論文集抄録
〈Vol.52 No.10(2016年10月)〉

タイトル一覧
特集 センシングの新たな潮流
[論  文]


[論  文]

■ 画像計測高精度化のための超音波定在波による空気揺らぎの抑制

東京大学・星 貴之,新川・早田 滋

  半導体製造業において,ワイヤボンダ等のボンダはICを回路基板に接続する重要な役割を担う.近年のICの微細化や回路の高密度化に伴い,より高い位置決め精度が求められるようになっている.位置決めは主に画像計測によって行われる.作業領域内ではICや回路基板を100-300℃のヒーター上で加熱する.様々な要因によって空気が揺らぐと,温められた空気が周囲の常温の空気と混ざり合い,光路上の屈折率が時間的に変動して画像計測の精度を低下させる.この問題は陽炎(かげろう)と呼ばれ,抑制法が求められている.本研究では,超音波による方法を提案する.ヒーターの上に置かれたチップを直上からカメラで撮影する計測系において,光路を挟むように超音波発信器と反射板を設置する.発信器から超音波ビームを照射し,入射波と反射波の重ね合わせによって定在波を生じさせる.定在波の中では超音波ビーム方向に音圧の腹と節の周期構造が形成される.この構造によって光路を横切る方向の空気の移動が抑制されるため,光路上における空気の屈折率が変化しにくくなり,画像計測の精度を向上させることができる.提案手法により陽炎の影響による1.73 umの位置推定のばらつきを0.32 um程度まで抑制できることを,実験によって確認した.


 

■ 電磁気を利用した高張力六角ボルトの緩み簡易検査法の開発

大分大学・武 雅弥,ジーエス・ユアサ コーポレーション・小森 博之,
大分大学・重松 望,後藤 雄治

 高張力ボルトは高架橋や大型構造物などで数多く使用されている.これらのボルトは,繰り返し荷重や振動がかかることにより緩みが生じる.万が一,これらの緩みが進行し脱落すれば,深刻な事態をもたらす可能性があり,ボルトの緩み検査技術の高度化が必要とされている.
現在最も信頼性の高い検査法に超音波法がある.しかしこの手法は超音波の伝達を均一にするため,超音波センサとボルトとの隙間を水などで埋める必要があり,またボルト頭部を研磨する必要もあり,実現場ではほとんど使用されていない.
 高張力ボルトは鋼材が多く使用されており,鋼材の透磁率は弾性領域による圧縮によって変化することが報告されている.そのため,締め付けによる圧縮により,ボルト頭部の透磁率に定量的変化が確認できれば,その磁気特性差を検出することで,ボルトの緩みを評価できる可能性がある.本研究では,ボルト頭部側面に加わる圧縮応力変化を透磁率変化として電磁気で測定し,ボルトの緩みを検査する小型電磁気センサの提案を行った.
 ここでは,ボルト頭部側面の応力分布に対応した,磁気特性の非線形性を考慮する有限要素法の電磁界解析及び検証実験によって,本提案手法の検査原理の解明や有用性を明らかにした.


 

■ 近赤外光の吸光特性を利用した水の相状態(液相,固相)の検出

長野工業高等専門学校・中島 利郎,神戸大学・的場 修

  近年,冷凍分野では過冷却を用いた瞬間冷凍技術が注目されており,実用化にあたっては冷凍過程における凍結状況のモニタリングが必要な技術として挙げられている.
本研究では,凍結過程での水の相状態の変化の定量的な把握を目的に,水による近赤外光の吸光現象に着目し,特定の2波長間の吸光係数の差をベースとした評価指標を提案する.
水の吸光スペクトルは,水が液相から固相に転移するに伴い,そのピーク波長が長波長側にシフトすることが知られている.この波長のシフトは,シフト範囲内にある一つの波長に注目すると,その波長での吸光係数の変化として捉えることができる.本研究では,吸光係数の変化の大きい1410nmと変化のほとんどない1300nmの2波長を選定し,この2波長間のの吸光係数の差を基本量とした評価指標を設定した.
基本特性実験の結果,本評価指標が光散乱等による透過光強度変動や水の厚み変化等の外乱要因の影響を除去できる効果を有することが確認された.また実証実験の結果,過冷却解放時の凍結過程においても,本指標が相状態の検出に有効であることが確認された.
 これらの結果から,提案した評価指標が,凍結過程における水の相変化検出に対して有用性を有することが確認された.


 

■ 波数掃引加振ドップラ計測による逆合成開口イメージング

群馬大学・三輪 空司

  コヒーレント波を用いたターゲットのイメージングにおいて,センサアレイやセンサのスキャンを用いることなく,固定センサでクロスレンジ方向の空間分解能を得る新たな逆合成開口法を提案する.本手法では,センシング波とは別にターゲットを振動させるための振動波を外部から与え,その振動周波数を掃引しながら,振動によって発生するセンシング波のドップラ成分の複素振幅を計測する.掃引周波数毎に得られたドップラ成分をフーリエ変換することにより,空間分解能が得られる.本手法の原理を合成開口法の原理と比較しながら示し,固定センサによりクロスレンジ分解能が得られることを,超音波を用いた寒天内の針金の位置推定を行うことで実験で実証する.


 

■ 因子分析による都市規模交通シミュレーション結果の解釈

理化学研究所・内種 岳詞,東京大学・伊藤 伸泰

  都市規模の自動車交通現象には,地理的または時間的な関係が含まれる.しかし,データ同化や仮説検定においてそのような関係はたいてい考慮されず,独立した現象として扱われる.このような扱いは,シミュレーション結果の精度を悪化させる原因となりうる.よって,より良いシミュレーション結果の評価方法が必要とされる.本論文では神戸市の道路ネットワークを対象とした自動車交通シミュレーション結果に多変量解析の1手法である因子分析を適用した.そして,多くの道の交通量が33の因子によって説明できることが判明した.さらに,得られた因子の内,特に因子寄与率の高いものが説明する道の地図上での分布は,自動車の走行台数の変化に対してロバストであることが判明した.シミュレーション結果という擬似交通データに対して因子分析を適用したため,その因子の存在は定かではないが,発見された因子は,神戸市の都市交通を簡潔に説明しているようにみえるだけでなく,大規模な自動車交通シミュレーションのロバストな評価に利用できる.


 

■ 自律的な転居を考慮した大都市郊外の人口動態シミュレーション

東京工業大学・山田 訓平,出口 弘

 今日の人口減少社会において,各自治体には長期的な都市の存続のための政策決定が求められている.人口減少は地方都市において顕著な問題であったが,現在は大都市圏でも例外でなく,今後の大都市郊外に位置する市区町村が効果的な人口確保政策を行うためには,大都市圏に特徴的な人口動態について新しい分析手法が求められるといえる.本研究では,大都市郊外における人口に関わる政策効果の分析と可視化を目的として,エージェントベースシミュレーション(ABS)を用いた新しい将来人口推計手法を提案する.都市住民の属性や世帯構成のミクロな変化の再現,ならびに世帯単位での自律的な転居行為を反映して,市区町村単位でのマクロな人口動態を推計するモデルを構築した.また,モデルの有用性を検証するために横浜市青葉区を例に挙げ,政策評価と人口動態の分析を行なった.


 

■ 強化学習における線形計画法を用いた効率的解法

京都大学・泉田  啓,天野 恒佑

  モデル・ベース強化学習は「プラント推定」と「プランニング」の2つのステップから成る.プランニングは,一般的に動的計画(DP)問題で定式化され,DP法で解かれる.このDP問題は,線形計画(LP)問題に変換でき,線形計画法で解くことができるが,DP解法に比べ計算効率が悪いとされている.しかし,自己遷移確率が大きい問題では線形計画法がDP解法よりも効率的になることが,数値例によって示される.また,各解法の解の求まり方を幾何学的に考察することによって,その理由が明らかになる.


 

■ 周期入力制御系の数理構造と強制引き込み現象

室蘭工業大学・梶原 秀一,花島 直彦,青柳 学

  van del Pol(VDP)方程式に周期的な外力を加えると自励振動が抑制されて,発振周期が外力の周期と同期する強制引き込み現象が起きる.著者らはこれまでに,VDP方程式の強制引き込み現象を利用してシステムのエネルギーを制御する周期入力制御法を提案し,さまざまなシステム(振子,準受動的歩行ロボット,ホッピングロボットなど)の周期運動を制御してきた.周期入力制御法によりエネルギー制御されているシステム(周期入力制御系)は周期外力がなくても持続的な周期運動をしていることから,自励振動系であると考えられる.そこで,本研究では周期入力制御系の構造とその特性を解析した.本論文ではまず,周期入力を適用するシステムとして単一振子のエネルギー制御系を取り上げ,周期入力制御系はVDP方程式同じ自励振動系としての特徴を持つことを示す.次に,周期外力を加えると強制引き込み現象が起きる条件を解析する.最後に,解析結果の妥当性を実験により検証した結果について述べる.