Vol.61,No.11
論文集抄録
〈Vol.61 No.11(2025年11月)〉
タイトル一覧
[論 文]
- ■ 階層型制御構造のための一般化最小分散制御に基づくPID型補償器の一設計
- ■ イベントトリガ制御系の通信異常検知-ニューラルネットワークによるトリガ時間予測に基づく検知-
- ■ あるクラスの非線形システムに対する動的出力フィードバック制御則のワンショット強化学習
[ショート・ぺーパー]
[論 文]
■ 階層型制御構造のための一般化最小分散制御に基づくPID型補償器の一設計
広島大学・菅原 貴弘, 脇谷 伸, 山本 透, 日本製鋼所・落岩 崇, 富山 秀樹
モデルベース開発(MBD)は、モデルを活用した効率的な製品開発手法として産業界で広く用いられている.MBDによる制御器設計では,プラントの構造や物理的な特性からモデルを構築し,そのモデルに基づいて制御器の構造やパラメータを決定する.しかしながら,実際のプラントに外乱やモデル誤差が存在する場合,MBDによって設計した所望の制御性能が実現できない可能性がある.これらの課題に対して,外乱やモデル誤差の抑制に特化した補償器が導入された階層型制御構造が提案されている.下流の補償器により外乱やモデル誤差によるプラント出力への影響を抑制することによって,モデルに基づいて設計された上流の制御器により,所望の制御性能を達成することが可能となる.本論文では,階層型制御構造を樹脂加工機械などの一般的な産業機械への容易な適用を目的として,一般化最小分散制御(GMVC)に基づくPID型補償器の設計法について提案する.提案手法の有効性を数値シミュレーションおよびスライダクランクシステムを用いた実験により検証した結果,提案補償器により外乱やモデル誤差の影響を抑制し,モデルに基づいて設計した所望の制御性能が達成できることを確認した.
■ イベントトリガ制御系の通信異常検知-ニューラルネットワークによるトリガ時間予測に基づく検知-
大分大学・山本 一真, 防衛大学校・松木 俊貴, 大分大学・高橋 将徳
制御入力の更新が必要なときにのみ通信を行うイベントトリガ制御では,通信切断が発生した場合に異常と判断することが困難である.先行研究では,積分器と補助信号を利用した通信切断の検知手法が提案されているが,この手法は検知までに時間がかかる場合があり、制御性能の低下が危惧されていた.本論文では,この問題に対してニューラルネットワーク(NN)を用いた高速な検知手法を提案する.この手法では,NNがイベント発生時刻(トリガ時刻)を予測し,その予測値と実際のトリガ時刻との誤差に基づいて通信異常を検知する.NNの予測は制御器側で行うため,制御対象に厳しい消費電力の制約がある場合においても,制御対象側の計算量を増やすことなく通信異常を検知できる.本論文では,提案手法の有効性を理論解析により示し,制御対象と制御器を結ぶネットワークの上りと下りの両回線に対する通信異常に対して,数値実験により検知性能を評価する.
■ あるクラスの非線形システムに対する動的出力フィードバック制御則のワンショット強化学習
電気通信大学・馬場 啓輔, 定本 知徳
本論文では,未知かつ状態が計測できない局所一様可観測な離散時間非線形システムを対象として,一回の実験による入出力データのみを用いて動的出力フィードバック制御則を学習する強化学習手法を提案する.はじめに,内部状態が計測できない非線形システムに対する動的出力フィードバック制御則の設計問題が,有限長の入出力履歴を内部状態として持つ非線形入力アフィン系に対する静的な状態フィードバック制御問題へと等価に変換できることを示す.つづいて,この変換後のシステムが「内部状態が計測可能」「入力アフィン構造を持つ」「入力ゲイン関数が既知である」という構造的な利点を備えていることに着目し,初回の実験データのみを用いて方策反復を繰り返し実行することで制御則を学習するアルゴリズムを提案する.さらに,提案法は理想的な条件下において最適制御則への収束性を理論的に保証できることを示す.提案手法の有効性は数値シミュレーションによって検証する.
[ショート・ペーパー]
阿南工業高等専門学校・山田 耕太郎, 後藤 祐美,
徳島県立農林水産総合技術支援センター・石川 陽子,
阿南工業高等専門学校・川人 洸太, 安野 恵実子, 岡本 浩行
我々は,紀伊水道における漁況予測を行う機械学習モデルを構築した.漁況予測を行う魚種として紀伊水道で漁獲があり,水温により生息域を移動するシリヤケイカを対象とし,徳島県内の標本漁港におけるシリヤケイカの日別漁船別漁獲量を利用した.漁況予測モデルに入力するデータとして気象庁のホームページから取得できる平均気温,最高気温,最低気温,日照時間について紀伊水道沿岸の5地点および紀伊水道沿岸以外の1地点の合計6地点を用いた.漁況予測モデルの出力はシリヤケイカの漁船1隻当たりの1日の漁獲量が20kg以上あるいは20kg未満を分類する.学習データは841セット,評価データは126セットを用いて漁況予測モデルの学習および評価を実施した.評価データによる正答率は94.0 %を得られた.この結果から,紀伊水道において気温を用いて水温により生息域を移動する生物の漁況の予測は可能であることを明らかにした.