Vol53,No.3
論文集抄録
〈Vol.53 No.3(2017年3月)〉
タイトル一覧
[論 文]
- ■ 対応点探索とカルマンフィルタによるレジストレーション誤差推定
- ■ 機械学習の枠組みに基づく能動型探索アルゴリズムのサーボパラメータ調整問題への適用性の検討
- ■ UAVによるインフラ設備外観の自動点検システムの実現に向けた三次元モデルに基づく状態データの精度を考慮した計測位置算出
- ■ ルベーグサンプリングのもとでのシステム同定
- ■ 足首への局所的温度刺激による血流促進と運動支援
- ■ 特異摂動によるポジティブ2次システムモデリング
[論 文]
■ 対応点探索とカルマンフィルタによるレジストレーション誤差推定
三菱電機・松崎 貴史,小幡 康,小椋 好恵
複数センサデータ融合はネットワーク化された複数センサから得た観測値により,広域を監視可能な共通エアピクチャを生成する.基本的な仮定として,データ融合では,レジストレーション誤差はゼロである.しかし実際の環境では,レジストレーション誤差はゼロではない.そのため,複数目標が共通エアピクチャで見える問題が生じる.本論文では,2つのレジストレーション誤差推定方法からなる新たなレジストレーション誤差推定方法を提案する.1つ目の方法は,移動目標の目標の1対1対応からなる粗レジストレーション誤差推定による方法である.次に,2つ目の方法は,粗レジストレーション誤差推定の結果を用いたカルマンフィルタによる精レジストレーション誤差推定である.シミュレーションにより,提案法は,従来法と比べて82ポイントのレジストレーション誤差推定誤差の低減の結果を得た.
■ 機械学習の枠組みに基づく能動型探索アルゴリズムのサーボパラメータ調整問題への適用性の検討
三菱電機・野田 哲男,長野 陽,永谷 達也,堂前 幸康,長野 鉄明,
田中 健一,奈良先端科学技術大学院大学・小笠原 司
産業現場で用いられる制御システムには調整すべきパラメータがあり,これまで様々なオートチューニング手法が実用化されてきた.しかし要求仕様が厳しい場合には熟練作業者がサンプリングを繰り返しながら現物あわせで調整しているのが現状で,作業の結果と時間にムラが発生,迅速かつ低コストなシステムインテグレーションを阻害する古典的な難題として知られている.その困難さの本質は「未知の目的関数の最適化」として定式化でき,著者らはこれの解決策として独自の能動型探索ルゴリズムを提案してきた.同アルゴリズムは複数のサンプリング候補の中からその候補でサンプリングを実施することで得られるであろう情報量と情報が得られないリスク量とを同時に考慮して次のサンプリングを逐次選択して探索を実行する点に特徴がある.本稿ではサーボパラメータ調整問題を例題にして同アルゴリズムの適用性を検討した結果を報告する.まずアルゴリズムの実装方法の概要を説明したのち,パラメータ全100通りの組合せの中から7回の試行で複数の要求仕様を充たす最適パラメータを発見したことを示すとともに,適用性の検討として複数の要求仕様に対する多目的最適化の実現,誤差因子に対するロバスト化,アルゴリム計算時間の短縮について,それぞれ論じる.
■ UAVによるインフラ設備外観の自動点検システムの実現に向けた三次元モデルに基づく状態データの精度を考慮した計測位置算出
名古屋大学・麻 晃太朗,舟洞 佑記,道木 慎二,愛知工業大学・道木 加絵
本論文では,自動点検システムに用いるUnmanned Aerial Vehicles(UAV)の計測位置の自動算出手法を提案する.点検対象の3Dモデル,計測用センサ・UAVの仕様を基に,状態データの精度が考慮されたUAVの計測位置が算出される.提案手法の有用性を,複数の橋梁を対象とした外観点検を想定したシミュレーションにて示す.シミュレーションでは,異なるタイプのUAVの計測位置が各橋梁について算出される.
慶應義塾大学・川口 貴弘,彦野 壮三朗,
京都大学・丸田 一郎,慶應義塾大学・足立 修一
従来のシステム同定において,動的システムの出力信号は時間的等間隔に得られることが一般に仮定されている.本論文では,不等間隔なサンプリングの一つであるルベーグサンプリングに着目する.ルベーグサンプリングは信号があらかじめ定めたしきい値に達したときにのみサンプリングを行う.このサンプリング法を用いた場合,出力信号が得られたときだけでなく,得られなかったときにも信号がしきい値に達しなかったという情報を得ることができる.本論文では,この情報を用いた高精度なシステム同定法を提案する.また,フィッシャー情報量の解析により,モデルを特徴付けるパラメータの漸近的な分散の評価を与える.提案法の有用性を数値例を通して示す.数値例では,正規性白色雑音を入力としたシステム同定を行い,ルベーグサンプリングによる推定値の分散がリーマンサンプリングにより得られるものよりも小さくなることを示す.
奈良女子大学・佐藤 克成,水口 さやか
血流を促進することは,運動時の能力を向上させ,怪我の予防や疲労の軽減につながることが期待できる.本研究では,このような運動支援の効果をもたらす簡易かつ簡便な装置の実現を目指し,足首への局所的な温度刺激により血流を促進する装置を提案した.まず,足首の太く浅い後脛骨動脈付近に対し温刺激と冷刺激を交互に行うことで,血流速度が増加するかを検討した.その結果,運動や圧力刺激と同様に,後脛骨動脈部への局所的な温度刺激によって,刺激部位の血流速度が増加することを確認した.次に,自転車のペダリング運動を例に取り,局所的な温度刺激がその後の運動に及ぼす影響を検討した.結果として,温度刺激が有酸素運動によるウォーミングアップ効果を増強し,無酸素運動の持続性に影響を及ぼしうること,心拍数の増加を促すこと,疲労感を軽減する可能性などが示唆された.
東京工業大学・岡本 有司,井村 順一,
理化学研究所統合生命医科学研究センター 兼 大阪大学タンパク質研究所・岡田 眞里子
過去の研究において,細胞内の様々な分子間相互作用を表現する画期的なモデル表現としてポジティブ2次システムが提案された.さらに,ポジティブ2次システムの安定性や,不変集合と正不変集合を解析する手法も提案されている.しかしながら,ポジティブ2次システムが表現することができる細胞内の分子間相互作用の種類は限定されており,hill関数などの有理関数型の微分方程式で記述される相互作用をポジティブ2次システムで表現できる保証はなかった. 本論文では,特異摂動理論を取り入れる事により,ポジティブ2次システムが有理関数で記述された微分方程式を近似表現できることを示す.さらに,近似前後において, 平衡点の安定性が保存することを示す.最後に, 実際の生体内の分子間相互作用モデルを用いて, 近似表現の妥当性を検証する.