論文集抄録
〈Vol.55 No.12(2019年12月)〉

タイトル一覧
[論 文]


[論 文]

■ 熊本城の石垣復旧のための複合情報に基づいた石垣マッチング

熊本大学・岡島 寛,竹 祐亮,松永 信智,上瀧 剛

2016年の熊本地震では熊本県全域で甚大な被害を被った.熊本地震において,熊本の象徴的シンボルである熊本城が大きな被害を受けたことから,現在,国や県市町村などが一丸となって復旧に向けた取り組みを行っている.石垣復旧作業においては,熊本城の石垣が重要文化財であることから,どの石材が元々の石垣面のどの位置に配置されていたかを特定することは必要不可欠である.従来,石垣における石材が崩落した場合には石工職人が一つ一つ目視で元所在との照合作業を行っていたが,熊本地震で崩落した石材の数は数万個のオーダーであり,これまでにない規模の崩落であることから,照合作業を目視で行う従来の手法によって全ての石材を照合するためには膨大な時間と労力を要する.先行研究では,石材の輪郭照合によって崩落前の位置の特定を行っているが,似た形状の石材のマッチングは困難であるため,本論文では,輪郭マッチングだけでなく石材の表面積の大きさや照合済石材の落下位置情報を複合的に用いた石垣マッチングについて検討する.まず,各情報の石垣照合における有用性を検討し,機械学習アルゴリズムの一種であるソフトマージンSVMを用いた石材候補群の絞り込み手法を示す.さらに,複合情報に基づく石垣マッチングアルゴリズムを提案する.


 

■ マルチレート系の状態推定のための周期時変状態オブザーバのl2誘導ノルム評価による設計

熊本大学・岡島 寛,京都大学・細江 陽平,萩原 朋道

センシングの周期と制御周期が一致しているシングルレート方式の制御が多くの制御系で利用されている一方,センシング周期が制御周期に比べて長いマルチレート方式による制御の有用性も従来から知られている.このとき,マルチレート系に対して状態オブザーバの構成を工夫することで状態推定の周期と制御周期とを一致させ,シングルレートの系として制御系設計を行うアプローチは有用である.本研究では,マルチレート系に対して状態推定誤差の大きさの評価に基づいた周期時変状態オブザーバの設計論を展開する.具体的には,マルチレート系のシステムを周期時変システムとして捉え,サイクリングを施すことで時不変システムに帰着させる.さらに,サイクリングを施したシステムを利用することでl2誘導ノルムの解析問題を線形行列不等式(LMI)の求解問題に帰着させ,得られたLMIに基づいたオブザーバゲインの設計法を示す.本論文で提案したサイクリングに基づいた設計の枠組みは観測周期や観測タイミングが異なっている複数のセンサを含む系に対して適用が可能であるという点に特徴がある.最後に,提案したオブザーバの有効性は数値例を用いて評価する.


 

■ ポリトープ型不確かさを有する連続時間線形時不変システムに対するモデル誤差抑制補償器のロバスト性能解析

熊本大学・岡島  寛

制御システムのロバスト性能向上に特化した補償器として著者らはモデル誤差抑制補償器(MEC)を提案している.この枠組みでは,過渡特性を調整するための制御器は別途,既存の制御理論により与えられているものとし,モデル誤差や外乱の影響除去を目的としてMECを付加する.MECによる補償の結果,制御器側から見た見かけ上のモデル化誤差が低減され,過渡特性の調整を目的とした既存制御器とMECを統合した全体システムではロバスト性を保持しつつ高い過渡性能も実現できる.本論文は,MECに含まれる誤差補償器設計のアプローチとして,行列ポリトープ表現に基づいた不確かさを有する制御対象を考え,線形行列不等式を利用してMECにおけるロバスト性能($H_\infty$性能,$H_2$性能)の解析する手法を提案する.さらに,補償器設計のためのアプローチ方法を示す.提案した解析手法の有効性を数値例で確認すると共に,MEC内部のノミナルモデルを設定する手法についても検証する.この検証では,MEC内部のノミナルモデルは,必ずしも(従来から用いられているような)最尤値を選択することが制御結果に対して最も良いわけでないことを数値シミュレーションにより示す.


 

■ 受動性に基づく3次元空間内での外乱を考慮した剛体運動同期制御

東京工業大学・山内 淳矢,土井 護,伊吹 竜也,
大阪大学・畑中 健志,東京工業大学・藤田 政之

本論文では,外乱が加わっている状況下でSE(3)上の剛体運動同期を達成する制御則を提案する.まず,外乱モデルの一部情報を用いた制御則を提案する.つづいて,剛体運動の受動性に基づいて,提案した制御則が外乱を除去しつつ各剛体の運動を同期させることを証明する.さらに,提案手法の回転運動部分に着目したとき,相対情報のみで外乱を除去しつつ回転運動が同期することを示す.最後に,シミュレーション検証と実機ロボットを用いた実験検証により,提案手法の有効性を確認する.


 

■ 確率的動特性をもつ離散時間系に対する有界実補題

 京都大学・柳楽 勇士,細江 陽平,萩原 朋道

線形時不変系に対する有界実補題は,ロバスト安定解析において最も重要な道具の一つとして知られている.確率的動特性をもつ系に対する同様の補題も重要であり,実際A. E. Bouhtouri ら(1998)は状態が雑音に依存するような確率系に対する有界実補題を導出している.しかし,その系のクラスは限定的であり一般化の余地がある.本論文の目的は,(系の背後にあるランダム性を表現する確率過程が)i.i.d.の性質をもつような,より一般的な確率系に対して有界実補題の十分性を示すことである.また,その補題の妥当性を数値例により検証する.


 

状態のロバスト不変集合を用いた外れ値除去機能を有するMCVオブザーバの解析とオブザーバゲイン設計

熊本大学・岡島  寛

本論文では外れ値を含む観測を有する系に対するオブザーバ設計問題を考える.先行研究において,状態オブザーバにおける外れ値の影響除去を目的としてMCVオブザーバを提案した.MCVオブザーバでは複数時刻での観測値を独立に利用して状態推定値の候補を導出し,それらの候補のうち外れ値の影響を受けていない候補を,メディアンを利用して選択する手法である.このとき,MCVオブザーバによる状態推定では外れ値の影響除去性能は高い一方,複数の候補のうちどの候補が選択されるかは事前にわからない上に時刻毎に選択される候補が異なることから,定量的な評価や評価指標に基づく設計は難しかった.本論文では,定量的な評価に基づくゲイン設計法の一つとしてロバスト不変集合を用いたオブザーバゲイン設計法を提案する.この設計法はパラメータの一部を固定すれば線形行列不等式の枠組みで扱うことができるため設計が容易である.設計の結果として,設定した評価出力の大きさが一定値以下となることが保証される.提案手法の有効性は数値例を用いて確認している.


 

■ M系列符号を用いたTOF計測のバーニア効果に基づく高分解能化

 東京工業大学・木崎 航汰,大山 真司

本論文では,ワイヤレスセンサネットワークにおけるセンサ端末の位置推定を行うため,端末間での電波の伝播時間を高い分解能で計測する手法を提案する.位置計測手法の中でも伝播時間を用いる方法は周囲の環境の影響を受けづらいことから高精度な計測が可能であると期待されるが,その一方で電波の伝播速度は非常に速く,ワイヤレスセンサネットワークで用いられる安価なセンサ端末では十分な分解能で計測を行うことが困難であるという問題が存在する.この問題を解決するため,先行研究ではノギスの原理であるバーニア効果を応用して計測分解能を向上させる手法が提案されているが,計測に非常に時間がかかってしまうことや高精度な演算装置が必要となることが課題となっていた.そこで,疑似ランダム系列の一種であるM系列符号の相関特性を用いた伝播時間の計測手法を基にした,複雑な計算を必要としない新たな計測手法を提案する.M系列符号の相関特性を損なわないように適切にバーニア効果を組み込むための処理を施すことによって,計測の高分解能化と単純化を同時に実現する.また,実際に実験装置を構成して実験を行うことで,提案手法の有効性の評価や実機を使用する際に生じる問題の考察を行う.