論文集抄録
〈Vol.51 No.1(2015年1月)〉

タイトル一覧
特集 新時代を開拓するシステムインテグレーション
[論  文]


[論  文]

■ 直接外部駆動メカニズムによるオンチップ細胞計測

名古屋大学・垣尾 翼, 杉浦 広峻,大阪大学・佐久間 臣耶,金子 真,名古屋大学・新井 史人

  本論文では,従来の計測方法では困難であった直径10~30ミクロン オーダーの浮遊する動物系細胞に対して,高精度・高出力な駆動系を用いた単一 細胞力計測の実現を目的とした.そのために,従来研究でのマイクロ流体チップ のフロー系用いた計測手法を取りつつ,細胞を変形させるための新たなオンチッ ププローブの駆動方法として,オンチッププローブを外部アクチュエータで駆動 させる「直接外部駆動メカニズム」を提案した.直接外部駆動メカニズムは,三 層構造から成るSOIウエハを利用し,薄いデバイス層にオンチッププローブを, 厚い支持層に外部アクチュエータとの接続点を有したチップを作製することで実 現した.また,外部アクチュエータにピエゾアクチュエータを用いることで, 最小1 nmの位置決め精度でかつ高出力なオンチッププローブの駆動を可能とし た.そして,動物系細胞としてMDCK細胞を対象とした力計測を行い,マイクロ 流路から搬送された細胞をオンチッププローブで変形させると同時に,力セン サによって細胞からの反力を計測することに成功した.以上の結果から,浮遊 する動物系細胞の力計測に対して,新たに提案した直接外部駆動メカニズムに よるオンチッププローブの駆動方法の有用性を示すことができた.


 

■ 螺旋尺取り方式を用いて円柱を移動するヘビ型ロボットの提案

岡山大学・亀川 哲志,内蒙古民族大学・斉 偉,岡山大学・五福 明夫

  ヘビ型ロボットが配管や木などの円柱形状の環境に沿って移動し,点検や監視などの作業をするといった産業への応用が期待される.そのような実用を考えた場合,ヘビ型ロボットは円柱の径などの円柱形状の変化にある程度対応できることが望ましい.これまでに,螺旋捻転運動により円柱の径が大きく変化しない場合には適応的に螺旋の半径を調整して円柱上を移動するアルゴリズムは提案されている.しかしながら,産業用プラントの配管の外周に巻きついて移動する場合には,配管の継ぎ目にあるフランジを乗り越えるといった大きな段差を乗り越える必要がある.そこで本研究では,生物の蛇が円柱形状の物体の上を移動する方法を参考にし,離散的に円柱を把持して体を支持し,把持する地点を順次送る動作を実現する螺旋尺取り方式をヘビ型ロボットの新たな移動形態として提案する.螺旋尺取り方式をヘビ型ロボットに実装する際には,ヘビ型ロボットのなす形状を連続曲線モデルで計画しておいて,それから離散折れ線モデルへ当てはめる手法を用いる.本稿では実際に螺旋尺取り方式を実装したヘビ型ロボットが円柱上の段差のある障害物を乗り越える実験を行い,提案手法の有用性を確認した結果を示す.


 

■ がれき特徴に対するレスキューロボットの踏破性能評価に関する研究

北海道大学・川尻 将大, 小野里 雅彦, 田中 文基

  1995年1月17日に発生した阪神・淡路大震災以降,大規模災害における人命救助対策の一つとして,二次災害の被害を回避しつつ迅速に要救助者を発見,救助するためのレスキューロボット開発が各所で取り組まれてきた. しかし,これまで救命活動の主な場であるがれきに対して未だ十分な解析が行われておらず,がれきに適したロボット開発や現場での適切なロボット選択, 走行経路選択,操作方針選択に必要な知見が蓄積されていない.知見蓄積には,特徴が異なる様々ながれきを用いた走行試験を数多く行い,統計的な分析をすることが求められる.しかし,このアプローチは,がれきの設置やコスト,労力,安全性の面で現状では困難である.そうした課題に対して,本研究では仮想空間上の物理シミュレーションを利用したレスキューロボットのがれき踏破性能評価システムの開発を行った.本論文ではがれきにおけるレスキューロボットの性能評価の現状と課題について述べた後に,開発したシステムの概要を紹介し,本システムを用いて得られた知見の例を示している.さら に,小規模ながれきフィールドに対して実施したシミュレーションの比較評価実験を実施し,シミュレーションの妥当性を示した.


 

■ つくばチャレンジ2013の課題を題材とした実環境におけるタスク遂行ロボットの開発

宇都宮大学・赤井 直紀・山内 健司・井上 一道・宇内 隆太郎・山本 条太郎・尾崎 功一

  本論文では,つくばチャレンジ2013において課題を達成した際の移動ロボットの開発方針,および実際に課題を通して得られた知見について報告する.まず我々は,つくばチャレンジ2013の課題を達成するために必要とされる理想的な課題ついて整理した.しかしながら,これらの機能をすべて実装することは,複雑なアルゴリズムの構築が要求されるため,容易に実現できることではない.そこで本論文では,これらの理想的な機能を実現しなくとも,与えられた課題を正確に達成することができる簡略化された機能について考えている.そして,これらの機能を確実に成し遂げるための自律移動法,および人検出法について述べている.我々は,磁気および幾何的なランドマークを用いた自己位置推定法を利用し,長距離の安定した自律移動を実現した.また,色抽出に基づく方法を利用して,誤認識の少ない正確な人検出を実現した.これらの方法を用いることで,我々のロボットは,設定した簡略化された機能を確実に実行することができるようになった.本論文では,実際につくばチャレンジ2013にて得られた実験結果について報告し,簡略化された機能を正確に実行するのみで,課題達成ができることを示す.また,本チャレンジを通して得られた知見についてもまとめる.


 

■ 精密仕上げロボットシステムの開発

 IHI・林 浩一郎・上野 光・村上 弘記

  精密仕上げ工程は,高い技能が必要とされ,技能伝承の問題や品質安定化の観点から自動化が求められている.そこで筆者らは,可動範囲が広いロボットアームをベースとしたロボットシステムを開発した.
 本システムを構成する要素技術は,(1)多様な工具・加工に対応するための力制御技術,(2)教示作業を軽減するためのCADモデルを利用する軌道生成技術,(3)ワークのばらつきに対応するためのタッチセンシング計測技術,(4)加工や計測等の要素機能を自由にプログラミングできる独自ロボット言語によるシステム化技術,である.これらにより,これまで勘と経験に依存していた技能工程を,加工条件で表現することが可能となり,人に依存しない加工技術が確立できるだけでなく,ロボットの高い再現性による安定した加工が期待できる.
 本論文では,個々の要素技術について述べ,これらをシステムインテグレートした後,加工試験によって加工品質を熟練作業者と比較する.試験の結果から,特に高い技能を要する加工において,本システムが熟練作業者と同等の加工品質を実現できることを確認し,航空部品の精密仕上げ工程への適用を果たした.


 

■ 折り紙構造をもつロボットハンド

東北大学・衣川 潤,盧 俊榮,小菅 一弘

  本論文では,駆動機能・センシング機能・機械的コンプライアンス等の機能を個別の部品ではなく統合的に一体型で実現する,新しいコンセプトに基づくロボットハンドを提案する.さらに,統合型ロボットハンドのような,機能が統合されている立体形状の一体型構造物の製作がより容易に実現できる製作手法として,Shape DepositionManufacturing と折り紙の原理を融合した新しい製作手法を提案する.その上,提案した製作手法の有効性を確かめるため,機能の一部分を統合するロボットハンドの開発を行い,把持実験によりその有効性を示す.


 

■ ヒトを活動的にする移動支援ロボット―IDを発信する赤外LEDタグと全方位カメラを用いた利用者の追跡―

豊田中央研究所・小山 渚・但馬 竜介・田中 稔・廣瀬 徳晃・鋤柄 和俊・藤井 亮暢

  本論文では,歩行者に追従するロボットの利用者を,特定パターンで発光する赤外LEDタグと全方位カメラを用いて追跡する手法を提案する.少子高齢化が進む中,歩行者に追従し,荷物の運搬を補助することで,積極的に出歩くことを支援するロボットを開発している.この支援のためには,利用者の確実な識別と追跡が課題となる.そこで,利用者の装着する赤外LEDタグをその発光パターンにより識別する手法を提案する.提案手法はタグの発光周期と位相をパーティクルフィルタにより推定することで,非同期なカメラによるタグの識別を実現する.提案手法の有効性を開発中のロボットとタグを用いた実験により評価する.


 

■ GPSおよび連続画像をセンサ統合に用いた環境変動に頑強な自己位置推定

明治大学・木内 健太郎,横田 隆之,齊藤 隆仁,黒田 洋司

  本論文では,GPS観測値及び連続画像による場所認識を利用した複数観測値を扱う自己位置認識法を提案する. GPSを利用した状態でロボットが背の高い障害物の近くを走行する場合,マルチパスやシグナルロストを引き起こす危険が生じる.この問題に対処するため本手法ではGPS観測値に加え連続画像による場所認識を利用する.連続画像による場所認識は従来の場所認識技術と比べ夜間における自己位置推定にも対応可能である.両観測値を用いることにより堅牢な自己位置推定を実現する.本システムでは観測値に加えGyrodometryによるデッドレコニングを入力値として自己位置推定を行う.本手法の有効性を大学構内における季節および時間の異る約1600mのコース及び,約500mのコースによる総走行距離5300mの屋外実験により示す.


 

■ 漆をベースとした電子回路構築手法の基礎的検討

筑波大学・橋本 悠希,東京大学・小泉 直也

  漆芸は日本独特の装飾美を持ち,世界から「Japan」と呼ばれるな ど,日本を代表する伝統工芸である.使用されている漆は耐薬性,防水防腐性, 抗菌性,堅牢性など塗料として非常に優れた特性を持ちあわせており,人に優しい無公害の天然樹脂塗料である.本研究ではこうした特色を利用し,漆で構造材,絶縁体基材,コーティング材の3役を担う電子回路基板である"漆回路"の構築を提案する.漆と電子回路を組み合わせることで,強靭で人にやさしく美しい新たな電子機器が実現でき,電子機器と人との物理的・精神的な距離を極めて近づけることができると期待される.
本稿では,漆と他の素材の特性を比較し,電子回路に対する漆の利点・問題点を 議論すると共に,漆塗膜上に回路を構築することの実現可能性について述べた. また,本提案実現のための漆塗膜加工手法として,漆の数少ない弱点とされてきた"紫外線に曝露されると分解する"点を逆に利用した手法を提案した.実験では,漆の電気絶縁性の検証,漆塗膜加工手法の検証,多層回路の試験的実装をそれぞれ行い,漆回路の構築が可能であることを示した.