Vol.53,No.12
論文集抄録
〈Vol.53 No.12(2017年12月)〉
タイトル一覧
[論 文]
- ■ 時変むだ時間要素で結合されたシステムの離散時間モデルと状態推定
- ■ キャスタ型オドメータに対する積分型拡張Luenberger オブザーバ
- ■ 複数フレームのCSP係数を用いたTDOA推定による複数人物定位・追跡
- ■ 座位姿勢での平衡運動学習の解析・評価と付随する主観的直立姿勢変化の関連性について
- ■ ロボット間の通信遅れを考慮した人間ーロボティックネットワークの協調制御:受動性アプローチ
[論 文]
■ 時変むだ時間要素で結合されたシステムの離散時間モデルと状態推定
新日鐵住金・鷲北 芳郎,京都大学・大塚 敏之
本論文では,複数のサブシステムが,物質の移動時間を表すむだ時間要素で結合されているシステムの離散時間モデルについて考察する.物質の移動速度が可変で先見情報として与えられている場合,むだ時間は時変となるが,時不変むだ時間モデルのパラメータを時変のむだ時間に応じて時変値に単純置換しただけでは正しい離散時間モデルにはならない.そこで,むだ時間を表すのに十分な遅延演算子を並べ,遅延演算子の状態の線形結合でむだ時間の出力を表すモデルを検討した.本モデルでは,状態量の更新式は時不変であるが,出力方程式の結合係数は,むだ時間要素内の物質の位置情報に応じて決定される時変値となる.また,オブザーバを用いた本モデルの状態推定についても述べ,オブザーバのすべてのゲインを等しくすれば,物質の移動速度が変化しても,オブザーバの応答は時不変の一次遅れで一定となる優れた特徴をもつことを示す.
■ キャスタ型オドメータに対する積分型拡張Luenberger オブザーバ
デクセリアルズ・米澤 裕太,東京都市大学・関口 和真,野中 謙一郎
本論文ではキャスタ型オドメータによる定常偏差の無い速度推定のためのオブザーバを提案する.提案手法は拡張Luenbergerオブザーバへ誤差積分のフィードバックによる補正を追加することで実現し,安定性の証明を本文中でおこなっている.この証明の中で定常偏差が設計パラメータで定まる有界な範囲内に収束していくことが示され,提案手法が計測誤差だけでなく定常的なモデル誤差に対してもロバストな手法となっていることが保証される.提案手法の有用性は数値シミュレーション,及び実機実験による拡張Luenbergerオブザーバや近似微分器を用いた手法との比較を通して示す.
■ 複数フレームのCSP係数を用いたTDOA推定による複数人物定位・追跡
東京工業大学・綱沢 駿,大山 真司
多数のマイクロフォンを計測空間に配置して音源位置を推定する音源定位の技術はこれまで広く研究されてきた.当研究室では,オフィスにおける空調や照明の有効利用や店舗などにおける顧客動線把握を目的とした,分散型マイクロフォンアレイへの音の到来時間差(TDOA)に基づく人物位置推定技術を提案してきた.計測空間内で人物が発生する音(歩行音・音声)に基づいた位置推定システムは,比較的容易に実現可能なカメラの画像情報に基づく位置計測システムに比べて,「計測デバイスが安価である」,「プライバシーに配慮した計測が可能である」,「周囲の明るさによらずに計測可能である」等の利点が挙げられる.本稿では,足音などの短時間で減衰する単一の音の定位を目的とした従来手法では対応できない,持続的な音声を発する複数人物の定位を目指す.複数の音声信号が存在する環境で定位が困難になる原因としては,複数音源からの音声信号や残響成分・定常雑音などが混在することにより別々の計測信号同士の「弱い相関」による,音源からマイクロフォンへの音のTDOAの誤推定が挙げられる.この「弱い相関」による影響を抑え,複数音声が混在する中でも正しいTDOAを推定する手法の提案を本研究の目的とする.
■ 座位姿勢での平衡運動学習の解析・評価と付随する主観的直立姿勢変化の関連性について
岐阜大学・熊谷 敏,森田 亮介,伊藤 聡
本稿は,座位状態での側方向の平衡知覚に関する研究である.主観的直立姿勢として検出する平衡知覚が,側方向平行移動と座面ロール回転が可能な椅子上での平衡運動学習に伴って変化を起こす.しかし,対照実験を変えると,同一の運動学習でも主観的直立姿勢の左右への変化方向が異なるという結果を得てしまった.そこで本稿では,平衡知覚に変化を与える運動学習が想定どおりに行われているかの確認を目的の一つとして,CoP軌道,座面ロール回転角度および上体の水平方向変位に基づいて被験者の運動解析を行った.その結果,運動の習熟度が側方向外乱に対するCoP軌道の位相遅れの減少で評価できること,運動学習時の被験者の姿勢には2種類あることが分かった.また後者に関しては,上体全体を外乱方向に傾斜させて平衡を保つ場合は上体の平均側方向変位は外乱と同方向でその変位量は全体の中央値を基準として大きく,主観的直立姿勢は外乱と同方向に変化していたこと,一方,上体全体を「く」の字に折り曲げて平衡を保つ場合は上体の平均側方向変位が外乱方向と逆でその変位量は基準値より小さく,主観的直立姿勢は外乱と逆方向に変化していたこと,が明らかとなった.
■ ロボット間の通信遅れを考慮した人間ーロボティックネットワークの協調制御:受動性アプローチ
東京工業大学・山内 淳矢,Made Widhi Surya Atman,畑中 健志,藤田 政之
本論文では,ロボット間の通信に遅れが存在する状況において,ロボティックネットワークの位置もしくは速度を,人間オぺレータの所望する値に同期させる協調制御則を提案する.まず,各ロボットと提案する協調制御則を結合したシステムが受動的であることを示す.さらに,時間遅れを含む通信路を受動化するスキャッタリング変換を各ロボット間の通信路に用いることで,ロボティックネットワーク全体が受動性を有することを示す.また,受動化されたロボティックネットワークからの出力に基づいて,ロボットへの指令を決定する人間オぺレータの意思決定過程が入力強受動的であると仮定する.そのとき,提案する協調制御則が各ロホ゛ットの位置および速度をそれぞれ人間の目標値へ同期させることを示す.最後に,シミュレーションと実験を行い,提案手法の有効性を確認する.シミュレーションでは,システム同定の手法を用いて得た,入力強受動性を満たすシステムを人間の意思決定過程として用いる.実験では,実際に人間オペレータがロボティックネットワークと相互作用可能なシステムを構築し,検証を行う.