論文集抄録
〈Vol.54 No.3(2018年3月)〉

タイトル一覧
[論 文]


[論  文]

■ サイバーフィジカルシステムにおける完全ステルス攻撃

慶應義塾大学・篠原 巧,滑川 徹

 サイバーフィジカルシステム(CPS)における悪意あるサイバー攻撃に対するサイバーセキュリティの構築は, CPSのセキュアかつレジリエントな運用のために必要不可欠である. 本稿では, カルマンフィルタ, LQGコントローラ, そしてカイ二乗異常検出器を有したCPSに対する新たなサイバー攻撃である, 完全ステルス攻撃を提案し議論する. この攻撃は, 攻撃を受けたシステムの観測値や観測残差が, 非攻撃時のシステムのものと完全に一致するよう設計される攻撃であり, 従来システムでは検出することができない. しかしながら, 攻撃を受けたシステムは破壊される. この危険なサイバー攻撃に関して, まず攻撃者の視点から, 不変部分空間の特性を用いて攻撃存在条件と攻撃設計手順を導く. 次に, 反対にシステム管理者の立場から, この攻撃の検出問題を議論する. 具体的には, Nash交渉ゲームに基づく非周期的観測値伝送方式を提案する. 最後に数値シミュレーションによって, 完全ステルス攻撃の危険性と提案検出手法の有効性を確認する.


 

■ 配位座標の制限を伴う2指ハンドによる転がり接触の非ホロノミック性に基づく把持対象物の操り制御

南山大学・中島 明

 本研究は2指ハンドによる物体の把持・操り系において指先の転がり運動により生じるホロノミー量を利用した運動計画の一手法を提案する.具体的には,指先を球,把持対象物を立方体に限定した系において,対象物の目標状態を接触座標に変換した上で,指先座標の閉軌道により生成されるホロノミーを用いたレギュレーション法である.そこでは,閉軌道を決定するパラメータは,接触座標および指の機構に由来する配位座標の制約条件下において,目標値との誤差を小さくする最適化問題を解くことで得られる.手法の有効性は数値シミュレーションにより検証される.


 

■ 準ミリ波を利用した路面上の水と氷の判別方法

大同大学・上田 浩次,名古屋市工業研究所・宮田 康史,
名古屋電機工業・神取 祐治,谷嵜 徹也,電気通信大学・鎌倉 友男

 凍結状態の路面は車両の制動能力の低下を引き起こし,大事故の要因となる.よって,路面が凍結(氷)か湿潤(水)かの正確な情報収集が要求されてきている.従来,電波を利用した検出方法として,電波の後方散乱波のうち水平および垂直偏波の強度比から判別する方法が提案されている.このシステムの運用には,周波数掃引が可能な高性能ネットワークアナライザが必要で,またその計測器の大きさや運搬の手間の観点から,実用面において大きな課題がある.そこで,本論文においては, 24 GHz単一周波数の電波を使用した簡便な判別方法を提案する.その方法としては,水面と氷面で電波の反射係数が大きく異なることに着目し,この係数を水と氷の判別の指標とするものである.なお,反射係数の検出は定在波比法に基づき,その検波方法を整理することで,既存のドップラセンサの利用が可能となることも提案した.そして,小型,低価格かつ産業応用上の利点を持った実用的なシステム構築が可能であることを示した.また,この計測システムを実験室内に構築し,水面と氷面の反射係数の違いを計測した.それらの結果から,道路上の水と氷の判別おける本提案方法の安定性を確認した.


 

■ 高効率・高出力な静電駆動型空中超音波振動子の開発

東京大学・神垣 貴晶,二宮 悠基,篠田 裕之

 近年,空中超音波を用いた非接触での触覚提示が研究されているが,それらの研究で用いられているフェーズドアレイは, 例外なく圧電セラミックスを用いた個別素子を配列することで実現されている. 各素子には, 空気とのインピーダンス整合をとるために厚みを要する構造物の付加が必要であり,厚みと重量のあるデバイスとならざるを得ないのが現状である. 本稿では, フレキシブル材料の積層により製作可能な静電駆動型の振動子を提案する. 振動膜を金属メッシュによって支持し,金属メッシュ背面に空気層を設けた構造によって,薄型かつ高効率の振動子を実現する.実験において, 生成音圧, 及び, その電気-音響エネルギー変換効率を測定し, 提案する振動子が触覚提示デバイスとして十分実用可能な水準にあることを示す.


 

■ 同卓スケジューリング問題のモデル化とその動的スケジューリング

 徳島大学・山吹 卓矢,小野 典彦,永田 裕一

 レストランなどの飲食店において複数人のグループが料理を注文する場合,それらの料理はできるだけ同時に提供する「同時同卓提供」が望まれる場合が多い.しかし,多くの注文が殺到する飲食店において,同時同卓提供を実現するような調理スケジュールを管理することは困難である.本論文では,現在の注文状況から同時同卓提供を実現するための調理スケジュールを作成する方法を開発する.そこで,実際の飲食店の調理業務でよく現れる制約を元に問題のモデル化を行い,同卓スケジューリング問題としてこの問題の定式化を行う.スケジュールの探索にはシミュレーテッドアニーリングを用いる.また,注文が次々と入ってくるような動的環境においてスケジュールを作成するための動的スケジューリング法も提案する.


 

船陸間における衛星通信を用いた遠隔操船

東京海洋大学・佐々木 和也,岡崎 忠胤

 船舶の安全運航は,船橋の航海士と操舵手が2人1組で操縦(操船)に従事することで担保されている.しかし近年,船員の高齢化,若者の船員離れによる船員不足の問題が発生している中,航海計器の高度化や船舶輸送量の増加により船員への負担が増加し安全運航を保つことが難しくなってきている.先行研究では,航海士が単独で音声による操船を行うOne Person Bridge Operationが航海支援システムとして開発され,内航タンカーに実装された.しかし航海士は,通常業務に加えて操舵手の仕事を担う必要があり負担が大きくなった.そのためOne Person Bridge Operationでは,航海士の単独当直におけるワンマンエラーが課題として残った.そこで本研究では,操船に少なくとも2名の人間を介在させるというコンセプトを崩さない遠隔操船のシステム開発を試みた.そして,本研究で開発したシステムを用いて航海士と操舵手による遠隔操船を実施し,通常の操船結果との比較および操縦性能の観点から本システムの有用性を示した.本研究で開発したシステムにより,航海士と操舵手が連携して精度の高い遠隔操船が実現可能であることが示された.


 

■ 強化学習における方策の性能を向上するサンプリング方策

 京都大学・泉田 啓,大坪 立サミュエル

 強化学習手法を適用するとき,状態遷移確率の推定精度が得られる方策の性能に影響を与える.そこで,サンプルによる遷移確率の信頼度と方策の関係から,得られた最適方策が実プラントに対しても最適であることを所望の信頼度で保証するようなサンプリング条件とそれに基づくサンプリング手法が提案された.方策が最適方策であることの信頼性ではなく,推定誤差に対する有効性を持つためのサンプリングを達成することにより,さらに必要とするサンプル数を減らすことを考える.真の遷移確率との推定誤差に対して所望の信頼度で有向な方策を導くための問題設定を示し,この問題設定に基づいてサンプリング手法を提案する.提案法の有効性を数値シミュレーションにより検証する.


 

■ 歩行アシスト・レジストのための周期入力制御を用いた体幹回旋補助装置

北海道大学・日下 聖,相津 琢磨,橋本 光太郎,田中 孝之

 本論文では,Spinal engine理論に基づいて体幹回旋運動の励起による歩行運動補助を提案する.Spinal engine理論によると,我々の歩行は上体と脚の間での効率的なエネルギの交換により実現されている.そのため,歩行運動においては脚だけでなく上体である体幹の回旋運動が重要である.そこで,我々は体幹回旋運動を補助する装置とその制御側の開発を行った.制御則には周期入力制御を応用し,歩行運動に同期する制御系を実現した.開発した装置を用いて実験を行った結果,装置から人の体幹回旋運動にエネルギを供給することで,歩行に要する筋活動が減少し,歩行補助を実現することが確認できた.また周期入力制御の特徴であるエネルギ制御により,逆に人の運動を抑制するような制御も実現することができた.これより,提案手法を用いて体幹運動を適切に制御することで,補助の目的に応じて歩行のアシストとレジストの両方を同じ制御系を用いて実現可能なことを確認した.


 

■ 位置と気象の情報に基づく温熱的に快適な服装の提示 -人体体温調節モデルを用いるアプローチ-

早稲田大学・山本 貴輝,渡邊 亮,ブシェ ミシェル(フリーエンジニア)

 本稿では温熱環境に応じた快適な服装を推定する手法について提案する.人の温熱感は,環境に関する要素である気温,湿度,放射,風速,そして人体に関する要素である着衣量,代謝量の温熱6要素で決まることが知られており,人は主に服装の着脱によって着衣量を調節することで温熱的快適性を保っている.服装を選ぶ際には天気予報や過去の経験を参考にすることがほとんどである.気温が大きく変化するような季節や遠方へ移動する際には,環境が変化し快適な服装も直近の環境と大きく異なる場合があるため,経験的な判断で選択した服装では温熱的快適性を損ねてしまう場合や,さらには体調を崩してしまう恐れがある.上述の問題を解決するため,熱的快適性を定量的に評価し温熱的に快適となる服装を推定することを目指す.人の温熱的快適性推定には,温熱環境モデルを用いる.本モデルは,気象情報ブロック,日射モデル,服装データベース,および人体体温調節モデルから構成され,人体の新標準有効温度(SET*)を計算することが可能である.計算したSET*に基づいて人体の温熱的な快適性を評価し,快適となる服装を推定する手法を提案する.