論文集抄録
〈Vol.50 No.9(2014年9月)〉

タイトル一覧
[論  文]
特集 新たな地平を切り開くセンシング

 


 

[論  文]

■ 擬似ランダム信号変調ドップラーレーダ方式ガス流速計

JFEスチール・長束 章生,四辻 淳一

 擬似ランダム信号で変調したミリ波帯ドップラーレーダにより,測定対象のガス流速とほぼ同じ速度で随伴するダストなど微粒子からの散乱波のドップラー効果を検出する方式によるガス流速の計測原理を提案する.
 工業分野にてガス流速計測が要請される現場の多くは,周囲空間が狭い上,高温,多湿,粉塵などの劣悪環境にあるため,計測手法に制約が多い.本方式では,擬似ランダム信号の送受信信号間の相関演算により,流速の測定対象空間を遠隔の小領域に限定できる.このため,それ以外の場所から混入して受信される不要信号の悪影響を除去できるという実用的な特徴がある.
 本論文では,まず本原理の動作解析によりその設計法を定式化した.そして,感度距離特性試験により,所定の測定範囲内のみに感度を設定できることを確認した.ダスト送風試験により,ダストからの散乱波のドップラー効果による周波数変化分布を検出でき,その高周波端周波数からガス流速を算出できることを示した.また,測定範囲外からの不要な散乱波の影響を除去できることに加え,送受信アンテナ間の漏洩波などの不要な固定反射波の影響も除去でき,低速測定可能領域を拡大できることを明らかにした.この結果,工業計測における有効性を見出すことができた.


 

■ 二次元的なメタルアーチファクト低減手法と三次元データへの拡張

信州大学・加納 徹,小関 道彦

  X線CT装置は,被写体の断層画像を再構成する装置であり,医療・産業分野に多くの恩恵をもたらしてきた.しかし,被写体に金属が含まれるとき,断層画像上にメタルアーチファクトと呼ばれる放射状のアーチファクトが発生し,金属およびその周辺の形状が不鮮明になってしまうことから,大きな問題となっている.そこで本研究では,メタルアーチファクト低減技術について検討し,従来よりも優れた診断・検査技術をより実用的なものとして確立することを目的としている.本稿ではまず,二次元CT画像に対するメタルアーチファクト低減手法を提案する.本手法は,CT撮影によって集めた投影データから生成されるサイノグラムの幾何学的特徴を利用するものであり,金属領域の抽出,非金属領域の補間,および合成の3つの工程に分かれている.金属領域と非金属領域を別々に抽出,再構成することにより,投影データの矛盾を解消し,メタルアーチファクトの低減に成功した.そして,この手法を三次元的なものへと拡張し,コーンビームCTデータへの適用を行い,その有用性について検討する.


 

■ 鋼板表面凹凸欠陥の低角入射条件における光学的特性と欠陥検査への応用

JFEスチール・大重 貴彦,腰原 敬弘

  鉄鋼の薄板製造プロセスにおいては,しばしば,その凹凸量が鋼板の表面粗さと同程度であるため目視では発見できない凹凸欠陥が問題になる.そのため,通常,鋼板を停止させ,人手により砥石がけを行なった後に目視による検査が行なわれている(砥石がけ検査).
 本論文では,表面粗さのある鋼板中のこのような欠陥に対して,特に入射角が大きい(低角入射)条件での光学的特性を明らかにし,砥石がけなしで光学的に検査可能な新しい検査システムを提案した.また,本システムを実ラインに設置し,実際に疵が検出可能なことを確認した.


 

■ 赤外分光計測の繊維製品定量分析への適用 ―混用率予測の精度向上―

信州大学・富井 祥吾,石澤 広明,児山 祥平,森島 美佳

  繊維製品は消費者の利益を保護するため,家庭用品品質表示法により,その品質を表示することが義務付けられている.そのため,繊維製品では組成繊維とそれぞれの繊維の混用率を表示しなければならない.よって,これらの品質を表示するため,JISに基づいた試験方法により繊維種が鑑別され,各繊維の混用率が定量的に分析される.しかし,このJISに基づく試験方法は製品を破壊してしまうなど多くの問題点がある.
  それらの問題を解決するため,われわれは赤外分光計測を利用した非破壊,迅速かつ簡便な繊維鑑別および混用率試験方法を提案している.提案手法では,綿/ポリエステル混用布の赤外吸収スペクトル(IRスペクトル)を測定し,その吸光度情報をPLS回帰分析によって定量的に分析する.
本論文では,混用率予測の精度向上を目的とし,IRスペクトルから検量に有効なスペクトル領域を決定し,検量線を構築するMoving Window PLS回帰分析(MWPLSR)を用いて混用率予測を行った.その結果,混用率予測誤差の値が減少し,MWPLSRによる混用率予測精度向上の可能性が示された.


 

■ 非同期センサノード間でのRFレンジングのための高精度往復時間計測

小松製作所・西郷 雄祐,東京工業大学・大山 真司

  環境モニタリングなどの無線センサネットワーク(WSNs)で使用する端末の高精度位置情報取得の需要は高く,端末間 の高分解能距離計測(レンジング)法の開発が急務である.その中でもRF(Radio Frequency)の伝播 時間を計測する方法は利用環境の影響が小さく,信頼性が高い.しかし,WSNsで要求される低コスト・低消費電力を実現するためセンサ端末に低周波クロックを使用した場合,量子化誤差の影響が大きく,精度向上は難しい.そこで本研究ではノギスの長さ計測高精度化原理を非同期端末間距離計測に応用した,異周波動作端末による往復伝播時間計測法を提案する.この方法ではノギスの異なる目盛幅に対応する異周期のクロックの組み合わせを利用することで,ノギスと同様の分解能向上効果が得られる.本手法では異周期のクロックを持つ端末間でRF信号を一定回数・一定間隔で往復させる.そこで取得した往復時間の組み合わせパターンから高精度の伝播時間推定が可能となる.そのうえで,さらなる分解能向上を実現する方法として位相シフト法を提案する.最後に遅延素子を介して有線で接続したデバイス間を信号が往復する時間を測定する実験を行い,本手法の有効性を検証する.


 

■ 位置依存 PSFをもつ撮像系からの劣化画像の復元

群馬大学・伊藤 聖人,伊藤 直史,太田 直哉,藤井 雄作

  防犯カメラで記録される画像は、カメラの汚いレンズまたはゆがみによりしばしばひどく劣化する。 これらの画像を復元するために、全ての位置について位置依存する点拡がり関数(PSF)を求める必要がある。 PSFを測るために、液晶ディスプレイを用いた方法を提案する。 LCDに表示されるM配列パターンを使って測られるPSFに基づいて、CCDカメラで撮影する際,故意にゆがめた劣化画像から,オリジナルの画像に復元することを試みた.


 

■ 外乱を考慮したマルチエージェントシステムの協調制御

慶應義塾大学・橘 義博, 森 翔平, 滑川 徹

  本論文では外乱が存在する2次系のマルチエージェントシステムに対して,全エージェントの状態を目標値に同期させる制御則を提案する.エージェント間のネットワーク構造は無向連結とし,少なくとも1台のエージェントは目標値の情報を受け取ることができるものとする.本論文で提案する制御側は合意アルゴリズムとグラフ理論をもとに目標値へと収束させる項と,RISEを用いて外乱を抑制する項から構成されている.合意アルゴリズムとグラフ理論により一部のエージェントしか目標値の情報を取得することができない場合でも,全体を目標値へと一致させることを可能にしている.また,外乱が加わらない場合の理想的なエージェントの状態を推定する推定器を構成することで,この推定値とエージェントの状態の差をRISEを用いて除去することにより外乱を抑制する.更に,提案制御則を用いた時のシステムの収束性解析を行うことにより,エージェントの状態を目標値へと収束させるために必要となる制御ゲインの条件を導出する.最後に提案制御則を用いた際のシミュレーション結果において,収束条件を満たす場合には制御目的を達成することを確認し,収束条件および提案制御則の有効性を示す.


 

■ 全体コスト最小化のための分散協調アルゴリズムによる最適電力配分

慶應義塾大学/独立行政法人科学技術振興機構,CREST・志田 宇信,
慶應義塾大学/独立行政法人科学技術振興機構,CREST・大森 浩充

  本論文では,電力配分問題を解くための分散協調アルゴリズムを提案する.目的関数は発電量と潮流の総和で与えられる.制約条件には需給バランスや発電量と潮流の制限が含まれる.分散的に電力系統を管理するマルチエージェントシステムに提案手法を適用することを考える.各エリアにはエージェントが設置されていて,各エージェントは自分のエリアの事前情報とその近傍から伝達される信号のみを利用できるとする.提案手法を用いたとき,エージェントはその局所的な情報をもとに,全体のコストが最小となるような電力配分の解を導くことができる.


 

■ 新生児の自発運動評価を目的としたGeneral Movements診断支援システム

広島大学・中島 翔太,右田 涼,早志 英朗,茨城大学・芝軒 太郎,
横浜国立大学・島 圭介,県立広島大学・島谷 康司,岡山大学・中塚 幹也,
国立病院機構岡山医療センター・竹内 章人,中村 信,
広島大学・栗田 雄一,辻 敏夫

  本論文ではマーカレスに計測した動画像から新生児運動をGMsに基づいて評価・自動識別可能なシステムを提案する.提案システムでは,マーカレスで撮影した動画像から背景差分画像やフレーム間差分画像を作成し,各画素数をカウントすることで体位や運動の時間変化を抽出する.また,抽出した特徴量から運動量や運動リズムなど運動に関連する評価指標を全25個算出し,ニューラルネットを用いることで,児の運動をGMsに基づいて自動的に識別する.そして識別結果を動画像,評価指標とあわせて医師へ提示する.
 これにより,医師が新生児の状態を長時間観察することなく直感的に把握でき,診断の支援や障害・病症の早期発見につながる可能性がある.このシステムの特徴は新生児にマーカを装着する必要がなく,また,ニューラルネットを用いることで自動的にGMsに基づいた新生児運動の識別が可能な点である.実験では,満期出産児および低体重出生児(出生体重2500 [g] 以下)を対象とし,動画像から特徴量や評価指標を抽出して運動を識別した.その結果,GMs評価ライセンスをもつ評価者と提案システムの評価が類似する結果が得られた.
(4種のGMsの識別率は76.2±2.83 [%] で正常/異常の識別率は92.9±1.98 [%])