論文集抄録
〈Vol.56 No.9(2020年9月)〉

タイトル一覧
[論 文]


[論 文]

■ ニューラルネットの軽量化のためのノイズシェーピング量子化器の設計

 大阪大学・南  裕樹,三菱電機・池田 智裕,大阪大学・石川 将人

本論文では,学習済みのニューラルネットをできるだけ推論精度を劣化させないように軽量化することを目的としている.
近年,ディープニューラルネットが注目されているが,そこで問題となるのが,ニューラルネットのサイズである.一般に,ニューラルネットのユニット間の結合重み係数は浮動小数点数で表されるため,その個数が爆発的に増大することによって,ハードウェア資源の限られたデバイスへの実装が困難になる.この問題に対して,著者らは,結合重み係数を離散値に変換する量子化器として,ノイズシェーピング量子化器を提案した.これは,ある場所で生じた量子化誤差をまだ量子化していない場所に拡散させることで,重要な情報をできる限り保存するというものである.ノイズシェーピング量子化器の性能は,量子化誤差をどこに拡散させるかに依存するが,その決定法は未確立であった.そこで本論文では,量子化誤差の拡散場所を決定する問題を定式化し,そして,その問題を巡回セールスマン問題に帰着することで,系統的に拡散場所を決定する方法を提案した.


 

■ 制御バリア関数を用いた時変の障害物回避のためのヒューマンアシスト制御

東京理科大学・五十嵐 基,高井 麻希,中村 文一

自動車の運転ミスなど,人間の操作ミスに起因する事故の低減は,現代社会の大きな課題である.状態制約を守るように人間の操作をアシストするヒューマンアシスト制御の実現が,制御工学における大きな課題として提起されている.近年,状態制約の取り組みとして制御バリア関数(CBF)を用いた制御法が注目されている.特に,人間の操作性向上を目的とした拡張CBFと,拡張CBFを用いた車両の安全保障と人間の自由な操作を両立するアシストシステムが提案されている.しかし,従来のCBFは,いずれも安全領域が時間によって変化しない場合のみを考慮しており,障害物が速度を持っている場合など安全領域が時変の状況における議論はされていない.そこで本論文では,拡張制御バリア関数を基に,安全領域が時間変化する場合にも対応できる時変制御バリア関数を提案する.さらに,提案した時変CBFを用いた,人間のいかなる操作に対してもシステムの安全性を保証するヒューマンアシスト制御法を提案する.本論文では,コンピ ュータシミュレーションにより提案法の有効性を明らかにする.最後に,移動システム間の安全を保障する安全バリア保障との比較を行い,提案法の優位性を示す.


 

■マルチステアリング・ヘビ型ロボットのリアプノフの安定性理論に基づく全身経路追従フィードバック制御法

青山学院大学・鏡堂 裕輝,山口 博明,米澤 直晃

本論文では,マルチステアリング・ヘビ型ロボットの全リンク端点を目標経路に沿って移動させるリアプノフの安定性理論に基づく全身経路追従フィードバック制御法を,新たに提案し,その有効性をシミュレーションを通して確認した.本ヘビ型ロボットは,各受動車輪に与えたステアリング機能を積極的に利用することで,先頭リンク先端と末端,後続のすべてのリンク末端を,目標経路に沿って移動させる全身経路追従動作を実現することができる.これにより,本ヘビ型ロボットの全身運動を,計画する目標経路の形状により定量的に指定することができる.本制御方法では,従来のチェインド・フォームに基づく制御方法における高次のリー微分を必要とせず,制御入力の計算負荷の低減化が実現され,より短いサンプリング周期で制御指令を与えることができる.本制御方法の有効性は,サーペノイド曲線により計画された目標経路への全身経路追従動作シミュレーション,および,従来方法との制御入力の計算時間の比較を通して,確認されている.