時間がある.EtherCATは,これらの各指標を高い次元で実現する制御ネットワークであるが,高精度な時刻同期と経路冗長化を両立することが困難である.本研究では,その技術的理由を述べるとともに,EtherCATの自動転送や論理アドレスといった特徴を活用した通信制御手法を提案する.提案手法は,通信経路の状態に応じた通信フレームの転送制御,及び,通信フレームで配信される基準時刻に対する遅延変化量の実時間補正で構成する.これにより,EtherCATの低遅延性,高精度同期,経路冗長化を同時に実現する.4つの被制御装置に対して,1ms周期で時刻配信データグラムを通信し,100μs周期の同期出力の立ち上がり誤差を10秒間評価した.同期させた状態から被制御装置間のケーブルを取り外した場合であっても,同期誤差を最大で290nsとし,提案手法の有効性を確認した.


 

■ 複数の食事シナリオに対応可能な血糖値のTube-basedモデル予測制御

富士通/神戸大学・飯村 由信,神戸大学・若生 将史

本稿の目的は,モデル予測制御のアプローチにより,事前に予告された食事シナリオに対して血糖値を許容範囲内に保つことである.血糖値制御のモデル予測制御では,システムの非線形性と食事シナリオごとに決定変数を設定する必要性から,インスリン投与量を決定するための素直な数理最適化問題は,多くの決定変数を持つ非線形最適化問題となる.本稿では,非線形システムを線形システムで近似し線形化誤差を外乱とみなしてチューブ法を適用することで,この数理最適化問題を凸2次計画問題として定式化する.さらに,食事による血糖値の上昇を外生入力を持つシステムに対する離散時間LQ制御により抑制し,決定変数の数を食事シナリオの数に依存しないようにすることで決定変数の数を減らす.


 

■ モデル探索アプローチによるサンプル値駆動型動的量子化器の設計

大阪大学・荻尾 優吾, 南 裕樹, 石川 将人

本論文では,制御入力が離散値であるような連続時間システムに対する,サンプル値駆動型量子化器の設計を考える.
構成は離散時間動的量子化器にサンプラおよびホールダを組み合わせたものとし,制御対象の連続時間モデルを離散化することで得られる離散時間モデルを用いて,最適な離散時間動的量子化器をモデルベースで設計するという手順を前提とする.
そして,この設計手順のもとで,離散値入力システムのふるまいが連続値入力システムのふるまいに近くなるような連続時間モデルを探索する方法を提案した.
本論文の最後では,いくつかの例により提案手法により動的量子化器を設計できることを示し,設計した連続時間モデルの性質や最適化の効率について評価と考察を行った.


 

■ ペトリネット禁止状態問題における制御プレース数を考慮したコントローラの設計

東京ロボティクス・久米 弘祐,
豊田工業高等専門学校・兼重 明宏,奈良工業高等専門学校・橋爪 進

散事象システムのモデルの1つにペトリネットがあり,その制御問題の1つにペトリネット禁止状態問題がある.それは,制御対象としてペトリネットと,その上での禁止マーキングの集合が与えられたとき,それら禁止マーキングに遷移しないようなコントローラを構成せよという問題である.従来研究では,その問題に対して可達なマーキング(許容マーキング)を減らさない最大許容コントローラを求める方法について検討されてきた.しかしながら,実システムにおいては,許容マーキング数が多少少なくなっても,安全面などからより簡単なコントローラの方が好ましい場合がある.本研究では,そのようなコントローラを求めるために2目的整数計画法を利用した方法を提案する.また,定式化した整数計画問題は計算量が増大するため,ペトリネットの縮約を用いた計算量削減についても検討した.最後に,シーケンス制御系に適用し,提案手法の有用性について考察した.