Vol.54,No.10
論文集抄録
〈Vol.54 No.10(2018年10月)〉
タイトル一覧
[論 文]
- ■ ARモデルと行列ランク最小化によるグラフ信号の修復
- ■ メカニズムデザインに基づく駐車場割当決定および動的駐車代金設計
- ■ 不確かな時変入力むだ時間と時変パラメータ変動をもつサンプル値システムの制御系設計
- ■ 車載蓄電池を用いたモデル予測型HEMSによるレギュレーションサービス
- ■ 地上および天井移動する2輪型4ロータヘリコプタの追従制御
[論 文]
デンソー・芋田 総之,名古屋大学・東 俊一,京都大学・杉江 俊治
本論文ではグラフ信号に対する信号修復問題を扱い,変数領域での解法を提案する.最初に,通常の時系列信号のAR性をグラフ信号に対して拡張する.つぎに,グラフ信号のAR性を表現する行列を定義し,信号修復問題をその行列のランク最小化問題へ帰着させる.最後に,webページの重要度の指標としてPageRankが知られているが,ここでは,PageRankが定められたwebをグラフ信号としてモデル化し,提案手法をPageRank値の推定問題へ応用する.
■ メカニズムデザインに基づく駐車場割当決定および動的駐車代金設計
慶應義塾大学・中西 啓晃,吉原 美祐,滑川 徹
本稿では,スマートパーキングシステムによる渋滞緩和について議論する.近年,駐車場探索に伴う車両速度の低下により,都市交通網において発生している交通渋滞が問題となっている.そこで本稿では,駐車場探索ドライバーに利用可能な駐車場を割り当て,提示することで,交通渋滞の原因である駐車場探索間を短縮する.さらに交通ネットワーク内に複数存在する駐車場管理者の利益を平準化するために,動的駐車代金設計を伴う駐車場の再分配アルゴリズムを提案する.最後に数値シミュレーションにて提案アルゴリズムの有効性を検証する.
■ 不確かな時変入力むだ時間と時変パラメータ変動をもつサンプル値システムの制御系設計
首都大学東京・林田 泰隆,小口 俊樹
本論文では,入力に不確かな時変むだ時間をもち,かつ時変で不確かなパラメータ変動を伴うサンプル値線形システムに対する新たな安定解析手法を提案している.著者らは既に,1サンプル間隔よりも短い不確かな時変むだ時間をもつサンプル値線形システムの安定条件と,それを基にした制御器設計手法を提案している.本論文では,その手法を非線形システムの制御系設計に応用するため,不確かな時変入力むだ時間に加え,時変で不確かなパラメータ変動を伴うシステムに対する安定条件を導出している.加えて,入力むだ時間の不確かさとパラメータ不確かさが安定条件の保守性に与える影響を明らかにするため,むだ時間変動やパラメータ変動の有無に伴う安定条件を比較することにより,それぞれの安定条件の保守性に関する関係性を明らかにした.最後に,導出した条件の有用性を示すため,非線形性を持つ不安定システムの一つである台車型倒立振子の安定化制御について検討している.数値シミュレーションを通じて,導出した安定条件の妥当性と有用性を示している.
■ 車載蓄電池を用いたモデル予測型HEMSによるレギュレーションサービス
名古屋大学・縄田 郁海,中野 日加里,川島 明彦,
稲垣 伸吉,名古屋大学/JST,CREST・鈴木 達也
生可可能エネルギーの導入が進み高度な電力安定化技術が求められる中,発電所や大規模需要家等が市場安定に貢献することで報酬を得ることが出来るアンシラリーサービス市場が注目されている.本稿では,電気自動車と太陽光発電装置を搭載した複数の家庭が家庭エネルギー管理システム(HEMS)を通してこの市場,特に系統周波数を一定範囲内に維持するために需要と供給を早い周期で一致させるレギュレーションサービス市場,に参加するための車載蓄電池の充放電制御法を提案し,有益性を検証する.提案手法は大きく二つの最適化手法に基づく.まず各家庭においてレギュレーションサービスに提供できる電力容量を,モデル予測的に算出する計算である.そこでは,電気代とサービス参加による期待利得等を評価関数として,30分刻みで24時間先までの電力容量系列を計算する.もう一つは,送電系統運用者から送られる消費電力目標値を,需給均衡制御に基づき各家庭に割り振る計算である.そこでは,双対分解法に基づく分散最適化手法を導入し,家庭の増加に対する計算負荷を分散化する.最後に,実家庭と統計から得られたデータを用いて200軒の家庭のシミュレーションを行い,レギュレーションサービスに参加することで得られる利益を算出して有益性を評価する.
■ 地上および天井移動する2輪型4ロータヘリコプタの追従制御
名古屋工業大学・塚田 大貴,尾﨑 耕平,山田 学
著者らは,マルチコプタの左右に回転可能な円形の保護フレームを取り付けることで,空中だけでなく,地面や天井や壁面も自由に走行できる2輪型マルチコプタを開発している.この2つのフレームは,衝突時に機体を保護するだけでなく,地面や天井や壁面接触時に,飛行体は2輪車両になり,風などの外乱に強い.また車輪により,接触移動中は構造物とカメラとの距離が一定に保持されるため,橋梁などの構造物の点検に適している.本論文では,橋梁点検への応用を想定し,地上および天井を移動する2輪型マルチコプタの位置追従制御問題について考察し,市販のフライトコントローラに基づく実用的な制御系を提案する.提案法の特徴は,フライトコントローラを前置補償器として用いることで,姿勢制御システムを容易に安定化かつ低次でモデル化できることを利用して,従来法より,システム同定やコントローラ設計や実装を容易にできることである.その結果,設計問題は複雑なモーターダイナミクスなどを考慮する必要がなく,低次で簡単な線形システムに対する状態フィードバック補償器の設計問題に帰着され,補償器はよく知られた線形制御法により容易に得られる.本手法の有用性を,地上および天井でのシミュレーションおよび実機実験により実証する.