Vol.54,No.11
論文集抄録
〈Vol.54 No.11(2018年11月)〉
タイトル一覧
[論 文]
- ■ リモートポインテイングタスクにおける把持情報インタフェースの提案
- ■ 信号状態と交通流を同時に考慮した運転支援のための行動選択学習
- ■ 人間特性に基づくEFiC(Environment-Factor-intellectual Concentration)フレームワークの提案-執務環境の変化に伴う知的生産性変化のメカニズム導出方法-
- ■ 一般化正準変換を用いたポートハミルトン系の経路追従制御のためのポテンシャル関数の設計
- ■ 一般化混合H2/H∞平衡実現による結合系のモデル低次元化
- ■ 許容平均ビットレート制約を満足する周期時変動的量子化器の構成
- ■ 節・無向弧・有向弧に配達タスクがある巡回問題の1次元データモデルと模擬焼きなまし法を用いた実用的ヒューリスティック解法-パラメタ値の再設定と新聞配達問題への応用-
[ショート・ペーパー]
[論 文]
■ リモートポインテイングタスクにおける把持情報インタフェースの提案
産業技術総合研究所・佐藤 滋
人間同士の対面コミュニケーションでは,言語の意味のみならず態度等から多くの情報が伝わることが知られている.機械の操作において「操作部を手で把持して動かす」ということは基本的な操作のひとつであるが,把持力,把持形態等の把持情報は,従来のインタフェースに利用されてこなかった.本論文では,操作自体に無意識的に含まれる情報を抽出しマンマシンインタフェースに利用するコンセプトを提案し,基礎的実験により効果を検証する.具体例として,カーソル移動のゲインが把持力から自動的に調節されるマウスを提案する.まず把持力センサを内蔵するマウスを用いて,マウスによるポインティングタスクが,比較的小さい把持力でカーソルを目標位置の近傍に移動させるフェーズと,より大きな把持力でマウスを保持して目標位置にカーソルを精密に位置決めするフェーズに分けられることを,実験により示す.続いて,把持力から両フェーズを判別してカーソル移動のゲイン調節に利用する方法を提案し,実験によりタスク容易化(=インタフェース向上)効果を実験的に示し提案の有用性を確認する.
■ 信号状態と交通流を同時に考慮した運転支援のための行動選択学習
NTT未来ねっと研究所・水谷 后宏,吉田 学,秦 崇洋,社家 一平
自動車に搭載されたセンサーの高度化や信号等に設置された環境センサーから得られた情報を利用可能にするインフラの普及により,人工知能等の技術を用いた運転支援技術が脚光を浴びている.本稿では,一般道において,赤信号の通過,および赤信号時の停止禁止区間での停車を行うといった信号無視を防ぎ,かつ他車との接触を回避しつつ目的地まで早く着くための最適な加減速制御を深層強化学習にて決定した.
■ 人間特性に基づくEFiC(Environment-Factor-intellectual Concentration)フレームワークの提案-執務環境の変化に伴う知的生産性変化のメカニズム導出方法-
大阪大学・伊藤 京子,京都大学・上東 大祐,石井 裕剛,下田 宏
本論文では,執務環境と知的集中の関係を,これらの間をつなぐ「要因」を媒介して定量的に分析するためのフレームワークを検討した.具体的には,「人間特性」に着目し,知的集中に影響を与える要因を2つに分類した.
そして,作業中に変化する動的要因(覚醒,気分,疲労,ストレッサ評価)と変化しない静的要因(基準値,環境感度)を設定した.設定した要因を用いて,計測方法と定量化方法を検討し,執務環境の変化に伴う知的集中変化のメカニズム導出に向け,EFiCフレームワーク(Environment-Factor-intellectual Concentration)を提案した.EFiCフレームワークの有効性を検証するために,照明環境による知的集中の計測実験で取得された計測データを対象に,本フレームワークを適用した.結果として,人の特徴に応じた執務環境を提供するための具体的な指針が得られた.
■ 一般化正準変換を用いたポートハミルトン系の経路追従制御のためのポテンシャル関数の設計
京都大学・大倉 裕貴,藤本 健治,三菱電機・斎藤 暁生,池田 英俊
本論文ではポートハミルトン系の経路追従制御のためのポテンシャル関数の設計方法について述べる.従来の経路追従制御では,目標経路上で最小値を取り,かつ複数の条件を満たす時不変なポテンシャル関数を探す必要がある.しかしながら,目標経路が複雑になればなるほど条件を満たすポテンシャル関数を探すことは困難となる.そこで,構成的に制御系が設計できる従来のポートハミルトン系の軌道追従制御の考え方を応用し,経路追従制御のポテンシャル関数を設計する新しい手法を提案する.一般化正準変換の手法を用いて偏微分方程式の解を求めることで,目標経路に追従させるためのポテンシャル関数を構成的に設計することが可能である.
■ 一般化混合H2/H∞平衡実現による結合系のモデル低次元化
大阪大学・酒井 裕一朗,和田 孝之,藤崎 泰正
本論文では,対象システムのH2性能とH∞性能に対応を表す線形行列不等式(LMI)の解が同じ正定で対角な行列となる一般化混合H2/H∞平衡実現に基づく結合系のモデル低次元化が提案されている.このモデル低次元化の特徴は,対象システムの結合構造を保存したまま低次元化が可能なことである.低次元化システムのH2/H∞ノルムがLMIの解に対応する性能レベルより大きくはならないことが示されている.また,対象システムと低次元化システムの誤差の大きさについてもH2/H∞ノルムにより特徴付けられている.そして,数値例を通して本手法の有用性を確認している.
■ 許容平均ビットレート制約を満足する周期時変動的量子化器の構成
熊本大学・岡島 寛,京都大学・細江 陽平,萩原 朋道
量子化要素が制御系に含まれるシステムの制御に関する研究が盛んに行われている.その中でも量子化部とメモリ部を内部に含む量子化器は動的量子化器を呼ばれ,高い制御性能を実現するための様々な研究がなされている.このとき,通信ビットレートが制約された状況でのシステムの制御では,メモリ部のフィルタ特性だけでなく量子化器の出力集合も設計対象となる.具体的には,通信元と通信先で共通の認識さえされていれば,離散値の値はどのように設定されてもよいため,この自由度を考慮して設計する必要がある.動的量子化器に関する先行研究においては,そのフィルタ部分は状態方程式ベースで記述され,時不変の行列が用いられてきた.この時不変の枠組みでは許容された平均送信ビットレートを保守的に利用することがその設計の基本となる.これに対して本研究では,周期時変システムの観点から平均送信ビットレート制約下での動的量子化器を構成する方法を提案する.時変の枠組みで動的量子化器を構成することで許容された平均送信ビットレートをより有効活用することが可能となる.提案した周期時変動的量子化器の有効性は数値例を用いて検証した.
■ 節・無向弧・有向弧に配達タスクがある巡回問題の1次元データモデルと模擬焼きなまし法を用いた実用的ヒューリスティック解法-パラメタ値の再設定と新聞配達問題への応用-
慶應義塾大学・國府方 久史,獅子倉 修,大門 樹
節・無向弧・有向弧に配達タスクがある巡回問題(Node Edge Arc Routing Problem,NEARP)は,容量制約付き混合一般化巡回問題(Mixed Capacitated General Routing Problem,MCGRP)とも呼ばれ,大きな事業所の配達タスクを節,道に沿った住宅や商店の配達タスクをまとめて,車両が進む向きの指定の有無により,無向弧あるいは有向弧として扱う配送問題である.本研究では,著者らが以前に開発した1次元データモデルにおける近傍解の生成法と模擬焼きなまし法(Simulated Annealing,SA法)を再検討し,3つの近傍生成規則の適用比率とSA法における数少ないパラメタ値の設定を改良することによる実用的な解法を提案し,NEARPのベンチマーク問題であるCBMix問題シリーズ全般において,既存最適解に近い解をより少ない計算時間で求め,23題中2題では既存最良解を更新した.また,応用例として,首都圏のある町における新聞配達問題をNEARPとしてモデル化し,現実的な条件を付加して配達計画案を計算し,提案手法の適応性について検討を加えた.
[ショート・ペーパー]
■ スマート畜産のための無線センサネットワークにおけるマルチパス設定メッセージ数の削減法
日本大学・熊谷 正憲,見越 大樹,大山 勝徳,西園 敏弘
無線センサネットワークの利用は,農業・畜産分野において事業コストの削減や作業の効率化へつながると期待されている.畜産分野での利用においては家畜にセンサデバイスを取り付けるためデバイスの移動を考慮する必要がある.
本論文では,スマート畜産において,無線センサネットワークにより家畜の状態情報を高信頼かつ効率的に収集するデータ転送方式を提案する.性能評価により,提案方式は従来方式と同程度のデータ到達率で73%の消費電力量の削減が行えることを示した.