論文集抄録
〈Vol.50 No.6(2014年6月)〉

タイトル一覧
[論  文]


[論  文]

■ Explicit MPC を用いたディーゼルエンジン吸気系の制御

首都大学東京・児島 晃,澤戸 一晃,東北工業大学・丸山 次人,
富士通研究所・梅田 裕平,穴井 宏和,トランストロン・下谷 圭司

  ディーゼルエンジン吸気系に対して, Explicit MPC (Model Predictive Control) とよぶモデル予測制御則のオフライン設計法から,モード変更を考慮した制御則の構成法を導く.ディーゼルエンジン吸気系は, 制約を有する2入出力の干渉系であることから, PID 制御器を用いた従来手法で十分な追従性能を発揮させることは難しく, その調整には多くの工数を要する.
本研究では, 制約を考慮した最適レギュレータを Explicit MPC により構成し,得られた非線形制御則からモード変更を考慮した補間制御法を提案する.また補間制御則に対して,状態領域の不変性と線形制御領域の安定性を検証する十分条件を示し,その基本性能を評価する解析手法を明らかにする.得られた制御手法は,シミュレーション及び実機試験結果により検討され, モード移行時に良好な応答を達成する制御則が, 一貫した手法により構成できることが示されている.



■ 制約条件を考慮した車輪型倒立振子機構の位相平面を用いた移動計画手法

日立製作所 ・中村 亮介,網野 梓,上田 泰士

  倒立振子は本質的に不安定であり,制御可能な範囲内で動作させる必要がある。一方,緊急停止など機構の限界加減速性能が要求される場面がある。本報では倒立振子において,指定した加減速性能までを用いた任意姿勢からの移動計画手法について述べる。本手法は次の特徴を持つ。(1)倒立振子の運動方程式から導かれた媒介変数の4階微分までの線形和を用い,完全追従可能な移動計画を生成する。(2)倒立振子の姿勢と機構の限界加減速性能を移動加速度と躍度による位相平面で表し,移動計画を位相平面上で計算する。本手法の移動計画に対し完全追従可能であることを数値実験で確認した。



■ 双対制御論的運転支援システム-車両安全確保とドライバ状態推定の機能と特性-

筑波大学・齊藤 裕一,伊藤 誠,稲垣 敏之

  居眠り運転は,自動車安全における古くからの懸案事項である.ドライバの低覚醒状態を推定する既存手法は,(1) 脈波などの生体情報,(2) 座圧などの圧力分布,(3)操舵の乱れなどの車両情報を用いるもの,また,(4) 顔表情評定に基づくものに分類できるが,例えば,(1) には生理特性などの個人依存性がある等,十分な推定精度を確保するには至っていないのが現状である.本論文では,車両挙動という客観情報のみを用いて,(i) 車両の安全確保,(ii) ドライバが状況認識不全状態に陥っているか否かの判定,という二つの目的を一つの制御で達成する双対制御論的運転支援システムを提案した.提案システムは,車両が車線から逸脱する可能性が高まった際に,車両を車線中央に戻すための制御の一部を1段目の制御として実行することで車線逸脱の阻止を図るとともに,所定の時間内に制御の不足分を補うドライバの対応行動が確認されなければ,システムは「ドライバの状況認識が不全であった」と判断し,システムが不足分を補う2段目の制御を実行して安全を確保するものである.本論文では,制御対象の数理モデルならびに最適レギュレータを適用した操舵トルク制御系を構築し,提案システムにおける (1) 車線逸脱判定,(2) 1段と2段目の操舵トルク制御,(3) ドライバの操舵介入の検知方式を示すとともに,提案システムによる車両安全確保の実現性を示すことができた.



■ 快適性指標におけるばらつきを考慮した効率のよい家電制御システム

慶應義塾大学・伊東 未奈子,西 宏章

  一般家庭において空調制御をおこなう場合、居住者の快適性を極力損なわないことが求められる。一般的に温熱環境に対る快適さは個人によって様々であるが、従来手法では快適性の個人差を考慮しておらず、システムは居住者の意向と異なる制御を行う可能性がある。そこで、本研究では居住者毎の快適性のばらつきをベイズ推定の利用により統計的に解析し、独自に策定した満足度指標の提案を行った。また、提案した満足度指標の有効性を確認するため、満足度指標を利用した家電機器制御手法を提案し、実環境実験を行った。提案手法である満足度指標を利用した制御と、従来手法として予測温冷感申告PMV指標を利用して制御した場合について比較を行い、電力削減量電力利用削減量を損ねることなく各居住者の環境の快適性に対する満足度を高めることができることを確認した。また、居住者がより快適に生活するためには、居住者による何かしらの行動も重要な要素である。本研究では居住者に対して任意の行動を促すシステムのひとつとして、着衣量リコメンデーションアプリケーションを提案、実装し実環境において高評価を得た。



■ 大規模線形システムに対する低次元関数オブザーバの設計法

 東京工業大学・定本 知徳,東京工業大学/CREST・石崎 孝幸,井村 順一

  本稿では,オブザーバ低次元化のアプローチに基づく低次元関数オブザーバの設計法を提案する.既存の低次元なオブザーバの設計法と異なり,提案法は,低次元関数オブザーバの安定性を保存するとともに,低次元オブザーバの推定誤差の軌道に関して,その近似誤差の上界を与える.また,提案法ではオブザーバ設計と低次元化が独立しているため,既存のオブザーバ設計法と組み合わせて利用することが可能である.最後に,提案法の有効性を電力ネットワークの数値例により示す.



■ 厚鋼板のオンライン加速冷却装置における冷却制御技術

新日鐵住金・中川 繁政,橘 久好,角谷 泰則,原口 洋一,
小林 一暁,中村 修,児嶋 次郎,磯部 現,矢澤 武男

  熱間圧延後の厚鋼板をオンライン加速冷却装置において、目標とする冷却停止温度まで高精度に均一冷却するため、水冷時の沸騰現象を精緻にモデル化した熱伝達モデルを用いて、冷却水量をダイナミックに調整する冷却制御技術を開発した。開発した熱伝達モデルは、ジェット噴流解析と冷却ラボ実験結果から冷却挙動を定式化したもので、噴流衝突後の拡散過程の沸騰状態をモデル化して熱伝達係数を導出するものである。本モデルにより、沸騰状態の異なる広範囲な温度領域で,冷却停止温度の高精度な制御を実現できるようになった。また,温度変動に対応して,冷却水量をダイナミックに調整する制御技術を開発し、厚鋼板の全長に渡って、均一冷却を高精度に実現することが可能となった。本技術は、鹿島製鐵所の厚板工場で実機適用されており、厚鋼板の冷却停止温度の高精度化に効果を発揮している。



■ 救急車の加速減速時を想定した血圧変動の統計モデリング

広島市立大学・小野 貴彦,広島大学・吉栖 正生

  救急車の加減速によって起きる仰臥位搬送患者の血圧変動をシミュレーションするためのツールとして,血圧変動量を推定する数学モデルをシステム同定技術を用いて構築した.まず,足頭方向にかかる加速度と血圧変動との関係を統計的に解析するために,21才から24才までの健常な男性被験者15名に対して,傾斜ベッドを用いて2種類の救急車の加速度パターンを被験者の足頭方向に印加して,血圧を連続的に記録した.脳内動脈圧と正の相関が成り立つように,頭部の横に左手を置いた姿勢で指尖部の血圧を測定した結果,平均的に見ると,平均血圧が加速度に対して比例的に増加減することがわかった.続いて,実験データに基づいて,血圧変動量を推定する確率モデルを構築した.モデルパラメータの値は,2つの加速度パターンごとに計算されるモデル出力と実測データとの平均二乗誤差がパレート最適意味で最小となるように,遺伝的アルゴリズムを用いて最適に決定した.最後に,構築したモデルの妥当性を
実車実験により確認した.



[ショート・ペーパー]


■ 離散時間確率H2/H制御問題を解くための数値計算

広島大学・向谷 博明

  本論文では, 確率$H_2/H_{\infty}$制御問題を解くための数値計算法を考える.制御戦略集合を構築するために解く必要のある連立型非線形代数方程式に対して, ニュートン法と逆時間法に基づくハイブリッドなアルゴリズムが提案される. 特に, ニュートン法を導入することにより, 収束性を保証し, さらに, 収束までの計算時間の短縮を目的とする. 具体的なアイディアは, ニュートン法の初期値を, 従来法による逆時間法によって, ある程度の精度の解を求めておく. この解を初期値とし, ニュートン法を実行する. その結果, 初期値近傍での収束解の唯一性, および2次収束性が共に保証される.