論文集抄録
〈Vol.53 No.8(2017年8月)〉

タイトル一覧
[論 文]

[ショート・ペーパー]


[論  文]

■ 不確かな予見情報に基づく制御則の構成

首都大学東京・児島 晃,端倉 弘太郎

  予見制御法は, 目標値の一定時間未来までの情報を利用することにより, 制御系の追従性能を改善する手法であり, 近年では, H∞制御性能の視点から予見制御系を構成する方法が明らかにされている.しかしながら, これまでの研究においては, 正確な予見情報が一定時間未来まで利用できることが仮定されているため, 1) 遠い将来ほど予見情報が不確かになる場合, あるいは 2) 時々刻々と予見可能な情報が更新される場合には, 入手可能な予見情報を的確に処理し, 性能改善に反映させる制御系の構成法は明らかでなかった.
本論文では, 予見情報の不確かさを考慮したH∞制御問題を定め, 問題の可解条件と制御則の構成法を明らかにする. そして,著者らが導いた推定問題の結果を援用し, さらに制御則を適当な状態空間で定めた作用素 Riccati 方程式の解から構成することにより, 予見情報の不確かさを処理する予見制御系の構成法を明らかにする. また,数値例により制御則の性質を調べ,また予見情報に内在する不確かさと性能の関係について考察する.


 

■ 物流管制問題の解決に適したカラーペトリネットツール

新日鐵住金・塩谷 政典

  本論文では,ペトリネットを物流管制問題へ適用する際に必要となる機能に関して述べる.これは,鉄鋼プロセスの物流管制課題の解決のため長年利用して来たカラーペトリネットツールの開発によって得られた経験に基づいている.このツールでは,ユーザはトークンの種類と属性を自由に定義でき,トークンの属性を用いて複雑な発火ルールを定義することができる.また,優れたGUIを持ち,一部のペトリネットをモジュール化して再利用する機能や,高速にシミュレーションする機能,基本構造を表す状態方程式を出力する機能など,実問題へ適用する際に必要となる様々な機能を有している.このシミュレータはAGVの配車制御や溶銑管制システムなど多くの物流管制課題の解決に役立っている.


 

■ 学習制御を用いた非線形摩擦を有するシステムの連続時間システム同定

奈良工業高等専門学校・酒井 史敏

  数値制御工作機械などに用いられている送り駆動系の高速・高精度な位置決めを実現するためには摩擦補償が必要であり,適切な摩擦補償器を構成するためには作用する非線形摩擦のパラメータを推定する必要がある.本研究では,学習制御に基づく連続時間閉ループ同定法に基づき,対象システムの線形モデルのパラメータを推定すると同時に非線形摩擦モデルのパラメータを推定する方法を提案する.静的摩擦モデルの一つであるGaussモデルに基づく非線形摩擦が作用するシステムを扱い,Gaussモデルに含まれる符号関数および指数関数を同定アルゴリズムに組み込むことで,同定に用いる学習更新則および学習ゲインの選択に関しては著者らがこれまでに提案してきた手法をそのまま適用することができることを示した.また,提案する同定アルゴリズムを用いることで,対象システムの連続時間モデルおよび作用する非線形摩擦のクーロン摩擦力,最大静止摩擦力を同時に推定できることを数値例により示した.


 

■ 連続時間オブザーバー併合型出力フィードバックScaled H 制御器とスケーリング行列の同時設計

宇宙航空研究開発機構・佐藤 昌之

 H∞ 制御およびその拡張である scaled H∞制御や μ 設計による制御器が実システムに広く用いられている.H∞ 制御器設計問題は線形行列不等式を用いて定式化され,その大域的な最適解が容易に得られるが,scaled H∞制御器設計問題は双線形行列不等式を用いて定式化され,一般には,局所最適解を得るためだけでも繰り返し計算が必要である.しかし,繰り返し計算は,大域的最適解に達する前に計算誤差から止まってしまうこともあり,そのような場合には制御仕様を満たさない制御器しか得られない場合も多い.この問題に対して,本稿では,オブザーバー併合型出力フィードバック scaledH∞ 制御器とスケーリング行列の同時設計を行う方法を提案する.提案方法は,dilated LMI と呼ばれる手法を用いているが,その際に導入する行列に構造的制約を課すことで提案設計法を得ているため,保守性の導入は免れない.しかし,制御ゲインとスケーリング行列の同時最適化による保守性の低減を数値例により示すことで,本提案法の有効性を実証する.


 

■ 粒子フィルタによる需要家推定を用いた実時間価格制度

 国際石油開発帝石・里内 亮,フローニンゲン大学・河野 佑,京都大学・大塚 敏之

 実時間最適化によるモデル予測制御と粒子フィルタによる需要家パラメータ推定に基づく電力系統の実時間価格制度を提案する.また,価格提示を補完するために,火力発電機と蓄電池の制御についても既存手法の修正を提案する.そして,提案手法と先行研究における直接制御の性能をシミュレーションによって比較する.需要家パラメータの不確かさや風力発電の大きな変動にも関わらず価格提示によって需給バランスが達成されることを示す.


 

データベースを用いたファイバブラッググレーティングの反射波長測定システムの構築

日本大学・山口達也,篠田之孝

 本論文は,パーティクルフィルタを用いた自己位置推定におけるセンサ統合を対象とする.近年,センサ技術の発展を背景に,特性の異なるセンサから位置情報を得ることで多様な環境下でのロバストな位置推定の実現を目指した研究が試みられている.パーティクルフィルタを用いた位置推定法においては,一般的にセンサ毎に存在確率分布として算出した位置情報の積により統合される.確率の積は同時確率に相当するため,複数の位置情報を反映した尤もらしい位置が推定されるが,単純な積による統合では,大きな位置推定誤差が発生する可能性も指摘されている.本論文では,センサ統合法の改善により,ロバストな位置推定の実現を目指す.まず,積による統合おいて大きな位置推定誤差を発生させる確率分布を明確にする.そして,その分布を動的に排除した上で積による統合を行う,新たなセンサ統合法を提案する.最後に,シミュレーションおよび実機実験により,提案するセンサ統合法の有効性を確認する.


 

■ 対称平面傾斜ロータ構造をもつヘキサロータ型全駆動UAVの動的可操作性解析と設計最適化

東京工業大学・田所 祐一,伊吹 竜也,三平 満司

 本論文はヘキサロータ型全駆動UAVの動的可操作性解析と設計最適化について論ずる.ヘキサロータ型全駆動UAVは,マルチロータ型飛行ロボットの一種で,6機のロータで空間の6自由度を同時に制御できるという特徴をもつ.全駆動UAVは,従来の劣駆動UAVと比較して外乱耐性や作業性能において優位性がある.また,機体の構造を決定する設計変数であるロータの配置や傾斜を適切に決定することで,機体ごとに加速しやすい方向を変更することができる.本研究ではこの特徴を力学的に解析し,空中作業に適したUAVの構造の導出を行う.はじめに,ヘキサロータ型全駆動UAVの動力学モデルを導出・解析することで,任意の非平面構造をもつ機体を平面構造に簡略化できることを示す.この事実に基づき,ヘキサロータ型UAVの一種の正準型として対称平面傾斜ロータ構造を提案する.さらに,機体の全駆動性を評価する指標として,ヘキサロータ型UAVの動的可操作度を新たに定義する.解析により,対称平面傾斜ロータ構造に対する動的可操作度が,機体そのものの性質を表わす単位系に依存しない指標であることを明らかにする.これらの解析に基づき,ヘキサロータ型全駆動UAVの設計最適化手法を提案し,最後に数値例を用いてその有用性を示す.


[ショート・ペーパー]

■ サンプリング周期の非整数のむだ時間をもつシステムの同定法

慶應義塾大学・肥後 利晃,川口 貴弘,足立 修一

  離散時間モデルを用いたむだ時間をもつシステムの同定法を提案する.むだ時間はサンプリング周期の非整数倍である場合を考える.まず,このようなむだ時間をもつシステムの離散化について述べ,システム同定のための新たな解釈を提案する.1入力1出力システムを離散化することで,システムのダイナミクスを表わす項とむだ時間の影響を表現する項から構成される2入力1出力システムと解釈できる.そして,この新たな解釈を利用して,それぞれのシステムのパラメータを推定する方法を提案する.最後に,数値例により提案法の有用性を示す.