Vol.50,No.1
論文集抄録
〈Vol.50 No.1(2014年1月)〉
タイトル一覧
[論 文]
特集 ヒューマンセントリック・システムインテグレーション
- ■ 障害物回避と切り返し点の自動調整によるモデル予測車庫入れ制御
- ■ 依存関係抽出に基づくシーケンス制御プログラム解析
- ■ 表面筋電位を用いた多クラスSVMによる手指の実時間動作認識システムに関する検討
- ■ 受動歩行機の足裏形状最適化による歩行安定化
- ■ 航空機の突風回避飛行に対する実時間最適制御
- ■ ネットワークロボットプラットフォーム -4Wに基づいた異種センサデータ統合-
- ■ PDフィードバックとオフライン回帰子を用いたパラメータ推定則から構成されるFEL制御系の安定性について
[論 文]
■ 障害物回避と切り返し点の自動調整によるモデル予測車庫入れ制御
東京都市大学・小山健太郎,野中謙一郎
本論文ではモデル予測制御による障害物回避と自動で切り返し地点を決定する車庫入れ制御手法を提案している.非ホロノミック車両の車庫入れ制 御は切り返し動作を有している場合が多く,特定の軌道が決まっていないことから多くの研究がなされている.また実環境において車庫入れを行う際には歩行者 や対向車など車両にとっての障害物を考慮する必要がある.本論文ではモデル予測制御により現在地から切り返し地点までの前進と切り返し地点から車庫までの 後退の両方向を評価し,自動で切り返し地点を決定している.さらに人工ポテンシャル場をモデル予測制御の評価関数に加えることで障害物回避も実現し,車庫 入れ動作と障害物回避動作の両立を行った.また本論文では非ホロノミック車両の非線形システムを時間軸状態変換により線形システムへと変換している.時間 軸状態制御形により線形化と低次元化を行うことで,計算量の低減が期待できる.本論文では自動車の1/10スケールの実験車両を用いて実機実験を行い,提 案手法の有用性を確認した.実機実験により障害物回避と車庫入れ動作が実現され,操舵角と経路幅の制約条件を満たしつつリアルタイム制御が行われたことを 確認した.
三菱電機・仲井 勘,野田 哲男
産業用オートメーションシステムにはシーケンサが多く用いられ,その制御プログラムはラダーが最もよく使われる.近年シーケンサの性能向上や 制御内容の高度化に伴いラダーが大規模・複雑化しており,不具合原因の特定や修正による影響範囲の把握といった作業が煩雑化している.本論文ではプログラ ム解析手法であるスライシングをラダーに適用する際の問題点とその解決手法について述べる. シーケンス制御はオン/オフデータの伝播であり,データ依存 関係は制御の流れを表す.しかし大規模ラダーでは,データ依存関係もまた巨大となり可視化に耐えない.そこで,参照回数の多いデータ間の依存関係と,そこ に至るまでの依存関係,そこから先の依存関係,の3つに分けて考えることを提案する.そして実ラダーの解析例をもって,その効果を示した.
■ 表面筋電位を用いた多クラスSVMによる手指の実時間動作認識システムに関する検討
ケーヒン・二股大央,早稲田大学・永田健太郎,東海大学・曲谷一成
筋電位(EMG)とは、生体信号の一種であり筋収縮が起こる際に発生する活動電位である.EMGは筋毎に発生し,手指の動作において使用される筋の組み合わせはそれぞれ異なることから,EMGの発生パターンを解析することにより手の動作を識別することが可能である.
本論文では近年BMI(Brain Machine Interface)等で識別則として用いられることの多いSVM(Support Vector Machine)に注目し,これを用いた手指の動作識別システムについての評価を行った.ここでは線形SVMおよびRBFカーネルを用いた非線形SVMを 取り上げ,SVMのパラメータ決定には粒子群最適化法を用い識別率が最大値を取ると考えられる値を設定した.
次に被験者3名による手指動作認識実験を行い構築したシステムの評価を行った.この結果、粒子群最適化法を用いることにより被験者毎に最適と思われるパ ラメータを決定できることが確認できた。また線形SVMと非線形SVMの動作識別実験により,使用する識別則に対応した「被験者毎に最適なチャネル位置」 を選択することにより,被験者に対して最大のパフォーマンスをもたらす可能性が示唆された.
東京大学・福島 俊彦,福岡工業大学・兵頭 和幸,
豊田工業大学・川西 通裕,成清 辰生
受動歩行はエネルギー効率の高い歩容であり,脚式ロボットの歩行制御への利用が期待されている.しかし,安定歩行可能な環境は限定的であり,特に斜面の傾斜角変化に対して脆弱である.
この斜面傾斜角への鋭敏性に対して,歩行機の足裏形状に着目し,歩行安定性の向上が図られてきた.
しかし,安定歩行可能な足裏形状と斜面傾斜角との関係は一対一対応であり,環境への適応性という課題が残されていた.
そこで,本研究では一つの形状で多様な傾斜角に対応可能な足裏形状を設計することを目的とした.まず,歩行安定性の定量的な評価方法を提案し,遺伝的ア ルゴリズムを用いて足裏形状を最適化した.その結果,従来の円弧足裏形状に対して,安定歩行可能な傾斜角領域を約70%向上した.そして,最適化された足 裏形状での歩行安定性向上要因を,足裏曲率半径に着目して考察した.その結果,歩行機が環境の変化に対して,自らの身体特徴を生かし,適応的に運動を変化 させ,歩行を安定化していたことが分かった.
東京大学・土屋 武司
航空機の誘導に安全性と効率性の両立を目指した実時間最適制御を適用する.航空機にはLaser LIDARと呼ばれる前方の突風領域を探知することができる装置が取り付けられており,実時間最適制御によって,この領域を避ける飛行を行う.実時間最適 制御法として,不等式拘束条件を含む最適制御問題の最適解をより正確に,かつ低計算負荷で求める新たなNeighboring Extremal法に基づくReceding Horizon制御の計算アルゴリズムを提案した.そして,提案アルゴリズムの有効性を確認するために,航空機の飛行シミュレーションを実施し,望ましい 成果が得られた.これにより,実航空機を使った次の試験段階へ進む目途が得られた.
■ ネットワークロボットプラットフォーム -4Wに基づいた異種センサデータ統合-
芝浦工業大学・中村 幸博,NTT サービスエボリューション研究所・武藤 伸洋,
芝浦工業大学・水川 真,NTT サービスエボリューション研究所・茂木 学,
長崎大学・小林 透,NTT サービスエボリューション研究所・高 嶋洋一
本論文ではセンサの導入検討からサービス実行に必要な情報獲得までの体系的な枠組みを提案する.具体的には,センサと4Wの関係性に着目した センサクラスを定義し,サービス実行に必要な情報を獲得するためのセンサの種別とその組み合わせ要件を明らかにする.また,異なったセンサが獲得した情報 をユーザ単位で統合する方式を提案し,それを共通機能として実装したNR-PFを述べる.実証実験ではセンサ要件を満たす複数のセンサとNR-PFの共通 機能により,地点を跨ったサービスに必要な情報獲得が実現可能であることを示す.
■ PDフィードバックとオフライン回帰子を用いたパラメータ推定則から構成されるFEL制御系の安定性について
名古屋工業大学・中山 学之,藤本 英雄
PDフィードバックとオフライン回帰子を用いたパラメータ推定則によって構成されるフィードバック誤差学習制御則は,ロボットの軌道追従制御 則としてこれまでも広く使用されてきたが,制御されたシステムの漸近安定性を理論的に示すことは難しく,これまでのところ漸近安定性に関する厳密な証明は 与えられていない.そこで従来研究では,PDフィードバックのかわりに,飽和型の位置誤差フィードバックや3次の位置誤差フィードバックを用いたフィード バック誤差学習制御則を構成することにより漸近安定な軌道追従制御を実現する方法が提案されてきた.しかし,実際のロボット制御においては,ゲインの選定 のしやすさもあり,非線形フィードバックよりも線形のPDフィードバックを用いたフィードバック誤差学習制御則が広く用いられている.そこで,本論文で は,オフライン回帰子と飽和型誤差信号を用いて構成されるパラメータ推定則と線形のPDフィードバックの組み合わせによってフィードバック誤差学習制御則 を構築することで,漸近安定な軌道追従制御が実現されることを示す.そして,制御されたシステムの漸近安定性をLaSalleのInvariance theoremを用いて証明する.