論文集抄録
〈Vol.52 No.4(2016年4月)〉

タイトル一覧
[論  文]


[論  文]

■ PWM制御系の入力変換による厳密線形化

宇都宮大学・鈴木 雅康,平田 光男

  本論文では,パルス幅変調(PWM)入力をともなう2次連続時間線形時不変系のサンプル点上における振る舞いについて考える状態遷移を記述する差分方程式の入力項は,制御パラメータである矩形波幅,すなわち,デューティ比の非線形写像となっている.本論文では,各矩形波のデューティ比だけでなくその中心位置も変化させることで,入力項の非線形性を厳密に消去できることを示す.


 

■ クランク軸振動とエンジンの加減速にロバストな失火検出方法

日立製作所・青野 俊宏,日立オートモティブシステムズ・福地 栄作

  エンジン故障による有害物質の大気放出を防ぐため,失火検出が求められている.従来は,高エンジン回転では失火検出がうまくいかないことがあった.この原因を解明するため,クランク軸のねじり振動解析を行った.その結果,6000rpmまでエンジン回転数が高くなるとねじり振動が大きくなり,失火による回転変動が埋もれること,また,ねじり振動の周期と点火間隔が一致した時に,ねじり振動の影響は最も深刻になることがわかった.つまり,720°を気筒数でわったクランク角に同期した成分が最も悪影響を及ぼす.
これに基づき,失火検出ウィンドウ幅を720°/気筒数の120°に設定した.その結果,失火気筒とウィンドウの回転所要時間の増加の関係が,エンジン回転数6000rpmでも失火気筒によらず一定になり,ねじり 振動にロバストに失火が検出できる見通しが立った.
  エンジンの加減速にロバストな失火検出を実現するためのフィルタ係数に許される条件が,係数の総和とモーメントが0になることであると導き,これにもとづき失火検出フィルタを設計した.この失火検出フィルタを用いて実機試験を行い,特定の気筒が毎サイクル失火する場合でも,孤立して失火する場合でも,失火と正常燃焼が識別できることが確認された.


 

■ 地上局とケーブルでつながれたヘリコプターシステムにおける最適なケーブル長さに関する研究

大阪市立大学・今津 篤志,野口 博貴,川合 忠雄

  ケーブルで地上の基地局とつながったマルチローターヘリコプターシステムにおいて,ヘリコプターがケーブルをぶら下げて飛ぶために必要な推力を解析し,ヘリコプターの位置に応じた最適なケーブルの長さを導出した.また,その最適なケーブル長さを用いて,ケーブル張力による負荷を低減する手法を提案した.地面の制限がない場合,最適なケーブル長さを繰出すことで,ヘリコプターとケーブルの重量以下の推力で飛行することが可能であることを示した.特に,ヘリコプターが巻取機よりも下にある場合は,ケーブルを張りぎみにすることで,ケーブル張力を積極的に利用して推力を低減することができる.
  地面の制限がある場合,ケーブルが地面に接触しないように,ケーブル巻取機の設置高さを拘束条件として,最適なケーブル長さと推力の関係を求めた.ヘリコプターが巻取機よりも上にある場合は,飛行距離に対しておよそ20%の高さに巻取機を設置すれば,最適なケーブルの長さを利用できる.ヘリコプターが巻取機よりも下にある場合は,ヘリコプターが地面に接触しない前提では特別に考慮する必要は無い.
 最後に,ヘリコプターの飛行実験を行い,本稿で用いた解析手法の妥当性を実
証した.


 

■ 車載生体情報計測システムの信号処理方法

中央大学・中村 哲夫,中村 壮亮,イデアクエスト・寺田 雅英,中央大学・橋本 秀紀

 ドライバの居眠り運転警告や疲労運転管理に有効な車載用生体情報計測システムを提案する.居眠り運転警告手段としては,道路の白線検知やドライバの瞼開度検知による警告システムが提案されているが,脈波分析システムは居眠り運転の予兆現象を検知できる点で,他の方法にはない有効性がある.筆者たちはECM (Electric Condenser Microphone)とエアマットを組み合わせた空気圧力式の生体情報計測システムを開発し,ホーム用健康管理機器として製品化の橋渡しをしてきた.これまで同技術をベースにセンサやエアマットの小型化を中心に車載用に応用する試みが行われてきたが,車載環境特有の路面からの振動,加減速に伴う体動などのアーチファクトノイズを解消するには至っていない.今回,エアマットによる面受圧方式からエアチューブによる線受圧方式に構造改良し,さらにジャイレータフィルタとPWM制御を組み合わせた動的フィルタ技術により,振動ノイズを回避し生体信号を追跡する信号処理システムを開発した.同システムを車載環境で評価したところ,アイドリング,市街地走行,高速道路走行のFFT解析結果で,従来技術に比較して20dB~30dBの信号検出精度の向上を確認できた.


 

■ 工業用無線の水素ステーションへの適用

 横河電機・林 尚典,早稲田大学・植田 敏嗣

  燃料電池自動車の普及開始に伴い,水素ステーションの設置が急速に進む中,より安全で効率的な運用が求められている.
本論文では,現状の水素ステーションにおける水素漏えいシステムの要求仕様として,水素の特性,爆発条件と防爆対応,水素濃度測定の要件,水素センサの種類と方式の検討を行い,水素ステーションにおける漏れ検知システムの課題を抽出した.これらの課題を解決するために,工業用無線ISA100.11aに準拠した無線センサネットワークシステムの適用を提案して,水素センサと組み合わせることにより得られる有効なユースケースを提案し,それぞれのケースにおける無線適用の効果について検討を行い,その有効性を示した.また,水素ステーションを模擬した実証実験を行い,パケットエラー率を測定して,送信遅延時間が水素センサの90%応答時間に対して,十分に実時間性が確保されていることを示した.さらに,Wi-Fi無線システムとの共存環境でも時間確定性を持つ高品質な通信が確保されることを確認して,高信頼性を特長とする工業用無線システムと水素センサを組み合わせることにより,水素ステーションの安全性向上に大きく寄与することを示した.


 

■ TSPのためのGA-EAXにおける探索ステージ切換条件とマルチスタート戦略の提案

 東京工業大学・山越 幸太,徳島大学・永田 裕一,東京工業大学・小野 功

  本論文では,巡回セールスマン問題(TSP)のための有力な遺伝的アルゴリズム(GA)であるGA-EAXの問題点を克服した新たなGAを提案する.GA-EAXは,TSPのための最も有力な近似解法の1つである.GA-EAXは,2つの探索ステージから構成され,前半のステージではエッジの入れ替えが少ない交叉を用いて探索を行い,後半のステージではエッジの入れ替えが多い交叉を用いて探索を行う.GA-EAXは10万都市規模の大規模なインスタンスにおいて既知最良解の更新に成功するなど,高い探索性能を示している.しかし,GA-EAXは,いくつかの特定の小規模なインスタンスにおいて最適解または既知最良解の発見率が低くなるという問題を持つ.本論文では,GA-EAX(以下,既存手法)の問題を克服するため,改善失敗率に着目した新たな探索ステージ切換条件と,探索後半におけるマルチスタート戦略を提案する.提案手法の有効性を示すための数値実験を行い,既存手法が苦手としていたインスタンスにおいて,提案手法が既存手法よりも最大5倍の高い確率で最適解または既知最良解を発見できることを確認した.さらに,提案手法は,既存手法よりも最大24.7%世代数を削減することに成功した.