Vol.51,No.7
論文集抄録
〈Vol.51 No.7(2015年7月)〉
タイトル一覧
[論 文]
- ■ データ駆動型H2制御性能評価の最適化計算における収束領域
- ■ 複数搬送機械システムの連結および協調運転のための制御系設計法に関する研究
- ■ 分散評価に基づく外乱抑制FRIT法を用いた制御器とモデルの同時更新
- ■ 上肢へのリズム運動入力による歩行改善
- ■ モデル予測制御とスライディングモード制御による四輪操舵駆動車両のロバスト経路追従制御
- ■ 能動的外乱除去制御器を用いた場合の閉ループ系の安定性解 析とその応用
- ■ 回転不変性を考慮した超球交叉によるDifferential Evolutionの改良
[ショート・ペーパー]
- ■ 臨界ノズルを用いた超音波式ガスメーターの器差検定
- ■ 親機子機分離着陸機構を用いた月惑星探査機の2次元応答解析
[論 文]
■ データ駆動型H2制御性能評価の最適化計算における収束領域
首都大学東京・田中 優大,増田 士朗
本論文はFRIT(Fictitious Reference Iterative Tuning)を用いて最小分散制御のためのデータ駆動型制御器設計法を与え,その最適化における収束特性を解析する.データ駆動型制御器設計法は,プロセスモデルを用いずに1組の入出力データから導出される評価関数を最小化することで望ましい制御器パラメータを求める.しかし,それらの方法における最適化問題は一般に非凸である.そこで,本研究では最急降下法によって大域的な最小値へと収束する初期パラメータの集合を表すDOA(Domain of Attraction)に着目し,データ駆動型最小分散制御におけるDOAとなるための十分条件を求める.解析結果は,初期制御器と最小分散制御器の最大位相差がπ/2より小さいとき,最急降下法によってその初期パラメータから大域的最小値へと収束できることを示した.
■ 複数搬送機械システムの連結および協調運転のための制御系設計法に関する研究
名古屋大学・吉浦 隆仁,原 進,名古屋工業大学・森田 良文, 佐藤 徳孝,名古屋大学・山田 陽滋
本論文では,作業者がシステムに直接操作意図を入力し,そのシステムの運動を励起する手動運動制御問題について議論している.これまで,手動運動制御問題において最も成功した例として,パワーアシストがあげられる.本論文では,パワーアシストシステムによる搬送問題を取り上げ,その作業効率の飛躍的な向上を目指し,複数搬送機械システムのなめらかな連結および協調運転を可能にする制御系の設計法を示す.パワーアシスト台車を制御対象例とし,搬送作業中に作業者の直接操作する台車(手動操作機)が他の台車(自動操作機)といったん停止することなく,なめらかな連結を実現するには,連結が完了するまでに自動操作機が手動操作機と同程度の速度にまで加速している必要がある.そこで,本論文では著者らが初めてその概念を示した更新型終端状態制御を採用する.更新型終端状態制御によって,手動操作機の速度を検出し,ある時刻までに理想的な終端状態を実現する現時点での入力をオンラインで算出することができる.提案制御系の有効性を確認するため,2台のパワーアシスト台車による実験およびシミュレーションを行った.さらに,シミュレーション上で他の制御系との比較を行い,本搬送問題において提案制御系が最も有用であることを示した.
■ 分散評価に基づく外乱抑制FRIT法を用いた制御器とモデルの同時更新
首都大学東京・馬原 康・増田 士朗
データ駆動型制御器設計法は制御対象の数式モデルを必要とせず,閉ループもしくは開ループ入出力データのみを用いて制御器を設計する.このようなデータ駆動型制御器設計において,制御器パラメータだけでなく制御対象の数式モデルも同時に求める手法が提案されている.
しかし,先行研究では確定的な信号に対する追従特性を考えており,確率的な外乱の抑制とは問題設定やそれに対するアプローチが異なるのでそのまま適用することは難しい.
そこで,本研究では,著者らの分散評価に基づく外乱抑制FRIT の考え方をもとに一組の入出力データを用いた制御器と制御対象のモデルの同時獲得法を提案する.この手法では確率的な外乱を扱い,最小分散制御とシステム同定を目的とする.具体的には一組の入出力データから構成される新な評価関数を導入し,その評価関数を最適化するパラメータがシステム同定および最小分散制御のための評価関数も最適化することを示す.
東京工業大学・河野 大器,野村 寿敬,太田 玲央,猿田 百合子,
菊池製作所・関 雅俊,一柳 健,東京工業大学・小川 健一朗,三宅 美博
近年,歩行リハビリテーションにおいて患者へのリズムの呈示が有効であることが示されている,しかし,その有効性は聴覚へのリズム刺激に限定されたものであった。一方において,ロボット技術により下肢の歩行運動に直接介入する歩行リハビリテーションの有効性もすでに示されている.そこで,本論文では,上肢と下肢の協調関係に注目し,リズム刺激を上肢へ直接入力することにより患者の歩容改善を図る歩行リハビリテーション方法を提唱する.そのため,本研究において,リズム刺激により歩行時の上肢動作を変化させ,肘屈曲のタイミングと足接地のタイミングの位相差を制御する歩行支援装置を開発した.そして,この装置を用いてリズム刺激により上肢の運動に介入することで,患者の歩容が改善される可能性を検証した.検証実験は,膝屈曲制限装具を装着した健常若年者に本装置を使用することで行われた.その結果,本来屈曲が制限された歩行において生じる腰軌道の左右差が,本装置を使用することにより解消される傾向にあることが示唆された.このことは,限定的ではあるが本論文で提唱する歩行リハビリテーション方法の有効性を示しており,歩行リズムの生成障害を伴う患者に対する歩行支援の可能性を示唆するものである.
■ モデル予測制御とスライディングモード制御による四輪操舵駆動車両のロバスト経路追従制御
東京都市大学・小田 貴嗣,野中 謙一郎,関口 和真
本論文では,四輪操舵駆動車両を制御対象として,タイヤ摩擦円を考慮した上で車両運動性能とロバスト性を両立する経路追従制御を提案する.タイヤ力を限界まで使った制御を行うためには,拘束条件を陽に考慮することができるモデル予測制御が有効であるが,モデルを基に有限時間未来までの制御対象の挙動を予測するために,未知外乱などの影響を受けやすい.また外乱の影響を抑えるためには,スライディングモード制御のようなロバスト制御が有効であるが,タイヤの摩擦円を陽に考慮することが難しく,摩擦円を超える力を要する目標状態が与えられた際には,タイヤ力が飽和し追従性能が低下することが懸念される.そこで本論文では,モデル予測制御とスライディングモード制御を組み合わせることで,摩擦円を陽に考慮して運動性能とロバスト性を両立する経路追従制御器を提案する.そして,提案した制御器の性能を検証するために,数値シミュレーションを行った.シミュレーションの条件は,JSAE-SICEベンチマーク問題3の運動性能を検証するタスクに外乱を加えたものとした.このシミュレーションを通して,タイヤ摩擦円の限界を超える目標状態が与えられた際に,外乱の影響を抑えた上で実現可能な範囲で目標状態に追従することを示した.
■ 能動的外乱除去制御器を用いた場合の閉ループ系の安定性解析とその応用
京都大学・杉山 開路,丸田 一郎, 杉江 俊治
PID制御の特長としては,構造がシンプル,調整パラメータが少ない,各パラメータの役割が明確,ということがあげられる.一方,欠点としては,高次の制御対象に対してはパラメータの調整が困難,制御対象の特性が変わるとパラメータを再調整しなくてはいけない,ということがあげられる.これらのPID制御の抱える問題を克服するために能動的外乱除去制御器と呼ばれる手法が考案され,その有用性が,シミュレーションや実機実験で示されている. しかし,安定性の解析に関しては線形システムに限定した場合においても不十分な結果しか存在しない.具体的には,制御系の安定性を保証する制御器の設計方針が線形システムに適用する場合においても不明確である.そこで本稿では能動的外乱除去制御器を適用できる条件を明確にするために制御系の安定性の観点から考察を行い,閉ループ系が安定となるための条件を導出する.さらに実機実装も考慮に入れ,制御入力を低減しながら制御系の安定性を保つパラメータの調整方法をシミュレーションにより明らかにする.また,これらの解析に基づいてこの制御器を実機に対して適用できることを確認する.
■ 回転不変性を考慮した超球交叉によるDifferential Evolutionの改良
慶應義塾大学・金政 実, 相吉 英太郎
元々は自然現象である生物種の進化にヒントをえた演算の一つとして,「交叉」演算がヒューリスティック手法で使われ,とくに異なる0-1列や整数列の間の演算として,最適化計算に有効であることが知られている.しかし近年では,Differential Evolution (DE) のような連続変数空間でのヒューリスティック手法においても,生物の進化の考え方とは無関係に用いられるようになっている.このような実数値空間での交叉演算は,単に座標軸方向の探索点の移動をもたらすだけであり,座標軸の回転操作を解きたい問題に施すと, 従来の交叉を用いたDEはその探索性能が低下することが知られている.これは座標軸の回転に関して交叉に「不変性」がないためである.本論文では,座標軸の回転に不変性を有する新しい交叉演算として,「超球交叉」を提案し,これによって失われる座標軸のスケール変換に対しする不変性を,その超球の半径に対する調整則の導入によって補償する.本論文では,このような新しい交叉演算を有するDEと,従来のDEや回転不変性を持たせた他のDEとの比較を,数多くのベンチマーク用いて,一対比較のランク化t検定により行い,この新しい超球交叉を用いたDEが統計的に優れていることを確認する.
[ショート・ペーパー]
産業技術総合研究所・岩井 彩,森中 泰章,安藤 弘二,寺尾 吉哉
特定計量器である家庭用ガスメーターは,全台数が出荷時に計量法に基づく器差検定の合格基準を満たす必要がある.わが国における家庭用ガスメーターの出荷台数は年間数百万台であり,器差の測定精度を維持しつつ検定時間を短縮することが業界より切望されてきた.
そこで産総研では,近年普及が進む超音波式ガスメーターにおける検定時間短縮の可能性を検討するため,臨界ノズルを用いた試験設備で実際の検定現場を模擬した測定を行った.積算流量を測定する所要時間および流量が安定するまでの整定時間について評価した結果,超音波式ガスメーターを対象とする検定時間は,現行よりも大幅に短縮できる可能性があるとわかった.
■ 親機子機分離着陸機構を用いた月惑星探査機の2次元応答解析
名古屋大学・原 進,石川 凌,宇宙航空研究開発機構・大槻 真嗣
科学的な観測や有人基地建設の目的で,月面や火星などの惑星表面における活動が注目を集めている.このような活動を着陸場所を限定せずに行うためには, 斜面や段差といった厳しい地形でも探査機が転倒することなく着陸する機構が必須である.Saekiらは月面への探査機着陸機構に関して,地上試験した機構を実ミッションに利用可能であり,着陸時のリバウンドが小さい機構として,親機子機分離着陸機構(Base-Extension Separation landing Mechanism, BESM)を提案し,その有効性を明らかにしてきた.ただし,Saekiらの従来研究ではリバウンド量の比較を行う観点から探査機の運動を鉛直方向1次元に拘束することを仮定しており,水平方向の並進運動や回転運動などが考慮されていない. すなわち,斜面や段差地を含む着地面への着陸,その場合に最も重要な転倒防止性能などが議論されていない.本ショートペーパーでは,BESMの有効性に関する検討を進めるため,斜面への着陸を考慮したBESMを用いた新しい探査機モデルの導入と,それに基づいた2次元応答解析を行い,より現実的な条件に関する有効性,特に転倒防止性能の確認を行った.