論文集抄録
〈Vol.51 No.2(2015年2月)〉

タイトル一覧
[論 文]


[論 文]

■ 2-Delay入力制御を用いた離散時間仮想フィードバック誤差学習

宇部工業高等専門学校・野口 慎

本論文では,離散時間仮想フィードバック誤差学習(DT-VFEL)と呼ぶ新しい学習制御法を提案する.もとの連続時間系が最小位相であったとしても,相対次数が高ければ,短いサンプリング周期での離散化により,離散時間系が非最小位相 となる場合がある.したがって,従来の離散時間フィードバック誤差学習 (DTFEL)の枠組みでは安定な逆システムを学習することができないため,仮想 フィードバック誤差学習(VFEL)を連続時間版から離散時間版へ拡張することは容易ではない.その欠点を克服するために,2-Delay入力制御を適用する.そして,学習速度を速めるために,可変ゲイン型学習則を導入する.最終的に, 離散時間 版のPE条件のもとで追従誤差が零収束することを示すとともに,シミュレーショ ンにより提案法の有効性について検証する.


 

■ 接触面を考慮したソフトフィンガ型把持の安定性評価

産業技術総合研究所・原田 研介,九州大学・辻 徳生,
金沢大学・藤平 祥孝,渡辺 哲陽,九州大学・宇都 宗一郎,
産業技術総合研究所・山野辺 夏樹,永田 和之,北垣 髙成

本論文では,ロボットハンドによる対象物の把持において,各接触点がソフトフィンガ型接触を維持するという仮定の下での把持安定性を議論する.指と対象物にポリゴンモデルを仮定し,これらの交わりにより接触領域を定義する.次に,この接触領域に対してWinkler elastic foundation modelを用いることにより圧力分布を導出することで,対象物に加わる力・モーメント集合を 定義する.さらに,重力を考慮した安定指標について述べる.提案する手法の有効性を確認するために,種々の数値例を示す.また,実際の把持を想定し,接触に関する物理パラメータを同定する実験結果を示す.


 

■ 局所半凹制御Lyapunov関数による凸入力制約を考慮した非線形制御系設計

東京理科大学・佐藤 康之,中村 文一,木村 駿介

非線形制御理論においては,システムの可制御性や状態空間の位相の問題から,不連続な状態フィードバック制御則が必要とされる場合がある.たとえば,非ホロノミック系の制御や,移動ロボットの障害物回避などの問題である.システマチックな不連続状態フィードバック制御則の設計法として,半凹制御Lyapunov関数に基づいた設計法が提案されているが,システムの入力制約を考慮していないという問題があった.
本論文では,制御入力が状態依存のコンパクト凸集合に拘束される非線形システムに対して,局所半凹実用制御Lyapunov関数を用いた不連続状態フィードバック制御則の設計法を提案する.提案する設計法は,半凹関数の分解微分と凸最適化に基づいて制御入力を設計するものであり,入力制約をみたしながらシステムの原点を局所漸近安定化することを保証する.
また,提案する制御則が原点で連続となる条件についても議論する.最後に,二輪車両系を対象とした数値例により有効性の検証を行う.


 

■ 6自由度パラレルリンク型アクティブ吸振器付き搬送台車による液体タンクの制振制御―水平な直線路走行の場合―

島根大学・浜口 雅史,谷口 隆雄

本研究では,6自由度パラレルリンク型アクティブ吸振器付き搬送台車により,液体タンクの制振制御を行った.本吸振器は,直動アクチュエータを6台使用し,搬送台はリンクを介してこれらのアクチュエータに支持される.すなわち,各アクチュエータを協調動作させることにより,搬送台の位置・姿勢の6自由度を制御することができる.搬送台上に円筒型液体タンクを搭載し,搬送台車が走行した際に励起されるタンク内の液面振動(スロッシング)を吸振器により制振させた.最適レギュレータを用いて制振制御系を構築し,レギュレータの重みは遺伝的アルゴリズムを用いて最適化した.また,搬送毎にタンク内の液体量が変化しても対応できるようにゲインスケジューリングを用いた.なお,本研究では第一段階として,水平な直線路走行を対象とした.本制御系の有効性を制御シミュレーションならびに実験において明らかにした.


 

■ 反応拡散系における不安定定在波の選択的安定化

 大阪大学・梅津 佑介,明治大学・小川 知之,京都大学・加嶋 健司

自然界には,空間的に非一様なパターンを形成する機構が数多く存在し,こうした自発的な空間構造の形成は自己組織化と呼ばれ,工学的にも大きな可能性を有している.先行研究において著者らは反応拡散系に対して,補助的な外部入力を加える事により,所望の静的なパターンを選択的に発生可能であることを示した.本研究では,同様の試みが動的なパターンに対しても可能であることを示し,その有効性を有限次元の近似システムにおいてだけではなく,偏微分方程式において評価する.


 

■ レーダ測距方式比較検証のための24GHzソフトウェアレーダ

電気通信大学・渡辺 優人,稲葉 敬之

筆者らは,送信周波数制御信号,ベースバンド信号,送受信制御信号(Trigger)から構成される制御ソフトウェアの書き換えにより任意のレーダ測距方式を送受信可能なソフトウェアレーダを開発した.本レーダの特徴は、時間遅延,周波数,位相差など異なる原理に基づくレーダ測距方式のみならず、それを複合したレーダ測距方式を送受信することが可能である.また1台のレーダ装置で,レーダ測距方式の検証・比較が実施できる.本論文では,ソフトウェアレーダの概要について述べるとともに,ソフトウェアレーダが位相差に基づくレーダ測距方式,また周波数と位相差および時間遅延と位相差をそれぞれ用いたレーダ測距方式について目標の距離が得られることを実験により確認する.


 

■ フィードバック制御によるベイジアンゲームの信念推定

奈良先端科学技術大学院大学・金川 雅和,電気通信大学・小木曽 公尚

本研究では,ある静的なベイジアンゲームを対象に考え,ある任意のベイジアンナッシュ(BN)均衡に対応する信念を推定する方法を提案する.これを実現するため,BN均衡を満たす最適性条件からBN均衡の遷移モデルを定式化し,その遷移モデルを制御対象とする混合戦略のフィードバック制御系(所 望のBN均衡を目標値とする追従制御系)を構築する.最後に,数値例題により,ある与えられたBN均衡に対応する信念が推定できることを確認する.


[ショート・ぺーパー]

■ 縮約データによるHEVの燃費最適化の計算時間短縮

山口大学・山崎 翔,若佐 裕治

ハイブリッド電気自動車はエンジンとモータの2つの動力源を用いることにより低燃費を実現する一方,従来のガソリンエンジン車と比べ制御が複雑であり,どのようにエネルギーマネジメントを行うかは現在でも重要な課題となっている.近年,このような課題に産学共同で取り組むベースとして,ベンチマーク問題「ハイブリッドパワートレインを用いた通勤車両の燃費最適化」が作成され,すでにいくつかのグループが解決法を提案している.本研究では,長時間の走行データから速度,加速度の特徴をもつ短時間の縮約データを抽出し,走行パターンに応じてエネルギーマネジメントアルゴリズムのパラメータを変更する方法を提案する.提案法によって,現時点における最高の燃費性能を達成するとともに,燃費最適化に要する計算時間を短縮させることができた.