論文集抄録
〈Vol.51 No.5(2015年5月)〉

タイトル一覧
[特集 第19回ロボティクスシンポジア特集号 Ⅰ]


[論 文]

■ 永久磁石による磁気吸着機構を用いた進行波型全方向壁面移動ロボットの開発

中央大学・呉 哲英,大澤 達也,小川 曜儀,中村 太郎

本論文では,壁面移動が可能な全方向移動ロボットの開発を行う.本ロボットは船舶やガスタンクの外壁の検査を目的としている.船舶やガスタンクなどの構造体は強磁性体でできているので,既存の研究として永久磁石を吸着機構としたロボットが多く開発されている.しかしそれらのロボットは接地面積が小さく,吸着面から得られる摩擦力が小さいため,安定した移動が困難である.また同様の理由により,吸着力を確保するために永久磁石を大型化させなければならず,それに伴って重量の増加や移動に必要なエネルギが大きくなるといった問題がある.
著者らはこれまでにカタツムリの移動方法を用いた全方向移動ロボットを開発した.このロボットは安定した全方向移動が可能なので,壁面での移動にも適応できるのではないかと考えた.
また吸着方法として,永久磁石を用いた磁気吸着機構の開発を行う.この機構は搭載されている永久磁石を回転させることで吸着状態と移動状態を切り替えることが出来る.実験では磁気吸着機構を搭載した本ロボットを水平面,壁面,天井において走行させる.全方向移動と旋回移動をそれぞれの条件上で行い,ロボットの有用性を確認する.


 

■ 可変剛性繰り出しチューブを用いた大腸内視鏡挿入支援デバイスの開発-摘出した豚の大腸への応用-

中央大学・柳田 隆一,鎌形 徹平,中村 太郎

本論文は,ジャミング転移発生粒子による剛性変化が可能なチューブを用いた大腸内視鏡の挿入支援デバイスについて述べ,さらに本装置が大腸内通過することが可能であるか評価するために,摘出した豚大腸内実験を行い,その結果について述べている.本装置の背景として,近年の大腸がん患者の増加が挙げられる.この大腸がんは,早期発見・治療によって完治が可能である.しかし,早期発見のために,広く用いられている内視鏡は操作が難しいため,医師の習熟に時間がかかる.さらに,不慣れな医師による患者への不快感や,腸管穿孔の危険性も存在する.そのため,本研究では,繰り出しチューブと可変剛性チューブに着目して大腸内視鏡の操作を簡単化するための補助デバイスを開発した.本デバイスは,生体適合性を考慮して,チューブにはラテックスゴム,ジャミング転移発生粒子には米の粒子を用いている.本デバイスを用いることで,医師がトレーニングに用いる大腸モデルにおいて,内視鏡の補助が可能であることを確認した.さらに,より人間の環境に近い摘出した豚の大腸を人間と同様の形状に配置した環境で実験を行った.本実験では,新たな操作手法を追加することによって,目的としていた可変剛性チューブの摘出した豚大腸内の通過に成功している.


 

■ 角度ベース複数仮説を用いたLRFによる複数種類・複数個の移動体追跡手法

産業技術総合研究所・畑尾 直孝,奈良先端科学技術大学院大学/産業技術総合研究所・鮫島 一平,
産業技術総合研究所・加賀美 聡

本論文では,平面をスキャンするLRF(レーザーレンジファインダ)を用いて複数種類・複数個の移動体を追跡する手法を提案する.提案手法はSJPDAF(sample-based joint probabilistic data association filter)の枠組みを用いた複数仮説追跡手法であり,非常に近接した複数個の移動体や,形状の異なる複数種類の移動体をロバストに同時追跡することができる.さらに,本手法を実装し,オリジナルのSJPDAFより高い追跡性能を持つと同時に,複数種類の移動体を追跡できる能力があることを実証した.


 

■ 合同変換に不変な特徴量(CIF)とキーポイント間の幾何学的拘束に基づいたロバストなスキャンマッチング法の提案

和歌山大学・中村 恭之,脇田 翔平

本研究では,複数のキーポイントにおける合同変換に不変な特徴量(CIF)とそれら複数のキーポイント間の幾何学的な拘束を用いて,入力スキャンと地図との照合の度合いを評価することで,大域的スキャンマッチングをロバストに行う方法を提案する.
本報告では,提案手法の有効性を検証するために行った実環境での実験を通して,大規模な地図内で初期値を与えることなく自己位置同定できることを示す.


 

■ 物体のパーツ分割と形状特徴に基づく移動可能性を考慮した種別分類

 筑波大学・西田 貴亮,原 祥尭,坪内 孝司

オフィス等の人の生活環境で活動するロボットにおいて,安全な障害物回避や物体操作の可否判断のために,物体の移動可能性を認識できれば有益である.本研究では,未知物体の移動可能性を認識するため,移動可能性を考慮した物体の種別分類を行う.本研究では一般的なオフィス環境に存在する物体として、椅子と台車に着目し,環境中に存在する物体をキャスタつきの椅子,キャスタなしの椅子,台車,車輪つきの物体,車輪なしの物体の5つに分類する.この分類により,キャスタつきの椅子なら自由方向に動く,キャスタなしの椅子なら人に動かされるが多い,台車なら移動方向が拘束されている,といったように種別ごとの移動可能性の性質を認識できる.本研究で提案する手法では,物体が持つ特徴的なパーツに注目し,物体に対応するパーツの形状特徴を知識モデルとしてロボットに与える.ロボットは対象の物体をパーツごとに分割し,知識モデルで与えられた形状のパーツを持つかどうかでその種別を分類する.実験では,距離画像カメラを搭載したロボットに屋内環境を走行させた場合に,上記の種別ごとに物体の分類をどの程度正しく行えるか定量的に評価した.実験により,各種別の分類と移動可能性の認識が高精度で行えることを確認した.


 

■ 受動的動歩行の性質を利用した脚歩行ロボットの一設計方法- 適応的機能を使用した形状と関節自由度構成の設計 -

大阪大学・浦 大介,大阪電気通信大学・入部 正継,
大阪大学/JST CREST・大須賀 公一,岡山理科大学・衣笠 哲也

脚歩行ロボットについての研究の多くはZero Moment Point(ZMP)を転倒防止のための姿勢制御の規範として使用しているものが多く,これらの脚歩行ロボットは脚の動作を各関節の角度制御による位置姿勢制御で実現している.このような脚歩行ロボットを設計する際には,各関節の位置決め精度が高い特性を持つロボットハードウェアが制御方法に適したハードウェアとなるだろう.しかしながら,歩行動作を行うことが前提である脚歩行ロボットを設計する場合には,上述のようなハードウェアではなく「脚歩行に適した構造を有するハードウェア」を設計,制御する方が自然であろう.脚歩行に適したハードウェアとは,極限まで 制御を取り除いてもなお歩行が可能なものであると考えられる.このような脚歩行ハードウェアが受動的動歩行である.
受動的動歩行とは,ロボット自身の機構によるダイナミクスと環境の相互作用によって制御やアクチュエータを使用せずに緩やかな坂道を歩き降りるという歩行動作である.受動的動歩行には環境の変化に応じて歩容を変化させ,歩き続けようとするかのように振る舞う適応機能を持つ.本稿では,この受動的動歩行の性質を利用した新たな脚歩行ロボットハードウェアの設計方法について提案するものである.


 

■ 上肢動作補助機の筋活動および脳活動評価ー筋疾患患者向けADL補助と片麻痺患者向け訓練補助への適用検討ー

埼玉大学・田中 英一郎,就実大学・三枝 省三,広島大学・弓削 類

筋原性疾患患者のADL補助および片麻痺患者のニューロリハビリテーション補助を目的として,上肢動作補助機を開発した.本装置は,上腕の下と手首の下の2点で上肢を支持する「ついてきてくれるアームレスト」構造とした.また差動歯車機構により肘周辺のデザインをシンプルに設計した.本装置を使用し,食事を想定した手先を口元へ動かす際の上肢の筋活動を計測し,三角筋,上腕二頭筋,腕橈骨筋の筋活動の低減が統計的に確認できたことにより,本装置のADL補助に対して有用性が示唆された.さらに,上肢のリハビリテーション動作を本装置にて補助したときの脳活動を,NIRSにより計測した.計測結果および検定結果より脳賦活部位を評価し,動作および装置捜査者,操作手段の違いによる影響を統計的に確認した.この結果より,第三者操作時は単純な動作であること,使用者操作時はできる限り複雑な動作であること,プッシュスイッチを用いることが脳活動賦活に有効であることを提案した.また逆に,ADL補助として使用する場合の脳活動を低減させる方法として,複雑な動作は第三者かコンピュータに操作を委ねること,センサグローブ等動作がイメージできるもので操作することを提案した.


 

■ 学習効率を考慮したキャンパスエネルギーマネジメントシステムの提案と実証

慶應義塾大学・今西 智哉,松井 加奈絵,西 宏章

多くのEnergy Management System (EMS) におけるエネルギー削減に関する研究は,温室効果ガスの削減に主眼が置かれている.しかし,オフィスや大学キャンパスなどを対象として制御を行う場合,消費電力のみに注目した制御では,室内環境の悪化により快適性や知的生産性といった生活環境の悪化を誘発する恐れがある.そこで,温度・湿度・照度や風量だけでなく,CO2濃度を勘案した室内評価指標が必要となる.本論文では,PMVとCO2濃度を考慮した新しい学習効率指標を用いた,空調機器制御による消費エネルギー削減と室内環境向上の両立を目的とする.また,実環境に構築したBuilding Management System (BEMS) にて,空調機器を制御した実証実験を行う.


 

■ あるクラスのジレンマ問題に対するマルチエージェント強化学習法

京都工芸繊維大学・黒江 康明,飯間 等

複数のエージェントが同一の環境内で相互依存するシステムに対し,エージェントが学習により自律的に最適な方策を獲得するマルチエージェント強化学習に関する研究が盛んに行われている.マルチエージェントシステムの典型的な問題としてジレンマ問題がある.この問題は個々のエージェントにとっての最良の行動と集団にとっての最良な行動が異なっており,このことが学習を特に困難なものとしている。ジレンマ問題に対する強化学習法として,その代表的な問題であるN人囚人のジレンマ(NIPD)を中心としてこれまでにいくつかの方法が提案されている.本論文の目的は,NIPDを含むあるクラスのジレンマ問題を対象として,集団にとって最適な方策である協調行動をエージェントが自律的に獲得するマルチエージェント強化学習法を提案することである.そのためまず確率ゲームを用いて本論文で対象とする問題を定義する.定義した問題はNIPDを含むあるクラスのジレンマ問題となっており,この問題 に対し,集団にとって最適な方策である協調行動を獲得できる強化学習法を提案する.また提案した方法を、研究の第1歩としてNIPDと共有地の悲劇問題に適用した数値実験を行い,これまで提案されている方法より優れた方法となっていることを示す.


 

■ 最小射影法を使ったPVTOLシステムに対する静的状態フィードバック制御系設計

東京理科大学・久我 創紀,佐藤 康之,中村 文一,北海道大学・山下 裕

近年,四回転翼型飛行ロボットやV-22オスプレイに代表されるVTOL(vertical take off and landing) 機が注目を集めている.このVTOL機の平面内モデルであるPVTOL(planar VTOL)システムの位置,姿勢制御は難しい制御問題であることが知られている.PVTOLシステムの安定化には,動的拡大法が広く使われてきた.しかし,この方法によって設計された多くの制御入力には,機体垂直方向の推力がゼロとなる点近傍において,過大な回転方向入力を要求する特 異点が存在する.
本論文では,動的拡大法と最小射影法を基に,PVTOLシステムを安定化する「静的な」制御Lyapunov関数(CLF)を設計する手法を提案する.得られた静的 CLFを用いて,セクタ余裕を保証し,特異点の発生源となる入力変換を行わない逆最適制御則を設計する.加えて,設計された制御入力が,従来法である動的拡大法が安定化できない,任意の操作点の安定化を実現していることをコンピュータシミュレーションによって示す.