論文集抄録
〈Vol.53 No.7(2017年7月)〉

タイトル一覧
[論 文]


[論 文]

■ 分光スペクトルと多変量解析を用いた放射率変動影響を受けない新放射測温技術の提案

JFEスチール・大重 貴彦,津田 和呂

様々な熱プロセスが存在する製鉄プラントで,放射温度計を適用しようとした場合,放射率変動というのは未だに難しい課題のひとつである.
筆者らは,分光スペクトルと,主成分分析(PCA)や部分最小二乗法(PLS)などの多変量解析を組み合わせた新しい測温法を提案する.本論文では,その基本的な考え方を説明するとともに,薄膜の成長に伴う反射率の計算値及び実測値から算出した放射率変動に対するシミュレーションにより,提案手法の有効性を示す.


 

■ 非線形モデル予測制御を用いた車両限界域制御と最速走行のための制御

本田技術研究所・住岡 忠使,細谷 知之,母里 佳裕

本論文では,車両運動の限界域まで考慮した車両制御として非線形モデル予測制御を用いた手法を紹介し,その有効性を数値シミュレーションにより確認している.緊急回避や雪道走行のような横加速度限界付近での走行においては,ある瞬間では車両の安定性が維持できても,その次の瞬間には安定性が維持できないといった状況が発生し得る.このような状況においても,車両の安定性を維持するための各輪の制動量,駆動量と舵角量を決定するための理論が必要となっている.そこで現在の状態から未来の状態を考慮して入力を決定する非線形モデル予測制御を用いることで,限界域付近においても継続的な安定性を考慮した各輪のスリップ率と舵角を決定することを考える.限界域付近における非線形性を考慮するために,combinedslip等を考慮したタイヤモデルと,加速度から計算される輪荷重モデルを用いた4輪モデルを制御モデルとして定義している.シミュレーション結果より,各輪の荷重とタイヤ横力減少分を考慮したスリップ率制御が行えることを確認している.
また,提案手法の応用事例として曲率最小経路生成アルゴリズムと非線形モデル予測制御を併用し,あるコースを最速で走行するための制御手法を紹介している.


 

■ 車載用ロードノイズアクティブ構造騒音制御システム構成のためのアクチュエータ配置決定法と多入出力補償器の設計法

日産自動車/九州大学・高松 吉郎,日産自動車・藤木 教彰,
出口 欣高,九州大学・川邊 武俊

自動車車室内の静粛化のため,定常走行時に発生するロードノイズの低減は長年の課題である.筆者らは前報告にて,アクティブ構造騒音制御法により制御系を構築し,H2制御法を用いてコントローラを設計する方法を提案した.また,台上実験において有用性を実証した.
本論文では,走行時におけるロードノイズ低減手法を提案する.特に,制御システムの構成,アクチュエータの配置,そしてコントローラ設計方法について提案する.アクチュエータを以下の基準にしたがって選定する.1)ゲインの小さな補償器によりロードノイズを制御するために,車室内音圧までの伝達関数ゲインが高い.2) すべての制御周波数帯域にわたって車室内の複数の点の音圧を制御するために,車室内音圧までの伝達関数行列の条件数が十分小さい.3) 閉ループの安定化が容易となる程度に,アクチュエータ入力信号から加速度センサまでの伝達関数のゲインが全周波数帯域で小さい.H2制御設計方法として,一般化プラントの構成法および重み関数の設計法を提案する.走行車両データを用いてアクチュエータを配置し,補償器を設計した.計算機シミュレーションおよび走行実験によりロードノイズの低減を確認することができた.


 

■ 台車の振幅制限を考慮した倒立振子の安定化制御

島根大学・木下 大,吉田 和信,米子高専・松本 至

台車に振幅制限がある倒立振子の安定化問題に対して,吸引領域(安定化領域)が大きくなる飽和制御則を提案し,シミュレーションおよび実験により同種の問題に対するLinらの制御則と比較することによって本制御則の有効性を検討する.本制御則は2つの設計パラメータT,kをもつ.Tは台車サーボ系の時定数であり,kは閉ループ極の1つを指定するパラメータである(-kが極となる).線形モデルに対する吸引領域を大きくするため,Linらの方法では,T→0,k→0とする必要があるが,本方法ではT→0のみでよい.また,非線形モデルでは,同じTに対して,Linらの方法より大きなkを設定しても,Linらの方法と同程度の大きさの吸引領域が得られる.すなわち,提案法では,設計パラメータTや台車の振幅制限に応じてkを設定することで,良好な応答特性をもちながら,比較的大きな吸引領域を得ることができる.また,状態の一部に計測誤差がある場合とモデル誤差がある場合のロバスト性を検証するための実験結果も示される.


 

■ データセンタにおける省電力空調制御のための学習・最適化モデル

NTTネットワーク基盤技術研究所・中村 雅之

本論文では年々増加するデータセンタの消費電力を削減することを目的として,データセンタの空調消費電力を最小にする学習・最適化モデルを提案する.このモデルでは実運用にて空調制御を行いながらデータセンタの温度モデルを学習する.制御対象として比較的大規模なデータセンタを想定し,効率的な学習を行うためL1正則化を利用する.そして、実際にサーバが上限温度を越えないような省電力空調制御を行うためにフィードバック制御と線形計画法(LP: Linear Programming)を利用し,サーバ負荷配置は仮想化技術により行うことを想定する.学習が進展するに従いシステムはよりスマート化し,効率的な制御法へと遷移する.本論文ではまずデータセンタの温度モデルについて説明し,温度モデルに基づいた空調最適化について説明する.そして新たに3つのフェーズからなる学習・最適化モデルを提案する.提案モデルの評価のため,データセンタの総負荷を時間的に変化させ動作シミュレーションを行う.シミュレーション結果から,学習性能と,空調制御とサーバ負荷配置の性能の比較を行う.そしてそれぞれのフェーズでの空調消費電力の比較を行い,提案モデルの評価を行う.最後に考察とまとめを行う.