論文集抄録
〈Vol.53 No.2(2017年2月)〉

タイトル一覧
[論 文]


[論  文]

■ ビル内アトリウムの熱移動モデリングへのクープマンモード分解の適用-I-小スケール流速場による有効熱拡散ー

京都大学・河野 洋平,薄 良彦,
オムロン・林田 光紀,京都大学・引原 隆士

  本論文では,ビル内アトリウムにおける熱移動ダイナミクスを温度ならびに空調給気の実測時系列データに基づきモデル化することを提案する.このモデル化は2部の論文により詳述され,第1部に相当する本論文では,実用に供されているビル内アトリウムで部屋間距離より小さい空間スケールの流速場が支配的な場合のモデル化を対象とし,有効拡散係数を有する等方的な2次元拡散方程式を熱移動ダイナミクスの数式モデルとして採用する.そして,有効拡散係数を実測時系列データから同定する方法として,非線形力学系のクープマン作用素に基づくクープマンモード分解を適用する.本論文では,クープマンモード分解による同定結果が流速場の特性数ならびに対象ビルの構造の観点から妥当であることを示す.本論文に続く第2部 [河野, 薄, 引原, 計測自動制御学会論文誌, vol.53, no.2, February (2017)] では,アトリウムの流速場が部屋間距離より大きい場合について同様のモデル化を行う.


 

■ 画像処理を用いた経編ニット製品の糸切れ欠陥検出の自動化

東京都市大学・小屋 裕太郎,包 躍,
富山県立大学・中田 崇行,城西ニット・荒木 貢

  布織物製品を製造する工場では,生産効率向上のために欠陥を自動検出するシステムが求められている.しかし,スポーツのユニホーム等で多用される経編ニットは複雑な立体構造を持つため,レーザを照射するなど既存の方法では欠陥検出が不可能であった.筆者らは経編ニットの自動欠陥検出方法として,ブロック分割と2種類のフィルタを用いた方法を提案している.しかし,透視変換の座標,ブロックの分割幅,判定時の閾値の補正値などの検査に必要な複数のパラメータを検査システム使用前に事前に調べて手動で設定しなければならないという問題があった.本論文では,ブロック分割と2種類のフィルタを用いた方法について,検査に必要なパラメータを自動算出することで,検査前の手動設定が不要な検出方法を提案する.撮影画像の布の織り目模様の角度を算出することで撮影画像の傾き補正を行い,傾き補正後の画像で布模様の周期を算出することで,適切なブロック幅を算出する.そして,フィルタ出力値の分布の傾向を正規分布と比較することで,手動による閾値設定を行わずに欠陥の有無を判断する.実験では,工場の布織り機に設置したカメラで撮影した画像から布の欠陥を正確に検出できることを確認した.


 

■ 実時間価格提示を利用した配電系統電圧の分散制御

長岡技術科学大学・石井 貴弥,
長岡技術科学大学/科学技術振興機構 CREST・平田 研二,
ダイヘン/科学技術振興機構 CREST・大堀 彰大,服部 将之,
京都大学/科学技術振興機構 CREST・太田 快人

  太陽光発電をはじめとする再生可能エネルギー源の活用が期待されている.しかしながら配電系統への分散型電源の大量導入は,逆潮流に起因する電圧上昇を生じる.系統電圧の適正化は,電力品質保証の観点,余剰電力を売電できる家庭とできない家庭が混在する不公平の解消などの観点から,重要である.本稿では,有効電力,無効電力の双方に対する実時間価格提示方策と各分散型電源が個別に実行する最適化から構成される,配電系統の新たな運用システムを提案する.系統電圧の適正化を目指す配電系統の管理者は,系統電圧を観測し,有効電力および無効電力に対する付加的な価格の提示を実行する.このとき各分散型電源は,提示された価格を含む自身の利得を最適化するよう有効電力,無効電力の出力目標値を決定する.この各分散型電源が実行する分散最適化と価格提示を利用した統合化により,系統電圧を適正化する運用状態へと誘導する.提案する運用システムの有効性は,太陽光発電装置を備えた家庭群から構成される配電系統を想定した数値実験により検証する.これにより,各分散型電源が個別に出力目標値を決定する分散処理のもとで,系統電圧を適正値へと誘導できること,この際,不要な有効電力出力抑制を回避した系統電圧の適正化が可能であることを確認する.


 

■ 並列モデルを用いた非最小位相系の最小位相化による未知外乱推定器の設計と実験検証

信州大学・種村 昌也,千田 有一,関口 彰太,小林 弘幸

 未知外乱推定器は,外乱推定,あるいはその推定値を用いた補償制御などに活用されている.その中で,最小位相系に適用可能な外乱推定器は多く提案されているが,非最小位相系に対するものは比較的少ない.また,非最小位相系はその位相遅れが原因で推定性能の向上に悪影響を及ぼす可能性を内在している.これに対して,並列モデルを導入することで外乱推定性能の向上を図る方法が提案されている.しかし,並列モデルの有効性は数値シミュレーションのみで検証されており,実機実験では検証されていなかった.そこで,本稿では三慣性軸捻り振動系の実験機に対して外乱推定実験を行い,その性能を検証する.並列モデルの設計は,LMI表現の最適化問題を解く従来の方法に基づく.ただし,本稿では従来よりも評価関数を小さくするための繰り返し計算法を提案する.また,最適化問題に定式化するために事前に設定が必要なパラメータについて,新たな設定指針を与える.


 

■ 段階的な最適化計算による鉄道乗務員スケジュールの自動作成

 早稲田大学・髙橋 康太,渡邊 亮

 本論文では数分に一本間隔という非常に緻密な列車の運行スケジュールが組まれている都心の鉄道を対象に,実際に適用可能な乗務員スケジュールを従来手法よりも大幅に短い時間で自動作成する手法について述べる.
 鉄道は現在の日本において最も多くの利用者を有する公共交通機関である.列車の運行には全ての列車に乗務員を配置することが必要不可欠であるが,乗務員の配置計画である乗務員スケジュールはほとんどの路線において手作業で作成されており,その作成期間は数週間に及ぶ.さらに作成者によって品質が左右されるという問題もあり,短時間で質の高い乗務員スケジュールを自動で作成する手法の開発が求められている.
 乗務員スケジュールの自動作成は,一般に「行路案(乗務員の1日のスケジュール案)」と「行路案の組合せ最適化」の2つのステップから構成される.本論文では乗務員の乗務形態に対するさまざまな制約条件を満たす行路案を,行路の一部分である「部分行路」を用いて段階的に作成する時間計算量が少ない手法を提案する.そして,自動作成で得られた結果を実際に運用されている乗務員スケジュールと比較し,その有用性を検証する.


 

パーティクルフィルタを用いた自己位置推定のロバスト性向上を目指した確率分布の類似性に基づく動的なセンサ統合

名古屋大学・巣山 慶太,舟洞 佑記,道木 慎二,愛知工業大学・道木 加絵

 本論文は,パーティクルフィルタを用いた自己位置推定におけるセンサ統合を対象とする.近年,センサ技術の発展を背景に,特性の異なるセンサから位置情報を得ることで多様な環境下でのロバストな位置推定の実現を目指した研究が試みられている.パーティクルフィルタを用いた位置推定法においては,一般的にセンサ毎に存在確率分布として算出した位置情報の積により統合される.確率の積は同時確率に相当するため,複数の位置情報を反映した尤もらしい位置が推定されるが,単純な積による統合では,大きな位置推定誤差が発生する可能性も指摘されている.本論文では,センサ統合法の改善により,ロバストな位置推定の実現を目指す.まず,積による統合おいて大きな位置推定誤差を発生させる確率分布を明確にする.そして,その分布を動的に排除した上で積による統合を行う,新たなセンサ統合法を提案する.最後に,シミュレーションおよび実機実験により,提案するセンサ統合法の有効性を確認する.


 

■ 作業者の運動情報を利用した作業進度の推定とそれに基づく人協調ロボットのための作業支援スケジューリング

 東北大学・衣川 潤,金澤 亮,小菅 一弘

 産業用ロボットによる工場の自動化が進んでいるが,ロボットによる完全な自動化は未だ難しいというのが現状である.その理由として,近年主流となっている変種変量生産方式への適用の難しさや,現在のロボット技術では実現が難しい複雑な作業の存在,1台のロボットで複数の作業へ対応するような汎用性の高いシステム構築の難しさが挙げられる.このような問題を解決するためのアプローチの1つとして,人と協調して作業を行うロボットシステムの研究開発が行われるようになっている.筆者らは,作業者と協調して作業を行う「作業支援パートナロボット」を提案している.ロボットには難しい作業は人が行い,人が行う必要のない作業はロボットが分担することで,作業者の負担を軽減する.さらに,作業者固有の作業モデルに基づいた行動予測を利用して配送タイミングを決定することにより,作業待ち時間を低減して作業効率の向上を図ってきた.本稿では,従来研究として行っていた部品供給タイミング決定システムを拡張する.作業者の運動情報を統計モデル化することにより作業進度を推定し,よりロバストに供給タイミングを決定するシステムを提案する.さらに,実際に部品供給実験を行って,提案システムの有効性を検証する.


 

■ ビル内アトリウムの熱移動モデリングへのクープマンモード分解の適用-II-大スケール流速場による移流-

京都大学・河野 洋平,薄 良彦,引原 隆士

 本論文では,ビル内アトリウムにおける熱移動ダイナミクスを温度ならびに空調給気の実測時系列データに基づきモデル化することを提案する.先行論文である第1部 [河野, 薄, 林田, 引原, 計測自動制御学会論文誌, vol.53, no.2, February (2017)] に続いて,第2部となる本論文では,実用に供されているビル内アトリウムで部屋間距離より大きい空間スケールの流速場が支配的な場合のモデル化を対象とし,粗視化した移流項を有する2次元移流方程式を熱移動ダイナミクスの数式モデルとして採用する.そして,実測時系列データに対してクープマンモード分解を適用することで数式モデルのパラメータを同定し,この同定結果が流速場の特性数ならびに対象ビルの構造の観点から妥当であることを示す.以上により,第1部と合わせ,実測時系列データ,クープマンモード分解,数式モデルを統合することで,ビル内アトリウムにおける熱移動ダイナミクスの定量的評価が可能になることを示す.


 

■ 非線形モデル予測制御と動的計画法を用いた他車混合交通状況における車両軌道と速度生成

本田技術研究所・住岡 忠使,西宮 憲治,飽田 好恭

  自動運転等を目的に,車両の目標軌道と速度を決定しようとした際,車両のダイナミクスを考慮せずにそれらを別々に計算してしまうと人にとって不自然な挙動が計算されてしまうことがある.また実際の車両には舵角や駆動トルクに制限があるため,それらを考慮することで実現可能な値を計算する必要がある.さらに実際の人の運転においては,カーブ進入前に減速するといったような現在状態から未来の情報を考慮した計算が必要である.これらの内容を考慮した計算を行うために,本研究では,非線形モデル予測制御と動的計画法を用いた車両軌道と速度の生成方法に関して提案している.動的計画法においては周辺車両を考慮した安全な経路を計算し,非線形モデル予測制御では車両ダイナミクスを考慮して評価関数重みや拘束条件を調整することにより所望の軌道と速度が生成可能であることをシミュレーションにより示している.動的計画法,非線形モデル予測制御共に,無理な目標値を与えてしまった場合でも,拘束条件を満たす範囲内で最適化計算を行うことにより,自動でトレードオフを実現した解が求められることの有効性を確認している.また,ラピッドプロトタイピング用ボードを用いたシミュレーションにより,実時間性を満たした計算が行えていることも確認された.