論文集抄録
〈Vol.54 No.5(2018年5月)〉

タイトル一覧
[特集 第22回ロボティクスシンポジア特集号]

[論 文]

[論 文]


[論 文]

■ 高速ビジョンを用いた形状のフィードバックによる弾性体アームの操り

東京大学・塚本 勇介,山川 雄司,妹尾 拓,石川 正俊

これまでロボットリンクの軽量化が盛んに研究されてきた.アームを軽量にすることで,ロボット駆動時のエネルギーの削減や,保守性・安全性の向上が期待される.このような軽量なアームは変形しやすいため,その制御手法が研究されてきた.一方で,この性質を利用して,アームの高速操作により大変形を起こすことで,従来の剛体リンクではできないタスクが可能となると指摘されている.弾性アームは,静止時の形状・姿勢の維持と,操作時の変形を利用したマニピュレーションが両立できるという点で,自由度の高い操作が可能であると考えられる.
本研究では,変形しやすいアームのしなりを利用したマニピュレーションに着目する.このような操作に必要なシステムの構築を行うとともに,アーム全体の形状からしなりの情報を取得する手法について検討した.構築したシステムによる弾性アームの簡単な制御の例として,振動抑制実験を行った.構築したシステムによって,対象の変形の情報が取得できることと,その情報を利用した制御が可能であることを確認した.


 

■ 光弾性を用いた力情報可視化に基づくビューベースト教示再生 ―倣い作業への適用―

横浜国立大学・中川 義教,石井 聡一,前田 雄介

本論文では,ビューベーストアプローチによる画像処理を用いたロボット教示法である「ビューベースト教示再生」に関する研究を行う.この方法はモデルを用いずに画像に基づくロボット教示を行うもので,一定の作業条件の変化に対応できるという特徴がある.筆者らは,光弾性を利用して力情報を可視化することで,ビューベースト教示再生によってごく単純な力制御タスク(壁の押し付け)を実現可能であることを確認しているが,本論文では,より複雑な力制御タスクとして倣い作業を取り上げ,同様にビューベースト教示再生が可能であることを確認した.実験環境としては光弾性体の指先を備えたロボット指を用い,偏光フィルタを付けたグレイスケールカメラを使ってビューベースト教示再生を行った.実験では,対象の位置が教示時とは異なる位置に変化しても,同様の力で倣うような動作をビューベースト教示再生で実現できることを示した.


 

■ 深層学習を用いた全天球パノラマ画像からの自己位置推定

筑波大学・梅田 将孝,伊達 央

本研究の目的はカメラ画像を用いて実世界を自律移動可能なロボットを開発することである.その上で重要な技術要素の1つに自己位置推定がある.本論文では,カメラ画像1枚のみを用いた大域的な自己位置推定を行った.位置については地図を,角度については360度の角度空間をグリッド状に区切って推定することで,ロボットの位置・角度だけでなく,その推定における不確実性を求められると考えており,その検討および評価を行った.深層学習を用いることで,ネットワークが自己位置推定をする上で有用な特徴が,与えられたデータに基づいて獲得されると期待できる.屋内外 の環境における実験の結果,本提案手法において自己位置推定およびその不確実性の推定ができる可能性があることが示された.


 

■ 遠隔管理用ソフトウェアアーキテクチャおよび最急降下法による動作依存度解析を用いたモジュール動的配置

中央大学・國井 康晴,中村 健一,星野 公志,前田 孝雄

システム開発・遠隔運用時の課題からアーキテクチャを議論,設計,提案した.実開発は多人数かつ代替わりを経て継続,複数機能が複雑に絡みつつ進化し,その過程で現状把握等による効率低下,既存機能の継承ミス等のリスクが特に大学研究室の様な小さな組織で切実となる.また遠隔運用時は想定環境やパラメータの不一致,故障事故対応に必要な改修が通信容量制限で困難になる場合がある.そこでハードウェア(HW)・ソフトウェア(SW)をモジュール(MD)化,相互にLAN接続し,HW層と2つのSW層による構成によるオブジェクト化にて資産活用と開発効率を向上,さらにLAN接続による構成変更の柔軟化を狙った.SW第1層はユーザにMD選択・配置・接続にて機能設計・構築する開発環境を提供し,運用時の接続変更・機能入替を可能にする.第2層ではユーザMDを複数の階層化MD:DNM下にて管理し,共有メモリを介した実接続により柔軟な機能変更実現のためにユーザ設計の接続を仮想化した.結果,接続変更が容易になりMD間データと動作状態の把握が可能にした.そしてユーザMDのDMN下への配置をNewman法へ動作情報に基づく重みを導入することで最適化し,シミュレーションと実機への実装実験にて評価・議論して有効性を示した.


 

■ ピッキングのための衝撃を利用した未知物体能動的検出

横浜国立大学・敦賀 秀樹,本田 紘之,前田 雄介,廣野 翔大

本論文では,衝撃操作と特徴点追跡に基づく未知物体検出手法を提案する.この方法では,衝撃操作により物体を微小に移動させることで,衝撃前後のカメラ画像から物体を個別に検出する.衝撃操作により背景の特徴点は移動しないが,物体上の特徴点はそれぞれ剛体運動に従った移動をする.このことを利用して特徴点のグルーピングを行うことで,検出が可能となる.麻雀牌の検出実験・ピッキング実験を通して,提案手法の有効性を確認する.


[論 文]

宇宙探査機の可能性を広げるフレキシブル熱制御デバイスの研究開発

名古屋大学・宮田 喜久子,長野 方星

本稿では,宇宙探査機などにおける広範囲の放熱要求変化に対応するために,熱環境の変化に応じて放熱量を受動的に制御するフレキシブルな熱制御デバイスである軽量型可逆展開ラジエータ(Reversible Thermal Panel:RTP)を提案する.また,その有効性を示すために実際の宇宙機の熱的要求を考慮し,機械的なシステムを一新,先行研究の試作モデルよりも大きな放熱量変化を達成する検証モデルを設計,製作し,機能性能を実験的に検証した.実験的な検証は数値モデルシミュレーションや各種試験によって設計妥当性を確認したのちに模擬宇宙環境下にて実施された.検証により熱環境の変化に応じた放熱量の変化が確認され,実際の宇宙機の放熱要求の達成可能性が示された.また,試験結果を用いて構築した熱数学モデルをもとに性能改善の方法も議論された.これらの議論を通じ,新たに提案したRTPの実機適用可能性が示された.


 

■ 5つの車軸と3つのステアリングを有する連結車両システムの制御-モーションコントロールのための仮想的な機械要素の導入-

 青山学院大学・山口 博明,河上 篤史,上田 和辰,米澤 直晃

本論文では,新たに,搬送対象物のモーションコントロールのための仮想的な機械要素の導入方法を,5つの車軸と3つのステアリングを有する連結車両システムについて提案し,その有効性を実験的に検証した.具体的には,本連結車両システムのモデル化において,その運動学的方程式を正準系であるチェインド・フォームへ変換する上では冗長で仮想的な機械要素,2台の仮想的な車両型移動ロボット,1台の仮想荷台,2つの仮想的な回転関節を導入することを提案した.これにより,搬送対象物の任意の操作点(例えば,重心)が置かれる2つのうちの1つの仮想的な回転関節を,2台の実体のある荷台から構成されるV字型の合成荷台の支持点である3つの回転関節を頂点とする支持3角形内に位置させることで,搬送対象物の運動をその操作点の移動とその周りの回転として定量的に指定しながら,安定的な(転倒することのない)搬送を実現することができる.本制御方法の有効性は,障害物との干渉を回避しながら8次のベジェ曲線で計画される経路に追従させる搬送動作を通して確認されている.