論文集抄録
〈Vol.58 No.1(2022年1月)〉

タイトル一覧
[第21回計測自動制御学会システムインテグレーション部門講演会特集号]

[論 文]


[論 文]

■ 蟻道に合流した際,蟻は流れに沿うのか

創価大学・坂本 悠太,﨑山 朋子

蟻などの社会性昆虫はフェロモン情報を社会的情報として用いる一方で, 個体レベルでの意思決定に関しては, 他個体の存在も個別の情報として有益なものとなり得る. 本稿では, 往路・復路が分かれた蟻道に単一個体を合流させる実験を通して, フェロモンと他個体の存在との相補的利用に着目し, フェロモンへの従属性に関する問いに挑んだ. 蟻道が形成された道に単一個体を直角に合流させた場合, 対象個体は蟻道の流れに反して進むことが分かった. 以上の結果は, 他個体との接触を通して, 蟻道上での進行方向を絶えず判断している可能性を示唆する.


 

■ 移動ロボットによる自動壁面調査のための制約条件と非線形計画問題の定式化

岡山大学・吉﨑 悠介,亀川 哲志,五福 明夫

画像認識技術とロボット技術を組み合わせることにより,日常的なインフラ設備の点検作業を効率化することが期待されている.本研究では,移動ロボットによる自動的な壁面調査の実現を目的として,壁面の網羅的な撮影,認識対象の確実な検出,調査時間の短縮,を要件としたロボットの動作計画ならびに非線形計画問題の定式化を行った.まず壁面を網羅的に撮影するための条件として,ロボットやカメラの誤差を考慮した壁面撮影計画を提案する.次に,カメラが認識対象を確実に検出するための条件として,先行研究を拡張したカメラ配置の条件を設定する.最後に,調査時間を短縮するために非線形計画問題を定式化し,制約条件を満たす解を得る.これにより,ロボットの壁面調査時の3つのパラメータとして,カメラが壁に正対した状態におけるカメラのレンズ中心から壁までの距離,カメラの光学ズーム倍率,カメラ雲台のパン角の振り幅を導出する.以上の提案手法の有効性を検証するために,シミュレーション実験ならびに実機実験を実施した.実験においては認識対象としてQRコードを設定し,壁面に張り付けてあるQRコードが適切に認識できるかどうかを検証し,本研究の提案手法が正しく動作していることを確認した.


 

■ 輪郭情報に基づくテンプレートマッチングを用いた重畳車両の高速トラッキング

広島大学・川原 大宙,妹尾 拓,石井 抱,
東京大学・平野 正浩,岸 則政,石川 正俊

自動運転の実現において,前方車両と自車両の位置関係を把握することは欠かせない機能の一つである.一台前の車両だけではなく,2台前の車両を高速に認識することができれば,加減速や停止・発信の予兆を検知できるため,よりスムーズな自車の制御を行うことができる.
前方車両の認識にはミリ波を用いた手法と画像情報に対して機械学習を用いる手法が存在するが,ミリ波を用いた手法はロバスト性と精度に,画像に対して機械学習を用いた手法は遮蔽時の精度に課題がある.
筆者らは高速ビジョンを用いて、機械学習とトラッキングを並列に実行する手法を提案してきた.以前の研究では矩形を用いてトラッキングを行っていたが、重畳時に2台前の車両の画像情報が1台前の車両の背景部分で損なわれてしまうため,重畳領域が大きくなると追跡が不安定になっていた.
本論文では,機械学習による輪郭抽出とテンプレートマッチングによるトラッキングを統合する手法を提案することで,重畳車両をロバストかつリアルタイムに分離識別することを目指す.実際に車載高速カメラの撮像画像に対して提案手法を適用することで検証を行い,車両の大部分が重畳するシーンで安定したトラッキングを継続することができた.


 

小売店舗向け側面清掃機能付き便器の開発

 東京都立大学・篠木 直哉,和田 一義,
国立東京工業高等専門学校・冨沢 哲雄,
東京都立大学・手塚 蒼太,工学院大学・鈴木 敏彦

トイレ清掃の自動化が求められる小売店舗向けに,機械による清掃に適した円柱形状を持つ洋式便器と,その側面の尿垂れを清掃する便器内蔵型の清掃機構を開発した.清掃機構は清掃用具として円柱形のマイクロファイバークロスを使用し,清掃用具の自動洗浄機能を想定した脱水機能を有している.便器は男性の小用時,男性の股下まで上昇し飛散する尿はね量を抑制する.模擬尿放出装置を用いて提案便器における尿汚れの傾向を調査し,標準便器より尿汚れが少ないことを確認した.脱水機能の評価実験では,清掃用具に含ませた水の量に対し平均95.9 %の脱水率で脱水可能であることを確認した.清掃効果評価実験では,清掃時に清掃用具の回転方向を機構の移動方向に対し逆転させ,また20秒間清掃動作を行うことにより平均90 %以上の除去率で清掃できることを確認した.また清掃時間が同一であれば,便器側面に沿った機構の往復回数が一回の場合の方が二回の場合よりも清掃効果がやや高いことを確認した.連続清掃能力を評価した実験では,10回目まで連続して毎回95.7%以上の除去率で清掃し続けることができた.最後に,実際の尿垂れへの清掃効果の見込みを調査し,模擬尿放出装置により生成された尿垂れを平均88.3 %の除去率で清掃できることを確認した.


 

■ 高速注視点推定を用いた広域高解像度投影システムの実現

東京大学・松本 明弓,新田  暢,末石 智大,石川 正俊

映像を高精細かつ広域に提示することは高い没入感が期待できるが,既存の技術では高解像度と広域性を両立する投影ディスプレイの実現は困難であった.そこで高解像度追従投影技術と高速注視点推定技術を統合した視線追従型ディスプレイ環境を提案する.実験により注視点推定手法の十分な精度と広域性,処理時間1[ms]以下の高速性を示し,さらに提案システムの表示性能と人間の知覚に対する十分な低遅延性を示した.また,2つのデモンストレーションにてユーザ視点映像の疑似的な再現と,注視点推定用カメラを固定せずにユーザが使用した場合の動作を確認した.


 

■ 深層学習を用いた力覚による物体の位置姿勢推定

住友重機械工業・宮澤 宣嗣,原  孝介,續木 竜次,臼井 道太郎

本稿では,力覚センサとディープニューラルネットワーク(DNN)を用いた物体の位置姿勢推定手法を提案する.提案手法では,ロボットのエンドエフェクタに取り付けられた力覚センサから得られる接触位置と反力方向を用いて物体の位置姿勢を推定する.DNNに入力する複数回の接触は,接触回数が不定で,順番の入れ替わりのある可変長かつ非順序のデータであり,通常のDNNで処理することは難しい.そこで提案手法では接触から得られた特徴の最大値を取る対称関数を導入することで,複数回の接触を処理するDNNを提案する.提案手法は,光学的特性を考慮することなく,物体の 6自由度の位置姿勢を推定することができる.シミュレーションによる評価では,提案手法がナット,ボルト,レンチといった異なる種類の物体の位置姿勢を推定できることを確認した.また,実環境におけるナットを用いた実験では,位置誤差3.9mm,角度誤差12.7度の精度にて,従来法と比較して計算時間を1/20000以下に短縮した.


 

■ 電子回路利用に向けた漆膜の電気絶縁特性評価

早稲田大学・花田 信子,
筑波大学・三井 雅史, 志築 文太郎, 山口 佳樹, 橋本 悠希

漆は耐水性,耐薬品性,抗菌性などの優れた特性を持ちあわせており,人や環境に対して優しい無公害の天然樹脂塗料であり,日本では古くから食器等の日用品,船舶,建築物などの塗料として広範囲に利用されてきた.本研究では漆膜の電子回路利用に向けて,漆膜に対して電気絶縁特性を評価した.漆膜の電気絶縁抵抗率は,室温において10^15 Ω・cm程度となり電気絶縁体としての絶縁機能を有することが分かった.ある一定以上の印加電圧において,絶縁抵抗値が4-5桁減少した.漆膜は吸湿性を持つため,湿度25-75%の範囲において湿度の依存性が見られた.しかし,下限の体積抵抗率が1桁低下する程度であり,室温程度では湿度によって電気絶縁性能が著しく低下することはないと分かった.以上の結果から,電子回路利用には少なくとも5 μm以上の漆膜を用いることで,タッチセンサなどのセンサICや制御マイコンで用いられるUSB給電や電池駆動の電圧範囲内である5 V以下における絶縁性能を維持できる可能性が示された.