Vol.50,No.2
論文集抄録
〈Vol.50 No.2(2014年2月)〉
タイトル一覧
[論 文]
- ■ 個人ごとのタグ空間の類似性にもとづく協調フィルタリング手法
- ■ 線形ネットワーク系のノックアウト構造同定
- ■ 簡単な構造によるマルチロボットのフォーメーション制御
- ■ 反復的位相回復法によるMissing Cone問題における欠落データ補間法
- ■ 一定距離型の確率的移動によるブロードキャスト制御
- ■ プロセスの順序性に着目した事象駆動型システムの確率的故障診断
- ■ IGVCの走行環境を考慮したLRFベース高速自己位置推定アルゴリズムの提案
- ■ モーションキャプチャと表面筋電図を用いたピアノ学習効果の評価
- ■ スライディングモード制御によるマルチロータ型UAVのロバスト追従制御
- ■ バックステッピング法に基づく4ロータ小型ヘリコプタの適応追従制御
[ショート・ペーパー]
[論 文]
■ 個人ごとのタグ空間の類似性にもとづく協調フィルタリング手法
筑波大学・白川 貴久・倉橋 節也
本論文は,協調フィルタリングを改良したソーシャル・ブックマーク・サービス(SBM)を利用するユーザに対して,新しい情報推薦手法として分類空間ベース法を提案する.標準的な協調フィルタリングは,ジャンルが異なる近傍ユーザ集合を上手く識別できず,その結果,推薦精度が劣化してしまうmulti-genre問題と呼ばれる課題が指摘されている.それに対し,本提案法では,SBM上で登録された各ユーザの嗜好情報の類似性に加えて,情報整理方法の類似性にもとづいて推薦を行うことで,推薦の個人化を向上させることができる.この推薦手法では,1つのタグをユーザ固有の分類空間を形成する1つの軸と考え,各アイテムへのタグづけを個々人の分類空間の配置と捉える.これにより分類空間への配置はユーザの情報整理方法を陽に表現することができる.先行研究との比較により,アイテム間類似度関数に分布重み付きcos距離を用いた場合には,ほぼ全ての場合にRecall-DCG値,Precision-DCG値の両面で大きな優位性を示し,分類空間ベース法の優位性を確認した.
科学技術振興機構/東京工業大学・鈴木 雅康,
東京工業大学・高槻 信希,井村 順一,東京大学・合原 一幸
本論文では,同一の多次元線形サブシステムによって構成される構造未知の無向ネットワーク系を対象に,指定された2つのサブシステム間の連結強度を同定する手法を提案する.ただし,入出力ポートの数がサブシステムの数よりも少ない状況を想定する.提案手法は,遺伝子工学のノード・ノックアウト法のアイデアに基づき,同定対象のネットワーク系の他に特定のサブシステムの機能を抑制したネットワーク系を用意して,それらの振る舞いの違いから強度を推定する.加えて,提案手法は,同定目標でない他の連結に関する情報を必要としないことを特徴にする.
佐賀大学・佐藤 和也,田中 浩和
近年,マルチロボットによるフォーメーション制御に関して活発に研究が行われている.これまでに,様々な成果が得られているが,フォロワの数が増えるに従って制御則の構築が複雑になる可能性がある.実用上の観点からは,できるだけ簡単な構造で制御目的を達成するリーダ・フォロワ型フーメーション制御則を構築することが望ましい.またフォロワの動特性に外乱が含まれる場合や,簡単な手法でフォーメーション形態を変更する方法についても考える必要がある.この問題に対処するために,誤差信号の簡単な拡張で異なったフォーメーションが形成可能となることが示されている.しかし,この方法は有限時間でのフォーメーション達成と外乱除去のためにスライディングモード制御の考え方を使っているので制御則は符号関数を含む.よって,制御入力信号が振動的になる可能性があり,実用上適用が困難となる場合もある.本論文ではフォロワの動特性に外乱が含まれる場合のフォーメーション制御について,符号関数を用いない制御則の設計法を提案する.数値シミュレーションにより従来法の問題点を指摘し,提案手法の有効性を組込系の実機装置を用いて実験的に有用性を検証した.
■ 反復的位相回復法によるMissing Cone問題における欠落データ補間法
慶應義塾大学・本美 元伸,コムスキャンテクノ・菊池 一夫,慶應義塾大学・田中 敏幸
ICチップや回路基板などの非破壊検査のための検査装置として傾斜型X線CTが注目されている.傾斜型CTスキャン法は,X線源を対象物に接近できるため,対象の拡大率を飛躍的に大きくできるという利点があるが,垂直方向の断面形状が縦に伸びてしまうという欠点を持っている.この原因はMissing Cone Problemと呼ばれる,再構成像の周波数空間におけるデータ欠損領域の存在である.この領域は,中央切断面定理によって導出することができる.このデータ欠損問題に関して,傾斜型CTスキャンに対する改善について論じた研究や,単一スキャンによる重み付けの工夫による改善,仮想的なデータ補間方法,CT逆投影からではなく順問題として再構成する方法などを適用しているものが提案されているが,いずれも再構成画像のコントラストが改善するだけで主要な問題である再構成画像の形状伸びは改善されていない.本論文では,このMissing Cone Problemに対して反復的位相回復法と呼ばれる手法を用いて,データ欠損を補間することにより,形状の伸びの軽減を試みた結果について報告する.
京都大学・田中 洋輔,東 俊一,杉江 俊治
マルチエージェントシステムにおいて,近年注目されている制御が,ブロードキャスト制御である.これは,従来のようにエージェント同士が情報交換(通信)を行うものではなく,ブロードキャスト制御器から送られる同一の指令のみを利用して,望みのタスクを達成する制御である.このとき各エージェントは,ランダムな方向への移動(確率的移動)と,その移動前後の評価関数の変化に基づく移動(確定的移動)の2種類を繰り返す.これまでのブロードキャスト制御では,タスクの達成のためには,これらの移動距離を時間とともに適切に減少させる必要があった.本論文では、確率的移動の際の距離を時間によらず定数とする,「一定距離型の確率的移動によるブロードキャスト制御」を提案し,タスクの達成度を表す目的関数が,2回微分すると定数になるようなクラスに限定することで,提案制御器が確率1でタスクを近似的に達成することを証明する.
■ プロセスの順序性に着目した事象駆動型システムの確率的故障診断
名古屋大学・山口 拓真,稲垣 伸吉,鈴木 達也
本論文では事象駆動型システムに対する,時間付きマルコフモデル(Timed Markov Model: TMM)を用いた確率的故障診断手法を提案する.TMMは準マルコフ過程のモデルの一つであり,状態の遷移が状態の滞在時間にも依存したモデルである.このTMMを用いて故障診断を行うためには,時間情報を考慮しなければならないため,多くの学習データを必要とする.一方,対象とするシステムが大規模かつ複雑な場合においては,故障診断を行うために十分な学習データを集めることは難しい.そこで,本論文では事象駆動型システムにおけるプロセスの順序性に着目することにより,少ない学習データ量でも故障診断を行うことができる手法を提案する.最後に,PCでシミュレートした自動搬送ラインに提案手法を適用し,その有用性を示す.
■ IGVCの走行環境を考慮したLRFベース高速自己位置推定アルゴリズムの提案
法政大学・高橋 一成,小林 一行,渡辺 嘉二郎,成蹊大学・栗原 陽介
本論文では,Intelligent Ground Vehicle Competition(IGVC)の Auto-Nav challenge の環境下を想定し,ドラム型コーンの特徴を利用したリアルタイム自己位置推定法を提案した.Laser range finder で観測した円弧形状から,円のHough 変換により中心座標を推定する.この方法により,自律移動ロボットの進行方向に依らず信頼性の高い中心座標を推定できた.中心座標の対応関係から,イタレーションを必要としない特異値分解によるマッチング法により移動距離・移動角を求めた.移動距離・移動角,車輪速度計と Gyro の出力,D-GPS により観測された自己位置座標を複素拡張カルマンフィルタにより融合することで,安定しリアルタイムで自己位置推定を行うことができた.
■ モーションキャプチャと表面筋電図を用いたピアノ学習効果の評価
関西学院大学・中村 あゆみ,合田 竜志,
ハノーファー音楽演劇大学・古屋 晋一,関西学院大学・長田 典子
ピアノ演奏は,手指および腕の多数の関節や筋を協調させる必要があるため,長期間に渡る訓練が求められる熟練動作である.ピアノ演奏による運動機能の熟達過程や,それを支援する学習法・教育法については,これまで十分に研究されていない.様々な訓練方法の学習効果を定量的に評価することは,科学的なエビデンスに基づく正しいピアノ教育法を確立するためにも,ピアノ学習を支援するためのインタフェースを作成するためにも必要不可欠である.本研究の目的は,4日間におよぶピアノ訓練が,ピアノ未経験者の手指の関節動作および筋活動の制御方略に及ぼす影響を明らかにすることである.先行研究の結果に基づき,訓練に伴い,動作のエネルギー効率が向上するように手指動作および筋活動が変化すると仮説を立てた.ピアノ未経験者に左手で特定の音列を一定のテンポで弾く訓練課題を行ってもらい,その際の指関節の姿勢制御と指の関連筋群の筋負荷量を調べた.また本研究では,動作の正確性に関する教示が学習効果について及ぼす影響も評価するために,打鍵動作のテンポの正確性を訓練終了直後に学習者に視覚的に提示するインタフェースを作成した.
■ スライディングモード制御によるマルチロータ型UAVのロバスト追従制御
京都大学・梅本 和希,池田 拓也,松野 文俊
本論文ではスライディングモード制御に基づきマルチロータ型UAVのロバスト追従制御則を提案する.マルチロータ型UAVの動的モデルはラグランジュ法によって4入力4出力システムとして表される.提案する制御器は胴体の慣性モーメントに不確かさが存在するプラントに対し,閉ループ系の参照入力への漸近収束を保証する.制御器を構成するため,プラントモデルは垂直,水平システムとして2つの並列サブシステムに分解される.垂直,水平サブシステムはそれぞれ線形フィードバックとスライディングモード制御器により制御される.提案する制御器が閉ループ系の安定性を保証する条件を導く.数値シミュレーションにより,提案する制御の有効性を検証する.
■ バックステッピング法に基づく4ロータ小型ヘリコプタの適応追従制御
名古屋工業大学・堀田 克也,山田 学,大羽 達志
本論文では,4ロータ小型ヘリコプタの位置とヨー角に対する目標値追従制御器を提案する.4ロータ小型ヘリコプタは3次元の回転行列などを含む非線形連立方程式で記述され,ダイナミクスには不確かな物理パラメータが含まれている.さらにこのシステムは,劣駆動系で,各ロータで発生させる揚力のみで駆動するため,並進方向を制御するには,機体の揚力だけでなく,ピッチ角とロール角の制御も必要である.本論文では,与えられた目標軌跡に追従させるために,理想的なピッチ角とロール角を自動生成するための新しい仮想システムを導入し,その仮想システムを含めたリアプノフ関数を与え,バックステッピング法により,ダイナミクスの不確かな物理パラメータをオンラインで推定し,同時に任意の目標値に対する追従偏差を零に収束させる適応追従制御系を提案する.さらに,実用上正確な測定が困難な並進速度をオンラインで推定するオブザーバを設計し,それに基づいた並進速度情報を必要としない適応追従制御系も与える.提案する適応制御系は,並進速度の推定誤差や4ロータ小型ヘリコプタの位置とヨー角の追従偏差を指数的に零に収束させるだけでなく,その収束速度も任意に指定できる.最後に,数値シミュレーションによりその有効性を確認する.
[ショート・ペーパー]
■ テレビと屋内照明利用状態モニタリングによる高齢者見守りのための無線センサシステムの開発
富山大学・鎌谷 尚広,垣川 貴尋,金 主賢,中島 一樹
テレビ,リモコン,室内照明及び照度の状態を検出する無線センサシステムを開発した.この無線センサシステムをある高齢者宅で1ヶ月間利用したところ,テレビと室内照明の習慣的利用が示された.