論文集抄録
〈Vol.52 No.3(2016年3月)〉

タイトル一覧
[特集 新たなイノベーションを創造するシステムインテグレーション]

[論 文]


[論  文]

■ ドア組付作業支援パートナロボットD-PaDY―第1報:コンセプトとドア把持部の設計―

東北大学・衣川 潤,クボタ・久保田 亮平,東北大学・小菅 一弘

  現在,多くの自動車の組立工程では,大型・重量物であるドアの組み付けを補助するため,作業者はドア搭載補助装置を用いてドアを把持・運搬し,車体へ組み付ける作業を行っている.ドアを組付ける際には,組付け対象である車体にドアが接触しないようにしなければならず,ドアの位置・姿勢を適切に制御し車体に近づける必要がある.しかしながら,作業者はドア搭載補助装置を介してドアの位置・姿勢を操作する必要があり,この作業には高い習熟度が要求される.さらに,現在の作業内容には,ドアを運搬する際のドア供給装置までの移動とドア供給装置からのドアの取り出し作業,車体への運搬作業などの人がわざわざ行う必要のない作業が含まれており,これらの作業をロボットにより支援することで作業の効率化が見込める.また,習熟が必要な作業についてもロボットによる技術支援を行うことによって,非熟練者でもドア組付け作業が可能とすることができれば,教育コストを大きく削減できると考えられる.本研究では,ドア組付作業の支援を行うパートナロボットのコンセプトとドア把持機構の設計について詳細に述べる.


 

■ 巻フィルムチューブ式SMA人工筋肉アクチュエータのモバイル化と拮抗配置による剛性制御手法の検討

中央大学・石川 敏也,中村 太郎

  内骨格型の人間型ロボットは,柔軟性と発生力と発生変位と応答性の観点から人間の筋肉と同等の人工筋肉を必要としている.この実現のため,我々は,高い耐熱性と高い柔軟性を持つ巻フィルムチューブによって保護された形状記憶合金(SMA)アクチュエータを研究している.本研究では,モバイル化のため,このアクチュエータを天然ゴムのチューブに挿入し拮抗配置による剛性制御について実験した.


 

■ 固定子巻線における短絡コイル挿入スロット特定システムの開発

トーエネック・中村 久栄

  電動機固定子巻線での短絡は,電動機において最も発生頻度の高い故障の一つである.固定子巻線で短絡が発生すると,その短絡発生前後では固定子内の磁界が変化して,その磁界変化量は印加する交流電圧の周波数に依存することが確認されている.
 本論文は,上記現象に基づいて,短絡コイルが挿入されているスロットを特定するシステムの開発を行う.ここでははじめに,短絡が発生したときに起こる現象と,その現象に基づいて短絡コイルが挿入されているスロットを特定する技術について説明する.次に,特定システムの開発を行う.具体的にはシステムの主要部となる固定子巻線内に磁界を発生させるための電圧発振部と,固定子スロット上の磁束密度を計測する磁束密度センサ,診断結果を表示させる表示部を開発する.最後に,本システムの有用性をいくつかの検証実験により評価する.


 

■ 脳卒中片麻痺患者のための感覚フィードバック装置の開発―2症例における効果の検討―

千葉大学・北 佳保里,国際電気通信基礎技術研究所・大須 理英子,
東京湾岸リハビリテーション病院・坂田 祥子,慶応義塾大学・大高 洋平

  脳卒中患者等において,運動機能が保たれていても感覚(表在覚,固有受容感覚等)が重度に障害を受けている場合,つまみ動作などのマニピュレーション能力 が著しく低下する場合がある.感覚障害が重い場合,視覚による代償を利用するが圧覚情報は代償が困難である.そこで,筆者らは,指先の圧情報を皮膚表面へ の電気刺激に変換してフィードバックする方法を提案し,それを実装したシステム(SENS)の開発を行ってきた.本論文では,感覚フィードバックを伴うタ スク指向型訓練により,感覚麻痺を有する脳卒中患者のマニピュレーション機能が向上するという仮説に基づき,2症例に対してSENSを用いた母指,示指の つまみ動作トレーニングを行った.その結果,SENSを用いたトレーニング後に,ブロックつまみ持ち上げ動作時の指先圧力の安定性が向上し,SENSのリ ハビリ装置としての有効性が示唆された.


 

■ 無線LAN信号強度の特異スペクトル変換を利用した屋内環境の状態変化検出

 甲南大学・梅谷 智弘,田村 祐一

  ネットワークセンシングシステムなど,分散型の知的環境を構築する技術を用いて,見守りなどの安心・安全アプリケーションへ適用することが期待されている.このとき,プライバシや圧迫感の問題から,形状を利用せず環境全体の情報が得られる情報収集手法を用いて,環境の状態変化を検出することが望まれている.本論文では,屋内環境に設置した端末が受信した無線LAN信号強度が,環境の状態変化に伴う不確かさを有することに着目し,時系列データの変化点検出手法を用いて屋内環境の状態変化を検出する方法について述べる.本稿では,特に,事前のパラメータ設定に必要な予備実験,さらに,実験中での複雑な環境の変化において,画像による環境計測を併用して検証することによる,より確かな変化点検出,実験の検証に焦点を当てる.複数の個所で同時に信号強度を計測し,信号強度のパターン変化を検出することで,信号強度の変化の組み合わせから,環境の状態変化を検出する.基礎システム構築とそれを用いた信号解析による考察により,手法の可能性を示す.


 

空中映像と高速3Dジェスチャー認識技術の統合による低遅延な立体映像作業環境の実現

東京大学・安井 雅彦,M. Sakti Alvissalim,M. Sakti Alvissalim,
宇都宮大学・山本 裕紹,石川 正俊

 近年,3D映像環境が普及し,空中像インタラクションへの需要が高まるとともに,その技術発展は著しい.
 しかし,既存のシステムには,専用のアイウエアやスタイラスといった空中像と操作者との間にデバイスの介在を必要とするために操作感が損なわれる,観察領域が狭いために像に対して正面に立つ操作者しか空中像が認識できない,非常に小規模の空中像しか形成できない,操作に対して遅延時間が大きいことで違和感を与え,操作性を損なう,というように種々の問題が存在している.本稿ではAIRRと呼ばれる,再帰性反射材とハーフミラーを用いた空中像技術と,高速2眼カメラを用いた高速ジェスチャー認識技術を用いて,以上の問題の解消を目指す.AIRRによって,特定のアイウエアの着用を必要とすることなく,かつ広い観察領域を大画面で実現する.さらに,高速ジェスチャー認識技術により,スタイラスなどを必要としない,素手による無拘束な操作を可能とし,遅延を感じない,直感的に操作可能な環境を実現する.
本稿では,これら2つのシステムを統合した操作環境を実装することで,自由度の高い操作が可能な空中像インタラクションシステムを実現した.


 

■ 3視点拘束に基づくセグメントパターン投影型高速3次元計測

 東京大学・田畑 智志,ソニー・野口 翔平,
東京大学・渡辺 義浩,石川 正俊

  ビデオレート(30Hz)を大幅に上回る速さで撮像から画像処理までを行うことができる高速ビジョンシステムは, ロボティクスやヒューマンインターフェースなどの様々な応用において重要な技術となっている. しかし, 従来の高速ビジョンシステムは主に2次元的なパターン認識にとどまっている. 数百fpsの速度でリアルタイム3次元計測を実現できれば, 高速ビジョンシステム応用の可能性がさらに広がると考えられる. これまでにも, 200fpsを超える高速なリアルタイム3次元計測は様々なアプローチで実現されているが, 対象に対する運動や距離の制限, 解像度の低さなどの問題を抱えていた. そこで, 本論文では, 3視点幾何によるエピポーラ拘束と階層処理を組み込むことで, これらの問題を解決し, ロバストかつ高速に3次元点群を取得できることを示す. また, このような処理を実現する独自のパターンとしてセグメントパターンを提案する. さらに, 2台のカメラと1台のプロジェクタによって構成される高速3次元計測システムの開発を行った. このシステムを用いて500fpsの速度を実現し, 運動や変形する物体の形状を高速に取得できることを示した.


 

■ 三次元測域センサを用いた走行可能領域の抽出― 一般市街地における自律移動ロボットの開発―

宇都宮大学・江口 純司,尾崎功一

 一般市街地を対象とした自律移動ロボットにおいて,走行可能領域を正確に抽出することは重要な課題である.本研究では,垂直方向にデータ密度の高い三次元測域センサを用いて高低差の小さい段差を抽出する手法を構築した.一般市街地の路面は凹凸や傾斜の変化があり,センサを水平に維持することが難しい.ゆえに三次元測域センサにおいて,高さの計測では地面からの高低差が小さい段差の抽出が困難である.この問題に対して本研究では,地面と段差においてそれぞれをセンシングしたときのレーザの水平距離に差が生じることに着目した.すなわち,平らな地面と比較して上りの段差では水平距離が小さくなり,下りの段差では大きくなる.本研究では,平らな地面をセンシングしたときの水平距離を基準として保持し,自律走行時にセンシングデータと比較することで,平面以外の段差を抽出する.この手法を複数の屋外環境で試行した結果,高さが5cm以上の段差を抽出できることを確認した.また,宇都宮大学工学部キャンパス内に全長約600mのコースを設定し,自律走行実験を行った.その結果,本手法によって高さが10cm程度の低い段差を抽出できたことで,それとの接触を回避し,自律走行を継続してゴールに到達できることを確認した.


 

■ 受信電波強度を用いた効率的な自律ロボット群展開制御による 無線通信網構築―災害時の障害を抽象化した行動不能率による検証―

電気通信大学・建部 尚紀,情報通信研究機構・服部 聖彦,
加川 敏則,大和田 泰伯,浜口 清,電気通信大学・髙玉 圭樹

  本研究では,通信機を搭載した移動ロボット群を用いて無線メッ シュネットワークを構築する手法を提案する.提案手法は,通信電波強度 (RSSI)を用いることで他のロボットとの位置関係をおおまかに推定した後,他 のロボットとの距離が離れるような制御に基づいて動作する.ロボット間距離 を効果的に広げるために,提案手法は(1)移動・基準・待機ロボットの自律・ 動的割り当てと,(2)RSSIを用いた移動方向の修正からなる.本研究では,災 害時における路面状況を考慮に入れた電波伝搬・無線プロトコルベースのシ ミュレーションを用いて従来手法と提案手法の比較を行った.その結果,提案 手法は災害時の障害を抽象化した行動不能率を導入した環境において,ネット ワーク構築所要時間,総移動距離の両面で優れた結果を示すことが確認できた.


 

■ 楽器演奏ロボットのためのMIDI RT-Componentの提案

電気通信大学・松田 啓明,二瓶 陽介,
田附 雄一,工藤 俊亮,末廣 尚士

  本稿では,MIDI RTC(RT-Component)の設計ついて提案する.
 MIDI(Musical Instrument Digital Interface)は電子楽器のための共通規格である.このMIDIは電子楽器のみならず,楽器を演奏する楽器演奏ロボットにとっても有用である.いくつの楽器ロボットはこのMIDIを用いて,音楽とロボットの動作を協調させている.このようなMIDIをロボット用のフレームワーク上で使うことができればより有用であると考えられる.
 そこで,RT-Middleware上でMIDIを扱う手法について本稿で述べる.まず,MIDI RTCの構成について検討し,その検討にしたがって単純な楽器演奏シ ステムを構築した.その構築から基本的なMIDI RTCの動作を確認した.
 次に,実用的な楽器演奏ロボットの例としてハンドベルを演奏するロボットシステムを構築した.観客の前でこのハンドベルロボットの演奏を行い,そのアンケートからこのロボットのエンターテイメント性を感性評価した.その結果,ロボットは楽器演奏ロボットとして有意であることが示された.楽器演奏ロボットの有用性が示され,提案手法が有用であることを確認した.


 

■ 有向複雑ネットワークのコヒーレンス

神戸大学・春名 太一

  有向ネットワークのコヒーレンスとは,頂点の「はたらき」がその間の「インターフェイス」となる矢印によって貼り合わされてネットワーク全体が成立している,という在り様をいう.[Haruna, T., 2013. BioSystems 114, 125-148]において筆者は,コヒーレンスに関する普遍的な経路概念として側方経路があることを見出した. 本論文では, ネットワーク上のダイナミクスの感受率に基づいた確率的なコヒーレンスの実現過程を提案し,コヒーレンスパーコレーションを導入する.ネットワーク上のダイナミクスとしてはランダムブーリアンネットワークを採用し,またネットワーク構造としては任意の次数分布を持つランダムネットワークを仮定してコヒーレンスパーコレーションの平均場理論および半平均場理論を構築する.現実世界のネットワークへの応用として大腸菌の遺伝子制御ネットワーク上のコヒーレンスパーコレーションを考え,これは半平均場理論によりよく捉えることができることを示す.またコヒーレンスとネットワーク構造の関係についても議論を行う.


 

■ 生体インピーダンス法による肉牛の脂肪交雑値推定

長崎県農林技術開発センター・橋元大介,佐賀大学・福田 修,
長崎県農林技術開発センター・早田 剛

  牛枝肉脂肪交雑の生体時推定法を確立するため,肥育牛の最後位胸椎位の胸最長筋(以下,サーロイン)の生体インピーダンス(以下,BIA)値,脂肪交雑基準(以下,BMS No.)および枝肉第6-7肋骨間切開面胸最長筋(以下,リブロース)粗脂肪含量の相互関係を検討した.出荷約1ヵ月前の肥育牛42頭に対し,生体左側の第1腰椎位より腹側約100 mmから頭方へ25,100および25 mm間隔で同一線上の4ヵ所に生検針(18 G×200 mm)をサーロイン内部へ50 mmの深さまで垂直に差し込み,外側を電流印可,内側を電圧計測とし,インピーダンスメーターによりBIA値を測定した.そのBIA値から細胞外抵抗,細胞内抵抗(以下,Rin)および細胞膜容量を算出した.その結果, RinとBMS No.およびリブロース粗脂肪含量の間に,それぞれ有意な単回帰式が得られ(r=0.73,RSD=±1.7,P<0.01およびr=0.76,RSD=±7.2,P<0.01), BIA法によって牛枝肉脂肪交雑を生体時に推定する可能性が示唆された.


 

■ 施設園芸における熱および湿度分布に関する計測ケーススタディ―多点計測手法の提案と実施―

東京農工大学・杉原 敏昭,農業・食品産業技術総合研究機構・梅田 大樹,岩崎 泰永,
東京農工大学・澁澤 栄

  本稿では,人為的な環境制御が行われている農作物の栽培環境において,熱,湿度が空間的にどのような分布となっているのかについて,複数のセンサを用いる多点型の計測手法を提案し,その計測手法を用いた実際の栽培現場でのケーススタディ事例についての報告を行う.
 このような試みは,計測制御技術を農業実践の場に適用する上で資するものである.
 本計測では,栽培される農作物自体が生体として環境に影響を与える点と,温冷熱などの環境要因が人為的に制御されていても空間的には不均一な状態が生じている点に着目している.今回,この2点についての実証的なケーススタディとして,実際に農作物を栽培しているハウス内にて温度と湿度の空間的な分布を計測した事例について報告する.