論文集抄録
〈Vol.53 No.1(2017年1月)〉

タイトル一覧
[特集 高機能化・複雑化するシステムの諸問題を解決し,システム設計論を
開拓・構築する俯瞰的システムインテグレーション]

[論 文]

[ショート・ペーパー]

[論 文]


[論  文]

■ 不整地狭小空間における不整地移動マニピュレータの遠隔操作支援システムの構築

東北大学・幸村 貴臣,桐林 星河,永谷 圭司

  不整地移動マニピュレータの活躍が期待される環境での遠隔操作には,マニピュレータが持つ自由度の多さや通信遅延などの影響により,様々な課題が存在する.そこで,本研究では,不整地移動ロボットに搭載した多自由度マニピュレータを円滑に遠隔操作する技術の実現を目指し研究を行ってきた.具体的には,以下の3つの技術開発を行った.(1)マスタスレーブによる遠隔操作において,マニピュレータを搭載する移動体の姿勢変動を,マスタアームの姿勢にフィードバックするシステムの実現.(2)不整地移動ロボットに三次元測域センサを搭載することで,マニピュレータに搭載したカメラから得られる視覚情報と共に,スレーブアーム周辺の三次元環境情報を操作者に提示するシステムの実現.(3)操作者側のPC内に,ロボットを含む仮想空間を構築し,通信遅れに関わらず,ロボットの動作を実施することが可能なシステムの実現.以上の3つのシステムを実機へ実装し,その有用性の検証を行った.その結果,不整地におけるマスタスレーブによる遠隔操作システムにおいて,操作者の負担を低減できる可能性を示すことができた.また,通信遅延による操作性の低下への対策として,三次元環境情報の操作者への提示が有用であることが判明した.


 

■ 天井クレーンにおける搬送物の障害物回避と荷振れ抑制を考慮した軌道計画および初期軌道設計による軌道計画の高速化

山梨大学・猪股 聖,野田 善之

  本論文では,自動走行可能な天井クレーンシステムに対して,装置制約内での高速搬送,障害物回避,周波数変動を有する荷振れの抑制を考慮した走行台車の軌道計画法を提案する.本手法では,装置の入力・状態制約,搬送空間中の障害物回避,周波数変動を有する荷振れの抑制を最適化問題として定式化し,搬送軌道を一元的に設計している.また,従来手法では搬送軌道に揺動的な運動が含まれることが確認されていた.そこで,搬送軌道に含まれる揺動運動の低減を考慮した評価関数を提案する.さらに,従来手法では,軌道計画で用いる最適化問題における設計変数が多いことから軌道導出に多大な時間を必要としていた.そこで,本論文では,実行可能な初期軌道を与えることによる搬送軌道計画の高速演算手法を提案する.本論文で提案する搬送軌道計画法の有用性は,天井クレーンのシミュレーションおよび実機実験により示される.


 

■ 大規模太陽光発電施設における複数協調型太陽電池パネル故障診断ロボット-太陽電池パネル故障診断プローブ位置決め用ワイヤ懸架型マニピュレータの設計-

日本大学・遠藤 央,遠藤 麻衣,柿崎 隆夫,
産業技術総合研究所・中村 泰拓,蛇石 宰,大谷 謙仁

  本研究ではメガソーラーにおいて太陽電池パネルの故障パネルを検査するロボットを研究している.これは太陽電池パネルの一部を遮光することで擬似的な故障を作り出し,パネルのI-V特性より故障箇所を特定する.本論文では提案手法を実現するための,コンセプトとロボットの設計について述べた.意図しない遮光が発生しないようにワイヤパラレル機構を採用し,対象とする太陽電池パネル全面に遮光板を位置決め可能とする設計手法と,設計値を数値解析的に探索する手法について述べた.これについて位置決め可能な領域と操作力集合に着目し,探索された解の優位性を示した.


 

■ 振動スピーカを用いた力覚提示手法の知覚特性

筑波大学・田辺 健,矢野 博明,岩田 洋夫

  本論文では指腹部に対して非対称振動を提示した際に生起する力覚知覚の現象を様々な分野に応用するための基礎知見として,知覚特性を評価した.振動スピーカと呼ばれる音声信号を機械的な振動に変換するアクチュエータを用いて,正弦波の2周期において半周期分の振幅を反転させた非対称の波形を入力することで,非対称振動を発生させ,一方向に牽引されるような感覚を提示可能であることを確認した.この現象の知覚特性として 5 つの心理物理実験を行い,物理特性評価を行った.実験の結果,振幅を正または負方向に非対称にすることで力の方向が変化し,振幅を変えることで提示できる力の強度が変化することを示した.


 

■ 機能的電気刺激と動作推定に基づく筋電位駆動型ヒューマンヒューマンインタフェース

 横浜国立大学・島 圭介,花井 宏彰,県立広島大学・島谷 康司

  従来,機能的電気刺激を目的の筋へ与えることで筋収縮をコントロールして動作の再現が可能であることや,適切な筋収縮を促し関節運動を誘発させることで身体機能の再建が期待できることが明らかになっている.我々はこの機能的電気刺激に注目し,先行研究として機能的電気刺激と動作推定を組み合わせた2者間の動作伝達法を提案し,リハビリテーションへの適用可能性を示唆している.ただし,この方法では単純な動作の伝達のみ議論しており,物体の把持や運搬などの動的な動作については言及していなかった.
本論文では,我々が考案している電気刺激と動作推定を組み合わせたヒューマンヒューマンインタフェースについて説明するとともに,状態遷移モデルと電流-関節角度モデルを導入した動的な動作伝達法を提案する.提案法を用いた動作識別実験では90%を超える平均識別率が得られた.また動作伝達実験では物体を把持して移動させるなどの複雑なタスクが人から人へ伝達可能であり,様々なタスクの伝達へ応用できる可能性が示された.


 

非侵襲的生体インピーダンス法による肉牛の脂肪交雑値推定

長崎県農林技術開発センター・橋元 大介,産業技術総合研究所・福田 修,
長崎県農林技術開発センター・早田 剛

 本研究では,非侵襲的BIAによる肉牛の脂肪交雑(Beef Marbling Standard Number:以下,BMS No. )推定法を確立するため,黒毛和種肥育牛の生体時に体表から得られるサーロイン部位の電気的特性,枝肉のBMS No.および第6-7肋骨間切開面における胸最長筋(以下,リブロース)粗脂肪含量の相互関係を検討するとともに,これまで明らかにしている侵襲的BIAとの比較検討を行った.その結果、非侵襲的BIAおよび侵襲的BIAから得られる細胞内抵抗値(以下,Rin)とBMS No.およびリブロース粗脂肪含量には,有意な正の相関が認められた.また,非侵襲的BIAと侵襲的BIAのBMS No.推定能を比較すると,侵襲的BIAの方が高い推定能を有した.以上のことから,出荷1ヵ月前の肥育牛サーロインの非侵襲的BIA測定から得られるRinによってBMS No.および枝肉のリブロースの粗脂肪含量を推定する可能性はあるが,侵襲的BIAの推定能に近づけるための,さらなる測定技術の開発が必要と考えられた.


 

■ McKibben型空気圧アクチュエータを有する二次元脚ロボットの身体構造が関節剛性の設計に与える影響について

 大阪大学・中西 大輔,杉本 靖博,末岡 裕一郎,大須賀 公一

  人工筋肉の一つとされるMcKibben型空気圧アクチュエータ(以下MPA)は可変的な剛性と物理的柔軟性を有し,また軽量ながら高出力であることから,生物模倣型ロボットやパワーアシストスーツなどに応用されている.特にMPAを用いたロボットについては比較的簡単な制御によって安定でダイナミックな運動を生成可能であることが知られている.その一方で,これらのロボットの構造や制御入力の設計は,経験則や試行錯誤で決定している場合が多く,それらの特性が生成される運動やその安定性にどのように影響しているのかという解析的な議論は未だ十分になされていない.本稿では,脚ロボットの関節剛性と入力圧力の定性的関係,すなわち入力圧力を高めれば関節剛性が高くなるという直感的関係が反転する特異点について述べ,またそれが存在し得ることを数値解析によって示す.またその特異点に対して脚ロボットの設計(リンク長やプーリ半径などの身体設計およびMPAの自然長やワイヤ長など)が及ぼす影響について考察し,それらのパラメータによって特異点の位置を調節,また存在を回避することが可能であることを示す.最後にこれらの解析結果の妥当性をシミュレーションによって検証する.


 

■ 筋骨格系を模した剛性可変3自由度手首関節

東海大学・牧野 尚,ユン ヴァナック,小金澤 鋼一

 本論文では人間の筋の弾性特性を設計可能な非線形弾性特性を有するアクチュエータANLES(Actuator with Non-Linear Elastic System)を用い,人間の筋骨格構造を模倣した拮抗筋構造型「前腕義手」の手首関節を提案する.人間の前腕部は相反し作用をする対の筋による拮抗筋構造と筋の持つ固有の非線形弾性特性により角度,剛性の調節を行っており,巧みかつ最適な動作を可能とする.しかし,従来の「前腕義手」の研究では手の動作のみに注目しており,手首関節の動作や剛性調節は考慮されていないものが多い.そこで私たちはANLESを用いることで手首関節の姿勢変化と剛性調節を再現している。本機構では相対する2本のANLESのモータをそれぞれ逆方向に回転させることにより,ANLES内のボールネジが直動動作を行い一方が長く,もう一方が短くなる挙動を行う.そのため上板部に傾きが生じ手首関節の姿勢が変化する.またANLESのモータを全て同一方向に回転させることで,ボールネジは直動運動をせずにANLES内のねじりコイルバネが案内軸に巻き付く動作を行い手首関節の剛性が変化する.手首関節の姿勢変化や剛性調節を実験により検証し,前腕義手としての有効性を確認した.


 

■ イオン液体を飽和量含むイオン導電性高分子アクチュエータの動作モデル提案

デンソー・畑 謙佑, 井上 孝,片山 雅之

  動作モデルの詳細(何が電極間を移動して,なぜ屈曲するか)については,さまざまなモデルが提案されている.我々は,イオン導電性高分子膜内にイオン液体を飽和量含むイオン導電性高分子アクチュエータを作製したところ,屈曲動作中に負極から液体が染み出す現象を初めて発見した.これまで報告されている動作モデルでは,説明できない現象である.イオンがどのように動くかについては報告されているが,液体の動きについての報告はないためである.
 今回,イオン液体を飽和量含むイオン導電性高分子アクチュエータにおいて,負極から液体が染み出す現象を説明できる,イオン導電性高分子アクチュエータの動作モデルを構築するため,動作中のアクチュエータ断面を詳細に観察・分析した.液体の動きだけではなく,経路径や動作特性も解析した.それらの結果を元に,電極間に電気浸透流が生じ,カチオンとアニオン両方が負極に集まる動作モデルを提案する.


 

■ 階層型プランニングシステムによる産業用ロボットの自律的エラーリカバリー

京都大学・松岡 諒,椹木 哲夫,堀口 由貴男,中西 弘明

  ものづくりの現場では,多品種少量生産の自動化のため,ロボットの導入が進んでいる.自動操業において,様々な要因による「チョコ停」に対処することは,コストを削減し生産性を向上させるための課題であり,ロボットが人の介入なく自律的にエラーリカバリーできることが重要である.現状では,ロボットに組み込まれるリカバリー処理は失敗したコマンドの単純な再試行に限られ,不十分である.この課題を解決するため,本稿では階層型プランニングシステムを活用し,状況に応じた柔軟なエラーリカバリー処理の方策を提案する.反応-熟考のレベルの異なる3階層からなる提案システムは,反応的な再試行動作に加え,半順序プランニングと最適スケジューリングの手法を用いて,予期せぬエラーが発生した場合には熟考的に実行プランを修正する能力を持つ.熟考層は,類型化されたロボットの操作の意味ネットワークを表すConceptual Graphを参照して,エラー状態から正常系への復旧に必要な操作を推論する.熟考層の処理では,エラーに関する意味情報の解釈によって大局的にプランを再構成できる修正戦略が適用される.このシステムを実装した複数台の組立ロボットによる協調作業のシミュレーションを実施し,エラーリカバリーの有効性を検証する.


 

■ 発話時の表情変化に基づいた精神疲労の推定

大阪大学・川村亮介,武村紀子,佐藤宏介

  本稿では,デスクワーク等による精神疲労を表情情報に基づいて推定する手法を提案する.肉体的な疲労と比べ,精神的な疲労による外見の変化は少ないと言われており,視覚情報を用いて精神的な疲労を推定するのは容易ではない.そこで,我々は発話時の表情に着目し,発話時の表情変化に基づいた疲労推定を行う.発話時は一人での作業時と比較して,表情自体の動きが大きくなるため,疲労の有無による表情の違いも顕著になると考えられる.評価実験の結果,発話時の疲労の認識率は最大で89%となり,発話をしていない時と比べて10%以上認識率が向上した.さらに,様々な疲労タスクに対しても評価実験を行い,提案手法が様々な種類の疲労に対しても有効であることを示した.


[ショート・ペーパー]

■ 講義を行う建物ごと自由振動させる体験型振動工学授業の試み

名古屋大学・原 進,福和 伸夫,野田 利弘,田代 喬,飛田 潤,長江 拓也,倉田 和己,井上 剛志

  本ショートペーパーでは機械工学分野における「振動工学」の講義に関し,小型模型を超える新たな体験型教育を導入しようとする試みについて速報する.この試みは,2015年12月1日に名古屋大学工学部機械・航空工学科の2年生全員 を対象とした必修科目「振動学及び演習」の講義時間内に実施された.具体的には,名古屋大学東山キャンパス内で免震機構を備えた唯一の建築物「減災 館」において,免震機構に対してジャッキを用いた加力を行い,加力後自由振動させた.その様子を建物の外部と内部から体験するとともに,体験後,3次 元動画シミュレータとしてのBIM (Building Information Modeling)による解析 方法の紹介と,教科書に沿った理論的説明によって,体験した振動現象を深く理解しようとする試みであった.本ショートペーパーでは,この試みの概要と実施結果について報告し,今後の体験型教育の展開について検討するきっかけとすることを目的としている.


[論 文]

■ 高度熟練技能における空間的特性の曲率・捩率に基づく定量的解析法の構築

東京大学・馬渡 正道,土屋 健介

  本研究では, 高度熟練技能者による作業の結果が,作業対象上に一種の軌道として転写される作業を対象とし,作業結果の良否を評価するための評価方法を確立した.要求される要件および結果に対する評価が明確でない作業について,熟練者による模範作業との比較によって評価することを提案した.次に,作業に関するすべての情報が作業結果に反映された空間軌道に内包されることを利用して,軌道同士を比較することで作業結果を比較することを提案した.また,"3次元空間曲線は,曲率および捩率によって決定される"という微分幾何学における知見に基づいて,空間軌道の曲率および捩率によって空間同士の類似度を比較する数理モデルを構築した.その際,類似の程度をあらわす定量的指標として,分布類似度という指標を定義した.この評価法を,書道の運筆活動における字形の評価に適用し,当該評価法の妥当性を確認した.


 

■ リチウムイオンバッテリ充電率推定のための周波数応答データを用いたパラメータ初期値推定

慶應義塾大学・名取 滉平, 須田 貴俊,滑川 徹

  本論文では,リチウムイオンバッテリ充電率(SOC)推定のための,局所回帰モデリングとベクトルフィッティングを用いたパラメータ初期値推定手法を提案する.非線形カルマンフィルタを用いたSOC推定の精度を向上させるには,バッテリモデルのパラメータである内部インピーダンスの正確な値が必要となる.そこで,我々はバッテリから予め取得した周波数応答データベースに対し局所回帰モデリングとベクトルフィッティング適用することで内部インピーダンスの初期値の推定を行う.加えて,拡張カルマンフィルタを用いたSOC推定手法を示す.最後に,実験データを用いた検証によって,提案手法の有効性を確認する.