論文集抄録
〈Vol.51 No.10(2015年10月)〉

タイトル一覧
[特集 人間・環境・社会を支えるセンシング技術]


[論  文]

■ 直線状の磁束密度荷重積分センサを用いたスマートフォンの位置姿勢推定

東京大学・尾谷 和則,樋口 祐介,伊藤 雅博,
奈良 高明,安藤  繁

  本論文では,直線状センサ上の磁束密度の荷重積分を観測量とする,磁気双極子の位置に関する線型方程式を導出し,その逆問題を解くことにより磁気双極子を定位する手法を提案する.1本の直線状センサを用いた場合,一意に定位できない磁気双極子の位置と姿勢の条件を示し,同一平面上に存在しない2本の直線状センサを用いることで一意再構成可能であることを示す.磁気双極子の位置推定誤差についてのシミュレーションを行い,2 本の直線状センサの配置を高さが異なる十字型とする.ネオジウム磁石の位置と姿勢を推定する実験を行い,本論文の理論が磁石に十分適用可能であることを示した.またスマートフォンに内蔵されているスピーカの磁石の位置と姿勢を推定する実験を行い,高さ 30mm の平面上,80mm 四方の範囲で平均位置推定誤差3.4mmで定位可能であることを確認した.


 

■ 任意の中心周波数を設定可能なバンドパスΔΣ変調器

茨城大学・吉成 洸人・塚元 康輔

  本論文では,中心周波数を任意に設定できるΔΣA/D変換器の主構成要素であるバンドパスΔΣ変調器を提案した.提案したΔΣ変調器は2次のバンドパスΔΣ変調器を3段用いた多段構造にすることで,安定性を保証しつつ高精度変換を可能にする.また,多段構造においてアナログループフィルタとディジタルフィルタとのミスマッチに起因する性能低下に対して自己校正手法を提案し,内部回路の飽和を防ぐための係数スケーリング処理を提案した.MATLABを用いたシミュレーションにおいて,ループフィルタ内の係数に±0.1%程度の誤差があった場合でも校正により変調器の精度を20bit相当まで改善できることを示した.


 

■ 積層型3Dタッチパネルによる近接位置検出

福岡大学・辻  聡史,小浜 輝彦

  本研究は, ディスプレイ上の三次元空間(近接及び接触)で操作可能なタッチパネルの開発を目的としている. 例えば, ディスプレイに指を画面に近づければ近づけた距離及び位置に合わせて画像が拡大し, ボタンを押しやすくする動作が可能となる. 更に, 指の押圧の強弱による多様な操作を実現することができる. 我々は, これまでに近接及び接触測定が可能な積層型3Dタッチパネルを提案し, ディスプレイ上で対象(指)の近接及び接触測定が可能であることを示した. これまで基礎研究として, 近接測定では電極間の静電容量の変化により電極間に対象が接近したことを検出していたが, 詳細な近接位置の検出は行っていない. 本稿では, 提案した積層型3Dタッチパネルによる対象の近接における詳細な位置の検出を行った. 対象が近づいた場合, その電極間のみならずその周囲の電極間の静電容量が変化する. その変化を用いることにより近接における対象の詳細なX-Y座標の算出を行った. 更に, 対象の個体差を考慮した対象までのZ 軸の距離の算出及び対象の傾きにおける影響について検討を行った. 実験により近接でのX-Y 座標に加え対象までのZ 軸の距離の検出の可能性を示しえた.


 

■ ピエゾ極限センサを用いた静的荷重試験による破壊前の測定比較

 秋田県立大学・下井 信浩, Carlos CUADRA, 佐々木 拓哉, 間所 洋和,
応用地質・西條 雅博

  本論文においては,我々が開発したピエゾ極限センサが,煉瓦組積構 造物の内部破壊の危険を警告することが可能であるかを検討した.圧縮試験機を 用いた荷重試験を実施し,本センサを取り付けた煉瓦組積構造物の破壊における限界状態を測定し評価した. 新センサは,静的荷重試験用に圧電素子フィルムを貼り付けたガラス管から構成されている.センサは,煉瓦組積造試験体にセンサのガラス管を直接挿入するか,センサ本体のガラス管を金属製のホルダーに挿入して使用することも可能である.
 本研究においては,ガラス管の本体のみを使用した試験と外装に真鍮製ホルダー を使用した試験の違いを紹介している.そして,比較のために別途,ピエゾケー ブル振動センサを用いた測定結果を掲載している.その結果,圧縮試験による煉瓦組積造試験体の破壊試験経過において,完全破壊時の直前にピエゾ極限センサからの信号を得ることが検証された.本センサは,外部から目視で観察できない段階で構造物の破壊状態の検出が可能である.実際の構造物においては,これらの予測シグナルは危険予知のために有効である.本センサを用いて構造物の健全性をリアルタイムに監視することは,構造物の崩壊防止と損害緩和のために有効であると思われる.


 

■ 立方体励磁コイルと渦巻状薄膜検出コイルを用いた渦電流探傷試験法の現象解明

大分大学・元安 雄大, 後藤 雄治

  非磁性材料を対象とした非破壊試験の一つに,渦電流探傷試験法(ECT:Eddy Current Testing)がある.この手法は金属に交流磁界を印加させ,渦電流を発生させる。欠陥等が存在する場合,渦電流の分布が変化するため,その変化をコイルのインピーダンスや磁界の変化量として検出して探傷を行う.一般的なECTは単一コイルに交流電流を流し,被試験体に近づけインピーダンス変化を測定する.そのため,欠陥が存在しない位置でもある一定のインピーダンスの値が得られるため,この値を差し引くなどの工夫が必要となる.そこで近年では,励磁コイルと検出コイルで構成される相互誘導型ECTが考案され,欠陥が存在しない位置では検出信号が発生しない上置型ECTプローブの検討が行われている.本研究では,立方体励磁コイルとその底面に渦巻状の厚みの薄い検出コイルを配置した上置型ECTプローブを提案し,検討を行う.このプローブは,検出コイルが薄く構成できるため,プローブと被試験体との距離が小さく設定できるメリットを有している.本研究では検査対象を非磁性体であるアルミ板とし,表面スリット欠陥を探傷モデルとした場合において,このプローブの探傷原理を3次元有限要素法の電磁界解析と検証実験により明らかにした.


 

■ 交流磁界を用いた経鼻胃管先端部の非接触位置推定法の提案

北川鉄工所・藤井 孝憲,大分大学・小森 博之,後藤 雄治,
湯布院病院・宮崎 吉孝

  嚥下障害の患者は,経鼻胃管を用いて直接胃へ栄養を注入する必要がある.この鼻から胃までの経鼻胃管の挿入では,気管への誤挿入など,正しく胃に入らない場合がある.この状態で栄養が注入されると呼吸不全や肺炎などの致命的な事態を引き起こすため,誤挿入のチェックは大変重要である.この誤挿入の確認方法としては,一般的に,X線撮影が推奨されている.しかし,この手法は労力がかかり,また被曝の影響が懸念されるため,実際には行われない場合が多い.
 そこで本研究では,電磁気を使用した経鼻胃管先端位置推定法の検討を行った.本提案手法では,経鼻胃管先端部に3軸検出コイルを設置し,体外に10個の交流励磁コイルを非接触で配置し,検出コイルに得られる交流磁界の強さから管の位置を推定する手法を提案する.ここでは実用性を考慮して,体外に配置する励磁コイルは腹部上面のみに限定した.また経鼻胃管には長さのメモリが印字されているため,挿入長さと本手法を組み合わせて胃以外の部分に管先端部が位置しているかの判断を行った.ここでは人体での臨床試験において位置推定誤差10mm未満に成功し、本手法の有用性を確認した.


 

■ 誤差共分散行列による送信割当を行う分散型センサデータ融合

三菱電機(株)・松崎 貴史,丸山 晃佐,小幡 康,
匂坂 健太郎,亀田 洋志

  異なる場所に分散配置された複数台のローカルセンサの観測による目標物体のデータをネットワーク経由で集め,ローカルセンサ毎の融合トラッカにより,標物体の位置・速度等の成分に持つ統合航跡を推定する分散型データ融合が広く研究されている。従来の分散型データ融合として,送信判定法がある.送信判定法は統合航跡の誤差共分散行列を元に,ローカルセンサ毎に自律的に送信判定を行い,送信データを削減できる利点がある一方,自分勝手にデータ送信を行い,ネットワークにデータが過剰に送信される問題がある.本論文ではこの問題を解決するため,送信割当を行う分散型データ融合を提案した.提案法は,①ローカルセンサのデータが疑似的に得られると仮定,②疑似的なローカルセンサのデータにより更新した統合航跡の誤差共分散行列と更新前の統合航跡の誤差共分散行列の最大固有値の差の逆数をセンサコストとする,③センサコストをローカルセンサと目標の組合せ毎に算出し,センサコストの総和を最小化するように,センサデータを送出するローカルセンサを割り当てる,といった特徴を持つ.シミュレーションの結果,提案法は従来法に比べ,追尾位置誤差を同等としつつ,50ポイント以上の送信頻度低減を達成した.


 

■ 時間領域におけるシステム同定結果の評価指標について

慶應義塾大学・室井 秀夫,ソニーグローバルソリューションズ・竹下 侑,
慶應義塾大学・足立 修一

  適合率はシステム同定結果の時間領域での評価にもっともよく用いられる指標のひとつである.この指標はRMSEを測定値の標準偏差で割ったもので構成されている.しかし,適合率がシステム同定結果の評価に対して妥当な指標であるかどうかの議論は活発になされてこなかった.
 本論文では,適合率の妥当性について議論するために,まず,自然地理学分野で行われてきた議論をまとめた.つぎに,システム同定を意識した指標に関する評価を二つのケーススタディを用いて行い,適合率がモデルの妥当性を評価する際に誤った判断を促す可能性があることを示す.


 

■ 自己釣り合い状態を利用したマルチエージェントシステムのフォメーション制御

和歌山大学・増田 容一,長瀬 賢二

  本研究では,マルチエージェントシステムのフォーメーション制御において,自己釣り合い状態(平衡状態で要素間力が非零の状態)を積極的に利用した制御系設計法について考えた.制御入力はエージェント間のばねにより構成されるポテンシャル関数の負の勾配で与えられるものとし,そのばね特性の設計法を示した.設計変数には,構造設計の分野で用いられる軸力密度を導入し,目標フォーメーションが安定な平衡点となる自己釣り合い状態の設計問題を,半正定値計画問題として定式化を行った.さらに,上記最適化手法の適用例として,通信遅延を有するマルチエージェントシステムおける許容むだ時間の最大化問題を考え,最適化問題としての定式化の方法を示した.手法の有効性は,通信遅延を有するシステムに対する数値例により検証し,自己釣り合い状態を利用しない(平衡状態での要素間力を零として設計を行う)従来手法に対し,大幅な許容むだ時間の増加が確認できた.