論文集抄録
〈Vol.50 No.10(2014年10月)〉

タイトル一覧
[論 文]


[論 文]

■ 領域ベースのステレオ対応点探索のための「標準化係数フィルタ」

産業技術総合研究所・西 卓郎,高瀬 竜一,吉見 隆,河井 良浩,
元産業技術総合研究所・富田 文明

領域ベースのステレオ対応点探索は基準画像と参照画像の間で輝度に変動があると誤対応が発生するという問題がある.これまでに,さまざまな空間フィルタを適用することでこの問題を解決することが試みられ,一定の成果を収めてきた.しかしこれらのフィルタを用いても,傾いた面の上に発生した輝度変動をうまく吸収することができなかった.そこで本研究では,SCフィルタと呼ばれる統計ベースの空間フィルタ開発し,その特性の定性的解析を行った.SCフィルタは,ウィンドウ内に含まれる低周波成分の変動をキャンセルし,低周波成分の曲率が大きくかつ平均傾きが に近いほど,高周波成分を大きく増幅する特性を持つ.一次元の波形を用いた実験では,SCフィルタは,LoGフィルタやゼロ平均フィルタと異なり,ウィンドウ内の低周波成分の成長が倍に変動しても,フィルタが出力する波形にほとんど変化がないことを示した.また二次元の画像を用いた実験では,LoGフィルタやゼロ平均フィルタが傾いた面の上に発生した輝度変動に対して対応点が検出できないのに対し,SCフィルタは輝度変動がない場合とほぼ同等の結果を出すことが可能であることを示した.


 

■ 鉛直円管内気液二相流中における超音波式渦流量計の計測可能範囲と計測部の可視化

日立オートモティブシステムズ・市川 英伸,東京理科大学・塚原 隆裕,
東京農工大学・岩本 薫,東京理科大学・川口 靖夫・

超音波式渦流量計において,計測部に気泡が混入すると超音波が減衰して十分な受信電圧が得られず,精度の低下もしくは出力の停止に至る問題がある.しかしながら,これまで気泡がどのように超音波を阻害し,流量測定に影響を及ぼすかについての研究はほとんどされていない.そこで,可視化実験を行うことで気泡の振る舞いが流速計測に及ぼす影響について検討した.その結果,①気泡混入時の計測信号には超音波が完全に遮断されたことによる1~50Hzの低周波成分,②直径1mm以下の気泡の影響による100Hz以上の高周波成分,③カルマン渦に凝集した気泡によるカルマン渦の倍の周波数成分,の3つが主な影響として.計測信号に現れるものの,あるボイド率までは気泡が無い場合と同様のカルマン渦の発生周波数を計測可能であることを見出した.


 

■ ネットワーク化制御系における確率雑音の白色化効果と非再現性の同時活用

京都大学・加嶋 健司, 井上 大輔

自然界には不確実性を利用して性能を向上させる機構が数多く存在する.工学的にも,ディザやアニーリングをはじめ確率雑音を有効利用する例はいくつか知られているが,著者らの知る限り,それらを複合的に利用した研究は存在しない.そこで本研究では,ネットワーク化制御系における確率雑音が,量子化誤差を白色化することで制御性能を向上させつつ,さらにセキュリティの向上などを同時に達成するといった付加的な価値をもたせられることを示す.また,リンデベルク条件を緩和した近似的な中心極限定理を示すことにより,これらの機能の性能評価手法を提案する.


 

■ 大域的運動表現を用いた多指ハンドによるシームレスマニピュレーション

和歌山大学・長瀬 賢二,菊地 範夫

本研究では,把持・非把持など,接触状況の変化する多指ハンドを,シームレスに運動制御するためのフィードバック制御系の設計法について議論する.特に,ロボットへの制御入力の数が接触時に拘束される運動変数よりも多い,部分拘束システムに対し,上記問題を考える.把握・操り系では,接触状態に応じて,相対運動や拘束力の有無が変化する.はじめに,各接触状態で0となる(拘束される)変数をあえて残した冗長な運動表現を用いることにより,すべての接触状態で有効な大域的な運動学モデルを導出し,それに基づく大域的な線形化補償器の設計を行う.線形化補償器には,相対運動と拘束力を制御するための制御入力が含まれており,これらの値を現在の接触状態に矛盾しないように(0に拘束される変数に対応する入力を0として)与えれば,各運動変数をコントローラの構造を切り替えることなく連続的に制御することが可能である.つぎに,上記手法に基づく制御系の設計例として,ハンド・アーム系による物体の捕獲~運搬~設置作業を取り上げ,その設計方法について議論する.手法の有効性は,上記作業を想定した数値シミュレーションにより検証する.


 

■ コントロールモーメントジャイロの最適姿勢制御―中心安定多様体アプローチ―

名古屋大学・ 石川 和男,坂本 登

本論文では,コントロールモーメントジャイロなどに代表される保存量をもつ非線形システムに対する最適制御系設計の枠組みを提案する.このような問題には,出力レギュレーション理論が有効であることを示し,これの最適制御系を計算するため,中心安定多様体法によるハミルトン・ヤコビ方程式の解法を適用する.入力の飽和を考慮した高速高精度な制御系の設計が行えることを示し,シミュレーションで有効性を確認した.


 

■ 線形時変力学系のLMIを用いた静的出力フィードバック制御のL2ゲイン性能最適設計

電気通信大学・高久 雄一,木田 隆

2階の行列微分方程式で記述される線形時不変力学システムの安定性は多く研究がなされ, 閉ループ系の係数行列の定性的な性質のみに基づいた静的出力フィードバック制御器の設計法が示されている. 本論文では,より一般的な線形時変システムに対する静的出力フィードバック制御器の設計法を考える..はじめに,閉ループ系の内部安定条件と最適性の条件を導出する. そして, 有限個の線形行列不等式を解くことによる最適な静的出力フィードバック制御器のゲインスケジューリング設計法を提案する. さらに提案手法の検証をするためのいくつかのシミュレーション結果を示す. 最後に, 得られた設計法を線形時不変力学システムへ適用しその有用性を考察する.


 

■ 走行距離を時間軸とする時間軸状態制御形による車両の経路追従制御 ―モデル予測車庫入れ制御への適用―

竹中工務店・小山 健太郎,東京都市大学・関口 和真,野中 謙一郎

本論文では,自車の走行距離を時間軸とした時間軸状態制御形による前輪操舵車両の経路追従制御手法を提案する.これまで前輪操舵車両の経路追従問題に対し,時間軸状態制御形による手法が提案されているが,慣性座標系の座標軸を時間軸とした従来手法では,慣性座標系の車両姿勢角が経路追従性能に影響し,車両の初期状態によっては大きくオーバーシュートが生じるような問題点があった.そこで我々は,制御対象の車両と参照経路との幾何学的関係から,参照経路との誤差を状態とし,走行距離を時間軸とする時間軸状態制御形を提案する.そして,提案手法の有用性を示すために,従来手法との比較を数値シミュレーションによって行い,提案手法では慣性座標系の車両姿勢角に経路追従性能が依存しないことを示す.加えて,提案手法を車両の操舵角,走行経路幅,時間軸状態制御形の特異姿勢を制約条件としたモデル予測車庫入れ制御に適用する.小型車両ロボットを用いた実機実験によって提案手法においてもリアルタイム制御が実現できることを示す.また,従来手法と車庫入れ可能領域を比較し,提案手法の車庫入れ可能領域が従来手法に比べて拡大しており,提案手法が車庫入れ制御においても効果的であることを示す.