論文集抄録
〈Vol.51 No.8(2015年8月)〉

タイトル一覧
[特集 健康・医療・福祉・生命の分野における計測・制御・システム技術 ]
[論 文]

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[論 文]


[論  文]

■ 高齢の要食事被介護者の飲み込み検出に関する研究

富山大学・都築  裕,西谷 光世,金  主賢,中林 美奈子,
特別養護老人ホーム梨雲苑・坪内 奈津子,林  一枝,富山大学・中島 一樹

  現在の日本では,高齢者数の増加に伴い介護福祉施設利用者数が増加している.先行研究では,介護職員が最も困難に感じる介護サービスは食事介助であることを報告した.さらに,加速度計を用いた飲み込み検出は筋電計を用いた飲み込み検出よりも容易であると報告した.本研究では,飲み込みを検出するための最適な測定部位の検討をした.胸骨舌骨筋の単位時間あたりの加速度積分値(iAcc)は,他の部位よりも有意に大きかった.その後,エプロンに加速度計を内蔵させたウェアラブル飲み込みセンサを開発した.このウェアラブル飲み込みセンサを評価した結果,若年者と高齢の要食事被介護者共に安静時のiAccより飲み込み時のiAccの方が有意に大きかった.


 

■ 離床行動予測を目的としたベッド上での動作パターン識別―Elman型フィードバック対向伝搬ネットワークを用いた時系列特徴学習―

秋田県立大学・間所 洋和,下井 信浩,佐藤 和人,徐 粒

  本論文では,時系列機械学習法として,Elman型Counter Propagation Networks(ECPNs)による離床行動判別方式を提案する.われわれの従来研究では,自己組織化マップ(SOM)を教師あり学習に拡張したCPNsを用いていた.CPNsは,入力データと教師信号の関係性を学習し,カテゴリマップとして写像し可視化する.われわれは,時系列特徴を学習するための改良として,CPNsに第二Grossberg層を追加しフィードバックループを形成した.また,ベッドのキャスタに加えられる被験者の荷重の変化を計測するために,ピエゾフィルムを用いてオリジナルの脚荷重センサを試作開発した.本センサの特徴はセンサの動作用の電源が不要なことと,後付け可能なことである.臨床現場を模した実験環境において,10名の被験者を対象に提案手法の有用性を検証した結果,81.0%の動作パターンの平均判別率が得られた.特に離床予測に重要となる端座位において,98.0%の精度が得られた.一方,長座位の精度が54.0%に留まっていたが,いずれの行動パターンも完全離床への誤判別は発生していないため,致命的なエラーには結びつかないと考えられることから,実用化に資する結果と知見が得られた.


 

■ 筋電位による動作識別のための半教師付き学習を用いた識別器更新手法

兵庫県立大学/日本学術振興会・中谷 真太朗,荒木 望,佐藤 孝雄,小西 康夫

  近年,表面筋電位を用いた筋電義手の実用化に向けた動作識別に関する研究が数多く行われている.これらの研究において動作意図を表面筋電位から識別するためにパターン認識を用いた動作識別器が利用されている.しかしながら,識別器の性能は電極の貼り付け位置の変化などで生じる筋電位の特性変化による影響を受ける.従来の動作識別器では筋電位の特性に変化が生じた際,その都度識別器の再学習を行う必要があった.そこでわれわれは半教師付き学習を用いて筋電位の特性変化に対して動作識別器を自動的に更新する手法を提案した.この手法では,測定された筋電位がどの動作パターンに属するのかを半教師付き学習により分類する.得られた分類結果をもとに識別器の再学習を自動的に行うことで,筋電位の特性が変化した場合でも利用者に負担を与えることなく性能を維持することが可能となる.本手法の有効性について,健常者3人を対象とし,尺側手根屈筋と尺側手根伸筋の2か所から計測した表面筋電信号を用いて手首の屈曲・伸展・回内・回外の4動作を線形識別器で識別する実験を行った.その結果,筋電位を計測する電極位置の変化によって識別器の性能が変化することを確認するとともに,提案法により筋電位の変化に対して識別性能を維持できることを確認した.


 

■ トレッドミル歩行中における前脛骨筋の弾性推定

慶應義塾大学・府川 友彦,内山 孝憲

  歩行中の筋音に含まれる歩行による加速度をカルマンフィルタを用いて取り除き, 誘発筋音から歩行時の前脛骨筋の弾性を推定することを目的とする.
右足踵接地の2回に1回電気刺激を総腓骨神経に入力して, 歩行時の前脛骨筋の筋音を加速度センサで計測した.  計測した信号を電気刺激ありの筋音と電気刺激なしの筋音に分離してそれぞれを同期加算平均した.  電気刺激なしの筋音から歩行による加速度を自己回帰モデルで近似し, カルマンフィルタを構成した.  カルマンフィルタを用いて電気刺激ありの筋音から歩行による加速度を取り除いて, 誘発筋音を抽出した.  誘発筋音のシステムを特異値分解法を用いて同定し, 伝達関数の極から非減衰固有周波数を算出した.  歩行時と比較するため, 椅子に座らせて計測した誘発筋音から非減衰固有周波数を算出した.
歩行時の筋の収縮方向の弾性を反映する非減衰固有周波数は, 安静時より高かった.  これより, 踵接地時の前脛骨筋の弾性は安静時に比べて高くなることを明らかにした.


 

■ 屋内外環境にシームレスな自律移動ナビゲーションシステム

 明治大学・清水 尚吾,藤野 雄介,齋藤 政伸,
木内 健太郎,横田 隆之,齊藤 隆仁,黒田 洋司

  本論文では,われわれが開発した汎用自律移動ナビゲーションシステムについて記述する.開発背景として,近年人間の生活環境において活躍する自律移動ロボットに対する需要の高まりがある.これはすなわち,より汎用性の高いナビゲーションシステムが必要とされていることを示している.ここで,汎用性の高いシステムとは,屋内外問わず使用でき,稼働可能範囲を限定しないものを指す.これの実現のため,われわれは,昨今入手が容易となった電子地図を用いたナビゲーションシステムを提案する.LIDARより取得された周辺環境の形状情報と,地図から得られる自己位置周辺の建物概形との照合により,自己位置推定を行う.加えて,地図情報からは得られない局所的な危険領域への侵入および接近を防止するため,この領域の検出,回避を行う.危険領域検出では,LIDARからの取得点群について路面の走行可能性解析を実施し,その結果を地図として出力する.回避では,作成された地図および,ロボットの運動性能を考慮した安全かつ経済的な動作計画を実施する.屋内,屋外を含めた1.5kmに及ぶ走行経路の自律走行実験により,本提案システムの優れた汎用性を示す.


 

H2制御を用いた自動車車室内ロードノイズのアクティブ構造騒音制御

日産自動車/九州大学・高松 吉郎,ルノー・メンスレー ミシェル,
日産自動車・出口 欣高,富山県立大学・屋代 春樹,九州大学・川邊 武俊

  現在,自動車の車室内空間の静粛性へのニーズがユーザの間で高まりつつあり,車室内空間の静粛化に関する研究が重要になってきている.中でも,定常走行時に多くの割合を占めるロードノイズの低減は車室内空間の静粛化に効果的である.本論文では,以下の考察のもとに,アクティブ制御によりロードノイズを静粛化する方法を提案する.
1)閉空間における音響モードと振動モードの強連成場に起因するロードノイズを低減するために,アクティブ構造騒音制御(ASAC: Active Structural Acoustic Control)法を採用する.
2)センサをメンバ,アクチュエータをパネルにそれぞれ配置することで,分布定数系である音響・振動系を集中定数系に帰着し,制御系設計モデルを導出する.
3)ロードノイズのエネルギーを広い周波数帯域にわたって低減する手法として,H2制御法を採用する.また,一般化プラントの構成法および重み関数の設計法を提案する.
さらに,本手法の原理確認をシミュレーションおよび半無響室内における実車両を用いた台上実験によって行い,その有効性を検証した.


 

■ モデル予測制御法によるICT機器温度管理と省エネルギーを考慮した外気導入型データセンタの冷却制御

富士通研究所・小川 雅俊,遠藤 浩史,福田 裕幸,児玉 宏喜,杉本 利夫,
堀江 健志,東北工業大学・丸山 次人,富士通研究所・近藤 正雄

  本論文では,外気を利用したモジュラー型データセンターに対してモデル予測制御に基づく冷却制御方法を提案する.提案法では,省エネルギー化とICT機器温度管理の両者を両立させて,データセンターにおけるICT機器と冷却装置の総消費電力を削減する.このモデル予測制御に基づく制御方法は,サーバのCPU温度をファシリティファンの回転数によって制御する.提案法の設計にあたっては,CPU温度の将来状態をファン回転数,外気温度,サーバ消費電力などの要因から予測する予測モデルを構築した.さらに,提案制御法を実データセンターに適用し,従来のサーバラックの吸気側と排気側の温度差を用いたPI制御法との比較実験を行った.その結果,実際のモジュラー型データセンターにおいて,20%以上のファシリティの消費電力の削減を実現した.


 

■ 発電機の応答速度を考慮したH制御に基づくマイクログリッドの負荷周波数制御

慶應義塾大学・増井 健治,高村 俊,慶應義塾大学/科学技術振興機構・滑川  徹

 本論文では, マイクログリッドの負荷周波数制御問題を扱う.
 電力系統においては, 時々刻々と変化する電力需給バランスを維持する制御として, 発電機の出力を調整する負荷周波数制御をおこなっている. しかし, 再生可能エネルギーの導入により, 需給バランスを維持することがより困難になる. この対策として, 火力・水力発電機に, 蓄電池などの分散型電源を組み合わせることや, 新たな制御理論の適用が検討されている. そこで本論文では, 風力発電機と蓄電池を含むマイクログリッドを対象とし, H∞制御を基とした負荷周波数制御法を提案する.
 はじめに, ディーゼル発電機と蓄電池の応答速度の違いを考慮した一般化プラントを作成する. そして, その一般化プラントに対して静的H∞制御器を設計する. 最後に, 静的H∞制御の繰り返し計算においてしばしば生じる, 過大な制御入力をもたらすゲインを回避するためのLMI条件を示し, 静的H∞制御へと組み込む. 数値シミュレーションにおいては, PI制御器と比較することで, 周波数変動の抑制と蓄電池残容量変化の抑制を示す. また, 発電機と可変抵抗を用いた制御実験においても, 提案手法によって周波数変動を抑制できることを示す.


 

■ 単純適応制御における周波数応答マッチングに基づくPFCの設計

信州大学・種村 昌也,千田 有一

  反共振をもつ振動系にSACを適用すると,好ましくない振動的な入力が発生し,その結果,出力が振動的になる問題がある.これに対する解決策の一つとして,PFCを適切に設計する方法がある.制御対象とPFCからなる拡大系に反共振が含まれないようにPFCを設計することにより,振動的な入力を抑制することができる.一方で,SACを適用するためには拡大系をASPRとするPFCを設計する必要がある.つまり,拡大系をASPRにしつつ,反共振を含まないようにPFCを設計することで,振動的な入力を抑制できる.この問題に対して本稿では,周波数応答マッチングに基づくPFC設計方法を提案する.マッチング条件および拡大系のASPR性,PFCの安定性をLMI/BMI表現し,最適化問題を解くことでPFCの設計を行う.提案手法の有効性は数値シミュレーションにより検証する.


 

■ ロボットと魚の敵対的関係における魚の学習速度の低減―カオスと乱数を用いた試み―

岡山大学・森 慶太,見浪 護,矢納 陽

  著者らはロボットと魚の敵対的関係を用いて,魚の学習速度を計測する実験を行ってきた.ロボットが追う者であり魚が追われる者である.ロボットのハンドに網が取り付けられており,ビジュアルサーボで魚を追従し捕獲するシステムを用いた.捕獲実験を続けると魚は網の動きを学習し,網から一定の距離をとって逃げる,プール の隅に逃げ込むなどの回避戦略を考え出した.魚の学習速度は連続捕獲/解放実験による一定時間あたりの捕獲数の減少傾向からわかると考えられる.このような魚の回避戦略に対抗するため,本報ではカオスおよび乱数をロボットの網の動きに加え,魚の学習速度を低減できるか捕獲実験によって調べた.