論文集抄録
〈Vol.54 No.4(2018年4月)〉

タイトル一覧
[論 文]


[論  文]

■ ロバスト近似最小分散不偏フィルタによる状態量とパラメータの同時推定手法

日立製作所・石原 新士,東京工業大学・山北 昌毅

 本稿の目的は非線形離散時間システムにおける状態量とパラメータの同時推定手法を導出することにある.まず,我々は非線形システムに等価線形化手法の一つであるunscented
statistical linearization (USL)を適用することで未知パラメータを分離した形で近似線形システムを導出する.この近似線形化システムにおいては,未知パラメータが未知入力の形で表現されることに特徴がある.さらに,未知パラメータが状態量の推定誤差に影響を与えない条件を導出し,この拘束条件を有する誤差共分散行列の最小化問題を解くことで,近似的に状態量と未知パラメータを同時に推定することが可能な近似最小分散不偏フィルタ(AUMVE)を導出した.ただし,AUMVEは導出過程において,USLによって生じ得る線形化誤差を十分に考慮していない.そこで,我々は線形近似の誤差が推定誤差共分散行列に与える影響を考慮して,推定誤差共分散行列の上限値を最小化する問題へと拡張することで,推定精度の向上を図ったロバスト近似最小分散不偏フィルタ(RAUMVE)の提案を行った.最後にAUMVE,RAUMVEそれぞれの有効性を数値シミュレーションによって検証した.


 

■ ディスクリプタ形式を用いた並列フィードフォワード補償器の設計と非最小位相系の外乱推定性能の向上

信州大学・種村 昌也,千田 有一

 本稿では,非最小位相系に対する並列フィードフォワード補償器を用いた外乱推定性能の向上を目指す.一般に非最小位相系は外乱推定性能の向上が難しいという問題がある.これに対して,並列フィードフォワード補償器を制御対象に並列結合した拡大系を最小位相化し,かつ,並列フィードフォワード補償器のゲインを外乱の周波数帯域において可能な限り小さくすることで外乱推定性能の向上が期待できる.本稿ではディスクリプタシステムに対するH∞制御理論を用いて並列フィードフォワード補償器を設計する方法を提案する.ディスクリプタシステムに対するH∞制御理論を用いることで,拡大系の最小位相性を確保しつつ,指定した帯域において小さいゲインを持つ並列フィードフォワード補償器を得ることができる.提案手法の有効性は数値シミュレーションにより検証する.


 

■ 部分体重免荷,左右分離型トレッドミル,機能的電気刺激を用いた歩行への介入 ― 新しい歩行訓練環境の提案と介入効果の基礎的検証 ―

大阪大学・片岡 夏美,平井 宏明,
マサチューセッツ工科大学・Taya HAMILTON,
大阪大学・吉川 史哲,黒岩 晃,長川 祐磨,渡邉 英知,
二ノ丸 雄大,佐伯 友里,植村 充典,宮崎 文夫,
千里中央病院・中田 裕士,西 知紀,
マサチューセッツ工科大学・Hermano Igo KREBS

 現在,下肢のロボット療法は黎明期にある.正しい介入と誤った介入を見極めながら科学的根拠の蓄積により効果的な運動療法を開発することが求められている.そこで本論文では,サドル支持型体重免荷,左右分離型トレッドミル,機能的電気刺激を組み合わせた新しい歩行訓練環境を提案し,その有用性と限界について検証を行った.本手法は歩行の3つの機能(A.バランス機能,B.股関節伸展,C.蹴り出し)に焦点を当てている.端点支援型介入であるサドル支持型体重免荷は,対象の股下部を支持し体重の一部を免荷しながら,トレッドミルを介し股部と足部との相対位置変化を促し,A,Bの支援/訓練を可能にする.一方,関節/筋支援型介入である機能的電気刺激は,外界と直接的な相互作用を伴う足関節の歩行機能を補助し,A,Cの支援/訓練を可能にする.ここでは,標準的な牽引型体重免荷トレッドミル歩行と提案するサドル支持型体重免荷トレッドミル歩行を,運動学,床反力,及び機能的電気刺激の介入効果より比較評価し,提案手法は(従来法では困難な)低~中速の歩行において対象の自然な歩行を実現することを明らかにした.最小限の拘束で対象を効果的に支援/訓練し運動促通を導く本手法は次世代ニューロリハビリテーションの有効な手段となり得る.


 

■ 並列計算を用いたSA法による都道府県レベルの大規模世帯の復元

関西大学・原田 拓弥,村田 忠彦

 本論文では,大都市や国,複数の国家のマイクロシミュレーションやエージェントシミュレーションを行うため,並列計算を用いてSimulated Annealing(SA)法による大規模な数の世帯構成の復元を行う.より具体的な社会シミュレーションを実現するためには,年齢や性別など市民の属性をシミュレーション前に再現する必要がある.しかし,市民のプライバシーへの配慮から,市民の属性の利活用は困難である.そのため,統計情報から人工的な市民の属性を復元する手法が提案されている.本論文では,統計情報を用いた都道府県レベルの大規模な世帯構成の復元を行うため,並列計算による復元手法を提案する.大規模な世帯構成の復元では,復元に多くの時間を費やすため,高速な復元手法の開発が必要である.数値実験により,従来手法へ並列計算を適用する手法と比較し,提案手法がより統計情報と適合した復元データの生成が可能であることを示す.


 

■ 四足歩行ロボット制御用RTコンポーネントの開発

 産業技術総合研究所/首都大学東京・宮本 信彦,
産業技術総合研究所・高橋 三郎, 産業技術総合研究所/首都大学東京・安藤 慶昭

 近年,RTミドルウェアなどロボット用ミドルウェアを活用したロボット開発が行われている.ロボット用ミドルウェアを用いたヒューマノイドロボット,車輪移動ロボット等の開発事例は多いが,四足歩行ロボット等の多足歩行ロボットのシステム開発にロボット用ミドルウェアを活用した事例は少なく,再利用性の高いソフトウェアモジュールの設計に関する議論が不十分である.本論文ではRTミドルウェアを用いた四足歩行ロボット制御のRTシステムの設計方針について述べ,提案する設計方針により開発したRTコンポーネントの概要,適用例について説明する.RTシステムの設計においてRTコンポーネントの再利用性向上のために,脚運動生成コンポーネント,足先軌道制御コンポーネント,駆動サーボ制御コンポーネントに分割し,多足歩行ロボット制御用インターフェースを提案した.多足歩行ロボット制御用インターフェースにはデータポートによる脚軌道の入力のほかに,足の可動範囲などの情報を取得するためのサービスポートが含まれている.開発したRTコンポーネントにより2種類の異なる四足歩行ロボットを制御するためのRTシステムを構築し,提案した設計方針により開発したRTコンポーネントが再利用可能であることを確認した.


 

壁面吸着用UVGに基づく打音検査型マルチコプタの開発

神戸市立工業高等専門学校・中村 友哉,藤本 敏彰,
岡田 宙士,清水 俊彦,大阪大学・池本 周平,
神戸市立工業高等専門学校・和田 明浩,宮本 猛

 近年,鉄橋や高層ビルなどの社会インフラの老朽化が問題となっており,その検査が急務とされている.そのため,目視検査や打音検査を行うマルチコプタの検査ロボットが開発されている.本研究では,万能真空吸着グリッパ(Universal Vacuum Gripper, 以降UVGとする)を用いたマルチコプタを開発してきた.UVGとは,粉体のジャミング転移を用いたロボットハンド,Universal jamming Gripperをスカート部に用いた真空吸盤である.スカート部が凹凸面に合わせて変形するため,従来の真空吸盤と比較して,凹凸面における密閉性を向上している.壁面に吸着するため,打音検査時の反力を許容し,また吸着後はプロペラを停止可能であるため,静音性を有している.本稿では壁面吸着用UVGの開発およびそれを搭載した打音検査マルチコプタによる打音検査に関して報告する.


 

■ むだ時間要素で結合されたシステムに対するモデル予測制御- フィードバック制御とフィードフォワード制御の統合設計 -

 新日鐡住金・鷲北 芳郎,京都大学・大塚 敏之

 本論文では,むだ時間要素でサブシステムが結合されたシステムにモデル予測制御を適用する際の制御系設計方法を述べる.サブシステム間の観測値は,上流サブシステムのフィードバック(FB)制御と,下流サブシステムのフィードフォワード(FF)制御に用いることができ,FB制御には定常偏差を零とするための積分動作が,FF制御には上流のサブシステムの出力の影響が下流のサブシステムに現れないようにする速応性が必要である.このような異なる要求特性をもつ制御系をモデル予測制御の枠組みで統合設計する方法を二通り示す.
第一の方法は,観測値とその予測値の誤差の平滑値を用いて予測した出力値を評価関数で評価する方法であり,第二の方法は,システムをFF制御システムとFB制御システムに分解し,各システムの評価関数の和を全体の評価関数とする方法である.また,速応性が要求されるFF制御において,アクチュエータの応答遅れを相殺しようとして操作指令が激しく振動する場合がある.これを抑制するため,制御周期間の操作指令の変化量と,前制御周期で出力した操作指令からの変化量からなるペナルティ項を評価関数に加算することにより,操作指令の振動が実用上問題ないレベルに低減し,かつ望ましい制御応答が得られることを示す.


 

■ コロイド粒子系における古典的密度汎関数法を用いた血液の光散乱特性の導出

金沢大学・野川 雅道,田中 志信

 古典的密度汎関数法(classical density functional theory;cDFT)を用いたコロイド多体粒子系の光散乱特性の導出を行い,透過光に関する光学密度optical density;ODtotal = ODid+ODex の関係式を導いた.ここで,ODid は散乱角の無い,減衰を伴う通過特性として散乱係数を含むランバートの式で表される.また,ODex は散乱角のある,従来の放射輸送理論(モンテカルロ法,光拡散理論など)による減衰で表される.この関係式の妥当性についてはヘマトクリット値を0~65(%)と変動させた全血を用いた分光分析実験にて確認された.また2波長比:OD1300/OD800において,実測のヘマトクリット値(%)における2波長比に対し理論による2波長比の評価を行った.その結果,平均二乗誤差はヘマトクリット値(%)として2.5-5.0であった.今後,指尖部など厚みのある組織を対象とすることで非侵襲動脈血中酸素飽和度モニタ:パルスオキシメータや新たな非侵襲血中成分モニタの開発に利用されるだけではなく,様々なコロイド粒子系の評価などにも利用されると考えられる.